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動物から考える日本の暴力構造③前半 日本が遅れている理由もろもろ 【ゲスト:アニマルライツセンター】


2023年下半期からはじめたシリーズ「動物問題連続座談会」。第2回目は、実際に日本の動物たちの現状を大きく変えてきたNPO法人アニマルライツセンターより、代表の岡田千尋さん・スタッフの鈴木萌さんをゲストにお呼びし、日本における動物の扱いにはどういった問題があるのか、また、それらがハラスメント運動・野宿者支援・フェミニズムなどとどういった共通点や差異があるかを比較しながら、日本の暴力の構造的な問題にまで踏み込んでお話ししました。

*参加者(敬称略)
【ゲスト:NPO法人アニマルライツセンター】

岡田千尋・・・アニマルライツセンター代表理事・日本エシカル推進協議会副会長。2001年からアニマルライツセンターで調査、戦略立案などを担い、2003年から代表理事を務める。主に畜産動物のアニマルウェルフェア向上や動物性の食品や動物性の衣類素材の削減、ヴィーガンやエシカル消費の普及に取り組んでいる。
鈴木萌・・・アニマルライツセンターのスタッフ。企業交渉・キャンペーンを担当。
【レギュラーメンバー】
司会:深沢レナ(大学のハラスメントを看過しない会代表、詩人、ヴィーガン)
関優花(大学のハラスメントを看過しない会副代表、Be With Ayano Anzai代表、美術家、ノン・ヴィーガン)
生田武志(野宿者ネットワーク代表、文芸評論家、フレキシタリアン)
栗田隆子(フェミニスト、文筆家、「働く女性の全国センター」元代表、ノン・ヴィーガン)


透明性のない意見交換会


——前回の座談会で、日本でもヴィーガンについては認知度もあがってきて、メディアでも取り扱われる機会が増えてきているけど、ウェルフェアはテレビではまだなかなか聞かない、ということを話しました。ウェルフェアの認知度はSNSを主に利用する若い層の方が多いんですよね。日本でなかなかウェルフェアが広まらないことの理由はどうお考えですか?

岡田 ウェルフェアは理解が難しいからでしょうね。さっき言ったとおり、日本人は「殺す」という工程が入る畜産というものを軽視しがちだし、見て見ぬふりしているので、それを改善するという考え方がまず根付いていなかったり、動物を飼育して利用する上では倫理的責任があるという基本的な考え方が浸透していないんだと思います。

——一応、農林水産省も今年の6月に「アニマルウェルフェアに関する意見交換会」をやっていますけど、これは意義があったんでしょうか?

岡田 まず、これが出てきた経緯というのが、アキタフーズの会長のアキタさんが、「OIE(※今はWOAH:国際獣疫事務局)のレベルを下げてくれ」と要望をして、元農林水産大臣に賄賂を渡したということがはじけて一気に有罪判決を受けるにいたったところからはじまっているわけですね。農林水産省自体が接待を受けるといったことがあったから、もっと透明性高めるためにはじまったのがこの意見交換会なんです。なので、農林水産省が汚職事件をなんとか鎮静させるために行われた、とも言えるわけです。

 かつ、透明性を高めるために行われていたはずの意見交換会が、当初は公開で行われる予定だったのに、非公開で行われている。中で誰が何を言ったかということが基本的にわからない。概要は発表されますけど、具体的に「この会社のこの人がこれを言ったんだな」「この学者がこれを言ったんだな」ということがわからないので、無責任な発言が多々起きているのではないか——というか自分の発言に責任を持たなくていいわけですから嘘でもなんでも言えますよね。なので、この意見交換会が本当に意味があったかというと、実際にはたいして意味はないだろうと思います。しかも、ここに参加している企業からすると、「自分たちは意見交換会にも参加していて、アニマルウェルフェアに貢献している」という言い訳まで立っちゃっている状態なので、正直、何やってくれてんだよ、という感じです。

栗田 この意見交換会の委員名簿(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare_iken-56.pdfを見ると、ケンタッキー・フライドチキンの人とか、マクドナルド、日本ハムもいるけど、そもそもどういう基準でこの人たちが選ばれているのかもよくわからないじゃないですか。こういうのって労働関係の審議会にも通じる。どういう基準で委員が選ばれて、何の権利を代表しているのかも全然わからない。動物の権利を擁護する団体は委員名簿この中にはほとんどいなくて・・・

岡田 動物福祉協会がいると思うんですけど、もともとはそこに消費者団体が二つ入ってたんですね。彼らが非公開であることに異議を申し立てて抜けているんです。残念ながら、彼らが抜けたから余計に透明性はなくなりました。わたしたちも要望する先がなくなっちゃったわけです。その時点でこの審議会は価値をなくしたかな、とわたしたちは思います。



強制力のない法やガイドライン——「努力義務」ってもうやめたら?


