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【映画】2021年に観た「怪映画」8選 +おまけ【なにこれ】

 あけましておめでとうございます。激動の2021年も終わりに近づいております。皆様いかがお過ごしでしょうか。
 今年の映像作品の鑑賞本数はえーと、新旧あわせて130本くらいでしょうか。様々な気苦労が重なり、あと北九州ヤクザ漫画『ドンケツ』とか、大地震で途絶した無法地帯東京を舞台に人が死にまくる『バイオレンスジャック』などを読んでたせいもあり、この数にとどまりました。
 この数の中から「ベスト」を選出するというのはどうにもおこがましい。なので「ベスト」記事はごくごく簡単なものにしたいと思っています(年末更新予定)。


 しかし、



 これはやる! やってやる!!



 君は知っているか「飼い犬が盗まれた」ではじまる関東ヤクザvs東北ヤクザの血の抗争映画を!

 君は知っているか、メキシコのプロレスラーが本人役かつリングウェアでゾンビと戦うスーパーヒーロー映画を!

 君は知っているか、救命隊ががんばる国威発揚ストーリーなのに、悲惨な大事故が立て続けに起きすぎて心が折れる中国映画を!



「これは何ですか?」
「知らん!」




 私たちはまだ、映画のことを何も知らない………………


【2021年 怪映画 8選】





 はじまるよ!!






①『モータルコンバット』(2021年)


 何いッこれが「怪映画」だと! 許さん! というファンの声が聞こえてきそうですがちょっと待ってください。「面白さ」と「変なこと、変わっていること」は平気で両立します。
 世界的に有名な残虐対戦バトルゲームの実写化は、締めるところはビチッと気持ちよく締めつつ、なんかゆるいところはゆるくしておく緩急の幅の大きな怪映画。
 各種アクションやキャラクター、原作再現ぶりで勘所を押さえつつ、
「ずっと目が光ってる浅野忠信」
「スケール感に乏しい魔界」
能力に目覚めるきっかけが飯の席での口論
本気のマジで何もない虚無空間
「真田広之に見せ場を持っていかれちゃう主人公(でも見せ場より囚われた家族の方が大切だからね。えらい)」
 などの「えっ、そこはそれでいいんだ?」と思わせる隙も多く、ただそのへんの隙間が欠点ではなく愛嬌に転じていて実にチャーミング。


 リュウ・カンとクン・ラオの兄弟子コンビ、ないしサブゼロとスコーピオンの関係性にハートを撃ち抜かれて七転八倒しながら幻覚を見る人が多数現れたことも「怪」パワーの現れでありましょうか。
 ワーナーは早く東映と組んでリュウ・カンとクン・ラオの前日談を生身アクションと爆破技術を使って早く作って。今から動いて。今から。2022年の秋に公開して。




②『闇武者』(2003年)


 一言で言うと「平家の怨霊に耳を奪われた耳なし芳一が……退魔の剣士となる!」という話。はいすでに怪映画ですね。監督はVシネマ界の鬼神・小沢仁志。悪ふざけと王道を反復横飛びしており、Vシネ的なチープさと充実したアクションが渾然一体となって異様な迫力が現れている。
 退魔の剣士や魔物は時空とか理屈とかそういうのには縛られないので、開拓時代の西部で銃撃戦になったり、沖田総司の「三段突き」が文字通りの三段になってたりと、冗談が突き抜けて彼岸か魔界に接続している感覚がある。
「ついていけねぇよ……」という気持ちが気づけば「ハッ! ついていけてる!!」に変じていて、脳のどこかをいじくられているようだ。危ない映画である。




③『アングスト/不安』(1983年)


 明らかに治療が必要な感じなのに、医療刑務所や精神病院には入れられず刑務所に入り、そこから出たばかりの男。
 彼が野良犬の目で町をうろついて、郊外の家に雑に入り込み、帰ってきた家族三人を雑に殺し、死体を雑に捨てようとしたら警察に見つかる。完。ただそれだけの映画である。
 主人公について回ったり急に離れたり異常接近したりするカメラ。これがすごい。とにかくまともなカメラワーク、映像・撮影がない。他の映画なら奇をてらっているとか言われそうなのだけども、これが主人公のモノローグや雑な行動と合わさってグニョグニョになっちゃってる彼の内面の映し鏡の如くあり、悪い気にあてられてこっちの調子もおかしくなってくる。
 危険な男の心という水面に顔をつけて中を覗き込むような作品で相当にストレスフル、しかし作った側は計算ずくでやっているようには見えず、直感でやっている気配がある。その嗅覚の鋭さがまたすごい。きちっと勘定して撮れるタイプの迫力ではないだろう。幸か不幸か「撮れてしまった」といった代物だろう。映画って怖いッスね。
 雑な殺人鬼つながりでは『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』も相当にキていたのでおすすめです。けど2本続けて観ると、体によくないと思います。




