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【ふしぎ旅】五つ塚

 長岡市、旧越路町に伝わる話である。

 古志郡と三島郡の境の信濃川のほとりに、浦の原というところがある。
 
 一方は川で、一方は葦が生える沼地となっている所で、ここに五つの塚がある。
 昔、この近くに勘右エ門なる男が住んでいた。
 勘右エ門は、毎日、浦の原を通って、隣村まで勤めていた。
 ある日、夜遅く、浦の原を通ると、三つ目の塚の前に髪を振り乱した若い女が立っていた。
 よく見ると、その形相はものすごく、口が耳まで裂けていた。
 勘右エ門は、あまりの恐ろしさに腰を抜かし、その場にうずくまってしまった。
 すると怪女は、勘右エ門の前に立ち「私を見たことを誰にも話すな。もし話したらお前の命はないものと思え」と言って、煙のように消えてしまった。
  勘右エ門はしばらく、震えていたが、ようやく家に帰った。

 それから十年が経った。
 ある晩、村の寄合で怪談を話し合う機会があった。
 勘右エ門は「もう十年も経ったので話してもよいだろう」と思い、五つ塚で会った怪女の話をした。
 その晩、勘右エ門は家に帰ることがなかった。
 翌朝、家の者が心配して探したところ、勘右エ門は浦の原の葦の茂みの中で死んでいた。
 死体を調べてみたら睾丸が抜かれていた。
 人々は怪女との約束を破った報いの恐ろしさを語り継いだという。

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「話すな」というタブーを破り、殺された話。という怪談にはありがちな伝説である。
 怪物が口裂け女という辺りが、少々珍しいだろうか。

 睾丸が抜かれているという辺りがなんとも生々しい話ではある。
 当時、この浦の原という所は、非常に危険で夜中などは近づいてはいけないところだったのだろう。

さて、この五つ塚があるという浦の原なるところ、今となってはどの辺りにあるのか分からない。

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 信濃川のほとり、古志郡と三島郡の境、浦という文字が入っていることから、現在の越路河川公園あたりではないかと思い、訪れてみた。

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沼では無いが、葦生い茂る池もあり、夜中にこの辺りを訪れると、非常に不気味な感じであろう。

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公園自体は、非常に整備されていたが、その一角に驚きのものがあった。

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 井上円了氏の頌徳碑である。
 そう言えば、越路は井上円了氏の出身地であったことを思い出した。

 それにしても、妖怪の伝説が残る場所を探しに行き、妖怪博士と呼ばれた井上円了氏の碑に出会うとは、なんともよく出来た話ではある。

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