——企業に問い合わせると、「農水省の指針に沿ってやっています」という回答が返ってくることもありますけど、この指針はアニマルライツセンターからするとどうでしょう?

岡田 今年の6月にアニマルウェルフェアに関する指針が公表されて、7月に正式にリリースされました。去年の6月くらいに締め切られたパブリックコメントがあったんですけど、パブコメに出された案では、WHOAの基準の重要な部分がかなり漏れていたんです。でも我々も執拗に指摘したので、その部分が全部入ってきて、今は誤魔化しようがなくWHOAの基準に沿っています。

 これまでは一般社団法人畜産技術協会というところの「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」を国も推奨している立場だったんです。これも「OIEに沿ってます」と言っていたけど、全然沿っておらず、めちゃくちゃゆるくなってたんです。なので、そこからすると農水省の指針は一歩ステップアップしたと思います。

 ただ、基本的にWOAHの基準は182カ国が同意して作っているものなので最低レベルの基準であると思って欲しいです。このレベルだと、企業がそれに沿ったとしても、国際的に評価されたり、消費者の理解を得るということはないです。みんなが「これぐらいはやってるだろ」と思っている程度だと思ってください。しかも実際には、強制力がないから全然守れてないんですよ。法律じゃないので。

——たしかに、「指針に沿ってやっています」といっている企業でも、妊娠ストールを使っていたり、具体的に質問すると答えてくれなくなることがほとんどでした。話を伺ってると、明確な基準がない、規制がない、拘束力がない、といったことが日本によくある問題な気がしますね。

岡田 やっぱり数値的な規制とかがないと、いかようにでも解釈してしまうし、罰則がなければ誰もやらないんですよね。

——愛護法でも「みだりに」という言葉が使われていて、意味があいまいだったりしますよね。

岡田 そうですね。「みだり」というものがいったいなんなのかと解釈するところからはじまるし、今の罰則を見ると、給餌給水をやめただけでは罰則の規定にあてはまらなくて、衰弱したり死んだりしないと罰せられないわけですね。そういう構造も本当は直していかなくてはいけないと思います。

【動物愛護法における動物殺傷罪・動物虐待罪の罰則規定】
第六章 罰則
第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
 愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。(下線引用者)

・・・この「みだりに」には具体的・明確な基準はなく、「社会通念としての一般人の健全な常識により判別」ということになっている。そのため、闘牛・闘犬は「みだりに殺す・傷つける」に該当しないとされてしまったり、動物を乱暴に扱うことや苦痛の中で飼育を継続することが一般的になってしまっている日本の畜産業で起きる虐待は「みだり」に該当しないとされてしまっており、個人が行えば動物虐待は罰則の対象となるような虐待でも、畜産のように被害者数が多い場合には容認されるという矛盾が生じている。

栗田 労働法でも、「女性の半数を雇うのは努力義務」とか言っても、だいたい叶わない。もう作らなきゃいいんじゃないかと言いたくなるくらい、努力義務というのはやっかいな・・・。

岡田 そうですね。それでいて政府は「責任を果たしました」みたいな顔をしてるわけですからやっかいですよね。

栗田 「法律つくったんだ」とか「規約をつくったんだ」とか言ってやった気になってしまう。

――大学のハラスメントの方も本当にそうですね。

栗田 ガイドライン作った、とかね。

——そうそう。さっきの農水省の意見交換会も同じだな。わたしも大学の弁護士から、ハラスメントの事件が起こったあとに「研修やりました」と自慢げに語られて、裁判中に「資料を見せてあげます」みたいなこと言われたんですけど、超基本的なことしか書いてないのに、それを極秘資料かのように見せられて。「え、何、わたしこれにお礼言うの?」みたいな(笑)。全部公開しろよ、っていう。


アニマルライツセンターは環境省に対して、「みだり」の基準をを明確化するよう提案している。https://sippo.asahi.com/article/14454308



