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連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第十四章 タッグトーナメント本戦 <入社3年目夏>

第一章&全体目次はこちらから
トップ絵は親友&ライバルのツツジ(^^♪
ミナミとのタッグ対決はどうなるのか!?

最後におまけとして、ここまでのあらすじ(年表)を張っておきますね🎵


本章のダイジェスト

  • ミナミ(選手名サザン)はイズミとタッグを組んでトーナメント準決勝へ。相手に研究されていたが、コンビネーションで順当に勝ち上がる

  • 遂に、決勝で親友ツツジ組と決戦。誓い合った決勝での対戦を喜び合おうと思ったミナミだったが、ツツジはなれ合いを拒否する

  • 決勝戦はミナミの頑張りもあり良い流れで後半へ。イズミのアシストを受け、ミナミの新必殺技ローリングギロチンがツツジに決まり、カウント3のフォール勝ち。新技とはいえ、あっけない幕切れに違和感を覚える

  • 試合後、通路でツツジに問い詰めるミナミ。ツツジは会社からの指示でわざと負けたことを告白(所謂やらせ)し、さらに会社との対立を受け他団体への移籍を告げ、ミナミの元を去る。

  • ひとりで約束の高尾山山頂でツツジを待つも来ない。大沢からの電話で、大沢もやらせに絡んでいること、改革はまだ足りていないことを知らされ、距離感を感じてしまうミナミだった

本章本編

第74話 タッグトーナメント準決勝

 8月11日。後楽園ホール。

(昨年ここでワカバのマスクを外した。今年は私がマスクをつけてこの舞台に上がる。自信を持つんだ)

 テーマ曲に乗って入場する二人。

 ゴングが鳴る。

 これまでと同様の流れで主導権を探る二人。
 しかし、相手も準決勝まで来た実力派。対策を練ってきている。
 徹底的にミナミの投げ技をマーク。
 とにかくバックに回らせないように二人がかりでミナミを止めに来る。

(だったら……副産物をお見舞いしてやる)

 ミナミは相手の不意を突いて、ツツジ直伝の一本背負い。
 まさか前から投げられると思っていなかった相手は面を食らう。

 ペースを掴みなおしたイズミ-ミナミ組は、一人をリング外に投げやり、残ったひとりをリング中央に寝かせる。

 ミナミがトップロープからギロチンドロップ。
 それに続いて……

「とどめだー!」

 イズミの超ド級ギロチンドロップ。
 二連弾のコンビネーションで、ついに決勝へコマを進めることになったのだった。

 控室に帰る道で、次のメイン試合に向かう選手4人が出番を待っていた。

 もう一つの準決勝。

『アキラ-ツツジ組 対 サクラ-ワカバ組』

 現トップツー同士の対決ということもあり、注目のカードだ。
 そして、ミナミにとってはこの一年深くかかわった4人でもある。

 ひとりひとりにがんばれと檄を送る。

 最後はツツジだった。

「ツツジ。私、やったよ。そっちも頑張ってね。絶対、決勝一緒にやろうね。そして、高尾山に行こう」

 ミナミは満面の笑み。

 ツツジは……

「うん。いい試合だったね。私もがんばるよ」

 そう言い残して準決勝に向かって出ていった。

(あれ?……やっぱり、ツツジでも緊張することがあるのかしら)

 口数が少ないツツジを気にするミナミ。

 でも、そんな心配はよそに、アキラがワカバを逆一本背負いでリングに沈め完勝。
 見事に決勝進出を決めたのだった。

「ツツジ、やったね。おめでとう」
「うん、ありがとう」
「明日も楽しみだね」
「……あのね、ミナミ」

 ツツジは申し訳なさそうに、そして少し悲しそうにミナミから目を逸らした。

「明日戦う敵同士だから、今は慣れ合いは止めよう」
「え、あ、う、うん……」

 面喰った。
 SJWではリングを離れればメインイベントの試合相手とだって普通に話す。
 現に、イズミもアキラと雑談している。

 一緒に決勝に出れるねって。
 そこでいい試合しようって。
 励まし合いたかっただけなのに……

(緊張しているのかしら……)

