動物から考える日本の暴力構造②【前半】 日本のアニマルウェルフェア各論1——アップデートしようとしない国 【ゲスト:アニマルライツセンター】
2023年下半期からはじめたシリーズ「動物問題連続座談会」。第2回目は、実際に日本の動物たちの現状を大きく変えてきたNPO法人アニマルライツセンターより、代表の岡田千尋さん・スタッフの鈴木萌さんをゲストにお呼びし、日本における動物の扱いにはどういった問題があるのか、また、それらがハラスメント運動・野宿者支援・フェミニズムなどとどういった共通点や差異があるかを比較しながら、日本の暴力の構造的な問題にまで踏み込んでお話ししました。
なんで日本はいまだにバタリーケージが主流なの?——農水省の恥ずかしい屁理屈
——(司会:深沢) 畜産動物のアニマルウェルフェアの問題を具体的にお聞きしていきます。たとえば、採卵鶏のバタリーケージは、世界的には禁止の流れになっていますが、日本ではいまだに使用率が90%超えです。こんなに多い理由というのはなんなんでしょう?
岡田 なぜここまで多くなってしまったかのかというと、正直ここまでか…という絶望的な気持ちなんですけど、わたしたち今年の夏に調査を終えたんですが、平飼いで飼育されている鶏は1.11%しかいない、つまり98.9%がバタリーケージ、あるいはケージの中に閉じ込められている状態です。この数字って世界最低レベルなんですよ。ちょっと他でそんな数字聞いたことがないので、なんでこんなになっちゃったんだろう?というのは我々としても謎です。
ただ、変わっていかない理由というのはある程度わかっていて、それは政府も変えようとしていないから。新しい技術をちゃんと取り入れようとしてないから。このあたりの保守的な姿勢にありますね。
——最近だと、「バタリーケージでもウェルフェアは実現できる」と言う人もいますよね。
岡田 農林水産省の答弁ですね。「5つの自由」のうちの、苦痛や疾病からの自由が、バタリーケージでは優れていると発言するのが農林水産省の最近の言い分でした。それは何を指しているかというと、鶏は社会構造を作るので、平飼いの場合は弱い鶏がいじめられたりする。そういったことがバタリーケージだとないと言ったり、あと、「ケージだと糞が下に落ちるから衛生面が優れている」と言ったりしています。
でも、これは事実と全然違っていて、ケージ飼育だったとしてもつつき合いはしているし、隣の鶏とケージ越しには隣接しているわけですから、隣のケージに入っている鶏をつつき殺しているところもわたしたちは見たことがあります。なので、ケージの中だったら争いが起きないかと言うと、決してそうではないですね。
あと採卵鶏でいうと——これは平飼いも同じですが——だいたいの鶏が嘴の先端を切られているわけです(ビークトリミング/デビーク)。それは「つつき合いをしないように」ということが目的なので、ケージだろうとケージフリーだろうと、つつき合いすることを前提として飼育していることになるので、「苦痛や疾病からの自由」が守られるといったことは決してあり得ない状況にあります。
生田 僕、あの意見を聞いて、屁理屈だとしか思えなかったんです。要するに、動けない奴隷状態にしたらあんまり喧嘩しなくなるからいいじゃないか、という話で。
岡田 そうなんですよ。「拘束してるから動けないでしょ?」と言ってるということでしかないんですね。
生田 それを全国民というか、世界に発信するのはすごい度胸だな、と思いました。
岡田 国際機関である世界動物保健機関(WOAH)も、5つの自由というのは基本的に5つの自由が全部揃ったときに高いアニマルウェルフェアが達成されますと書いているんです。なので、「このなかの3番目だけちょっと達成されます」という言い方自体が、すごく恥ずかしい解釈の仕方で、それを世界に向けて発信するのは恥ですね。
詰め込めるだけ詰め込まれるブロイラー——「ちょっとゴミが増えただけ」という感覚
——日本はお肉用のブロイラーの飼育密度も異様に高いですよね。これも理由があったりするんでしょうか?
岡田 これは明確な理由があります。法律がないからですね。韓国にも最低面積を規定する法律がちゃんとありますし、タイにもあります。けれども、日本には法律がないので、詰め込めるだけ詰め込んでしまえ、という状態なっています。気温や湿度が一気に上がる六月頃は、本当にバタバタと死んでいく。死ぬことを前提として詰め込んでいるので、ひよこを納入する業者が「おまけ」みたいな感じで羽数を追加してくることもあるといいます。そうすると飼育密度がより高くなるわけなので、余計なことすんなよ、って感じなんですけど。こんなことが起こってしまうのは、最低面積の規定について、法律として強制力のあるものがまったくないからですね。
——あと、前回話にのぼったように、生きたまま茹でられる鳥(放血不良)が増え続けているというのがすごく不思議なんですが、これってアメリカでの放血不良の割合と比べても異常ですよね。この理由は何が考えられますか?
岡田 屠畜するときの精度がとにかく低い、それにつきます。まず、スタニング(意識を失わせる)という工程を挟んでいないので、失敗する可能性が高い。かつ、失敗したものをきちんとやりなおしたり取り除いたりしていない。要するに、何も気にしていない状態が放血不良を発生させてしまっています。
アメリカだと、10数年前から食鳥処理場の失敗をなくすことを目標にした改善策がとられるようになっていると聞いています。それが功を奏し、放血不良数はどんどん減ってきて、2022年には3万羽となっています。日本は55万羽。アメリカの方が10倍多く鶏を処理しているにもかかわらずです。
——こういうふうに生きたまま茹でられた鶏は廃棄処分になるわけだから、失敗をなくさないと自分たち(生産者)にとってもデメリットだと思うんですけど、なんで改善しないんですかね?