改めて日本やべぇ・・・——19世紀イギリスとの類似点


生田 お話を伺っていると、よく工場畜産・工業畜産といいますけど、19世紀のイギリスの資本主義で、子どもや女性の労働者が工場労働で悲惨な状態にあったけど、それに似てる感じがあるんですね。

 もちろんこれは19世紀の話だけではなくて、日本でも外国人労働者の技能実習生の問題などが起こっていますね。この問題にとりくんでいる鳥井一平さんを招いて講演会をしたことがあるんですが、非常に深刻な人権問題を起こしている工場主・中小企業の社長さんたちは、会ってみると気のいい地元の親方みたいな人が多いっていうんです。で、なんでそんな人権侵害を起こすかというと、日本の技能実習制度では、雇用主を変えることができないし、苦情を言うと、就労ビザを奪われ強制送還さえされかねない。それで、異常な長時間労働やパワハラ、セクハラ、低賃金が許されることになるという、「普通の人」を悪魔に変えてしまう恐ろしい制度になっている、と。

 それは19世紀のイギリスも同じだったと思うんです。ただ、イギリスでは、労働運動や法整備が進んで徐々に労働者の環境が良くなってきたけれど、日本の家畜動物はその状態のままな気がするんです。アメリカやヨーロッパの場合は、工場畜産がはじまったとほとんど同時にカウンター運動がはじまって、市民運動も広がって、法整備も10年遅れくらいではじまったんですが、日本はそれに対してまったく追いついてないと思うんです。欧米で言うと1960年くらいで止まっちゃって、動物たちに莫大な苦しみを与えている。それはなんとかしないといけないと改めて思いました。

 化粧品では資生堂、食品でいうとキッコーマンなどでは、消費者運動が効果的な力を持って変わってきたんですけど、畜産については消費者運動がまったく起こらないのが大きな問題だと思います。やはりアニマルウェルフェアの問題を多くの市民に知らせていって、少しずつ消費者運動を広げていくということと、法整備を進めていくということをやらないと、日本が恥ずかしい国である状態がこれからも続くんじゃないかという危機感を改めて感じました。

岡田 ありがとうございます。企業はもっとその危機感をもってほしいなと日々思っているところです。

 児童労働の問題を考えると、海外ではイギリスもアメリカも、児童虐待防止法よりも動物虐待防止法の方が先にできてきていたりするんですね。家庭内暴力を受けている女の子を救い出すために動物虐待防止法が使われたということもあったりするくらい、動物の方が進んでいた時期もあるんです。意外と動物の問題の方が昔から人々の心を動かしてきた面があるので、このあたりがうまく回っていけば、人間を守る法律よりももっとリードしていける分野でも本当はあるのかな、と思っています。一刻も早く世界に追いつき、追い越してほしいですね。

生田 ほんとにそうですね。先ほどの話にもあったように、特にヨーロッパの場合は、小規模な形で畜産をやってきて、自分たちが大事に育てて、ある程度の覚悟をもって屠畜するということが延々とあったけど、日本では肉食禁止例などもあって畜産をする文化がなかった。ヨーロッパでは、自分たちの生活に根付いた畜産が大規模になって工場畜産になったとイメージがあるんですけど、日本の場合、純粋に何もないところにいきなり工場畜産が入ってしまったので、自分の生活とまったく無関係だと思ってるんです。「欧米と違って日本では人間と動物は距離が近いんだ」と言われたりしますが、でも逆に動物たちの福祉についてはほとんど何も考えず、畜産の実態を改善する方向にまったく進んでいかない。さきほど「日本人は畜産に向いてない」という言葉がありましたが、悪いほう悪いほうに行っちゃってる気がするんですね。そこで活動するのは本当に大変だと思うんですけど、なんとかこれを逆転していかなければならないんだなと思います。

岡田 がんばりますっ(笑)。ただ、日本にも欧米より進んでいるところはあって、それは食肉の消費量ですね。消費量は欧米がとにかく多い。日本もどんどん多くなっちゃってますけど、それでも欧米ほど多く食べるわけじゃないですし、日本食の特徴からいうと、そこまで増えていくことはないだろうと思うので、このあたりの特性はきちんと利用した上で、日本独自の運動の形というものを見つけていかないといけないなと思っています。それでなんとか海外を追い越して行きたいですね。



