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ある冬の日  #ショートショート

ある冬の日、老婆が行方不明となった。
泣き止まない孫を背中におぶい、綿入りの半纏(はんてん)を羽織っていたそうだ。すぐに大がかりな捜索が行われたが、発見されないまま時は過ぎていった。
そして100年後の冬
今度は、買い物に出かけた若い主婦が、抱っこ紐で子供を抱いたまま行方不明となった。
 ***
「この、太陽系第3惑星の生態研究に間違いがあったというのは、本当かね?」
教授が心配そうに話しかけてきた。
彼は、外来侵略種探索研究室の責任者だ。
「そうなんです。100年前にも捕獲した、前後に2つの頭がある生物の研究報告なのですが・・・。」
「それなら私も知っている研究報告だねぇ。この星の生物は、前後に2つの頭を持ち、どちらもそれほど知能は発達しておらず、生殖能力も弱いため、我々には危害を及ぼすほどの存在ではない、との報告だったはずだが。」
「ハイ、確かにそんな内容の報告でした。当時の報告では、2つの頭のうち、前の頭は詰まりかけの血管だらけだし、後はと言うとギャーギャー泣き叫ぶだけで、攻撃性は見られない低い知能の生物である、との報告でした。」
「では、何か問題でもあるのかね?」
「実は、報告されていた頭の前後が、逆ではないかと。」
「逆だって!」
「そうなんです。今回捕獲した2つの頭を持つ生物は、泣き叫ぶだけなのは前の頭で、後ろの頭は若々しい細胞のうえ気性が荒く、生殖能力も発達しているとの報告です。」
「そうなると、今後数が増える可能性が大きいわけだね。」
「はい、進化の過程で我々に危険を及ぼす存在になる可能性が出てきました。」
「なるほど、仕方が無いねぇ。一旦、増殖を抑えるワクチンを散布しておいてくれたまえ。」

教授は部下に指示をすると、冬眠装置の中に入り、目を閉じた。
研究員は、最も広い陸地の東側部分にワクチン散布を終えると、次の星へのプログラミングを入力し起動させた。


(778文字)
てのひら小説講座の宿題(テイクアウト講座)
お題「冬」のショートショート作品(その1)です。
何十年か前に読んだ星新一先生か筒井康隆先生の作品だったと思うのだけれど、乳児を背負った老婆がUFOにさらわれるショートショートの続編的に書いてみました。

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