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組織の多様性とその効果をどのように実現するか?『図解 人的資本経営』

2024年1月26日発売の『図解 人的資本経営』は、2023年3月期決算以降、上場企業に対して情報開示が義務化されたことで注目されている「人的資本経営」について、その全体像と自社への適用の仕方が誰でも平易に理解できるよう[50の問い+フレーム+具体的な事例]をもとに解説している1冊です。

今回は本書より、昨今重要視されている組織の多様性について、その考え方と実現の仕方を紹介します。

※本稿は『図解 人的資本経営』を一部抜粋・再編集したものです。

「ダイバーシティ」に感じる違和感の正体

「我が社は女性管理職比率○%を目指す」
「ダイバーシティは業績向上のために重要だ」

国際的な潮流もあり、こうした宣言を掲げる会社が増えています。しかし、こうした内容に対して、何となく腑に落ちなかったり、違和感を覚えたりする方もいらっしゃるでしょう。これはなぜでしょう?
結論からお伝えすると、ダイバーシティの目的や定義、実現手段がいろいろな角度から語られており、何が正しいかよく分からない状態になっているからです。

まず世の中で議論されている「ダイバーシティの目的」を整理すると、次の3つが主に存在しています。

<ダイバーシティの目的>
・倫理(Good)・・・これまで社会的に抑圧されていた層(女性や黒人など)の人権を尊重する(公正な会社であるという認知を高める)
・リスク低減(Safe)・・・同質的な人ばかりが集まると、視野が狭くなり、危険な判断をする可能性が高まるため、そのリスクを抑制する
・競争力(Strong)・・・業績の向上やイノベーションを生み出す

ダイバーシティの目的

多くの議論では、「Goodな会社になるため」の話と「SafeやStrongな会社になるため」の話が一括りで整理されずに語られており、混乱や違和感につながっているのです。
例えば、Goodな(公正な)会社になるためには、女性比率を人口構成(50%)に近づけることなどが考えられます。一方で「女性比率を50%に近づける話」と「イノベーションを生むようなStrongな(競争力のある)会社を実現する話」は、すべてが重なるわけではありません。ですからまずは、あなたの会社のダイバーシティの目的を明確にして、Good、Safe、Strong のどこに向けた話をしているかを識別しましょう。

「ダイバーシティ」は目的別に考え、取り入れる

また、ダイバーシティの定義そのものにも2つのレベルがあります。

<ダイバーシティの定義>
①表層レベル・・・・・・性別・年齢・国籍・人種などの属性面(デモグラフィック面)
②深層レベル・・・・・・価値観、ものの見方や考え方など認知面(コグニティブ面)

ダイバーシティの定義

①と②はある程度つながっています。例えば、性別や年齢、国籍が違えば、価値観やものの見方はある程度異なります。しかし、こうした「生まれたときの属性(表層レベル)」で、人間のあり方は決まってしまうのでしょうか?
もちろん違います。双子であっても、大人になったら異なる性格になることもあります。ましてや同じ人種や性別であったとしても生まれた後に何に触れて、どんな経験をしてきたかによって、価値観やものの見方は変化していきます。

そのため属性(表層レベル)ですべてを決めつけることは危険であり、誤りにつながります。特に、リスク低減(Safe)や、競争力・イノベーション創出(Strong)においては深層レベルのダイバーシティが重要であることが分かっています。ゆえに、SafeやStrongな会社に向けた議論で、「女性比率」などの表層レベルだけに焦点を当てるとズレが生じるのです。これが、ダイバーシティの議論で起こる違和感の原因の2つめです。

また、何でもかんでも多様性を高めればよいかというと、それも間違いです。
特に、属性(表層レベル)のダイバーシティばかりを追い求めると、プラスの効果よりも、マイナスの効果が上回る場合があります。なぜなら、属性や考え方が異なると、仕事の進め方や、判断基準が異なるからです。そうすると、衝突が増え、すり合わせが必要となり、生産性が下がるのです。
例えば、明日から皆さんが、性別も年齢も異なるアメリカ、フランス、中国、インドの同僚と働くことになったとします。言語の問題を抜きにしても、おそらく最初のランチ場所を決めるのにさえ苦労することでしょう。

