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呪術と暴力と科学のマリアージューミニ読書感想「爆発物処理班の遭遇したスピン」(佐藤究さん)

佐藤究さんの最新短編集「爆発物処理班の遭遇したスピン」(講談社)が面白かった。原始的な呪術、シンプルな暴力、最新の科学。混ざり合うはずのないこれらが渾然一体となり、格別のマリアージュと言える読み心地を味わえた。


批評家・加藤典洋さんは、村上春樹の短編が長編作につながる試作となっていると説いた。本書収録の作品の初出はいずれも2010年代後半で、佐藤さんの話題作「テスカトリポカ」(21年)以前にあたる。本書はまさに加藤典洋さんの言う通り、テスカトリポカにつながる魅力が詰まった作品集だった。

「テスカトリポカ」は、メキシコの凶悪ギャングが追い詰められた末に日本に流れ着き、凄惨な暴力の元に育った少年と邂逅する物語。研ぎ澄ました暴力が美しいまでの同作だったが、本書収録作も全てが「暴力の光る」作品だ。

たとえば「シヴィル・ライツ」は弱体化したヤクザが主人公で、制裁としての指詰めがテーマになる。この指詰めを刃物ではなく、ある動物を使うというので暴力性が高まる。よくこんなこと思いつくな、と感心する。

「テスカトリポカ」は、呪術と科学という対極の要素を併せ持つ。表題は古代アステカ文明の神を意味するのと、メキシコギャングは液体窒素を使った凄まじい拷問を武器にする。

本書表題作の「爆発物処理班の遭遇したスピン」では、量子力学が絡む。本来爆弾と量子力学は絡まないが、絡ませる。次元が歪む面白さがある。

あるいは「スマイルズヘッズ」は、シリアルキラーのアート収集という一風変わったテーマで、「イルカの頭」をモチーフにした作品が鍵になる。動物の頭を仮面のように被るというのは呪術的だ。

気付かれたように、爆弾もシリアルキラーも暴力の象徴で、本書は隅から隅まで暴力が溢れる。

呪術的であれば科学的ではないし、科学的であれば呪術は否定される。そうした常識を食い破り、接続してしまう世界観。それが佐藤作品の魅力だ。

本書はその魅力を短く、鋭く、美しく凝縮した珠玉が揃えられている。

つながる本

暴力にフォーカスした作家としては呉勝浩さんも注目。最新文庫作「スワン」(角川文庫)や、最新刊「爆弾」(講談社)は、それぞれ凶悪犯罪とその後をビビットに描く快作でした。

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