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UNFAMILIAR VOCATION二話/挿頭すアイツ

触手の獲物:ディアポリスド


あらすじ
霊媒女子高生の網澤紗理菜あみさわさりなは元ムエタイファイターの把捉鮎蔦ぱあくあゆつたに怪泥エミルエムルへの対処に困惑していた所を助けられる。
特に共通点も接点も無い二人だったが怪奇現象が実在する事にワクワクしていた把捉は網澤へある提案をすることになるのだが…

―某日―

電気スライムが俺に見せた生物としての力。
まさかあんな存在を目にしてもすぐに対応出来るあの女子高生に俺も驚いていたのだが。

「近年の女子高生なんて色んな対応力が求められているからこれくらい当たり前。」

なんて言っていたが盛大に俺の前で腰を抜かしていたはず…やめよう。
これ以上彼女のメンツを傷つけない為に墓場まで持っていくつもりだ。
そんな強がりを言った後に彼女はWPEENのIDを手書きで渡した。

「何であたしとそんなに歳が変わらない貴方が引退したか分からないけど、その力があればこっちの仕事も捗る。」

なんて一方的にビジネスパートナーにされた。
俺も色々忙しいのにと言おうとしたら今度は現金を手渡してきた。
おいおい。
これじゃパパ活だと思われてしまうなんて保身を考えた俺は自分を責めながら脅えていたら

「どうも。助けてくれたお礼。」

「そんな受け取れないって。」

「あたしの札を使いこなせた貴方と私が組めばこの活動に見合った報酬を今後渡せる。
忙しいのはお互い様だから詳しい事は空いている時間帯に事務所で話そう。」

こんなに強引だとは知らなかった。
あの腰を抜かしていた姿は演技だったのか?
と勘ぐってしまったがあれは正直な恐怖だ。
俺もやりたくない相手とマッチメイクが決まった時はなかなか覚悟が決まらなかった。
そんな俺だから伝わったのかもしれない。
そして手書きのIDを見た時にサラッと名前が書かれていた。

網澤 紗理菜

名刺のつもりだったのだろうか。
要するに俺は彼女に気に入られているというわけだ。
ならここで行かないと漢が廃る。

―午後

事務所を訪ねてみたらこじんまりとした1DKで事務所と言うよりは一人暮らしの部屋と言ったところだ。

「ようこそ。あたしが所長の網澤紗理菜です。」

「改まったね。俺も名前をちゃんと言った方がいいかな。あれハンドルネームだし。」

「じゃああの名前リングネームなんだ。」

そう言えば彼女は何故か俺を知っている素振りがあった。
昔、試合をしていた時にファンだったのだろうか?
彼女は個人情報法が煩いからと敢えて聞くのを辞めようとしたが金銭のやり取りをした以上は大人としてちゃんと説明したかった。

「俺は把捉鮎蔦。昔のリングネームは分かりやすくしたものだから知らなかったかな。
君が俺のファンだったのなら改めて。」

すると彼女はありがとうとだけ言って仕事の内容を伝えた。
あれ?ファンじゃなかったのか?
それとも選手じゃなくて格闘技や競技に対してのファンだったのかもしれない。
明らかに浮ついたタイプではないし。

仕事内容はとあるコンビニにお客がICカードリーダを翳すと何者かが反応拒否させるというイタズラをするとのこと。
それだけなら大損かつ迷惑な存在ですんだがどうやら店員と翳した客に暴行を加えるという散々な相手だった。

「分かりやすく俺に適しているね。」

「皮肉言ったりするんだ。」

「どう聞いてもこの依頼は俺が必要な話でしょう。」

「他に従業員がいるけど全員手が空いてなくて。仮に空いてたとしてもそこまで強い武力はない。」

俺だって武力はあるほうじゃないぞ?
と言いたいが仕方がない。
また無言で大衆の前で報酬を渡してくるかもしれない。
何だか妙な圧力を感じるのだが久しぶりに非日常に触れられる。
そしてこの依頼にはある違和感もあった。

―依頼先のコンビニ

俺たちは店長から詳しく話を聞いた。
ここ数日ICカードの調子が悪く、翳しても支払いが出来ないトラブルが頻発。
ついこの間までは通常だったのだがそれは家電である以上仕方がないと割り切っていた。
しかし業者に頼んでみると次々に業者が殴打の跡がつき撤退。
このままでは潰れるかもしれないとマスクを整えて震えていた。

「前のスライムよりどちらが強そう?」

「あのね。
現実の格闘家は好戦的な人間なんてほぼ少ないよ。団体競技が向いてないと感じた人が選ぶ種目に過ぎない。
過去の格闘家だってみんなプロレス的な意味でヒールは演じている時もあったけどあくまでスポーツなんだ。
君あれ?喧嘩自慢好きだったりする?」

「ならよかった。
この依頼を頼める相手が出来るとは思ってなかったからこの前のスライムには感謝している。」

もう過去の事かい。
これでも俺を頼るのか。
何だかここで引くのが情けなく感じた。
それとこのコンビニはたまに自分のジム生徒が使うとも聞いていたからなくなっては困る。