そういった意味でも、ダイバーシティには向き不向きの仕事があります。視野が狭くなるリスクを排除すべき仕事や、アイデアの広がりが必要な仕事には、深層レベルの多様性を高めることが有効です。一方で、やるべきことが決まっており、どんどん物事を前に進める必要がある仕事には、多様性の重要性は下がります。目的によってダイバーシティの使い分けをすることが肝心なのです。

アイデア創出や改革実行の際に多様性はプラスに働く

では、アイデアの広がりが必要な仕事で、ダイバーシティをイノベーションにつなげるためには何が必要なのでしょうか? それは、以下の5つです。

<変革的ダイバーシティに必要な要素>
①深層的なダイバーシティの実現
②心理的安全性の確保
③メンバー間を仲介し、より高次な目的達成に導くリーダーシップ
④知識・意見の共有やアイデア創出の促進
⑤アイデアの創出と実行の担当者の棲み分け

①②で土台をつくった後に、「価値観のぶつかり合い」を前向きなエネルギーに変えて、物事を前に進める力が必要となります。それが③のリーダーシップです。AとBの価値観がぶつかり合うときに「じゃあCが良いのではないか」と昇華させるには、リーダーの存在が不可欠です。

また、仮に多様な人材が集まっていても、それぞれが単独で働いていては意味がありません。知識や意見を交わし合い、新しいアイデアを生み出すコラボレーションを促す必要があります。ただしアイデアが生まれた後は、チーム編成を変えても良いかもしれません。というのも、先ほど触れたようにダイバーシティは使い分けが肝心だからです。アイデアを素早く実行するためには、多様性を落とすほうが良い場合もあります。

ダイバーシティを取り入れ、good な会社になる方法

ここまで、どちらかというとStrong(またはSafe)な会社になるためのダイバーシティを中心にご説明してきました。では、Goodな会社になるための取り組みはまったく別なのでしょうか? また、女性管理職比率や役員比率などの目標を立てて、その改善を目指すことはまったく無駄なのでしょうか?

いいえ、そうではありません。Good、Safe、Strongな会社の目指す世界には重なる部分があります。それを言葉にすると、次のようになります。

「それぞれの人が持つ潜在能力が最大限発揮されて、お互いに高め合い、補い合いながら、やりがいと優れたパフォーマンスを生み出す」

ある意味、「当たり前」に目指すべき会社の姿です。
では、今この姿は実現できているでしょうか?

日本の今の「女性管理職比率」は12.7%でG7のダントツ最下位です。これは、「それぞれの人(女性)が持つ潜在能力が最大限発揮されている姿」とはいえません。原因はさまざまですが、「これまでの男性重用のスタイル(潜在的な考え方)が続いている」ことが最大の要因とされています。こうした古い因習を変えるためには、意識的・継続的な矯正が必要です。

例えば、ゴルフでも他のスポーツでも良いのですが、間違ったスイングや動きが染みついてしまった場合、どうするでしょうか。おそらく、正しいスイングや動きになるよう、かなり意識して、正しい動作を繰り返すと思います。矯正中は「ホントにこれで良いのかな?」とかなりの違和感を覚えるかもしれません。しかし正しい状態が身につけば、そんな違和感は頭に浮かんでこず、意識せずとも自然体でより良いプレーできるようになります。

女性比率の目標設定とそれを実現する取り組みも同じです。正しい状態、つまり「女性が持つ力が最大限発揮されている姿」を意識し、それを目指して継続的に行動していく必要があります。矯正中はやっかみや不満など、多少の“違和感”を覚えることもあるでしょう。しかし、この段階はあくまで移行期間です。早く卒業して、「当たり前のことを無意識にでき、良いプレーができる状態」に移ることが大切です。

ダイバーシティの本来の目的と意味は、「それぞれの人が持つ潜在能力が最大限発揮されている姿」をつくり「優れたパフォーマンス」を出せるようにすることがゴールです。最終的には女性だけでなく、あらゆる視点からこうした状態が実現されるべきでしょう。


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