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ユーザーとの距離感が近ければ、クリエイティブレベルは低くてよいか?

2019年5月14日に、『これからSNSで受け入れられる広告クリエイティブとは?』と題した勉強会を開催しました。まずは軽く、ダイジェスト動画をご覧ください。

ゲスト講師にSnapmart代表の岡洋介さんをお迎えし、今、10~20代の若年層に起きているメディア接触時間や検索行動の変化などから、SNS広告における「よいクリエイティブ」の定義が変容している状況についてお話頂きました。要点をざっくりお伝えすると、以下のようになります。

◆プレゼンテーションの概要

●Google検索は長年のSEO対策が蓄積され、若年層が欲しい情報にたどり着けていない。
●若年層が欲している情報とは、自分たちとの「距離感」が近い情報や、「共感」できる情報。
●自分のセンスや価値観に会う情報を探し求めている。
●それらの情報を検索する場所として、Instagramが使われている。
●Instagramで検索すると、Google検索のような情報が出てこない。
●そのため、Instagramで検索して自分の求める情報を見つけてから、Googleで検索するという行動を取っている。
(※「距離感」や「共感」についての感覚を持っていただくために、例として「北欧家具」を、GoogleとInstagramで検索してみてください)
●このようなユーザーの行動は、ビジュアルニーズの変化の表れと言える。
●こうした距離感が近く、共感されるコンテンツをつくる手段として「UGC(User Generated Contents)」がある。

勉強会ではUGCのつくり方にも言及いただき、岡さんのプレゼンテーション後は参加者のみなさんから質問を集め、それらに対して岡さんにお答えいただくという流れになりました。そこで出された質疑応答リスト(Googleスプレッドシート)も下記に掲示しておきます。

◆変容する「良いクリエイティブ」の定義

岡さんの講演スライドでは、実際に大学生の就活サイトや高校生向けSNSサービスのSNS広告で使われたクリエイティブが4点ずつ紹介され、どのクリエイティブがもっともクリックされたかというクイズが出されました。
就活サイトであれば、リクルートスーツに身を包んだ二人の女子大生が談笑する姿や、パソコンを使って企業情報を調べている複数の学生の姿、スマートフォンで電話を受けている姿などの画像があります。
これらの画像公開はできないため、テキストだけの表現になってしまいますが、最もクリックされたものクリエイティブとして参加者の方が手を挙げたのは、これまで「広告として使いたくなる」と感じるものだったのです。

逆にどんなクリエイティブがクリックされたかというと、これを私の筆力で表現するのが非常に難しいため、抽象的な表現をすれば、上述した「ユーザーとの距離感が近い・共感できるクリエイティブ」ということになると思います。

「ユーザーとの距離感が近い・共感できるクリエイティブ」をどうつくるか?

これを私たちは知りたいわけですが、勉強会で次のような質問が出ました。

「ユーザーとの距離感が近ければ、共感することができれば、クリエイティブのクオリティは低くていいのか?」

この質問が出たのは、上述したクイズで出された広告クリエイティブのうち、最もCVRが高かったのが、その場にいた私たちにとって「最もクオリティが低い」と感じられるものだったためです。この質問を考えるにあたり、近しい体験を私はしたことがあります。画像ではなく動画。広告ではなく通常のSNS投稿になりますが、下の動画を見てみてください。

この動画は、私が携わっている動画制作ツール「1Roll」を使って撮影されたものです。動画は青森県庁さんの運営する公式観光サイト「まるごと青森」と、同Facebookページに掲載されました。

この動画は、プロのCM制作会社の人間であれば気をつけるポイントをことごとく無視しています。例えば、34秒頃のおにぎりを割るシーン。ここはお米の一粒ひとつぶが立っている様子を見せたいところですが、光で飛んでしまっていてよく見えない。これは従来の感覚で言えば、間違いなく「クオリティが低い」です。ですが、他のいくつかプロがつくったであろう動画と比べてみると、この動画の再生数が高いことがわかります。(下記のYouTubeとFacebookページをご覧ください)

はるえ食堂の動画はまるごと青森の関係者の方が撮影したもので、プロが撮ったものではありません。プロが撮ったはるえ食堂の動画がないため純粋な比較はできませんが、「クオリティが低くても動画は見られる」という感覚を、この事例を通じて私は持ちました。

◆クリエイティブの高低の概念を、「技巧」ではないものに変える

話を戻します。

「ユーザーとの距離感が近ければ、共感することができれば、クリエイティブのクオリティは低くていいのか?」

この問いは、一見もっともらしく聞こえますが、今回の勉強会を通じて、この問いの表現は間違っていると考えます。私が動画事例を通じて得た「クオリティが低い」と言うときの「高低」が何を指すかを考えると、構図、アングル、照明技術など、映像を制作するときの「技巧」を指しているようです。

クオリティを技巧と置き換えたとき、確かに勉強会で紹介された画像も動画もクオリティは低いです。この意味では、「ユーザーとの距離感が近ければ、共感することができれば、クリエイティブのクオリティは低くていい」と言えますが、サイゼリヤ創業者の正垣泰彦氏に、「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」という名言があるように、「技巧的クオリティが低いからクリックされている」と言うことはできません。

ユーザーとの距離感が近いから、共感度が高いからクリックされるのであって、技巧的クオリティが低いからクリックされているのではないのです。クオリティという言葉の概念を変える必要があります。
クオリティの高低を、私のように技巧の高低ではなく、技巧ではないものに置き換える。それが「価値観」になるのではないでしょうか。

クオリティの高低を、技巧の高低から、価値観の遠近に置き換える。

ユーザーの価値観に近いクリエイティブが、クオリティが高い。

このようにでも考えないと、これまでの常識や固定概念がカキガラのようにこびりついている私には理解できないのです。
じゃあ、ユーザーの価値観に近いクリエイティブをどうつくればいいのか。

技巧の高低は向上させることができますが、価値観を近づける方法はあるのでしょうか?恥ずかしながら私にはまだその方法がわかりません。言語化できない。それでは話が終わってしまうので、取り得る一つの方法として、UGC(User Generated Contents)があります。

わからないなら、ユーザーと価値観の近い人につくってもらえばいい。

これがUGCを活用する本質ではないかと思います。

◆価値観の近い人がつくるクリエイティブ

Snapmartに投稿され、ユーザーの行動を促すクリエイティブは技巧的な意味では高いと言えないでしょう。そこに反映されているのは技巧よりも価値観です。

スマートフォンとInstagramは、ユーザーの価値観が世に出る機会を爆発的に拡大させました。これまで広告に使用するためのクリエイティブ制作は、その技術を修め、作法を知っている人でなければ参加できませんでしたが、
テクノロジーの進化がその参加枠を大きく広げた。ユーザーの関心を得るため、行動を促すため、ユーザーの心理や行動を調査・理解し、技巧の限りを尽くさなくても、価値観の近い人がつくるクリエイティブの方が効果がある。これは、価値観の近い人を特定してアプローチしやすくする、SNSの普及も追い風になっています。

この流れは、これまでこの道で技巧の高低でメシを食っていた人には恐々となる事態です。価値観軸でクリエイティブの良し悪しが変わるというのは、暗黙知のかたまりで、これをどう定量化・言語化していくのか興味深いところですが、まずは、自分自身の脳みそをアップデートしなければならないなと感じた勉強会でした。

最後に、岡さんのtiwitterやnoteでもこのあたりの知見を得られると思いますので、ぜひチェックしてみてください。

こうした考察をまとめた書籍が刊行されました。

書籍の概要は下記の動画でも解説していますので、よろしければご覧ください。


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