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愛されたかったわたしと、チョコパイ


私には子供の頃、強く憧れていたおやつがあった。

それは、"チョコパイ"だ。



私には年の離れた妹がいる。その妹が大好きなおやつが、チョコパイだった。

姉である私は、親の権限により私だけおやつを食べてはいけない決まりだった。しかし、そんなことは知らない妹は私の目の前で美味しそうにチョコパイを食べる。口いっぱいに頬張って、「おいしいね!」と無垢な笑顔で私を見つめるのだ。私はそれに対して、「うん」とか「そうだね」って返していたような気がする。

心の底からうらやましかった。私もチョコパイを食べたかったし、なによりおやつを食べることを許されている妹のことが本当にうらやましくて堪らなかった。妹は両親から愛されていて、私は愛されていないんだとすら思った。子供にとっておやつの存在とは、それほどに重要なものだった。

親からの愛情を一身に注がれる妹は、いつもチョコパイを食べていた。だから、私はチョコパイに強い憧れを持っている。



大人になって家族を持ち、今度は自分が子供達におやつを与える立場になった。どの子にも平等におやつを渡し、みんなで頬張る。今では見慣れた光景だけれど、子供の頃の私にとってそれは羨望だった。

子供達はチョコパイが大好きだ。小学生の長女と次女なんて、最近ではひとつでは足りず二つ目も食べるようになった。長男は「明日も食べる!」と明日の分までキープしているぐらいだ。

こんな子供達の様子を見ていると、自然と頬が緩む。なんて微笑ましい光景なんだろう。


すると、チョコパイが食べたくて、妹みたいに愛されたかった子供の頃のわたしがひょこっと顔を出す。そしてうらやましそうな顔で、子供達を見ているのだ。

いいよね、うらやましいよね、と私は幼いわたしに心の中で声を掛ける。

そんなとき、長女が言った。

「ママも食べないの?」

「いいの?みんなの無くなっちゃうよ」

「なんで?ママも一緒に食べたほうが美味しいじゃん!」

そうだそうだ、と長女に続いて次女が言う。


「はい、どうぞ」

すると長男が、私の手のひらにひとつのチョコパイを置いてくれた。

ありがとう、と言うと、長男は恥ずかしそうにはにかんだ。


袋を開けて、ひとくち食べてみた。

チョコの味と、クリームの甘さが口の中に広がった。それは甘くて、とても幸せな味がした。

「ありがとう、すごく美味しいね」

私がそう言うと、子供達が満面の笑みを浮かべた。


今では、自分の好きなときにチョコパイを食べられるようになった。チョコパイに対する憧れの気持ちはもう消えたけれど、代わりにほんわりと胸を温かくしてくれるものが残った。

私は、もう愛されていないわけじゃない。

だって、こんなにもたくさん愛されているのだから、きっと幼い頃の私も報われただろう。


あれほど強く憧れていたチョコパイは、今では大好きなおやつになった。




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