 なぜか距離感を感じるのであった。

第75話 決勝戦

 8月12日の後楽園ホールメインイベント。

『アキラ-ツツジ組 対 イズミ-サザン組』

 ミナミ扮するサザンにとって、初のメインイベント出場。
 しかもタッグトーナメント決勝戦だ。

『青コーナー、イズミ選手、サザン選手の入場です』

 リングアナの声が場内に響くと、割れんばかりの歓声が聞こえる。
 さすがのミナミも緊張していたが、それよりも楽しみの方が大きかった。

 リングで相手を待つ。
 やがて、赤コーナーに、アキラとツツジがやってきた。

 先攻はツツジとミナミ。
 公式戦での対決はミナミのデビュー戦以来。
 だが、普段の練習では誰よりも多くスパーリングしている。

 それゆえの質の高い序盤の攻防で、観客を一気に魅了する。

「おい、代われ」

 イズミに呼ばれてタッチする。
 それに合わせて、ツツジもアキラにタッチ。

「「おおおおお」」
「待ってました」

 実はアキラとイズミの直接対決はこれが初めて。
 怒号のような声援と歓声。

 一定の距離を保ちつつ、リングをゆっくり回る二人。
 両手を取り合い力比べ。
 そこから技の出し合いが続く。

 パワーではイズミ。
 スピードではアキラ。
 さすが、トップレスラーの一騎打ちで、観客も息をつく暇もない。

 その後も、両チームともにタッチが頻繁になされ、様々な組み合わせの技と技のぶつかり合いが披露される。

 しかし、やはり実力差が出始め、最初に捕まったのはミナミだった。
 ツツジが一本背負い。
 続けてアキラが逆一本背負い。

 二人の決め技を連続でくらったら立てる見込みはない。
 だが……

(あのときと一緒だ)

 いつかの練習を思い出し、過回転で技を抜けた。
 
「「おおおー」」
「すげー、こらえたぞ」
「さすが異次元」

 命からがらコーナーに帰りイズミにタッチ。

 回復したイズミが、まるでブルトーザーのように、アキラをリング外に押し出す。
 そして、ツツジに猛烈なラリアット。
 ツツジが倒れる。

「ここで決めろ!」

 イズミはミナミにタッチする。
 ミナミはトップロープに上った。

(上じゃない。前に飛び出すんだ)

 ミナミの体はきれいに前転する。
 練習の成果、秘密兵器の新技ローリングギロチンドロップがツツジに決まった。

 ここぞの場面での新技に観客は大盛り上がり。

「1……2……」

(この後、私がアキラさんを何とか止めて、イズミさんのギロチンで……)

 そう算段を組んでいた。
 しかし、予想外の結果に終わる。

「スリー!」

(え!?)

 その瞬間、大歓声が天井から降ってきた。
 ミナミはその結果を茫然と眺めていた。

第76話 優勝の代償

 イズミに右手を掴まれガッツポーズするミナミ。
 止まないカメラのフラッシュ。
 地鳴りのよう響く歓声。
 渡される花束。

 優勝したのだと理解する。
 嬉しいと思う。
 でも何か違和感がある。

 イズミがリングアナからのインタビューに答え、その後にマイクがミナミにも渡される。

「おめでとうございます」
「え、えっと……応援ありがとうございました」
「フィニッシュは素晴らしいローリングギロチンドロップでした。決勝戦に向けた秘密兵器ですか?」
「……は、はい。イズミさんに教わり秘密で特訓をしていました」

 こうして、インタビューは何問か続いた。
 そして最後に一言と問われ、イズミがマイクを取り戻す。

「ま、今後も俺たちヒールがSJWを黒く染めてやる。お前ら、ついて来いよ!」

「「おおおおお」」
「よくやった」
「やっぱりイズミだ」
「サザンのローリングギロチンもすごかったぞ」

 こうして、大歓声を受けてリングを去る。
 ミナミも、観客の声援に手を挙げて応え、控室に向かった。

「イズミさん、ありがとうございました。おかげで優勝できました」
「いや、それはお前の努力の成果だろう」
「イズミさんの指導のおかげです」
「それもあるけどな。で、決勝の舞台はどうだった?」
「……」