そして俺たちは準備をした。
この前は電気対策だったが今回は物理特化だ。
彼女曰く霊に有効な金属で出来たメリケンサックを渡された。
この子誰か依頼で殺してないか不安になった。
今回は電気スライムじゃないと彼女は言っていたがICカード関係だからゴム製の靴とすね当ても貰った。
やっぱりこうしてすね当てを付けると昔を思い出す。
勝利するためにどれだけ時間を費やしたか。
それはおいといて店長の話によると夕方に現れるという。
ここ数日毎日出るなんて律儀なモンスターなのかそれとも人間の犯行か…しかし業者が受けた傷を見ると人間やクマの類が傷をつけたような跡ではなかった。
こうして俺たちは警備をする。

何時間か経過した後にターゲットは現れた。
鮮やかな触手に電気を帯びてこちらに向かってくる。

「なんだ?こいつがトラブルの正体だったのか?」

どうやら店長も初めて見たようだ。
俺は店長を避難させてターゲットに勝負を挑む。
ここで彼女も何かを感じたようだ。

俺はゴム製のすね当てをつけ蹴りあげる。

「うぐぁぁ!痛い!痛い!」

ターゲットは触手を使い、俺を狙う。
電気を帯びているから迂闊に近づけない。
だがこの電気は見覚えがある。
すると彼女があの時と同じ札を俺に貼り付ける。
やる気が出た俺は恐らく奴が取り付いている場所へパンチをした。
元祖ムエタイファイターのパンチを舐めるなよ!
なんて心の中で思いながら電気の元は触手のターゲットから離れた。

「ここじゃない…ここじゃない!」

やはりあの時の。

今回の依頼に感じた違和感はあの出来事の後にコンビニでトラブルが起きたことだ。
だから彼女も俺を頼ったのだ。
そしてあの時の電気スライムにしては暴力的なのも他に何かが加担しているのかと仮説を立てた。
正体は別の奴に電気スライムが取り付いて被害が起きたわけだが。

「まさかまだ得体の知れないモンスターがいるとは。」

電気スライムが離れた後の触手のターゲットは大人しくなって消えていった。
強い力だが敵意はない。
ただ電気スライムを振り払いたかっただけだったのだろう。

それから自分のスマホで決済したが何の問題もなかった。
ただ客が戻るまで時間がかかりそうだから暫くは常連でいて欲しいと店長に頼まれた。
いやあ、そんなにコンビニにようがないんだよなあ。
自炊派だし。

すると彼女が案の定無言で報酬を渡した。

「そんなにあるなら引っ越さないのか?」

「お金なんてすぐになくなる。いつまでもあると思うな親と金。
それにあの事務所にしてから交通の便は良くてさ。」

まだ女子高生なら色々と大変そうだが。
そうだ、まだ片付いてない問題があった!

「ここじゃない!ここ…じゃない!」

電気スライムが報復しに来た。
だがテレビ番組みたいに何回も相手にしてられない。
それとこの電気スライムの意思がここまで強いのなら…俺は峰打ちで電気スライムを止めた。

「お前がどういう理由で暴れているのか分からないが余り騒ぎを起こすのは良くない。
それに俺たちを恨むのは筋違いだ。」

「おれ…わ…たしは…まだ…さがして…いる!」

彼女はどうするつもりだと言っていたが二戦して分かった。
この電気スライムも戦って答えを見出すタイプだと。
それに落ち着けば何か話してくれそうだとも。

「あのさ、要らない端末ないか?君のことだからとばしとか持ってないかと思って。」

彼女は舌打ちしながら差し出した。

「ここで言うなよ。」

「それは俺も思った。ごめん!」

まさか本当に持っていたとは。
電気スライムよりこの子の方が怖い。
それに電気スライムの家は用意したもののすんなり聞いてくれるか分からなかった。

「ここ…ここ…ここなら…!」

電気スライムはとばしの端末に入っていった。

「貴方そのスライムをどうするつもりだ?もうその端末は使い物にはならない。」

拳…かは分からないけど戦ったわけだから謎の情は出る。
それにこれで余計な仕事は増やさずにすんだ。
彼女が理解してくれるのには時間がかかりそうだがそこは少しずつ話そうと思う。

今回で良かったことは、電気スライムが取り付いた相手が無害なモンスターだった事だ。
こんなラッキーはそうそうない。

―数週間後

随分彼女とは連絡をとっていなかった。
お互い忙しくなり、俺が必要な依頼は減ったのだと思った。
安心していると例の端末から「ここ…ここ…」
と電気スライムが話してくる。
結構非日常なのに慣れているのはなんでだろうか。
俺も一応、彼女の従業員でもあるのに。
そんな時に連絡が来た。

「よし!行くか!」
日数を経て名前を決めていなかった。
電気スライムが俺と意思疎通が出来るまでもう少し待つか。
こうして俺は事務所へと足を運んだ。
俺達だけの非日常に現役時代の高揚感を取り戻しながら。

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