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連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第二十四章 チャンピオンシップ決勝 <入社4年目冬>(前編)

第一章&全体目次はこちらから
トップ絵は、2章連続でトップ絵を飾ることになったツツジ(^^♪
決勝戦対戦相手&主人公ミナミの親友、準ヒロインですよ🎵

第二十四章はクライマックスの章なので少し長くなるので、前編・後編と分けますね。次回、第二十四章(後編)と第二十五章(エピローグ)の同時公開にて完結予定です。楽しんでくださいね🎵


本章のダイジェスト

  • 決勝前に大沢の激励を受けるミナミ。しかし、大沢やアラタのためにも絶対に大会を成功させるというプレッシャーが強すぎて張り詰めすぎていた。試合が終わったら自分の気持ちを打ち明けると決めたことも、張り詰めている原因であることを自覚するミナミ。

  • そして、試合直前にアラタがミナミに声をかける。アラタの話を聞き、実はミナミが中学生の時に入団試験を受けに来たときの面接官が大沢であり、その時のミナミの言葉がきっかけで大沢の夢が始まったことを聞かされる。そして、アラタと大沢はただの友人だと。気休めかもしれないが、中学のころから大沢に見守ってもらっていたことを知り気持ちが晴れる。

  • 決勝戦が始まった。ついに叶ったミナミとツツジの対戦。圧倒的な絡み合いで観客を魅了する。

  • 序盤戦は異次元空中殺法も絡めミナミがリード。しかし中盤では関節技でツツジが盛り返す。そして、ミナミが起死回生を狙いトップロープに登るが関節技のダメージで足に違和感。そのままツツジの秘密兵器、雪崩式一本背負いの強烈なダメージを受け、ついに意識が飛んでしまう。

本章本編

第124話 張り詰めた気持ち

 翌日、日曜日。
 ミナミはドームを見上げていた。

 晴天の青空。
 大きく深呼吸。息が白い。

 今日で、全てが決まる。
 トーナメントも、AI改革も、そして多分、自分の恋心の結末も。

(さあ、行くわよ)

 意を決して、ドームに足を踏み入れる。

 最初に向かったのはSJW運営控室だった。
 予想通り、大沢はそこで仕事をしていた。

「昨日はアドバイスをありがとうございました。今日、優勝目指して頑張ります」

 大沢はPCから目を離すと、ミナミに視線を向ける。

「ああ、楽しみにしている。今のミナミなら、ツツジにも引けは取らないと信じている。自分のすべてを開放して、全力で頑張ってこい
「はい。そして、この大会を必ず成功させます」
 ミナミは強い決意を示す。

 大沢は、立ち上がるとミナミの頭をくしゃっと撫でた。

「ずいぶん張り詰めているな。大会を成功させるというプレッシャーが強すぎるんじゃないか?」
「え!?」

 昨日、ツツジにも張り詰めていると指摘された。
 やはり、どこかに無理が出ているのだろう。

「大会なんかいつでもリベンジできる。そんなことより、待ち望んだツツジとの決勝戦だろ?ミナミが悔いのないように楽しんでこい」
「あ、ありがとうございます。はい。がんばります」

 そう答えて、笑顔を見せ、部屋を出るミナミ。
 やはり、その表情はまだ固い。
 大沢は心配そうな表情でもう一言声をかける。

「……ミナミ、試合が終わったら、またここに来てくれるか?」
「は、はい。わかりました。では後ほど」
 ミナミはそう答えると選手控え室に向かった。

(……大沢さん、いつもよりも難しい表情……やはり……いや、今は考えない)

 見送った後、大沢はどこかへ電話をかけるのだった。

 ドーム内ではトーナメント最終日で5万人の超満員。
 メイン、セミメインに繋がる試合も、エキシビジョンではあるがAIが提案した夢のカードが連続する。
 TV中継も行われ、異常な盛り上がりを見せていた。

 通路で出番を待つミナミは、ここに来て、やはり指摘されたように自分が張り詰めていることを自覚し始めていた。

(決勝戦の緊張だけではないわ。やはり……この試合が終わったら、大沢さんとアラタさんのこと、約束のこと。向き合わなければいけないから。そのためにもやはり、良い試合をしなければいけないというプレッシャーが大きいんだわ……)

