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連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第十三章 タッグトーナメント予選 <入社3年目夏>

第一章&全体目次はこちらから
トップ絵は、主人公のミナミ(練習中だからマスクは無しよ)(^^♪

ごめんなさい、1月末締め切りの大人の事情(カク〇ムコン)でこの小説を完結させる必要があって、毎日執筆と修正に励んでまして、noteはしばらくお休みしちゃってました。
おかげさまで、無事完結しましたので、ちょっと遅くなりましたがこちらでも適当に間隔を開けながら公開していきますね🎵

おわびにここまでのダイジェストも載せておきますので、これからもよろしくで~す(^^♪


ここまでの1分ダイジェスト

✔主人公ミナミは大沢社長に憧れ女子プロレス団体SJWに入団
✔なかなかプロテストに合格できず
✔正社員で経営改革しつつ練習生の二足のわらじ
✔正社員としては、DX改革やM&Aなどで成果を上げていく
✔そして2年目の秋についにプロテスト合格
✔いろいろあって、覆面ヒール「サザン」としてデビュー
✔買収先選手イズミ(レジェントヒール)とタッグを組み初勝利
✔その後、憧れの大沢と接近してドキドキ(匂い嗅いだりする)
✔他団体対抗戦での事故などを経て、ランキング改革を実現

1分で読めたかなぁ?

本章のダイジェスト

  • 企画コンサルの発案で、SJW全選手参加による「真夏の夜のタッグトーナメント大会」が決まった。ミナミは買収のときから世話になり初勝利ももらった大先輩レジェンドヒールのイズミとのタッグで挑むことになった

  • まだデビューすぐの新人ミナミは、足を引っ張るまいとイズミに、必殺技を教えてほしいと嘆願。イズミは巨漢である自分を投げられたら教えると約束

  • ミナミは同期のツツジと特訓を重ねる。その中で、柔道のように重心移動を利用して重量差がある相手を投げるコツを身に着ける

  • そしてついにイズミを投げて、必殺技を身に着ける。イズミは「決勝まで秘密兵器としてとっておけ」と指示

  • タッグトーナメントがスタート。ミナミの「異次元殺法」と名づけられた活躍もあり、順調に勝ち上がる

本章本編

第69話 新イベント発表

 6月後半。

 いつものように朝練を終え、事務所に入るミナミ。
 営業部長の北沢が見知らぬ男を連れて社長室に入っていくのを横目にみる。

「あれ?お客さんですか?」
「そうみたい。なんだか企画コンサルらしいわよ」
「企画コンサル?」

 コンサルと聞くと、稲田を思い出す。

(他のコンサルも、そもそも、そもそも、っていうのかしら?)

 クスクス思い出し笑い。

「でも、コンサルって高いですよね?うち、払えるのかしら?」

 すると代田も笑って答える。

「昨年は業績も良かったし、今年も好業績とはいえ、ミナミちゃんが使っちゃうからそんなに大きな余裕はないんだけどね」
「もう、代田さんまで?」

 完全にいじられキャラである。

「まあ、冗談はさておき。ミナミちゃんばかり成果を上げているから、北沢さんもやる気を煽られたんじゃない?」
「私ばっかりって、そんなことないですよ。みなさんのアイデアをいただいてなんとか仕事しているだけです」

(それにしても、確かにコンサルを入れるなら悪くないタイミングかもね)

 今はランキング制で大きな注目を浴びているが、すぐに話題は消えていく。
 ここで一過性の話題ではなく、継続して魅力を届けられるような基盤を作るためには、いろんな仕掛けをするべきだろう。

