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ウクライナにおいて戦時中でも活躍したビジネスや企業

物流企業

 ウクライナには、国営の郵便事業を行う企業である「ウクルポシュタ」が存在します。日本で言えば、郵便局に相当する企業でしょうか。「ウクルポシュタ」の面白い取り組みとしては2022年6月に、米国のAmazonに自社のショップサイトを開設しました。この取り組みの主な目的は、ウクライナの製品を広く海外市場で販売することです。Tシャツや切手など、ウクライナ特有のデザインの商品が販売されています。こちらがそのAmazonのサイトです。

 不謹慎ながらも個人的に興味深いのは、ロシアの軍艦を沈めたことを記念した切手や英雄の街ハルキウのような戦意高揚を狙った商品が多数販売されていることです。このような商品は、コレクターやマニアにとって興味深いものではないでしょうか。

ウクライナが発行した切手


 一方で、ロシア侵攻後に国営郵便事業である「ウクルポシュタ」を凌駕した存在として輝くのが、民間の物流会社である「ノヴァ・ポシュタ」です。同社は積極的にウクライナ国外にオフィスを展開し、国内外の物流網を構築しています。その目的は、ウクライナから国外に避難した人々との物流を確保し、言語の壁を越えた安心感を提供することにあります。地元企業である「ノヴァ・ポシュタ」の存在は、異国で避難生活を送る市民にとって大きな心の支えとなりました。同時に、ウクライナ国内の企業が国外マーケットなどへの進出を目指す際にも、彼らの物流ニーズを的確にサポートし、地元企業の新たな挑戦を後押ししています。「ノヴァ・ポシュタ」は、ウクライナ国内全土に8,500のオフィスを展開しています(ロシアの占領地域を除く)。週末も含め、毎日活動し、市民生活や企業活動を支えています。
また、人道支援の一環として、前線で戦う兵士たちには無償で物資を配達する活動も行っています。しかし、「ノヴァ・ポシュタ」もまた、戦禍の被害を受けています。ロケット攻撃などによる脅威に晒され、昨年はハルキウ州の「ノヴァ・ポシュタ・ターミナル」が標的とされ、6人の従業員が尊い命を落とし、16名が負傷しました。


攻撃を受けた物流ターミナル

銀行

 2017年に設立されたウクライナのモバイルバンキングのパイオニア、「monobank(モノバンク)」は、昨年大規模なDDoS攻撃に直面しました。(※DDos攻撃とは:攻撃対象のWebサーバーに大量のパケット送りつけることで相手のサーバーに膨大な負荷をかけること。)私の別の記事では、通信キャリアのキーウスターも同様のハッキング攻撃を受けたことを報じましたが、これはほぼ同じタイミングでした。犯人は特定されていませんが、市民生活を混乱させることを目的とした攻撃であることは間違いありません。

 しかし、「monobank」の創設者は、このハッキング攻撃にも動じず、自社の優れたIT技術力を活かして適切に安全を確保しサービスの継続を行っています。火薬などの武器以外でも攻撃を行う近代戦争の典型的な例であり、その惨劇が垣間見られました。

 「monobank」は、ウクライナ政府が発行する戦時国債の販売を自社アプリでも販売しています。「Diia」というウクライナ政府公式アプリでも戦時国債の購入が可能ですが、民間企業の「monobank」でも提供されています。多くのITスペシャリストを有するウクライナらしく、オンラインバンキングのパイオニアも戦時国債の販売に参画しています。このような戦時下における相対的な不景気の中でも、市民生活のインフラとなりうる分野でビジネスを拡大し続ける企業も存在します。
 ちなみに「monobank」、戦争下の現在ローンを組んでいる市民は元本の利息の支払いだけで済んでいる模様です。手数料も免除されています。


タクシー

 戦時中にビジネスを拡大したのが、タクシー会社「ウクロン」です。ウーバーのようなサービスとして理解していただいて構いません。私自身、ウクライナ語がわからないため、現地ではウーバーしか利用できませんでした(笑)。

 ウクロンは、特にロシアの侵攻直後に最も活躍しました。様々な攻撃が行われる中、危険な地域に住む人々を安全な地域に救出・輸送することで大きな役割を果たしました。日本では民間企業がこうした救出活動を行うことは想像もつきませんが、当時のウクライナでは緊急の状況下において、こうした行動が行われたのです。多くのドライバーが無料で戦禍の中で市民を安全な地域に輸送しました。

 現在ではウクロンがその安全な地域に移り住んだ市民の生活を支える一端となっています。経済的に困難な状況下で、多くの市民が生計を立てるための仕事を探しています。車を所有する人々にとって、タクシー業界は最適な選択肢の一つかもしれません。

 しかし、戦時中のウクライナでは、ドライバーの増加にもかかわらず売上は元に戻りません。ウクロンの幹部は、「戦前の水準に戻るにはまだまだ時間がかかるだろう」と述べ、長期的な復興を見据えています。


ウクロン

医薬品流通サービス

 ウクライナを拠点とする医薬品配達用の電子商取引プラットフォームであるLiki24も、戦争開始後に活躍が話題になりました。Liki24は、多数の薬局と消費者をつなぐシステムを提供する企業です。コロナ禍の2020年にはLiki24の欧州拡大に向けて500万ドルを調達したことでも有名です。薬局ごとに価格が大きく異なる、ある医薬品が手に入る薬局と手に入らない薬局の調整、宅配の強化など、消費者への問題点を解決する企業です。

 戦争が始まると、Liki24はあらゆる医薬品を集めてきて無料で人々に届けました。もちろんビジネス(売上)はどん底に落ちましたが、何千人もの人々を救ったのは紛れもない事実です。キーウを拠点とする同社は、キーウ市内全域で対面販売と配送サービスをすでに開始しました。ウクライナでは600人の従業員を擁する大手企業です。これからも、戦火の中で医薬品を国の隅々まで届け続けることで市民生活をささえていくことでしょう。

 ウクライナにおける戦時下でも活躍するいくつかの企業をご紹介しました。他にも、たくさんの現地企業が市民生活を守り、国を守るために少ない経営資源で努力を続けています。私たち日本人ができること、それは経済的支援です。これからも支援の手を差し伸べていくのが、私たち株式会社DIVERTの活動です。引き続きのご支援をよろしくお願いいたします。

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