【Medical Emergence Talk】#6〜あなたの知らないトウヨウイガクの世界(前編)〜
前回の西洋医学の対談を逃した方は、まずはこちらから!
朱田:前回、僕が思う西洋医学について、エビデンスや統計的な話を中心にしたんですけど、今回は東洋医学について教えてください。僕のイメージでは、東洋医学はどちらかというと主観的で、西洋医学とは対局なのかな?って思っているんですよね。でも、本質的なところは西洋医学と共通する部分があって表現方法が違うだけじゃないかっていう気もしてるんですけど。
東洋医学って言っても幅広いじゃないですか。西洋医学でいう、内科や外科みたいな分類ってあるんですか?
川尻:東洋医学には、内科、外科、泌尿器科、循環器科みたいな、システムによる分類はないんですよね。東洋医学では、どんな症状の場合も「人という大きなシステム」として見ます。
朱田:そうなんですね!
川尻:東洋医学の一般的なイメージって、日本では『鍼灸と漢方』だと思うんですけど、アメリカでは、もっと総合的なものを指します。漢方と鍼灸、マッサージ、気功や、太極拳など、すごく幅広いです。
アメリカで注目が高まる東洋医学
朱田:アメリカ人にとって、身近なものなんですか?
川尻:特に、近年はそう言えると思います。
日本の制度とはかなり違いますがアメリカにも健康保険があって、その中で腰痛などの「痛み」の治療に対して鍼治療は多くの場合認められているんですよね。それもあってか、データによってはアメリカの成人の50%ぐらいが人生の中で鍼治療などの東洋医学の治療を体験したことがあるという話もあるぐらいです。
健康保険の中で鍼治療が認められているというのも、実は非常に多くのお金が東洋医学の研究に投下されていて、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)にアメリカ国立補完代替医療センター(NCCAM;https://nccam.nih.gov)というのがあって、1億2000万ドル以上の研究費が使われていて、その額も毎年増えていってるらしいです。
東洋医学を超簡単にいうと?
朱田:東洋医学を学んでいく流れを、ざっと教えてもらってもいいですか。
川尻:大きな流れは二つあって、一つは、東洋医学的な捉え方の「陰陽五行、五臓、陰陽」などの考え方を学びます。
朱田:はい。もうついていけてないけど、続けてください(笑)
川尻:もう一つは、西洋医学と同じで、基本的な生理学や解剖学も学びます。ただ、病理をやった記憶はあんまりないですね。
朱田:へえ〜。陰陽五行を、めちゃくちゃ簡単に言うと何ですか?
川尻:陰陽五行は、「陰陽思想」と「五行説」から成り立った思想で、万物は木・火・土・金・水の5つの元素から成り立っていて、人間のバランスを整えるのに重要な役割を果たしていると言う考え方。この「五行説」を身体に応用したのが、「五臓」と言われるもので、「五臓」のそれぞれが、木 = 肝、火 = 心、土 = 脾、金 = 肺、水 = 腎という5つの機能系に分けられているんですよね。
朱田:ほお〜。その肺とか、心とかっていうのは、いわゆる僕が思う心臓とか肺の機能のこと?それとも概念的な話なんですか?
川尻:概念的なんですよね。西洋医学でいう「肝臓」「心臓」みたいな臓器そのものを指した言葉ではなく、「体のこのあたりのこと」っていう位置を指すもの。例えば、「しん」には心臓の働きも含まれるけれど、そのほかの働きを含めた広い捉え方なんですよね。
朱田:難しい・・・。言いたいことはわかるんですよ。その長い歴史の中で、その人の体とか、反応みたいなのを精査していったら、ある一定の法則が出てきて、それを繰り返し見ていたら、こういう分類とかこういう思考過程でうまく説明できると。多分、長い年月の間で見つけられた法則は正しいと思うんですけど。
ただね、時代と共に医学が進歩して、心臓ってこういう働きですっていう定義が、どんどん西洋医学で解明されているわけじゃないですか。そうすると東洋医学の人側も、「あれ?ちょっと、俺らの単語は紛らわしいから、心とか、肝の呼び方を変えようかな?」と思ってくれないかなって思うんですよね。その方が、受け手の誤解が少なくなると思ったりはするんですけど・・・
川尻:言ってることはわかるんですけど、多分、逆の立場の東洋的な人から見ると、「西洋医学が勝手にその言葉を使ってんだろ!」って話なわけであって(笑)
朱田:はいはい(笑)
川尻:多分、東洋医学的には「俺らが先に言ってんだから、お前は何パクってるんだよ」って話にはなりますよね(笑)
朱田:それもよくわかります。わかるんですけど、それって患者さんの視点に立ってないですよね。
ミクロな西洋医学 VSマクロな東洋医学