 ミナミはそう感じていた。

 大沢も同じだったのだろう。
 まずはお試しということで、採用企画コンサルと2ヶ月間のトライアル契約を結ぶことを許可したのだった。

 そして、6月末に運命のイベントが発表される。

『第一回 真夏の夜のタッグトーナメント大会 8月11日~12日』

 順位によってランキングポイントにボーナス加算。
 タッグは、ベテランは若手と、中堅は中堅同士で組み合わせる。
 全40選手による20チームトーナメント。
 1、2回戦の全16試合は直前の2週間で実施。
 そして夏休みの最大のイベントとして、2日間。
 初日は準決勝、そして当日はメインイベントで決勝戦。

「すごい、これ、面白そうだね。ね、ツツジ」
「本当ね。全員参加だから、ミナミも出るんでしょ?」
「もちろん。ツツジとタッグが組めないのは残念ね」
「私たち若手はベテランとって書いてあるもんね」
「タッグ発表、いつかな、ドキドキする」

 発表されたのは1週間後だった。

 アキラがツツジと。
 サクラがワカバと。
 そして、イズミがミナミと。

 いずれもこれまでのタッグ経験を踏まえた組み合わせだった。

第70話 必殺技の覚悟

 タッグ再結成を受け、イズミが2時間練習のため夕方の時間を予約し、ミナミを呼び出した。
 ミナミはリングに合流するなり、意を決して懇願した。

「あ、あの。イズミさん、お願いがあります」
「ん?なんだよ?思いつめた顔して」
「今度の大会に向けて、イズミさんの決め技を伝授してほしいんです」

 イズミは怪訝な顔をする。

「何言ってんだ?トップロープからのギロチンドロップは教えてるだろ」

 確かに、正月に大沢からの助言で教わっている。
 試合でも使うようになっていた。
 その高さと速さは定評がある。
 だが、ミナミには重量が足りない。軽すぎるのだ。

「はい。その……もう一つの方を……」
「……ふーん。そっちかよ。さすがにお前にはまだ荷が重いだろ」
「……それでも。今回の大会で、イズミさんの足を引っ張りたくないんです」
「……」

 タッグパートナーとはいえ、プロデビュー8か月のひよっ子がベテランに往年の最高の決め技を教えろと言っているのだから、尋常ではない。

 イズミは鋭い視線でミナミを睨みつける。
 一瞬ひるみそうになるが、それでもミナミは視線をそらさない。

 この8か月の間、イズミとのタッグで、イズミの力で掴んだ勝ちはあれど、自身が活躍できた実感はない。シングルでは未だに1勝もあげられていなかった。

(このままでは、イズミの顔に泥を塗ることに……)

 ミナミの焦りはそこにあった。

「……覚悟はできてんのか?」
「……はい。何でもやります」
「わかったよ。じゃあ、おれを投げれるようになったら教えてやる」
「え?えええ!?」

 耳を疑った。
 イズミの体重はミナミの倍近くある。
 今までの訓練でも、投げれた試しはない。

(ひょっとして、からかわれている?)

 ミナミには、イズミの最高必殺技と投げ技は全く関係がないように思えた。

「なんだ?無理だと思うならさっさと諦めろ。一足飛びに必殺技を身に着けたいっていうんなら、それなりの覚悟が必要ってもんだ」

 覚悟。
 それを聞いて、ドキッとする。

(確かに……口だけではいくらでも言える。でも、それを見せないと覚悟は証明できない。できるできないじゃない。やるんだ!)

「わかりました。やってみます」
「おお。やってみろ。ボディスラムでも背負い投げでもスープレックスでも何でもいい。一回でも投げられたら教えてやる」

 こうして、ミナミの投げ技特訓が始まった。

第71話 重心

 翌日から、朝練でリングに上がれば投げ技、リングの横でもマット重ねて人形相手に投げ技、夕錬ではツツジを捕まえて投げ技を特訓している。
 選手の間で話題になっていた。