悪いものの方が価格が安いという不思議


栗田 日本だけじゃないと思うんですけど、フェアトレードもアニマルウェルフェアも、もっといえば生協運動も、中流階級の人たちが担ってきたという部分があったんじゃないかという気がしていて、昔は「活動専業主婦」という言葉があったくらいで、消費者運動は専業主婦が担ってた部分もある。それが日本もどんどん貧乏になってきていて、消費者運動にコミットする層も薄くなってきているなかで、まず、アニマルライツセンターがやってらっしゃるように、企業に訴えて企業が作るものを変えていく、ということが確実だと思う一方で、経済的に豊かじゃない人ほどジャンクフードを買わざるを得ないというか、「平飼いの卵とか買えないよ」とか「安い肉しか買えないよ」という層がやっぱり一定数いるということがわたしはどうしてもひっかかりがある。特にわたしは労働のこととか、女性の賃金が低いといった格差のことをずっとやってたので、そういう貧しい人が、アニマルウェルフェアも何もないようなものを食べさせられる、ということを変えていきたいな、というのはあります。

 たしかにさっき岡田さんがおっしゃったみたいに、日本は欧米ほど肉の消費量が高くないというのは重要なことなので、それでさらにいいものを手に入れられるような経済力が必要。アニマルウェルフェアをやっていて、そんなに安いものができるというのがむしろおかしい。それこそ、昔は卵が「価格の優等生」みたいなことを言われていた、それ自身がとてもおかしかったことだったことを考えると、ちゃんとした額をつけて、そのちゃんとした額を買えるような消費者の状況にしていくという、その両輪がうまくなりたっていくことを目指したいと思いました。

岡田 ありがとうございます。価格の問題は重要なところでして、この構造を変えなければいけないと思います。特に卵と牛乳が異常な状態になっているわけですけれども、卵で言ったら「変動価格」といって、相場価格なわけですよね。もともとは生産者を守るつもりで、相場価格にしたんだと思うんですけど、結果的にはとにかく安くなってしまって、今となっては生産者を苦しめる構造になってしまっています。これは牛乳も同じで、生産者が頑張っている価値分がついてくるのではなく、中間にいる指定生乳生産者団体というところに全部牛乳が一回集まってきて、そこが価格をつけて売っているという状態になってしまっています。

 なので、価格の問題としては、本当はシステムを変える、むしろ法律を変える、ということをしていかなきゃいけない状態に陥ってしまっていると思います。栗田さんがおっしゃる通り、本来だったら苦しい人であればあるほど良いものを食べてほしいわけですよね。そうじゃないとずっとループしてしまいますので。特に、子どもにはいいものを食べさせるとか、オーガニックの給食を提供するのと同じように、アニマルウェルフェアの高いものを提供していくということが必要だと思います。そういったことは、国の方針として決めてもいいくらいのことだと思うし、そこに補助を出していくといったことも考えていかなくてはいけないと思います。

 あともう一つ、悪いものが価格が安いというのが逆転しなきゃいけない。悪いものこそ環境コスト・人件コスト・労働コスト・健康コストなど、余計なコストがかかっているわけですよね。そういったコストも上乗せした価格づけができるように変えていってほしい。そうすると自ずと、エシカルな商品、アニマルウェルフェアに配慮した商品、ヴィーガンの商品などのほうが価格が安くなって、そっちを買う人が増える良いループに入っていく。非常に難しいことなんですけれども、それくらいしないとこの社会構造は変わらないだろうと思います。

生田 栗田さんの話で思い出したんですけど、昔、マクドナルドが結構安くて、僕、学生の頃、こんなに安いからマクドナルドは学生の味方じゃないかと思ってたんですよ。でも、考えてみると、動物虐待とか環境破壊の上に成り立っているわけですよね。最近、僕はよく玄米を食べるんですが、玄米、味噌汁、野菜を食べるほうが、マクドナルドよりも安いし栄養面でもはるかにいいんですよね。そういう意味では、食生活を改善して、なおかつ安いものも十分あるので、そういった工夫はやっていけるんじゃないかなと思います。

岡田 それでかつ、若い人たちの欲求も満たしていくことが必要なので、代替肉や植物性のお肉も加わって、いいものが安く作られていくことが必要かなと思います。海外だと代替肉を普通のお肉よりも安くするんだということをミッションとしている企業もあるんですよね。培養肉や代替肉ももっと価格を下げないと、結局は選んで買ってもらえないから、それを社会課題として取り組んでいる企業や団体もあるので、価格というのも重要なパーツだと思います。意識高い人だけが良いものを買う社会じゃダメですよね。