 ミナミはふと不安げな表情で身震いする。

「ミナミちゃん……」

 そこに、現れたのはアラタだった。

第125話 遠い昔

「まるで今日が引退試合のような顔してるね」
「す、すみません」

(やっぱり……大沢さんの指図?……私、会う覚悟できてなかったのに……)
 でも、会ってしまったのだから、言わなければいけないことがある。

「私、大沢さんの夢を一緒に実現してきたのだと思ってました。でも、アラタさんと約束された夢だったんですか?そうであればこそ、私は絶対に大会を成功させようと考えています」

 ミナミの苦い告白に苦笑するアラタ。

「やっぱり、勘違いしてるのね」
「え?」
「大沢ちゃんと約束したのは私じゃないわ」

 アラタは懐かしそうに続ける。

「10年ほど前、大沢ちゃんがZWWの新入社員の頃、面接対応をやってもらってたのよ。そこに一人の中学生が親にも言わずに入団試験を受けに来たの」
「え……それって……」
「その娘はね、大沢ちゃんに『究極の技と技のぶつかり合いの魅力がきちんと評価されるようなプロレスの世界を作りたい』って言ったのよ。ヤラセと言われるのは許せないとね」

 ミナミはかぶりを振る。

(あのときの面接官が、大沢さんだった!?)

「それを聞いて感動した大沢ちゃんはその娘を私に紹介したの。私もこんな面白い娘はそうはいない、必ず大きくなったら門を叩きに来る。だから、そのときにしっかりと受け止めてあげなさいって大沢ちゃんに言ったのよ。これが、私たちの約束の内容よ」
「そんな……」
「大沢ちゃんは約束を守っているわ。あなたの夢を実現するってね。そして、あなたは今、ここにいる」

 もう、涙が止まらない。

(大沢さんは、そんなときから私を見守ってくれていたのね……)

「だから、安心して。誰のものでもない。ミナミちゃんと大沢ちゃんの夢なんだから」
「は、は……はい……あ、ありがとう……」

 声にならないミナミの耳元に顔を寄せるアラタ。

「それとね、私が大沢ちゃんの彼女って噂が流れているけどね」
「え……あの……」
「いい友人、というか、面倒見がいい若い社員。引退後も研究室を斡旋してくれたりしたけど、それだけよ。だから、気にしないでね」

 アラタは舌をぺろっと出した。

「だから、試合前に号泣しないの。変な心配しないで、私が教えたすべてを出して、ベルトを取ってきなさい」
「はい、ありがとうございます」

 どこまでが本当で、どこまでが試合前の自分のために言ってくれたことなのかはわからない。それでも、ミナミは涙を拭きながら頭を下げるのだった。

第126話 序盤戦

「青コーナー、SJW所属、ミナミ入場です」
 リングアナの紹介に続く入場曲で、会場のボルテージが一気に上がる。

「さあ、楽しんできなさい」
 アラタが促す。

「はい、行ってきます」
 ミナミは晴れ晴れとした表情。
 5万人の観客が迎える。
 長い花道を歩くミナミ。

(ありがとうございます。アラタさん、大沢さん。自分が楽しめないようじゃ、観客に魅力を伝えられませんもんね。私、思いっきり楽しんできます)

 リングに入り、太々しく右手をあげる。
 サザンのときと同じ仕草に、歓声は一段と増す。

「赤コーナー、DIVA所属、ツツジ入場です」
 花道を歩いてくるツツジ。
 DIVAトップタッグの一端を担う自信と責任のオーラを纏っている。

「只今より、全日本女子プロレスリング統一ジュニアチャンピオンベルト、タイトルマッチを開催致します」

 リング中央で二人は握手する。
 場内が静まり、緊張感が増す。

「ミナミ、目が腫れてるじゃん。でも、昨日よりいい雰囲気。いつものミナミに戻った?」
「うん、心配かけたわね。でも、もう大丈夫よ」
「良かった。であれば、こちらも心して掛からないとね」

