連載小説★プロレスガールがビジネスヒロイン? 第十二章 ランキング改革 <入社3年目春>
第一章&全体目次はこちらから
トップ絵はSJWトップ選手のアキラさん(^^♪お淑やかなお姉さんですが、天然ドSですw
本章のダイジェスト
対抗戦での事故をきっかけに、SJWのプロレス改革をスタートする大沢とミナミ。大沢は魅力の評価・定量化によるランキング制の概念を示す
ミナミはツツジに相談し、ゼミ仲間(特にコンサル就職者)に聞いたりしてロジカルシンキングを活用し、さらには興行に同行しアンケートを繰り返して定量評価の方法を構築する
取締役会、第一号議案で過去最高益をたたえ合う中、第二号議案でランキング制は可決される
アキラやサクラ、イズミなどの選手や記者の烏山の協力ももらい、6月に初のランキング評価委員会が実施される。ランキングをHPで公開すると、その話題は大きく広がり評判となった
本章本編
第63話 ランキング
大沢は改革に向けて、具体的な議論を始めた。
「現在のプロレスの問題点は、純粋な技と技のぶつかり合いの魅力をしっかりと評価できていないことだと思う。だから、それ以外の話題性を必要としているんだ」
ベビーフェイス対ヒール、チーム内でのポジション争い、団体対団体……このような抗争構造を作り話題を作ってマッチメイクする。
良くも悪くも、話題優先。これでは、技の魅力は二の次だ。
「評価ですか」
「そうだ」
大沢は席を立つと、ミナミの横にドカッと座った。
(あ、あわ、あわわ……ち、近い)
慌てたけど、離れるのは嫌だし、どうしたらいいかわからないまま硬直する。
正月に借りたコートの匂いがほのかに伝わってくる。
大沢は目の前にノートを広げた。
「これを見てくれ」
ミナミは我に戻る。
(あ、これを一緒に見ようという意味ね)
呼吸を整えなおす。
「えっと、ランキング制……ですか」
「うん。例えば、同じリング競技であるボクシングや総合格闘技でも採用されている」
ボクシングは、基本的には階級別にランキングを決めて、ランキング上位者がチャンピオンに挑戦できるという仕組みがある。
「本当の魅力をポイントやランキングで表現できたら面白いと思わないか?」
大沢は珍しく熱く語りだした。
ミナミはそれを微笑ましく見る。
こんな大沢を見るのは、まさに大学一年にZWWで会った時以来だ。
「いいと思います。問題は、具体的にどのようにプロレスの魅力を評価してランキングをつけるかですよね」
「その通り。プロレスは勝ち負けだけがポイントじゃない。ここが重要だ」
ボクシングや異種格闘技であれば、勝ち負けが最大のポイントだ。
観客もそれを見に来ている。
極端に言えば、秒殺でノックダウンさせたら観客は大喜びだ。
だから、極端に言えば、勝敗だけでランキングをつけても良いくらいだ。
ところが、プロレスは違う。
一方的に技を出すだけでは評価をされない。
相手の技をいかにしっかり受けられるか、いかに返すか。
そのときの巧妙な試合の運びも重要な要素だ。
それを意識しないで自分勝手な試合の流れをしてしまうと、たとえ勝っても『しょっぱい試合』と言われてしまう。
「私もそう思います。リングに入る前のしぐさや、観客の盛り上げ方なんかも観客の評価に入るものなんだと思います」
「一度、具体的に考えてみてもらえるか?」
「はい、考えてみます」
ミナミは嬉しそうに社長室を出ていった。
第64話 根掘り葉掘り
ミナミはツツジと相談中。
ボクシングが参考になるんじゃないかということで、ツツジがスマホで調査を始め、ミナミがメモを取る。
「ボクシングのランキングって、勝ち負けだけじゃないみたいよ」
「へー、ランキング評価委員会があるのね。その委員会が話し合ってランキングを決めるんだって。それをマネしちゃおうか」
「いいんじゃない。でも、評価項目とかあるんでしょ?どんなことを評価するの?」
ああでもない、こうでもないといい合いながら、ノートに考え方をまとめていく。
・試合結果
・試合の内容・流れ(しょっぱくないか)
・観客の反応
……
「うーん、抽象的だなぁ」
「この進め方であっているかもわからないわ」
「私たちだけじゃ、ここらへんが限界だと思うわよ?」
「確かに」
「じゃあ、この後どうしようか」
「ちょっと、私に任せてみてくれる?」
ミナミはちゃちゃっとチャットを送る。
相談相手として、思い当たる節があった。
一段落すると、ツツジがミナミをおちょくり始める。
「で?超いい感じじゃん?『ミナミが手伝ってくれるなら、チャレンジしたいんだ』なんて、もう脈ありまくりじゃん」
それを聞いて、動きがピタッと止まる。
「え?そ、そうかしら?」
「で?付き合ってって言ったの?」
「ちょ、言ってないわよ。何言ってんのよ。そんなんじゃないわ。ビジネス関係の話でしょ」
慌てて否定するが時すでに遅し。
ツツジがぷぷぷと吹き出しそうになっているのを見て、ミナミの顔は真っ赤に染まっていく。
