「恬として恥じない」の例文
以下の理由から、マモミはミナハルとのキスを拒んだ。
・つい10秒前に交際を始めたばかりであること
・ここは駅前で、しかも今は帰宅ラッシュであること
何秒経ったらキスしていいか決まりはあるの? と言い返されて、たしかにそこに関しては明確に答えられないなとマモミが自論を改めると、ここぞとばかりにミナハルは攻める。
「駅から何メートル離れればいいの? 何時になればOKなの?」
「それもはっきりは答えられないかな」
「そんな曖昧な理由で拒まないでほしい! キスがしたい!」
ミナハルの大声に、仕事を終えた社会人たちが振り返る。迷惑そうに睨みつける人もいれば、ニヤニヤと笑う人もいる。そんな視線など一向に気にすることなく、恬として恥じない堂々たる態度でミナハルはマモミを見つめる。マモミのほうもなんら肩身の狭い思いはなく、ただ目の前の愛する人に自分の考えを伝えるために言葉を選ぶ。
「目視できる範囲に人が居る場所ではキスしたくないんだよ」
マモミがそう言うと、ミナハルはようやく納得した。どちらかの家に行くという選択肢もあったが、それはまだ早いと互いの意見が一致し今日のところは解散となった。
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