 そして、運命のゴングが鳴る。
 ずっと一緒に練習していた二人だ。圧倒的な絡み合いを見せる。

「うおー、さすが決勝戦」
「この二人だからこその動きだ」
 観客も盛り上がる。

 ミナミがツツジをヘッドロックしながら囁く。

「楽しいね、ツツジ」
「まだまだこんなもんじゃないよ」
 ツツジはミナミの腰を掴むと強引に引っこ抜く。
 柔道出身のつつじならではの裏投だ。

「グエッ」
 ミナミの両肩がマットに叩きつけられる。
 そこからは関節技で押される。
 何とか逃れると、ツツジをロープに振る。

(以前よりも高い打点で……)
 ミナミは走り込んでドロップキック。

(インパクトの瞬間に最後の伸び。そして力を込める)
 これによって、インパクト速度と硬さを上げる。
 アラタから叩き込まれた技のキレ。

 吹っ飛んだツツジは、たまらずにリングの外へエスケープする。

(逃がさないわよ)
 ミナミはコーナートップロープで観客に向かって手を叩く。
 観客は大喜びで手拍子に乗る。

(行くわよ!)

 なんと、トップロープから場外に向かって飛び出し、前転しながらツツジに体当たり。プランチャ・コンヒーロだ。
 高い落差による速度と回転によるモーメントが破壊力を上げ、ツツジはたまらず場外でダウン。

(久我さんから学んだ空中殺法よ)

 序盤、ミナミが優位に立った。

第127話 中盤戦

 リングに戻る二人。
 ツツジの表情が変わった。

(見たことがない動き?)

 ツツジはミナミの片膝を取ると、その膝に絡みつくようにグリンと回す。
 ドラゴンスクリューだ。
 ミナミは慌てて受け身を取る。

(……やばい、ぼっとしていたら靭帯切れてたかも……)

「私も以前の私じゃないんだよ」

 ツツジは、今度はその膝に足をかけて、膝十字固め。

「いててて……」

 先ほどのドラゴンスクリューのダメージに加えての関節技は本当にきつい。
 慌ててロープへ手を伸ばす。

「まだよ」

 今度は、ミナミをリング中央へ引きずり戻し、腕と首を足で挟んで三角締め。

「関節技……渋いじゃない」
「これも私のスタイルの一つよ」

 SJWではあまり関節技は見せてこなかったツツジ。

「なんでこれまで見せてこなかったのよ」
「SJWには関節得意のアキラさんがいたからね。被っちゃうでしょ」

 それを聞いて、ミナミはハッとした。

「それって、まさか……」
「そう。私がDIVAに移った理由。SJWに残るより耀ける選択肢をくれたの」
「誰が?」
「もう、気付いているんでしょ?」
 更に締め上げるツツジ。

「あいたたた……」
 なんとか這いつくばり、ロープに足を延ばしてエスケープする。

(そっか。大沢さんは、やっぱり選手全員を本当に大事に見てくれているのね。ツツジのことも、引退後のアラタさんのこともきっとそうだ)

 ミナミは微笑みながら立ち上がる。

「あら、効いてないのかしら?」
 ツツジがミナミの腕を取る。

(一本背負い?)
 その腕を振り払い、ツツジの胸にエルボーを打ち込む。
 二発、三発。
 そして、回転力を付けたローリングエルボーでツツジをなぎ倒す。

(地味だけど、スピードと肘の硬さによるインパクト重視よ)
 そして、ワンステップでコーナートップロープへ。
 ギロチンドロップを打とうとするが……

(あれ?まさか、先ほどのダメージが残っている?)
 膝に違和感を感じるミナミ。

(このままでは打てない、ツツジにけがはさせられない……)
 以前、サクラが渋谷を斜めに投げた時を思い起こす。

 立ち上がったツツジがコーナー上のミナミに襲い掛かる。

「秘密兵器を見せてあげるわ」

 ツツジはセカンドロープに登ると、ミナミの腕を取りリング中央に向かって巻き込むように投げる。

(やばい、受け身とらなきゃ……)
 しかし、落差が大きくツツジの体重も加わり背中を大きく打ちつける。

 ミナミの意識が途切れた。
 それほどまでに大きな威力の雪崩式一本背負いだった。

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