栗田 それはやっぱり厳しいなと思いますね。

岡田 「お金があればいい」といった話になってしまうので。

——カフェで飲み物の豆乳変更を50円プラスするのやめてほしいです。

生田 牛乳のヨーグルトに比べて、豆乳ヨーグルトの方がだいぶ高いのもなんとかならないかなと思います。

栗田 なぜか高いよね。

生田 高いね。下手したら2倍くらい高いもんね。

岡田 本当のコストで考えたらそんな高くなるはずないんですよね。動物に一回ご飯をたべさせて、それが乳になってるわけですから。オーツミルクや大豆をそのまま使っているはずの豆乳が高いはずないんですよ。

栗田 牛を育てる方が高いはずなのに。

生田 生産量のちがいの問題もあるだろうけど、改善してほしいところですね。



お金で倫理を買う社会っておかしくね?——IKEAはよくやった!


岡田 IKEAさんは、今まで50円のソフトクリームを売っていましたけど、今回これをプラントベースに変えたんです。これはほんと偉い。価格を上げずにそのまますっととりかえた。全部とりかえたので、みんな自ずとそちらを選択せざるを得ないわけですよね。IKEAはレストランでも、プラントベースやアニマルウェルフェアのものを価格はそのままで購入できるので、これはマーケティング的にも正しい姿だと思います。モスバーガーみたいに、めっちゃ値段を高くしてヴィーガンのものを売るのは、本当に勘弁してよ・・・という感じですね。

IKEAのアイスと唐揚げを食べる岡田さん(左)と鈴木さん(右)


栗田 価格が高いとペナルティ感があるんですよね。悪いことをしているみたいな。

生田 あるいはエリート思考みたいに感じてしまう。

栗田 ヴィーガンへの悪口のなかでも、「ヴィーガン=エリート」と言う人がいると思うんですよ。

生田 「意識高い系」みたいな。

栗田 わたしはそれが嫌だと思っていて。そんなことがあってはならない。だって、体に悪いものが貧しい人に与えられるのは社会がおかしい、と言っていかないといけないのに、「お金で健康を買う」「お金で倫理を買う」みたいな話になってしまっていて・・・。

岡田 そうなんですよ。なんで社会に悪い影響を与えるもののほうが安いのか、というのは謎ですよね。そっちがペナルティなはずですし、むしろ税金かけてほしいくらい。でも、企業も売ろうとしてないですよね。モスバーガーも、ポーズとして「こんな良いことしてます」と言うためにやってるようにしか見えない。「本気で社会変えるんだ、社会課題解決するんだ」というふうに考えてたら、そんな売り方するはずないので、本気でやってほしいですよね。

モスバーガーでは普通のハンバーガーは440円。プラントベースの「グリーンバーガー」は590円。 https://www.mos.jp/menu/detail/?menu_id=011358&c_id=1

栗田 わたしのまわりでも、ヴィーガンの悪口・・・というほどじゃないけど、フェアトレードにしても、「階層上そう」という話はよく聞いていて、特に女性の貧困の問題とかやっている立場としては非常に悩ましいところです。

岡田 アニマルウェルフェアもそうだし、フェアトレードも本来はそうだと思うんですけど、最底辺のものをボトムアップするということが一番重要なんですね。めっちゃ良いものをもっとよくする、という発想ではない。放牧だったものをもっと広い放牧にする、という話ではなくて、めちゃくちゃ酷い扱いを受けているものを、まあまあマシにしてあげる、ということをやっていかないと、動物の苦しみも減らないし、持続可能な社会になっていかないし、暴力もなくなっていかない。ボトムアップというところで考えると、全体を変えていく、その社会構造をみんなで支えていくという考え方が必要ですよね。

栗田 一番苦しい畜産動物たちにフォーカスを当てて、殺される前に水も与えないなんてことをやめよう、という発想そのものが、ボトムアップということですね。

生田 あと、外食産業が変わってほしいですね。ヴィーガンどころかベジタリアンさえ、ほとんど食べるところがないという問題がある。

岡田 企業はどんどん変えるつもりで、ちゃんとマーケティングして、ちゃんとプロモーションしてほしいな、と思います。



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