「ミナミ、何があったの?噂になってんだけど」
「ん、約束したんだ。イズミさんを投げるって」
「ええ?あのイズミさんを?」
「うん」

 ツツジはあきれて頭を抱える。

「あなたのことだから、何か理由があるんでしょうけど。でも、イズミさんを投げるなんて。足腰壊しかねないわよ……」

 そう言ってから、ツツジはぎょっとした。

 足腰といえば、ミナミの足腰は異常にしっかりしている。
 力強く地面を掴み、衝撃を吸収し、大きく跳ねつける脚力。
 その脚力を根っこから支える腰。
それを実現する驚異的ではつめちゃくちゃ柔軟な腹筋。

 よく考えたら、完全にスープレックス向きな肉体を備えている。

(たしか、モーグルで鍛えたとか……イズミさんはそれを知っていて、チャレンジさせている?)

 ツツジはニヤリと笑った。

「面白いじゃん。乗ってやろうじゃないの。私が手伝ってあげる」

 それからは二人で試行錯誤。
 ロープにしがみつくツツジをぶっこ抜く練習。
 人形二体を縛って倍の重さにして投げる練習。
 抜けるはずもないコーナーポスト相手に投げ技仕掛ける練習もしてみた。

「……ツツジ。やっぱり思うんだけど。ただ単に抜こうとしても、あの重量じゃ無理があるわ」
「確かにね。でも、諦めないんでしょ?」
「もちろん。あのね、ちょっと試したいことがあるの……」

 ミナミはツツジをリング中央に立たせる。

「例えば、前から一本背負いを仕掛けるの。踏ん張ってみて」
「誰に言ってるのよ。私の特技よ。投げれるもんならやってみなさいよ」

 ミナミは背負いのモーションに入る。
 ツツジは前に投げられないように踏ん張る。
 その瞬間、ミナミはさっと腕を離すとバックに回る。

「ほら。後ろ向きに体が流れてる。そこを……」

 バックを掴むときれいにブリッジ。
 ツツジが弧を描く。

「どう?これなら、重量級も投げられるかも」
「いててて、うん。いいと思うよ」

 ツツジは感心していた。
 柔道でも、背負いを見せて意識を前にさせてから、大外・小外刈りで後ろに倒すコンビネーションは基本の一つだ。

 ミナミは、格闘経験がないのに、自分の考えで重心の流れを利用し始めている。

(これはひょっとすると……ひょっとするかもね)

 ツツジの胸は高鳴っていた。

第72話 ジャーマンスープレックス

 半月ほどたつと、ミナミの動きはかなり洗練されていた。

 特に、バックを取ってから投げるまでが素早い。

「モーグルはコブに合わせて1秒間に2回も3回も足腰の屈伸を繰り返すからね」

 速さを褒められ照れ笑いする。

「そういえば、トーナメント表見た?」
「あ、見た見た。私たち、決勝で当たる運命ね」

 普通に考えたら、ツツジはともかく絶賛ランキングびりのミナミが決勝に行くなど考えにくいが……

(でも、この子は非常識だしね)

 ツツジが苦笑いしながら提案する。

「二人ともに決勝に行けたら、その夜はお祝いする?」
「いいわね。どこに行く?」
「そうね。8月12日だからペルセウス座流星群が来る頃ね。高尾山の山頂で流れ星を見るってのはどう?」
「いいわね。私、流れ星に、決勝に行かせてってお祈りする」
「あのね。タッグ戦は終わってるわよ」
「あ……」

