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連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第九章 デビュー戦 <入社2年目秋>

第一章&全体目次はこちらから
トップ絵は、覆面マスクをつけた主人公ミナミちゃん(^^♪
(どんなリングネームになったかは、本編参照してくださいね。
 ただし、ネーミングセンスはダサいのでご容赦くださいね)

本章のダイジェスト

  • プロテスト合格の翌日から、プロとしての準備が始まった。大沢にミナミに、空中技の封印と、自分のことを「さん付け」で呼ぶよう指示をする

  • そして、リングネーム『サザン』(ダサいのは大沢のセンス……)として、地元八王子で同期生ツツジ相手にデビュー戦が決まった

  • 長年の練習相手とのデビュー戦。善戦するが最後は経験の差でツツジに敗北。インタビューで「(ベビーフェースの)ツツジと世界を取る」と言ってしまい、『異次元感覚の覆面ヒール爆誕』の反響を作ってしまった


本章本編

第42話 プロ選手として

 合格の翌日。
 大沢はミナミを社長室に呼んだ。
 言い伝えることがあったからだ。

 練習生とプロテストに合格した若手とでは違うことが多い。
 興行の準備や設営、運営の手伝い、先輩の試合中はセコンドもすることになる。
 ミナミは社員との兼業ということもあり、地方興行への随行は免除され、その代わり関東近辺の興行では人一倍下働きをすることとなった。

 それとあわせて、大沢社長から言われたことは二つ。

「空中技は暫くは禁止だ」
「え?そうなんですか?」

 しゅんとするミナミ。
 一番得意としているのは空中技だ。
 そもそも、ムーンサルトプレスをみてプロレス入りを決め、モーグルのエアで空中感覚を磨いてきた経緯がある。

 とはいえ、ツツジとの自主練で(誰も見ていないから)コッソリ練習していただけで、本来練習生の空中技練習は禁じられていた。

(ついに解禁だと思ったのに……)

 それを見て大沢は、やはりそうか、と苦笑する。

「禁止の理由、わかるか?」
「……若手にはまだ危険な技だから、でしょうか」
「それもあるけどね。まあ、じっくりと考えればいい。自分で、答えを見つけることが大事だ」

 大沢は簡単には教えてくれそうもない。

(いけず……でも、いいわ。私のためになると考えてくれているはず。大沢社長が言うことは信じるって決めたもの)

 ワカバの一件で、最初は崩れ始めた大沢への信頼感が、今はあの時以上になっていた。

「あと、もう一つ。今後はおれのことを社長とは呼ばないように」
「……え?どういうことですか?」

 社長を、辞めるのか?いや、そんな話は聞いたことがない。

「おれは、選手たちには社長とは呼ばないように言っている。一緒に団体を盛り上げる仲間だと考えているからだ。ミナミはプロの選手になった。だから、これからは社長とは言わないように」

 大沢はちょっと照れ臭そうに言い放った。

(そんなルール、あったかしら?そもそも、正社員の立場は変わっていない。なのに、社長って呼ばなくてもいいのかしら?でも、まあ、そういうなら……そういってくれるのなら……)