「もう!からかわないでよ。そんなんなら、ツツジには相談しないわよ」
「ははは、悪かったって。ミナミ~」
「……もう」
そもそも、プロレスの魅力のランキング制について相談しに来たわけで。
そしたらこれまでの経緯を根掘り葉掘り聞きだされて。
そして、こんな話の流れになっている。
(……なんで、ぜんぶしゃべっちゃったんだろ、私……)
後悔先に立たず。
毎回のことではあるが、懲りないミナミだった。
第65話 ロジカルシンキング
数か月ごとに集まるゼミ仲間。
大体、ミナミが何か悩んで相談がてら声をかける。
すると、ミナミを弄りつつ飲む目的で飲み会が設定される。
今回もそんな感じで、のっけから弄られまくっていた。
「デビューして、まだ勝ち無し?」
「もう半年経ったんじゃないの?」
「この前話題になってた対抗戦も出なかったの?」
「そもそも、試合に出てるのか?」
相談する前に質問攻めを受けるのもいつものパターンだ。
「仕方ないでしょ。初勝利まで半年以上かかるなんて普通よ、普通」
ミナミが文句を言うと、みんな喜んでさらに茶々を入れる。
「おい、橋本。AIで一般的な期間を教えてくれよ」
「……そんなん、AI使わなくてもいいと思うけど……」
橋本はちゃちゃっとスマホを叩きAIに質問すると、すぐに回答が返ってくる。
『デビューからわずか数試合で初勝利を挙げる選手もいれば、デビューから数年経っても初勝利を挙げられない選手もいます』
「おおー、さすが本職」
「てか、数年って、そんなにかけたらミナミ、アラサーになっちゃうよ?」
「うわー……年増のルーキーレスラーなんてドン引き……」
全員同い年なのに、ひどい言い分だ。
「そんなにかからないもん。タッグでは一勝してるもん。そんなことより、少しは相談に乗ってよね」
みんな笑いすぎたのか、そろそろかわいそうと思ったのか、やっとミナミの悩みを聞き始めた。
「なるほど。ランキング制、それは面白いアプローチね」
「どう考えていけばいいか?コンサルの稲田が適任だな」
「おれか?うーん。まあ、ロジカルシンキングでいいんじゃねえ?」
「……聞いたことあるわね。授業で習ったかも」
確か、物事をどんどん細分化して考えていく方法だ。
「プロレスの魅力のポイント化によるランキングだろ?まずは、そもそも誰にとってどのような魅力が評価されるべきなのかを細分化していったらいいなじゃね?」
稲田のレクチャーが始まった。
「例えば、専門家視点と観客視点に分ける。顧客視点は、かっこよさ、強さ、面白さ、意外さとさらに細分化、みたいにね。ロジカルツリーを作っていくんだ」
「おお、わかりやすい。なるほど……ありがとう」
なんだか、初めて稲田がまともに見える。
(『そもそも』と言いながら話を混ぜ返すだけじゃないんだね……口には出せないけど)
そして、その週の週末。
珍しく興行に随行したミナミは、入場観客にアンケートを配ったり、インタビューを始めるのだった。
第66話 決算報告
ミナミは正社員として3年目となる4月を迎えた。
平日は朝練、会社員、夕錬を繰り返し、土日は試合会場に足を運んでは観客のアンケートを続けていた。
そして、大きなイベントであるGW大会が過ぎたころ、漸くアイデアがまとまったので報告を申し出ると、取締役会で議論することになった。
(メンバーは変わらないはずなのに……大げさよね)
そう思いながら取締役会に同席する。
「議題の一つ目は決算報告だ」
税理士の北野が報告に来ていた。
久しぶりに見ると、やはりなかなかかっこいい。
「売上4億9百万円。おめでとうございます、初の4億越え達成です。そして、営業利益は1千1百万円。純利益は約8百万円です」
それを聞き、大沢は満足げに頷く。
北野はちらっとミナミの方を見ると報告を続けた。
「DXとM&Aで売り上げは26%向上、利益は約2倍の伸びです。すごいですね」
ミナミはなんだか赤面する。
別に自分だけが褒められているわけではないのだが、数字で効果が見えるとやはりうれしい。
「ですが、キャッシュは2千万円減っています。現金残高は9百万円でした」
「薄氷を踏む感じだな」
大沢が口をはさむ。
「ミナミがバンバン使い込んじゃったからな。合計1億円も使っちゃったもんな」
「大沢さん。誤解を生むようなこと言わないでください。投資です。使い込んだじゃないですよ」
みんなの笑い声が会議室に広がる。
ミナミはひとりでむくれていた。
「ま、GW大会も好調だったし、資金繰りは何とかなるだろう。これ以上大型投資したいとか、誰かさんが言い出さなければな」
こうして、決算は無事承認された。
(大沢さん……もう。弄り過ぎです。ひどい……)
ミナミの気持ちなど気にもせずに次の議題に移る。
「じゃあ、次の議題。ポイント制の提案だ。ミナミ、頼むぞ」
「はい」
こちらは、安易に弄られるわけにはいかない。
ミナミは印刷してきた冊子をみんなに配った。
第67話 第二号議案
