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有料会員制オランダ公共図書館の魅力

昨年の冬にオランダ、アムステルダムへ旅行した。

インドネシアが大好きで大学時代によく旅行したり研究していた関係で、オランダには行かなければ、と思っていたのがやっと実現した。

蔦屋書店のモデルがオランダの図書館だと聞いたことがあって、旅行の目的先にアムステルダム中央図書館も入っていた。実際に行ってみて図書館の定義を考え直させられ、運営の裏側をもっと知りたくなり、本当はアムステルダム旅行前に読もうと思っていた本を読んでみた。

『オランダ公共図書館の挑戦ーサービスを有料にするのはなぜか』

まずタイトルから分かる通り、オランダの公共図書館は有料会員制である。
その点は後ほど詳しく。図書館の概念を覆される光景を沢山見てきたので、まとめておく。

◎アムステルダム中央図書館
カフェ/レストラン/劇場(260席)/セミナー会場(90席)がひとつの建物内にあり、文化活動の場所が網羅されている。

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また至るところに椅子があり、その数なんと1,000席(カフェやレストラン含まず)。公式H.Pによると、1日4,000人を超えるビジターがいるそうだが、それでも余裕を持って座れる座席数。そして、ただの椅子ではなく、優雅に目の前の川や夕日を眺めながら本を読める席もある。さすがデザイン大国かつ海運都市。

また児童用の本コーナーが可愛くデザインされていると思ったら、着ぐるみを着たお兄さんが子供に愉快に読み聞かせをしていたり、カフェで資料を手に大学生がディスカッションしたり、セミナー会場から大喝采が聞こえたり、とにかくオープン性が高く、教育的に図書館が発展していると感じた。

コペンハーゲン大学の図書館情報学研究者ヨコムスン、スコットハンスンの2012年「図書館四空間モデル」が関わっている。

21世紀の公共図書館を「インスピレーション空間」「パフォーマティブ空間」「ミーティング空間」「ラーニング空間」という4つの空間から構成される多目的な文化空間として表現した。
『オランダ公共図書館の挑戦ーサービスを有料にするのはなぜか』
第5章オランダにおける公共図書館という空間 P.105

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1.インスピレーション空間
ワクワクしながら文化的刺激を受けるスペース
2.パフォーマティブ空間
館内で受けた文化的刺激を外に向かって発信するクリエイティブなスペース
3.ミーティング空間
他者と出会うスペース
4.ラーニング空間
文化的探求のための自律的な学びのスペース

★これら4つの空間と利用者を結びつける役割を果たしているのが、文化仲介者としての司書である。

第5章オランダにおける公共図書館という空間 P.106

わたしが見た光景はまさに、1.インスピレーション空間であった。

図書館を2.パフォーマティブ空間として捉えているからこそ、アムステルダム中央図書館には劇場/セミナールーム/カフェが併設されていたのか、と納得。そしてメーカースペースを図書館内に設置することが世界中の図書館界で流行し始めているそうだ。いわゆるDIYスペースだ。知的生産のためびツール貸し出しの延長で、3Dプリンターも誰でも自由に使えるようになっているところもあるそうだ。こういうところから、新しい文化は根付いていくのだろう。

3.ミーティング空間と4.ラーニング空間として、図書館は市民教育プログラムを行ったり、言語相互教育の場にもなっている。ヨーロッパの図書館で現在最も重視されている課題は、社会的包摂(マイノリティグループを包み込むこと)であり、図書館は率先して難民を受け入れる場にもなってきた。
デンマークの場合、難民認定申請者証明書があれば図書カードが発行される。移民先で生活していくために、難民の子供を対象とした無料の特別支援プログラムもある。

特に面白い取り組みだなと思ったのは、オランダのニューウェハインで行っているオンラインでの地域情報ファイル構築「バーチャルファイル(virtuele dossiers)」だ。

地域住民が関心を持つ社会問題を対象に専門家から情報を集めて、図書館がデジタル情報として蓄積・提供していくサービスだ。バーチャルファイルは、地域住民と専門家の対話からつくられる。特定のトピックについて図書館が専門家に依頼して、地域住民を招いて公開討論を行う。

第7章オランダ公共図書館の最前線 P.187

難民のような初めてその土地に来た人でも、図書館に行けばそこで生きていくための情報があるのだ、という安心感は社会包摂の大きな役割を果たしていると思う。


ここまで社会包摂に述べていて忘れかけていたが、この本のタイトルにもある通り、オランダの公共図書館は有料会員制になっている。それは下記のような歴史的背景によるものだ。

オランダは特定の信条が個人の行動に強い影響を与える「柱状化社会(verzuiling)」として知られている。宗派によって異なる図書館が存在し、1960年代までは住民は自分の所属する「柱」に合わせて図書館を利用していた。
第1章オランダ社会と公共図書館 P6
ヨーロッパの多くの国がそうであるように、オランダも公共図書館の起源は、協会付属の図書室や有志のメンバーからなる読書サークルが自主的に作った読書室である。1960年代までの公共図書館は政府の補助金を得て運営資金に組み入れていたが、もともと私的な団体を母体としていることもあり、ほとんどの公共図書館は会員制を取り、会費を主たる運営費に充てていた。
第2章オランダ公共図書館の制度 P26

政府の文化財源が縮小している中、図書館サービスの部分的有料化は世界的傾向のようだが、オランダは基本的な図書館サービスの範囲を最も狭く設定している国だそうだ。

そもそも図書館サービスが無料なのは、情報と文化へのアクセスが人間の基本的人権であり、それを保証する機関として公共図書館が認知されているからである。そのため、オランダの公共図書館では、膨大な図書サービスのなかで明確に無料/有料のボーダーを設けている。

まず基本的なボーダーラインを本から抜き出して図にしてみた。

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またアムステルダム公共図書館では、基本会員は年間€32(約4,000円)だ。
0-18歳までは無料、67歳以上は€22(約2,700円)となっている。
有料にする弊害を特に下記3つのグループに対して無料サービスを提供することで、公共施設としての役割を強めている。

1.これから読書の世界に入っていく子どもたち
2.情報アクセスに取り残された人々
3.通常の方法では情報アクセスが困難な人々

3.情報アクセスが困難な人々を図書館界では「プリントディスアビリティ(print disability)」と呼ぶ。彼ら用のツールで最近注目を集めているのが、「DAISY資料」というデジタル資料で、それを図書館で利用することができるのだ。(DAISY=Digital Accessible Information System)

DAISY規格の特徴は、インターネットのホームページに使われている無償で利用できる国際規格のみを組み合わせて、文字・音声・画像を同期させることによって、様々な障害がある人々と高齢者にも使えるマルチメディア文書を簡単に作り出せることです。既存のマルチメディアと違って、見るか、聞くか、指先で読むかのどれかができれば、必要な情報が得られます。


色々書き残しておきたいことがありすぎて、とっても長くなってしまった...
日本では、市役所、市民センター、文化会館、劇場、セミナー、コワーキングスペース、ブックカフェ…など機能別に存在している各施設が、ヨーロッパでは基本的人権のひとつである情報と文化へのアクセスという名のもと有機的に一つの施設内に集まっていることが分かった。
超高齢化社会で公務員不足、民間への移行が強まる中で、多機能公共施設を有料会員制で運営しているオランダ公共図書館に沢山のヒントがあるのではないかな…と思ったり。


ではでは、また〜
オランダに行ったらぜひ図書館へ〜〜〜〜

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