「わかりました。大沢社長……大沢……さん?」

 そう呼んでみると異常にドキドキする。
 なぜだろう。
 なんだか入社したころの新鮮な気持ちを思い出す。

「ああ、それでいい。じゃあ、よろしく頼むぞ」
「はい。大沢社……大沢、さん」

 ぎこちないけど、悪くない。

 ミナミが一礼して社長室から立ち去ろうとしたところ、もう一つと呼び止められた。

第43話 リングネーム

「ミナミのリングネームを決めた」

 唐突な大沢の宣言。

「SJWのリングネームは、みんな実名にするものだと思ってましたけど……」

 アキラ、サクラ、ツツジ、ワカバ、みんな本名だ。

「まあ、ミナミの場合は覆面ヒールデビューだからな。謎の新人という売出しをしたい」

 大沢は、やはり社長なりにいろいろ考えているようだ。

「わかりました。で、どんな名前ですか?」
「サザンだ」

 ミナミは息をのんだ。

「強そうだろ?」

 ミナミの額に冷汗が流れる。

「……ダサくないですか?」
「悪くないと思うぞ。謎の刺客、覆面ヒールの新人サザンだ」
「てか、ほぼ本名じゃないですか。全然謎の刺客になってないんですけど……」

 こんなリングネーム、ゼミの4人に一晩中笑われる将来しか想い浮かばない。

「まあ、もうこれでデビュー戦のポスターも発注したから、決定ということで」
「うそ、本当に、サザンで決定しちゃったんですか?」

 ミナミはがくっと肩を落とす。

 ん?あれ?
 デビュー戦のポスター?

「ああ。デビュー戦、決まったぞ」

 ミナミは、驚いて顔を上げた。

 マッチメイクは営業の仕事だが、新人のデビュータイミングや選手のチーム配属などの選手マネジメントは社長の役割だ。

 ミナミは、昨日プロテストに受かったばかり。
 なのに、もうデビュー戦が決まっていて、ポスターまで発注されている。

(受かるって、信じていてくれたんですね)

「10月第二週、エスフォルタアリーナ八王子の第一試合だ」

 10月第二週といえば、スポーツの日。
 クリスマス、春休み、GW、夏休み程ではないが、秋シーズン一番の大きな大会だ。しかも、慣れ親しんている地元八王子の会場。最高の環境だ。

 そこにデビュー戦をあててくれる。

「しっかり準備しろよ」
「は、はい。ありがとうございます。頑張ります」
「ちなみに対戦相手はツツジだ」
「ほ、本当ですか?」

 大沢は優しく頷いた。 

「ああ。同期だし、いつも一緒に練習しているのも知っている。安心してデビュー戦できるだろ」
「はい、ありがとうございます」

 ミナミは頭を下げた。

(やはり、よく見てくれていて、そしてこれ以上ないほどの配慮もしてくれている。嬉しいです。大沢社……大沢さん)

 最後に、大沢は一言加えた。

「ただ、相手がツツジだからって絶対に空中技は出すなよ。例え、こっそりムーンサルトプレスを練習している相手だとしてもだ」
「……は、はい……」

(なんで、バレてるのかしら……)

 ミナミは真っ赤に赤面した。

第44話 報告

「ツツジ、ツツジ」

 1階に降りると、リング脇で基礎練習をしているツツジに飛びつく。

「ミナミ?」
「デビュー決まった」
「え?マジで?」

 それを聞いて、その場にいた選手たちも近づいてくる。

「いつ?」
「10月の八王子、第一試合」
「おおー、大舞台じゃん。誰と?」
「あのね……」

 ミナミはちょっともじもじする。

「相手はツツジだって」
「あたし?マジで?」
「うん。お願いできる?」

 ツツジは、本当にうれしそうに答えた。

「もちろんだよ。ミナミの処女は私がもらうのね。こんなうれしいことはないわ」
「全くもう。優しくしてね。痛くしないでよ?」
「手加減はできないぜ、覚悟しな」

 すると、周りの選手たちもミナミを取り囲む。

「おめでとう」
「ついにデビューね」
「ツツジちゃんとだったら、いいデビュー戦になりそうね」

 ミナミはみんなに答える。

「はい、ありがとうございます。ありがとうございます」

 そして、また後でねというと、急いで階段を登る。
 実はまだ、本業の正社員として仕事中なのだ。

 事務所に入る途中、アキラとサクラにもチャットを入れる。
 すぐに返信が来た。

『良かったわね。最高の試合ができるように、頑張ってね』
『おう。ツツジが相手か。蹴散らせよ。負けたら朝練でしごき3倍だから覚悟しろ』

 ミナミは嬉しさを隠せなかった。
 こんなにも、みんなに見守ってもらい、ついにデビューができる。
 全力を尽くして、みんなに恥じない試合をできるように、頑張らなきゃ。

 そう心に誓うのだった。

第45話 マスク

 デビュー戦まで二週間。

(マスクやコスチュームはどうやって準備しようかしら?)