ミナミは、最初から結論をぶつけた。
「ランキング制度を提案します。ランキング評価委員会を設定し、各選手を評価し順位付け。ランクが高い選手には特別報酬と重要大会でのメイン出場権を付与します」
ボクシングの例を参照するならチャンピオンへの挑戦権、など考えたいところだが、SJWは人数も少ないのでチャンピオンベルトは作っていない。
「期間は?」
「四半期で集計し重要大会を開催。翌週からリセットします」
「評価の項目は?」
「次のページに記載しました」
(1)試合結果 30点
(2)試合内容 60点
(3)試合外貢献 10点
合計 ・・・・・100点
それぞれの項目には、さらにどのような視点で何を見ていくのか、チェックシートが細分化されていた。
「なるほど。試合内容に重点を置くということだな」
「はい。細かい評価項目は、観客へのヒアリングと、雑誌記者へのヒアリングから抽出しました」
大沢は納得している様子だ。
「この評価項目も公開しようと思います。審査がブラックボックスだと観客の皆さんに伝わらない気がしまして……」
「ああ、いいアイデアだな。で、委員会のメンバーは?」
「こちらが候補です」
・委員長 大沢社長
・副委員長 北沢営業部長
・選手代表 イズミ/アキラ/サクラ(自身が関わらない試合を担当)
・観客代表 烏山(週刊WW記者)
「このメンバーで全試合を評価するということか」
「はい」
月6興行で、1興行当たり10試合。
毎月60試合を評価することになる。
シングルとタッグが半々とするならば、評価選手数はのべ180人だ。
「はい。数が多いと思われると思いますが、選手代表のみなさんは、通常から全試合をチェックしていますのでなんとか対応できると言ってくださってます」
そして烏山も無償で引き受けてくれた。
「記者としても、評価委員会に入ることで箔が付くと喜んでくれています」
「なるほど。現金な奴だが、彼らしい」
「大沢さんと北沢さんはお忙しいと思うので、役割分担をしていただこうかと考えています」
大沢に全体監修、北沢には試合外貢献を評価してもらう案だ。
「北沢さん、行けそうですか?」
「はい。すべての試合を見るのではなく、売上や試合外活動を評価するということであれば、対応できそうです」
大沢は頷く代田を見て、決心を固めたようだ。
「ミナミ、ありがとう。まずは第一歩だ。5月から、これでやってみよう」
「はい!」
大沢がミナミに微笑む。
ミナミは大きく頷いた。
第68話 ランキング評価委員会
6月の第一回委員会。
各委員から評価結果を報告。
大沢が委員長として最終決定。
それを受けて、ミナミは公式HPに結果をアップした。
1位 アキラ
2位 サクラ
この二人はやはりツートップ。今回はアキラに分配が上がった。
(サクラさん、あのあと、まだ本調子じゃないのかしら……)
下っ端のくせに、一丁前にトップ選手を心配している。
ちなみにミナミは記念すべき初の最下位を記録した。試合出場数の少なさと勝ち数の少なさが足を引っ張った。
「烏山さんも、来てもらってありがとうな」
大沢はねぎらいの言葉をかける。
記者の烏山はちょくちょく取材に来ているからあまり違和感はないが、社外協力者だ。
「いや、むしろ呼んでもらえて光栄ですよ。ついでに、取材もさせてもらえるんでしょ?」
「仕方がないな。営業に言っておくよ」
烏山、さらに注文を出した。
「ではリクエスト。最下位のサザン選手に取材はできませんか?未だに謎に包まれる異次元覆面ヒール。独占インタビューさせてもらえたら話題性高いと思うんですよね」
「なるほど……じゃあ、直接聞いてみたら?」
大沢はさらっと言う。
すると、烏山は、いきなりミナミに顔を向けた。
(え?え?直接って……サザンの正体は誰にも明かしてないんですけど?)
「じゃあ、ミナミさん、許可をいただけますか?」
「え?わ、わ、私?なんで?」
(ば、バレてる?)
「そりゃ、まあ。朝練も取材してますからね。サザンの動きは間違いなくミナミさんでしょ」
ミナミは大きくうろたえて、周りを見る。
だが、ミナミ以外は誰も慌てていない。
むじろ、微笑ましく見守っている雰囲気だ。
(え?なんで?……みんな、バレてるって知ってたの?)
「まあ、そりゃ、プロの記者である烏山さんにはバレてるに決まってるだろ。もちろん、断ってもいいんだぞ。まあ、無料で委員をお願いしたということは考慮した方が良いかもしれないけどな」
そして笑う一同。
(私だけ、バレてないと思っていたなんて……恥ずかしすぎる)
ミナミは赤面して俯いた。
その後、いつものようにイズミがTV番組出演時に宣伝した効果も発揮され、このランキング制は大きな話題となった。
そして、その話題で盛り上がる雑誌の後ろの方で、ひっそりと「新人サザン・インタビュー」の記事が掲載されたのだった。
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