岡田 わたしたちからすると一羽一羽が生きた動物だけど、彼らは「ちょっとゴミが増えた」程度で考えている可能性が高いと思います。そうじゃなかったらとんでもないことですよね。生きたまま茹で殺すと言うのは。その一羽一羽が感じる苦痛をグラフにしたらものすごいことになっていくわけですけど、そういったことを考えていないので、ちょっとしたロスと考えているんだと思います。
生田 たとえば、奴隷貿易でアフリカの人たちをたくさん船に詰め込んで、多くの人が死んでたのと似てますね。
岡田 その通りだと思います。大量にやっているから一部の犠牲が気にならないということですね。
栗田 それにしても、他の国は鶏を生きたまま茹でる方法にデメリットがあるということに気づいて変えようとしていると思うんですけど、日本はウェルフェアからは遠い状況のまま従来の方法をやり続けるというのは、すごく合理性に欠けている。官僚がずっとFAX使いつづけてるみたいなことを想定させるような、日本にはそういう頭の固い部分があるような気がして・・。これって、もう尊厳以下の話をしていると思うんですけど、尊厳じゃなく、合理性という点ですら劣ってると思うんですが、そこら辺はどう考えられますか?
岡田 おっしゃることはよくわかります。完全に思考停止してしまっているので、改善しようという気持ちがまず感じられないですよね。実際悪化しているわけですから。そのときに、世界だったら、アニマルウェルフェアの問題、要するに不要な苦痛は与えてはいけないんだという前提ができてきているので、より努力をするというモチベーションがあるし、そうしなくてはならないというプレッシャーもあるわけなんですけど、こういった力がかかってきていないし、オーナーも含めて思考停止してしまっているという状態なんだと思います。
わたしたちは「アニマルウェルフェアアワード」というのをやっていて、今年は三和食鶏という食鳥処理場さんにこのアワードを差し上げたんですけれども、そこは改善をしてくれたんです。日本では改善が見られない中で、真摯に受け止めて改善してくれた。そこは、オーナーが「これはなんとかしなきゃいけない」とリーダーシップがあったのと、社員みんなで考えた、とおっしゃっていました。そういう姿勢を見せれば改善できるはずですが、そういったことをできるような会社が、養鶏というところに関しては非常に少ないんだと思います。
お母さん豚の妊娠ストール反対運動——まわりを見ていない農家たち
——豚の問題になると、2021年に日本ハムが「2030年までに妊娠ストールをなくす」と宣言して業界に激震が走ったと思うのですが、日本ハムがこの宣言をするに至った流れはあったんですか?
岡田 まず、わたしたちは妊娠ストールの運動を2013年くらいからはじめて(市民啓発は2010年くらいから)署名などをしていました。とはいえ、日本ハムさんはずっと対話してくださらなかったんです。いろんな方から圧力をかけていただいたりしていたんですけど、はじめて対話が実現したのが2019年頃で、そこからは我々が提案したことに対してはかなり真剣に受け止めて検討してくださる流れに入っていきました。
かつ、養豚と養鶏と大きな違いは、日本ハムも含めてみなさん上場している企業であるということなんですね。だから、機関投資家や外国からのプレッシャー、社会的責任といったものがかかってきている。市民運動からもプレッシャーがあり、かつ、そういう投資というお金の流れからもプレッシャーがあって、その両面があったことでこの決断が出ていると分析しています。
栗田 たしかに、わたしもこのあいだ養鶏のことをにわかに調べ始めてびっくりしたのが、日本の養鶏って、兼業農家の人が小規模で養鶏をしていたという歴史が戦後長くあって、1990年から突然大規模養鶏場が増え出したらしいんですよ(*https://note.com/dontoverlook_ha/n/nbd88cc2565b6)。養豚との歴史の違いというか、上場企業であるかないかの差は、養鶏の中心が小規模な農家だったという歴史も関わっているのかなという印象を受けました。
岡田 そうですね。さっき話した、日本だけ鶏の意識を失わせないというところに関しては、農家の方に「なんでそうなっちゃったんですか?」と聞いてみると、「施設を建てたときにそんなこと考えてなかったから」という非常に単純な答えが返ってくるんですね。そもそも世界から情報を得る手段がないというレベルだったと思うので、海外に向けたグローバルな視点が欠けていたんだろうなと思います。
栗田 で、大規模になっても、思考停止というか、学ぶことはできずに今に至って・・・
岡田 周りを見ていない気がするんですよね。たとえば、日本ハムも養鶏をやっていて、ブロイラーを扱っているんですけども、そこはスタニング(気絶処理)をしてるんです。でも逆に言うと、スタニングしてる側からすれば、普通は「スタニングしなかったらどうなっちゃうの?」と感じるはずですよね。自分たちは自分たちのやり方——グローバルスタンダードでやっているけど、お隣を知らないというか、周りは見ていない。市民団体から聞いて、「え、お宅(スタニングを)やってないの!?」と知るようなケースが、畜産では結構あると思います。
特に、酪農ではそれをよく感じます。隣の農家がどういう飼育の仕方をしてるか知らないんですよね。繋ぎ飼育をしている人は、ずっと繋ぎ飼育をし続けますし、繋ぎ飼育をしたことない人は「何それ? そんな飼育の仕方あるわけないじゃん」と我々に言ってきたりする。そういう「我が道」をひたすら、親子代々後継している感じです。
栗田 情報交換してより良いものにアップデートするという発想はあんまりないんですね。
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*写真はすべてアニマルライツセンターより
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