 支給はされない。選手は自分でデザインを決め、業者を決めて用意する。

 悩んでいると、大沢に呼び出された。

「マスク決めるぞ」

 社長室では業者がマスク写真をテーブルに並べていた。
 サクラも同席している。

「サンプルを用意してもらった。デザインを決めてくれ。あとこのまま寸法合わせもして、1週間で準備してもらうように予約をしてある。デビュー戦前にマスクをつけて練習して慣れる必要もあるからな」
「大沢さん……ありがとうございます」

 プロテストに受かって数日だ。
 やはり、受かると信じて事前予約をしてくれていたのだろう。
 ミナミは感謝し頭を下げた。

「てかさ、ださくねぇ?誰がデザインしたの?」

 サクラがズケズケと言い放つ。

「おれだけど?」
「ああ、やっぱり大沢さんか。相変わらずだな。これも、これも、これもイマイチだ」

 かなり失礼ではあるが、的を得た批評をしながら、手に取ったサンプル写真を次々に横にどけていく。
 やがて、そこそこシンプルなマスク写真を掴むと、徐にマジックで模様を描き足す。 
 それだけで新鮮さと不気味さがうまく調和する。さすが本職トップヒールだ。

「どうだ?」
「はい。ありがとうございます」

 こうして、サクラのおかげでなんとかまともなデザインが決まった。

 その数日後、ポスターが出来上がった。
 メインイベントは、アキラとワカバvsサクラとイズミ。
 いずれも初タッグ。
 まだ1年目のワカバがメイン試合に出るというのも思い切った抜擢であり、間違いなく最高のメインイベントになるだろう。

 必然的にポスターの中央にはこの四人の大きな顔写真が鎮座する。

「うわー、こんなに豪華なポスターは今までなかったわね」

 代田がしみじみと呟いた。

(本当に、清楚できれいなアキラと、キャピキャピの可愛いワカバ。めちゃくちゃ映えるわね)

 辞めたいと言っていたワカバだったが、続けてくれたおかげで最高の舞台が用意されたことをうれしく思うミナミだった。

「で、こちらが、謎の覆面サザンちゃんね」

 右下に、ツツジの写真が載っている。
 その横には、真っ黒の丸い楕円に、『謎の刺客、覆面ヒールの新人サザン』と書かれている。
 まだマスクもできていないので、ミナミの写真は載っていない。

「これから、活躍しまくって、早く真ん中に来なさいね」
「はい、頑張ります」

 ミナミは両手のこぶしを強く握って応援に応えた。

第46話 デビュー戦

「青コーナー。謎の刺客、新人サザン、入場」

 まだ第一試合だが、8割ほどの観客。
 リングサイドには、ゼミの仲間も見に来てくれている。

 拍手はまばらだが、がんばれよーと優しい声援も飛んでくる。

『お前はヒールだ、くれぐれもお辞儀して回るようなパフォーマンスはするなよ』

 サクラの言葉を受け、ふてぶてしく右腕を挙げることで観客に応える。
 その新人らしからぬ度胸に、観客も興味を示し始めた。

 そして、ツツジが入場する。
 デビューして1年半の堂々たる姿。
 コスチュームも鮮やかな水着スタイル。
 対するミナミは新人らしくSJW選手ジャージ。

 運命のゴングが鳴った。

 普段から散々スパーリングしている仲だ。
 技と技がうまくかみ合っている。

 そして、ミナミの動きがかなり良い。
 半年以上トップレスラー二人にしごかれた成果だ。
 普通の新人のデビュー戦とは全く違う次元の試合が繰り広げられる。

「なんかこれ、すごくねえか?」
「デビュー戦と思えねぇ」
「第4試合くらいのレベルじゃん?」
「マスクの下、実は新人じゃないんじゃねえの?」

 観客を惹き込んでいく二人。

 しかし、徐々に力の差が出始める。
 一緒に練習していたからと言って、1年半の実戦の差は大きい。

 持てる技を使い切り動きが鈍くなったミナミに対し、ツツジが投げ技を決めていく。

 得意の一本背負い!