④『事故物件 恐い間取り』(2020年)


 松原タニシの「ヤバい家住んでみたルポ」を原作としたホラー映画。事故物件に住むという心身を削ることでしか生き残れない芸人残酷物語としての方がおそろしく、また面白い。おばけホラーとしては一向に怖くない。
 いっそのことオバケをほぼ出さず、オカルトホラーに見せかけた芸人残酷物語として撮った方がよかったのではないか。役者陣は概ね好演しているし。
 で、ここまではいいとしてね。これね、ポスターに「実話」って書いてあるでしょう。ありますね、「実話」って。


 なのにクライマックス、霊が室内から大量出現したあげく、つよいボス的な幽霊に向かってかがり火を「フーーーッ!」ってやって霊が「オアーーーッ!!」って消えるバトルシーンがあるんですよ。
 あのね、話を膨らませるのは仕方ないにしても「フーーーッ!」「オアーーーッ!!」はどう考えても何らかの一線を越えてるでしょ。なんで「実話」ってウソつくの。謝って。亀梨くんのがんばりとかに謝って。


 


⑤『サイバーブライド』(2019年)


 直訳すると『サイバーの嫁』。ジャケットのこういうメカニカルでクールな女性は一瞬も出てこない。人間となんの変わりもない「最新型アンドロイド」が人を襲うお話です。自主制作よりも安そうな、ものすごい低予算の映画だよ。

 最新型アンドロイドなのに声は機械加工みたいだし、動きはロボコップ。ウイーン、ガシャ、ウイーン。あのな、今は21世紀や。いつの感性で作っとんねん。激安低予算にしてもなんとかできる部分ってたくさんあると思うんだ、俺。
 アンドロイドも映像も演出もグロも、とにかく全部が安い。しかしこんな作品がウェブの波に乗って字幕がついて日本でも観れるという事実には感動……いや感動しねぇわ。謝って。目を見開いて「私はアンドロイド! 不気味の谷をそこはかとなくかもし出すわ!」とがんばってた女優さんに謝って。




⑥『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』(2018年)


「また日本の配給会社がトンチキな邦題をつけやがって」と思ったでしょう。ところがどっこい原題は『The Man Who Killed Hitler and Then the Bigfoot』。原題ママ。
 どう想像してもスットコドッコイな内容しか想像できないけどこれがまさかのハードボイルドである。これは「世界を救おうとしたが結局救えなかった男が、再び立ち上がる」熱い物語なのだ。つまり人々を守るためにヒトラーを暗殺した男が、老いて再び、人々を守るためにビッグフットを殺すことになるという……変だな、何故かおかしみが出てしまうな……
 主演のサム・エリオットがとにかく素晴らしく、芯の強い老いた「狩人」を演じきっている。彼なしでは単なる変な映画となったであろう。容姿も佇まいもいいんですけど、声がいいんですね。依頼されるシーンでの一人語りの説得力が抜群です。
 若干チョケた部分もあるけど(ハーケンクロイツ腕時計)終始真面目で、見終わった後は清々しさを感じる怪映画でありました。入り口はアホっぽくて中身は太い、ってのはこれからのトレンドになるかもしれませんね。
 



⑦『バクラウ 地図から消された村』(2019年)


 山中にひっそりとある、中くらいの村。長老だったおばあさんが亡くなったりイヤな市長が来たりケンカがあったり色んなことがあるけれど、みんな平和に暮らしているここに忍び寄る不審な影、流される血、バクラウ村歴史資料館……。この村は一体……何なのか……?
 よく見ると左上にUFOが飛んでいるこのポスターからしてヘンテコリンな怪映画を期待して観る向きもあるだろう。序盤のゆるついた南米の山奥の村の描写、説明をろくにしてくれない展開、村人を追うちっこいUFOなどの出現にその期待は高まっていく。が、しかし…………!
 怪しい奴らの謀略が動き、暴力と怒りが高まるにつれて徐々に明らかになる村の背景、集まり来る危険な元・村民たち、そして明かされる真実。これは怪映画などではないのだ! 人間の尊厳と歴史を語っているのだ! いやまぁ変な映画だけど!!
 半笑いで観ていると「おいテメー舐めてンじゃねぇぞ?」とヤンキー顔で関節技をキメられる。おそろしい。映画とはこれほどまでにおそろしく自由だ。『ヒトラーを~』に近いテイストの、強い真面目映画だ。ちなみにオバマ元大統領も「2020年に観て面白かった映画」の一本に選んでいる。なんで。
 



⑧『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021年)


