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僕たちの国で起こっている人権侵害問題

毎日新聞3月23日夕刊より
 名古屋出入国在留管理局(名古屋市港区)に収容されていたスリランカ人の女性が、3月6日、居室内で脈がない状態で見つかり、緊急搬送先の病院で死亡が確認された。

 死亡したスリランカ人女性とは、支援団体START(外国人労働者・難民と共に歩む会)顧問の松井保憲さん(66)らが2020年12月から毎週のように面会や聞き取りを続けていた。支援者らは「最後の面会時、体調が極端に悪化した様子だった。死んでしまうから入院させてと入管に訴えたのに」と憤る。

 2月3日には車椅子に乗って面会室に現れた。2月8日の面会時には、収容時に85キロあった体重が15キロ以上減ったと話していた。
 翌9日の面会時には吐き気が止まらないためか、バケツを手に持って現れた。翌日、松井さん側は「このままでは死んでしまう。すぐ入院させ点滴を打って」そう訴えると、職員は「ちゃんとやっている」「予定はある」と応えたという。

 2日後の5日も松井さんは面会に向かった。しかし、職員から「(女性は)動けないので会えないと言っている」と伝えられた。そして翌6日の午後2時過ぎ、女性は居室で脈がない状態で見つかり、病院で死亡が確認された。収容されてから半年以上。33歳3カ月の生涯だった。

 2007年以降、入管での死者は17人目。自殺者や自殺未遂者も多いそうだ。難民認定率は19年でわずか0.4%。収容者のうち44%は収容期間が半年を超えているという。そして、ここ名古屋入管では昨年10月にも収容されて5日目にインドネシア人男性が死亡する事例が発生していたそうだ。

 この記事を読んで、しばらく言葉を失った。法律の上では難民申請が受領されていない外国人を入管に収容しなければならないとしても、命の危険にある人間を放置し、死に至らせるようなことが許されていいのかと、悲しさを超えて怒りを覚えた。

 国連人権理事会の恣意(しい)的拘禁作業部会は20年秋、現状は「人権侵害で国際法違反」と指弾したというが、早急な改善策を講じていないからこそ、悲劇が繰り返されているのだと思う。中国のウイグル問題、ミャンマーのロヒンギャ問題を非難する前に、僕たちの国で起こっている人権侵害問題を早急に解決しなければならないと思う。

 もう一つ、別の視点から思ったことがあります。いくら入管としての役務に制限があるとしても、一人の人間が死にそうになっている状況を放置できる心境は、俄かに信じがたいと思うのです。自分の目の前で、人が一人死にかけているという状況に対して、放っておけるなんて、人としてどうかしてると思った時、ゲシュタポのユダヤ人移送局長官で、数百万人におよぶアウシュヴィッツ強制収容所 へのユダヤ人大量移送の指揮的役割を担った、アドルフ・アイヒマンを思い出したのです。

 第二次世界大戦でドイツが敗戦した後、逃亡していたアイヒマンが逮捕された後に行われた裁判で、アイヒマンはドイツ政府によるユダヤ人迫害について「大変遺憾に思う」と述べたものの、自身の行為については「命令に従っただけ」だと主張したと言う。ドイツ出身のユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントは、この裁判を傍聴し、「本当の悪は平凡な人間の行う悪です」と説いた。平凡で、ふつうに穏やかで、おとなしい人の悪行にこそ、悪の本質があることを彼女は「悪の凡庸さ」と表現したのです。
 スリランカ人を死に至らしめた入管の職員の人たちの行動は、ある意味でアイヒマンと重なります。ミャンマー国軍が、ただすれ違っただけで丸腰の市民に発砲するという恐ろしい行為もまた、「悪の凡庸さ」のなせる所業なのかもしれない。

僕たちは、いつでもアイヒマンになり得る可能性を持っていることを肝に銘じなければならないと、強く感じた。

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