 それをこらえたミナミは、そのままバックを取ってジャーマンスープレックス。
 上手い返しだったが、ツツジはカウント3を許さない。

 もう一度、ツツジの後ろに回る。

『バックに回るときは腕を確保しろ』

 ふいにサクラに言われた言葉を思い出す。

(そうだった)

 やばいと思った瞬間、ツツジがミナミの腕を取り、ついに渾身の一本背負いを食らってしまう。

「ぐわっ」

 目の前が真っ暗だ。
 体が動かない。
 天井が見える。

「……スリー」

 レフェリーの声が聞こえる。

(……負けた)

 ミナミは茫然とした。
 負けて、くやしいのか?悲しいのか?

 そのとき、ツツジがミナミを起こす。

「さすがミナミ。いいデビュー戦だったわね。ほら、観客を見てごらん」

 ミナミは、立ち上がる。
 ツツジが、健闘を讃えてミナミの右腕を高々と上げる。
 その瞬間、観客は大きな歓声を上げた。

「よくやったな」
「いい動きだったぞ」
「次も楽しみにしてるぞ」

 ミナミの胸に、安堵がこみあげてきた。

(よかった。私、しっかりとデビュー戦、できたのね)

 そして、観客に向かって深々とお辞儀をしたのだった。

第47話 初インタビュー

「え?インタビュー?」

 そんな段取りは聞いていない。
 記者は週刊WWの烏山と名乗った。動画配信用のカメラマンが二人を映す。
 ミナミとツツジは並んでカメラの前に立った。

「すばらしい試合でした。感想をお聞かせください」

 まず勝利者のツツジが質問を受ける。回答も慣れたものだ。

 サザンは才能がすごい。新人だが早いうちに最高のライバルになるだろう……そんなことを答えている。

「では、サザン選手。デビュー戦でした。手ごたえは?」
「え?え、私?……えーっと、はい、頑張りました」
「ツツジ選手との関係は?」
「同期生です」
「練習も一緒にしているんですか?」
「はい、ほぼ毎日」
「仲が良いですね。では、今後の抱負と夢をお聞かせください」

(いきなり言われても……正直に思っていることを答えないと失礼よね)

「えっと…プロレスの技と技のぶつかり合いの魅力を伝えたいです。そしていつか、ツツジとタッグを組んで世界に挑戦したいです」

 全試合が終わった後の控室。
 メインを終えたサクラが唖然としていた。

「……そんなこと言ったの?」
「はい、突然の質問だったので頭が回らなくて……」

(絶対、怒られる……)

 インタビュー後、ずっと後悔していた。
 でも、もう配信されてしまっている。

(なんで、あんなこと言っちゃったんだろう)

 ミナミは俯いた。

「ヒールのくせに、ベビーフェイスと仲良くタッグを組んで世界を狙うって?ミナミとツツジはそういう関係だったのか?」

 それを聞いて、控室のみんなが大笑い。
 ミナミは顔を真っ赤にして首を横に振った。

「違います、違います」
「リングでは結局お辞儀してたしな」
「すみません……」

 さすがにかわいそうに思ったアキラが苦笑いしながら声をかける。

「ヒールらしい受け答えができればいいけど、ミナミちゃんはそんな器用なことはできないって全員知ってますからね」
「ま、そうだな。期待もしちゃいねえしな」

 ミナミは顔を上げる。

「怒って……ないんですか?」

 サクラが笑う。

「面白かったからいいんじゃないか。SNSでも異次元感覚の覆面ヒール爆誕と反響は悪くないらしいし。大沢さんからもグッジョブだってメッセージが来てるぜ」
「ば、ばくたん!?」
「ああ。とにかく、デビュー戦お疲れ様。よく頑張ったな」
「本当に良い内容だったと思いますよ」

 サクラとアキラにそう言われて、大沢のフォローももらって、やっと、自分は頑張れたんだと実感がわいてくるミナミだった。

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