 ジェームズ・ワン。

 多数の模造品やマネッコを生んだデスゲーム的スリラー『SAW ソウ』で世に出て、新古典派とも呼ぶべきホラー『死霊館』『インシディアス』で地位を確固たるものとし、さらには『ワイルド・スピード SKY MISSION』をシリーズ最高傑作にし、DCヒーロー映画『アクアマン』を爆破と海産物の物量で仕上げきった監督であり、また無数のプロデュース業でも知られる。まだ44歳ながらもそのハズレのなさ、仕事ぶりは大御所の貫禄すらある。
 そんな彼の新作がね、これですよ。これ


 夫からのDVに苦しむ主人公、おそろしい夢を見たその夜からはじまる戦慄の物語! 程度のあらすじだけを知って、あとは黙って観てください。
 いや、ネタバレ厳禁とかそういうんじゃないんッスよ。ホラー映画が好きだったり多少カンのいい人なら冒頭5分で「あぁアレかな」「コレ系のネタか」と気づくんですよ。
 っていうかこういう話ね、少女向けホラー漫画で50本くらい描かれてますよ。『ホラーM』『ハロウィン』『サスペリア』、ひばり書房とかでもあったはずですよこういうの。
 とこのように書いていると文句をつけているように見えるかもしれないがそうではない。冒頭には若干「そういう先例たち」への目配せがあるけれども、ジェームズ・ワンはこれをまるで今さっき思いついたかのような顔つきで撮る。ぬるさ、内輪ウケ、あるあるネタ、パロディ、そのようなものは一切ない。
 そんな妥協なき姿勢に、今まで培ってきた撮影スキルや演出技術、ド派手なアクションなどが加わってより強固となり、「そういう先例たち」の向こう側へと突き抜けていき映画は解放感すら放ちながら疾走していく。
 でも画面上で起きているのは相当にハチャメチャなことなので、映画館の座席にいた私の脳内には

「なにーっ!? それはそうとジェームズ・ワンはアホか!?」
「うわーっ! それはさておきジェームズ・ワンは何を考えてるんだ!?」
「大変なことになったーっ! それはともかくジェームズ・ワンはどういうつもりだァーッ!?」


 などの興奮と困惑が猛烈な勢いで飛び交うことになった。
 古臭いネタかもしれないが、それをおどけることなく本気の全力で撮るとこういう作品が出来上がるのだ。超すごい。地位を獲得したこの年齢になって、出世作より明らかに頭の悪い作品を撮れる度胸がすごい。
 しかし映画なんてのはそもそも、どんな内容であってもある種の「バカ」しか撮らないものではなかったか? そう、「映画バカ」しか……。これはジェームズ・ワンがひとりの「映画バカ」として撮り上げた、感動的な作品なのかもしれない……違うかもしれない…………





 今年はこれらの他にも、


死にかけていたヤヤン・ルヒアンが元気いっぱいに暴れ殺す、執念で作り上げた「三部作完投」映画『スカイライン 逆襲』(監督キャストスタッフの皆さんマジでお疲れ様でした)

・無口に過ぎるニコラス・ケイジが悪霊のとりついたファンシーロボットのいる呪いのお店の掃除をしているとどんどん人が死ぬ『ウィリーズ・ワンダーランド』

・「原発崩壊は巨大生物の仕業だ!」「ゴジラが地球を救うのよ!」から継承された「巨大企業の陰謀! 水道水には毒!」とか言う陰謀論者の危ないがんばり。それはそれとしてゴジラとコングが殴り合う『ゴジラvsコング』

・近未来の日本で働きたくないロックバンドと労働者たちがイライラを募らせて最終的には大暴動ですべてがワヤになる暴力えぇじゃないか映画『爆裂都市』


 などなどがあった。『キャットウーマン』と『樹海村』の話はよしておきましょう。アッでもそれぞれ、ハル・ベリーと「転落死」はよかったですよ。ウン。どんな映画でも一ヶ所「オッ!」と思う瞬間があればオーケーですよ。



 そろそろ本当に疲れてきちゃっているので、感染症とか不景気とか俺の仕事疲れとかそういう疲労の原因を、今年観た怪映画たちが吸いとってどこかの異次元に持っていってくれることを期待している。代わりに8億円くらい置いていってくれるとなおありがたい。


「変な映画を観てしまったな……」という混乱と「いい映画を観たなぁ……」という感激は、方向性こそ違えども観た者の心を救ってくれるはずである。少なくももそれを観ている間は他の嫌なことを忘れていられるはずだからだ。まぁ程度というモノはあるけど……
 来年も心や体を壊さないようにしつつ、面白い映画や怪映画が観たいものです。皆さんも健康に気をつけて。お達者で。まぁ怪映画については程度というモノはあるけど……








●おわり●



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