 ミナミは意を決して答える。

「違和感がありました。ツツジがあんなに簡単にフォールを取られるはずないんです。私の軽い技でなんて……」

 イズミはすでに悟っているように答える。

「そうかもな」
「はい……だから、ちょっと行ってきます」
「ああ、それがいい。行ってこい」
「はい。ありがとうございました」

 ミナミは礼を言うと、控室に向かって駆けだした。

 控室に戻る途中。
 ツツジがひとりで立っていた。
 まるで、ミナミを待っているかのように。

 ミナミはマスクを外し、ツツジの正面に立つ。

「ツツジ。説明してよ」
「……もう、わかっているんでしょ?」
「……わかんない。説明してくれなきゃ、わかんない」

 頭を何度か横に振る。

「会社から指示があったのよ。決勝戦ではフォール負けしろってね」
「うそでしょ?」
「珍しいことじゃないわ。大きな大会ならよくあることよ」

 ツツジは悲しそうな顔でミナミを見つめる。
 今回が初の大きな大会参戦のミナミ。
 だから、今までぶつからなかった事実。
 
「……いつそんな指示が?」
「準決勝の前よ」
「そんな……そんなことって……」

 頭の中が真っ白になる。
 涙が一筋流れ落ちる。

 これが違和感の正体。

 所謂『やらせ』だった。

第77話 高尾山には登れない

「ヒールを盛り上げたいんだって。イズミさんのTV効果が思いのほか大きくて動員数にも影響しているんだって」

 確かに、営業がそんな話をしているのを聞いたことがある。

「TV効果を最大限に使うのは今がチャンス、イズミさんチームが優勝しないとってことね」

 でもだからと言って、やらせをしてもいいというわけではない。

「私だって、初タイトル挑戦だから、やらせなんかしたくなかった……会社と揉めちゃってね。SJWに居辛くなっちゃった。だから、今大会を最後に移籍することにしたの」

 ミナミの脳みそをハンマーが横殴りする。

(移籍する!?どういう意味よ……)

 目の前がグラングラン揺れる。

「もちろん、移籍してもやらせ問題は変わらないだろうけどね」
「う、うそでしょ?」
「私ね、どうせなら最後の試合はミナミにフォールしてもらいたかったの」
「やめてよ……」
「だから、ミナミの新技を受けられて、嬉しかったのよ」
「私……こんなフォール勝ちなんかほしくなかった。優勝だって欲しくなかった。ツツジと楽しく試合したかっただけなのに……」
「うん。私も……でも、ごめんね」

 ツツジは涙を流しながら首を振る。
 そんなツツジを抱きしめるミナミ。

「移籍なんて言わないでよ。次こそ、次の大会こそ、本気でやろうよ。ずっと一緒にやろうよ」
「ごめんね。もう決めちゃった。だから、今日が最後なの」
 ツツジは、ミナミを突き放す。

「……待ってよ、そんなの嫌だ。一緒に最高の試合しようって言ったじゃない。高尾山に行こうって約束したじゃない」
「……高尾山には登れない。ミナミ、元気でね。ありがとう」

 そう言って、ツツジは走り出す。

「ツツジ……やだよ……」

 ミナミはショックで足が動かなかった。

第78話 流れ星を待つ

 ケーブルカーを降りると、山腹の展望レストランを横目に、ヘッドライトをつけて山頂目指し小一時間歩いた。
 あたりは暗くなってきたが、流星観測目的の人はそれなりにいる。

 待ち合わせ場所と決めた広場の隅に座ると、ぼーっと空を見上げる。

(流れ星にツツジが来てくれるようにお願いしよう。そして、大沢さんがやらせに関与していないことを祈ろう)

 そう思ったが、まだ流星は見当たらない。

 やがて首が疲れて、体育座りの体制で顔を膝に埋めた。
 どのくらい経ったのだろう。

 スマホが鳴った。

「ミナミ。心配したぞ。どこにいる?」
「……」

 質問には答えずに、逆に質問をする。

「ツツジがやらせの指示を受けたというのは、本当なんですか?」
「……ああ、本当だ」

 ミナミは深く目を閉じる。

「ランキング制も導入して、技術で魅せる団体になろうって言ったのに……なんでまだやらせが出てくるんですか」
「まだまだ取り組みが十分じゃないんだ」
「……だったら、やらせをさせてもいいんですか?」

 語気を強めてしまう。

(だめだ……こんな言い方したら……)

 SJWにもやらせがある。
 マッチングを指揮している営業部による勝敗指示。
 ミナミもそのことは薄々感じていた。
 だからこそ、決定的な状況になる前に何とかしたかった……

「……ツツジは移籍するって……私の大事な親友が……」

 ミナミは泣きながら声を震わせる。

「ミナミ……この業界は闇だ。やらせは常識のようにはびこっている。こんな業界は変えなければいけない。でも、この闇を打ち払うには大きな痛みが伴う場合もある。」
「……」
「ランキング制で勢いが付いたがまだまだ課題は残っている。今の勢いを最大に使って、完全に闇を打ち払う恒久的な仕組みに進化させないと改革は成功しない」

 言われていることは正論だ。
 でも、その痛みを、なぜツツジとミナミが受けなければいけないのか。

「私はどうすればいいのでしょうか」
「それを自分で考えることが大事だ。与えられるだけでは成し遂げられないことがある」

 大沢の言葉が鋭く刺さる。
 今まで、大沢を信じて応えてきたつもりだった。
 でも、まだまだ近づけていないことを実感する。理想にも、大沢の気持ちにも。

(……いつになったら、近づけるのかしら……)

 瞳から涙が一筋流れ落ちる。

「……少し考えさせてください」

 ミナミは、電話を切ると、空を見上げた。
 大切なものが手のひらから落ちていく。
 雲がかかり始めていて、星は見えなくなっていた。

おまけ(あらすじ)

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