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ゲンロンSF創作講座 便乗小説#01「セヴンティ」 (1)
※小説家になろう、カクヨムに重複執筆
※本作後半には性的描写がありますが、著者はそれが年齢制限の対象とはならないと判断しています
1 セヴンティ 5...4...3...2...1...ゴーン、ゴーン。新年あけまして、おめでとうございます。2050年、21世紀も折り返しという一区切り。1月1日は私の誕生日だったりもして、70歳、1980年生れの、セヴンティ。ゴーン、ゴーン。私もそろそろ、おばあさ
ゲンロンSF創作講座 便乗小説#01「セヴンティ」 (2)
2 レジデンス 私が70歳で、今でも働いている、ということを、私のことを良く知らない人へと話す機会があると、えーっ! と驚かれてしまう。私の代わりに、私の状況へと怒ってくれる人もいる。どうしてこの国は、これまで苦労してきた人を……というわけだ。その度に、私は居心地の悪い思いをしてしまう。私は全然苦労なんてしていないし、それに、今も望んで働いているのだから。色んな考え方の人がいるのは分かる。けれ
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3 クラヴィスさん クラヴィスさんは、スリランカ難民の三世なのだそうだ。父方のおばあさまが日本人だそうで、肌の色こそ濃いが、顔立ちは日本人と変わらない。ぽってりと厚くふくらんだまぶたがチャーミング。ゆるやかな曲線のメガネは、整いすぎた顔が与えてしまう鋭い印象を和らげるためかけているのだそうだ。年齢は30歳だそうだけど、童顔で、大学生くらいに見える。
松濤レジデンスの中央地区に病院がある
ゲンロンSF創作講座 便乗小説#01「セヴンティ」 (4)
4 深淵を覗く 「私たちを拒む楽園(Welt)に入れないくせに、その不完全な一端でもあるインターネット文化を喜んで享受している私たちは、矛盾しているように見えるでしょうね。私たちの世代が老年になったとき、社会的経験を経たとしても、対人コミュニケーションがずっと下手なままであることに気づいたの。下手? そうではない、強い関係(ストロング・タイ)への期待値が低いだけだったのよ。私たちに必要なものは、
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5 ロスジェネの主張 その日から、私とクラヴィスさんは同志になった。セヴンティと、サーティ、二人そろって、100歳だね、と笑いあって。あの後、もっとたくさんのVRビデオを見せてもらった。こんなときは、時間がたくさんあることがありがたい。どのビデオにも、クラヴィスさんのご両親のように、日本中で苦しんできた移民の姿が描かれていた。私はそれに、本当に同情してしまい、そして自分のことが恥ずかしくもなっ
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6 植物、動物、人間 「播種率は40%を超えた。もう勝利は確定だね」
私たちは、クラヴィスさんの診療所で、老人たちのスマホから送られてくる映像を眺めていた。
私たちの使えるネットワークは、レイクタウン内に限定されているけれど、一つだけ例外がある。「植林ゲーム」と呼ばれているそのアプリは、ゲームとはいえ、現実の「播種マシン」を遠隔操作して、エネルギー還元効率の悪い老木へと遺伝子組み
ゲンロンSF創作講座 便乗小説#01「セヴンティ」 (7)
7 エピローグ チュン、チュン。チチチ。東京から離れたこの辺りでは、今でも小鳥の声を聴くことができる。毎朝、そのかわいらしいさえずりをきいて、おはよーう、と私は大声で挨拶する。高い窓から冬の弱々しい朝日が差し込み、私は膝でそれを受け止める。山から降りてくる二月の風はとても冷たくて、寝起きの悪い私がしゃっきりと目を覚ますのに役立っている。とはいえ、数分もすると身体がすっかり冷えてしまうので、お行
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