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なぜ日本の男性医師は家事、子育て、介護に参加できないのか?

#COMEMO #仕事のポリシー

突然ですが、皆さんがパッと思いつく理想の医師はどんな人ですか?

いつも病院にいる働き者の先生?
何かあれば駆けつけてくれる患者思いの優しい先生?

つまり、長時間労働が良い医師の条件になっています。裏を返せば、家庭があった場合に家事、育児、介護に参加してないということになります。

医師に限った話ではないですが、OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた生活時間の国際比較データ(15~64歳の男女を対象)によると,市場で労働力を提供して対価を得る有償労働時間で、日本男性は1日あたり約7時間半で、家事,介護・看護,育児,買物,ボランティア活動などの無償労働に関わる時間は、1日あたりわずか41分でした。その一方で、日本女性の無償労働時間は3時間45分でした。

内閣府男女共同参画局はこれらの結果を踏まえ、

·      以前は短かった女性の有償労働時間が伸び,男性も女性も有償労働時間が長いが,特に男性の有償労働時間は極端に長い。

·      無償労働が女性に偏るという傾向が極端に強い。

·      男女とも有償・無償をあわせた総労働時間が長く,時間的にはすでに限界まで「労働」している。

という日本の特徴をまとめ、日本男性は「(通勤時間も含めて)仕事にかける時間を見直してその分を家事・育児・介護に回しましょう!」と提案しています。

男性医師に限って言えば、有償労働時間が極端に長く、無償労働時間が極端に短くなる傾向はもっと強くなるでしょう。

日本の労働社会には長時間労働を良しとする肯定論が根強くあります。それに加えて私たち日本人医師には、大学受験の最高峰である医学部合格を長時間の受験勉強を乗り越え勝ち取った自分自身の成功体験があるのです。その結果、もはや信仰に近い強い肯定感を長時間労働に対して持っています。つまり、病院で長く働くことが優秀な医師とされる医療界の常識。そして、社会的にも理想の医師としていろんなメディアで紹介されるのが、私生活を犠牲にしてまでも長時間の時間的拘束を捧げる医師です。

私は、この長時間労働に対する考え方こそが日本の男性医師が家事、育児、介護に参加できない原因だと思います。人間ですから、自分の成功体験に基づく考えを変えることは容易なことではないです。しかし、あえて私は長時間労働が絶対的な肯定評価であることに疑問を提示します。

実際に現場で働く医師は、長時間労働に耐えられない弱い医師であるとみなされる恐怖感から、声を上げることはしません。少し時間に余裕がある立場になっても、病院にいる時間が長かったからこそ自分は良い医者になれたとする自分の成功体験から、長時間労働を後輩たちにすすめています。その一方で、結婚、出産した女性医師が、無償労働である家事・育児・介護を担うためにキャリアを中断する、方向性を変える話は珍しくありません。

一方で医師の長時間労働問題は、男性医師が、家事、育児、介護に参加できる、できないレベルの話ではなく、過労死、自殺、離職を防ぎ、医療安全性を確保するための厚生労働省が推進する医師の働き方改革として論じるべきだとの意見ももっともです。

2024年4月から段階的に施行される医師の時間外、休日労働上限規制の適用は、管理職にいらっしゃる先生方にとっては、頭の痛い話題かと思いますが、医師長時間労働を少しでも改善するために私は賛成です。強い外的要因がない限り、この問題には大きな変化は起こらないと思うからです。

ただ、組織をまもるためにと言う名目で、労働時間を別解釈しないでほしいです。どういうことかと言うと、例えば外科医の場合、手術室に入っていない待ち時間は労働時間に計算しなくて良いとする”逃げ道”があると聞きました。管理職におられる先生からすれば、組織の労働力を守るための必要悪だと考えるかもしれません。でも、それでは根本的な改善にはつながりません。

ただ単に長時間労働を減らそうとは言っていません。長時間労働をしなくても良い医者になれるし、良い医療を提供できると思っているだけです。私は、夫婦共に米国で小児科医として働き、娘と息子を持つ父親です。妻と平等に家事、育児を分担しながら、仕事にも家事育児にも同じだけ全力を尽くすことが僕の仕事のポリシーです。子供が父親と過ごした記憶が少ないような家庭には絶対にしたくありませんでした。米国の病院では、勤務時間外にいつまでも病院で仕事をしていることは、むしろ要領が悪い、信頼できない医師だと思われます。家庭と仕事を両立させてこそ一人前なのです。

私は米国で働いていますので、外部からの発言であるために共感していただける要素が弱いことは承知です。しかし、外部からでないと上げられない声もあると思い、記事を書きました。医師の長時間労働問題も、ビジネス一般社会の働き方改革の対象として、COMEOに声を拾ってもらいたいです。そして、医師の異常な長時間労働の改善を後押しする共感の声が大きくなることを願っています。



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