川尻:それは、どちらもだと思うんですよね。それぞれに、それぞれの視点があって、言葉の定義をしている。ミクロな視点の西洋医学は、「この物質は心臓」というように、構造に名前をつけるやり方。
一方、東洋医学っていうのは、基本的には「物質ではなく出来事」の話をしてる。心臓ではなく「心という出来事」なんですよね。心と体の繋がりの中で起きる出来事の話をしてるわけであって、ここが根本的に違うところだと思うんですよね。
ここの違いを理解するのはすごい大事で、西洋医学は病気やケガといった「物質」をミクロに見て治療をするっていう手法をとるのに対し、東洋医学は病気やケガを「出来事」としてマクロに見て、根本的な原因を探って治療することを目的にしています。だから、東洋医学では患部だけではなく全身を診てから治療法を判断する。という大きな違いがあるんですよね。
朱田:そうですね。ただ、中国のように一般の人も広く東洋医学の概念を知っていて、心とか、肝が、概念的な話だと理解している国だったらいいと思うんですよ。でも、例えばアメリカで、「”heart”は心臓の事ではなく心という概念のことだ」と言われたら、アメリカの人たちはかなり混乱すると思うんですよね。
川尻:そうでしょうね。
朱田:ですよね。だからやっぱり、サイエンスのように既に広く社会に受け入れられているものに合わせていく事があっても良いんじゃないかなって思うんですよね。
川尻:アメリカの中で考えたらそうかもしれないけど、マジョリティーで考えたら、断然中国だよねって話にもなりますよね。
朱田:あはははは。まあ、そうですね。
川尻:結局のところ、人間の生命活動という一つの物事を、全く違う角度から理解を始めてるわけであって、それぞれの中で歴史の中で培われた言葉の定義を変えるのは、もう難しいと思うんすよね。
心、肝、脾、肺、腎という言葉には、それぞれ意味があるわけであって。
それをアメリカでは別の表現をするとなったときに、東洋医学をちゃんと伝えるってことにならないんですよね。
僕が思うに、ある一つの見方が正しい、間違っていると議論するのではなく、一つの身体、生命現象というものを、別の角度から見る事って大事なんだよねっていうことを多くの人が理解するということだと思うんですね。
多くの人が「西洋医学的にミクロから見ることが正しくて、他のことは亜流だ」みたいに捉えていると思うんすけど、そうではなくて「ミクロからもマクロからも見る視点」が大切だと思うんです。
私たちの生活に根付いている東洋医学
朱田:それはその通りなんですけどね。でも、やっぱり僕は、東洋医学が一般的に理解されていないのは勿体ないなと思うんですよ。
川尻:多分、東洋医学が理解されにくい一番の原因は、生理学で説明をしようとしているからだと思うんですよね。
生理学ってミクロな学問なので、ミクロな基礎学問でマクロな東洋医学を説明しようとするから、よく分からないものになっているんですよ。
朱田:いやそれはそうなんですけど・・・初回の対談で、「WHOの健康の定義が全然広まってない」という話をしましたけど、東洋医学に関しても同じような事を感じます。
多分、ごく一部の詳しい人たちだけが知っている世界で、「一般にはよくわからないもの」だと思うんですよね。
川尻:でも、これだけ世の中に鍼灸院や、あん摩、マッサージがあって、薬局には漢方薬がずらりと並んでいる。よくわからないけど、我々の生活の中にはしっかりと根付いてるわけじゃないすか。
朱田:そうですね。確かに。
川尻:その地域特有の医療って、ありますよね。例えば、インドのアーユルヴェーダ、ヨーロッパのハーブのような。それらは、地域にしっかりと根付いていて廃れない。でも、それらの治療方法が、サイエンスとして理解されているかというと、あまりされていないですよね?
理解されていない理由というのは、先ほどの東洋医学と同じで、説明しようとしている方法そのものが間違ってるんですよね。
朱田:まあ、そうかもしれません。
川尻:僕の中ですごく思うのは、西洋医学のお医者さんが、なんかわかった気になってるようなこと言いますけど、全然治せてないもんいっぱいあるじゃんって話なんですよね。
朱田:そりゃそうですね(笑)
川尻:お医者さんが頑張ってるのはわかるよ。でも、全然うまくいってないことあるじゃん!もうちょっと、視点を変え〜や!!って思う事でもあるんですよね。
朱田:なるほどね。それはもう、めちゃくちゃわかります。
川尻:たまたま、今の社会が資本主義で、たまたま西洋医学というものが、金銭的に非常に高いスタンダードを築くことに成功したがゆえに、そっちが正しいような勘違いをしてるだけなんですよね。
〜後編に続く〜
*この連載は、オンラインサロンMEG※(Medical Emergence Group)で配信されていた対談の一部を編集してお届けします。