見出し画像

59 問題解決型学習(Problem Based Learning)

はじめに

今日の教育コラムでは、以前お話しした正解主義についてお話しした内容に関して、正解が一つではない学習を進めるためにはどのように家庭や学校で進めていけばよいのかというご質問に対して、問題解決型学習というものを例に挙げながらお話ししたいと思います。

問題を設定することから

学習者が自ら、学びたい、追究したいと思うテーマを決めて問題解決に向けて探究型の学びを進めていく方法にプロジェクト学習というものがあります。この学習では、学習者が何をテーマに設定するかによって学習内容が異なってきます。一方、問題解決学習は、教える側が問題を設定して学ぶ内容を定める形で進めていきます。この二つは似ているようですが、問題を設定する主体という点と学習する内容をあらかじめ考慮して問題を定めることができるか、できないかという点で違ってきます。
ですから、テーマを与えられているようではプロジェクト学習にはなりませんし、問題を何でも好きに設定していては問題解決型学習ともなりえないということです。

夏の蕎麦は、犬も食わぬ

蕎麦食いの格言に「夏場の蕎麦は犬も食わぬ」というものがあります。これは、蕎麦は、米と同様に秋に収穫しますから、その新そばから一年が過ぎたソバの実は大きく膨らみ、そば粉にしても風味も抜けていて香りを楽しむ蕎麦の醍醐味が損なわれるということがもとになっている言葉です。
この言葉をきっかけに、流通、食品加工、貿易、世界地理などについて学ぶために問題解決型学習を進めようとしたとします。そこで、子どもたちに「暑い夏にこそさっぱりした蕎麦がうまい」という格言を残すために、「夏場の蕎麦は犬も食わぬの格言を覆すことはできるだろうか?」という問いを立てたとしましょう。すると、調べ学習を進め、仮説を立て、検証をさせていく中で、次のような解決方法が出てきたとします。
・現在では食品の保存方法が進歩し、夏でもうまいそばが食べられる。
・南半球では季節が逆であるから仕入れ先をグローバルな視点で考えること
 でうまいそばが食べられる。
・栽培方法の工夫で二期作をする又は、福井県のように時期をずらして夏に
 収穫時期を迎えるようにすればうまいそばが食べられる。

いずれも、うまいそばを食べる方法について貿易、地理的条件、栽培などの面からある程度までは、答えています。しかし、安定してそば粉を手に入れるためには、現地の人との栽培提携や輸送技術の具体的な方法や価格の問題や他の地域の気候条件など、まだまだ解決しなければいけない問題に対する答えが不十分な状態であります。そのことに気づくためには、解答を検証したり、振り返ったり、専門家に真偽を尋ねたりする過程が必要になります。
このように、問題解決型学習では子どもたちに学び取らせたい内容をもとにしつつも、深く、広く学びを探究的に進めていくことができるわけです。
その中で、決して答えは一つではないことに気づき、よりBetter、よりBestなものを見つけていこうという姿勢が育っていくわけです。また、この過程で、学び取らせたい知識や身に付けさせたいスキルを獲得していくこともできるわけです。

必要な力とは

教えこむ、覚えこませるための授業は、子どもたちが主体的に考えるという習慣を奪ってしまいます。問題解決型学習は、そうした奪われた習慣を子どもたちに取り戻す一つの方法だとも言えます。それは、この学習が「自ら考え、問題を発見し、解決する能力を身につけるための学習手法」だからです。変化の激しい社会において、現在の社会情勢を用語や年表で覚えることは、あまり大きな価値を生み出すものではありません。
むしろ社会に出て仕事場や地域、国際社会のなかで活躍し続けていくためには、日々生じる問題を解決していく力こそが必要なのではないでしょうか。一朝一夕には身に付かず、その成長を評価することも大変難しい力ではありますが「問題解決力」を磨いていくような学びを、今こそ大切にしていきたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?