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ウクライナのビジネスの現状と課題

多岐にわたる戦争の悲惨さ、経済的な破壊と起業や地域の社会基盤の崩壊の現実
資源の効率的な利用の工夫など、社会全体の協力で復興を推し進めるウクライナ


 ロシアの侵攻による攻撃は、戦争の最前線における軍事的な破壊だけでなく、国や地域のあらゆる文化や習慣、ビジネスにも大きな影響を与えています。そして、戦争による破壊に対処するために、様々な領域で変革が求められています。これは非常に困難な課題でありながら、新たな可能性を切り開く興味深い機会でもあります。

ビジネスにおける課題と変化

 ウクライナでは、毎日のように空襲警報が鳴り響きます。統計によれば、平均して1日に約54分間、警報が鳴動しているというデータもあります。特に、現地時間の正午から午後6時までが、警報が最も頻繁に鳴動する時間帯とされています。地元では、これが企業活動を中断させるためのものではないかという憶測も囁かれています。2022年冬には発電所へのミサイル攻撃により、厳しい寒さの中での長期に渡る停電も発生しました。これにより、人々の生活に加えて企業活動も強制的に停止され、企業の建物が被害を受け、設備が損失し、労働者の生命が危険にさらされるという課題に直面しました。一般市民のモチベーションの低下だけでなく、企業の存続にも関わる大きな課題が、ロシアの侵攻から1年以上の間に存在していたことは、否定できない事実です。


 ウクライナの企業は、国内ビジネス市場の衰退という重要な課題に直面しています。特に、流通関連の企業は国内市場の面積が占領や戦禍などにより縮小しています。このため、企業は販売範囲を国外にも拡大し、製品ラインの多様化などの新しいビジネス機会の創出に取り組んでいます。多くの企業は、世界のユーザーとの繋がりを強めるために、ウクライナ国外にもオフィスを設立する動きを加速させています。
 戦争動員による企業活動の低下も、現実として否定できません。戦争が勃発した当時、一般市民も国家ウクライナを守るための責任を自覚していました。しかしながら、招集された多くは労働者でもあり、一般企業の活動に必要なリソースが削減されるという負の側面があったのも事実です。戦争への動員とビジネスによる経済活動の間での苦渋の選択に直面しました。しかし、現在では、その企業活動がビジネス的に有効であり、経済にとって重要であると認識されると、動員から除外されることもあります。

政府の支援

 私たちは低金利政策の継続する日本に居住しています。しかし、ウクライナでは高金利政策が続いています。2023年9月に主要政策金利を22%から20%に引き下げたとの報道がありましたが、それでも20%の水準です。戦禍に覆われた国土全体では、信用力が依然として割高な状況が続いています。貸出金利の大幅な低下が見込まれる理由は現状見当たりません。ビジネスの世界では、事業主のローンコストを軽減するための商品や制度の拡充と整備が求められています。
 戦争が始まった当初から、ウクライナ政府は戦争によって閉鎖や縮小された企業が、できるだけ早く、できるだけ多くの支援を必要としていることを認識していました。そのため、現在では、税制上の優遇措置や税務調査の停止、収益の上がらない企業へのVAT(付加価値税)の支払い免除など、企業を支援するための施策を実施しています。さらに、新たに「yeRobota」と呼ばれる補助制度も発表されました。この補助プログラムでは、新しい雇用を創出する企業は政府から補助金を受け取ることができます。政府の支援により、一部の事業主は国内のより安全な地域に会社を移転することが可能であり、移転プログラムを活用して、再起を目指す企業も多数存在しています。

 私が関連するウクライナのIT企業「MUTEKIグループ」も例外ではありません。当社のオフィスはもちろんウクライナにも構えています。私たちのチームはロシア侵攻から2年、あらゆる手段で対応してまいりました。ハルキウのオフィスは絶え間ない砲撃にさらされ、チームメンバーの多くがウクライナより安全な都市へ移転しました。現在では、ヨーロッパ諸国、カナダ、アメリカ、タイからもリモート作業を行っています。

 2022年から2023年の冬、当社のITチームは他の企業と同様に厳しい状況に直面しました。停電や復旧のための計画停電など、数多くの障害が発生しました。このため、大型の蓄電池や発電機の導入だけでなく、能登の地震でも有名になりましたが、スターリンクという衛星から地上へのブロードバンドインターネット回線も導入しました。また、計画停電に対応するために、作業時間を変更するなどの工夫も行いました。

 

 さらに、開発プロジェクトのチーム編成も工夫の一環です。ウクライナ国外で作業が可能な人材を全てのチームに最低でも1~2名含むように再編成しました。これは、戦争による爆撃や停電などの甚大な影響が発生した場合でも、仕事を継続するための取り組みです。システムの発注者への迅速な対応とサポートは停めることができませんので。

 「MUTEKIグループ」社のバックオフィス部門も新たな挑戦に直面しています。現在、従業員のメンタルヘルスを支援することが極めて重要なミッションの一環となっています。当社では、従業員の家族や軍務に就いた社員のサポートに重点を置いています。チームメンバーの一部が戦争に動員されたことは当社も例外ではありません。彼らへの支援も、当社の重要な役割です。また、従業員同士の横の繋がりを強化するチームビルディングのためのイベントも、安全な場所で定期的に開催されています。これらのイベントは、ウクライナに残るエンジニアがストレスを解消し、ワークライフバランスを維持するために不可欠であり、戦争のストレスとの対処にも役立っています。
 当社だけでなく、ウクライナで活動するすべての企業が同じ状況に置かれています。それでもなお、戦禍に負けずに経済活動が継続されているのが、ウクライナの現状です。


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