 こうして、馬鹿笑いした後。
 ミナミはまじめな顔で言った。

「何とか頑張る。決勝でツツジと戦いたい。いい試合しよう」
「負けないわよ」
「私も。どっちが勝っても恨みっこなしよ」

 二人はがっちりと抱き合うのだった。

 翌日。
 イズミが久々にSJWの朝練にやってきた。
 ミナミがリングに向かう。

「スパーリングお願いします」
「おう、かかってこいよ」

 周りの選手たちも、それぞれの練習を止めてリングに注目する。
 異常に投げ技練習をしていたミナミのことだ。

『無謀にも、あの巨体のイズミにも、投げ技をトライするんじゃなかろうか』

 そのような期待感がリングを取り囲んでいた。

 5分ほどたつと、お互いのエンジンは回転が上がる。

「何か、企んでんだろ?やってみろよ」

 イズミがふてぶてしく笑う。

「じゃあ、遠慮なく」

 さっとイズミの懐に潜り込むミナミ。
 右腕を掴んで投げるモーション。
 ツツジ直伝の一本背負いだ。

 さすがのイズミも一瞬ぎょっとするが、重心を後ろに移動させ踏みとどまる。

「なめんなよ?」

 そのままミナミを掴んで後ろに投げようとする。
 しかし、そこにミナミはもういない。

「!?」

 後ろ向きに踏ん張ったイズミのバックに回った刹那、電光石火でジャーマンスープレックスを放つ。

 イズミの視界が天井に向かう。

(まさか……)

 まるで、滑らかな時計の秒針のように、きれいな弧を描きイズミがマットに叩き付けられる。

 リングはどよめきに包まれた。

 イズミが苦笑いしながら起き上がる。

「しゃーねーな。約束は約束だもんな」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

第73話 異次元殺法

 夕錬の時間を予約できたのは1週間後だった。

(他のチームも、頑張っているものね)

 全員出場のタッグ戦だから仕方がない。

 とはいえ、すでに7月後半。
 この週末の土曜日に第一回戦、日曜日から第二回戦が始まる。
 イズミ-ミナミ組は第二回戦からなので日曜日が初戦だ。

「必殺技を教えるにあたって、一つだけ条件がある」
「はい」
「誰にもばらさないこと。それと、決勝戦までは絶対に使うな」

 条件が二つになっていることよりも、条件の理由が気になる。

「でも、出し惜しみして序盤で負けちゃったら……私、足を引っ張りたくないんです」
「引っ張らねえよ。今のお前なら」
「え?」

 驚きの表情を隠せない。
 自分はランキングビリ独走中なのだ。

「ここ1か月。何を頑張った?」
「えっと……イズミさんを投げること……」
「そうだ。あれが試合でできるなら、秘密兵器を出さなくても決勝まで勝ち上がれるさ」

(……秘密兵器。そういうことか。それならばツツジをびっくりさせることができる。でも……本当に決勝まで足を引っ張らずに行けるかしら)

「安心しろ。おれは評価委員だぞ。選手の実力は全部把握しているさ。じゃあ、コツを教えてやる。まずトップロープに上れ。お前の運動能力ならすぐにマスターできるさ」

 こうして、ミナミはみっちり二時間、秘密兵器の極意を教わった。

 そして日曜日。
 夏休みはじめなので小さな会場でも満員御礼だった。

 イズミとミナミはお揃いの黒Tシャツでリングに上がる。

「「イズミ」」

 流石にTVタレントでもあるベテラン。声援も多い。

「サザンもがんばれ」
「異次元の力を見せてくれ」

 ミナミへの声援は……おまけか?それともおちょくりか。

 しかし、その声援の質はやがて変わっていく。

 試合前半はミナミがドロップキックやスープレックスで先行攻撃。
 相手が乱れたところでイズミがパワフルにアタック。
 ミナミが反則攻撃を混ぜながら一人を抑え、その間にイズミがもう片方にラッシュ攻撃。
 そして、相手二名をリングに寝かせると、イズミとミナミが同時にギロチンドロップを共演。
 ミナミが片方の自由を奪っている間に、イズミがもう片方からスリーカウントをもぎ取る。

 この勝ちパターンがピタリと嵌った。

 翌週土曜日の第三回戦も同じパターンで突破。
 破竹の爆進撃で準決勝戦まで到達したのだ。

『投げにギロチン。まさに異次元殺法』

 雑誌記者の烏山がそう評したらしい。
 ミナミの実力が、徐々に開花し始めている兆しだった。


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