見出し画像

縞模様のパジャマの少年

子ども時代とは、分別という暗い世界を知る前に、音と匂いと自分の目で、物事を確かめる時代である。

John Betjeman

初めて読んだのは中学3年生、読書感想文か夏休みの作文か、この本について長々と感想を書いたことをよく覚えている。
ファンタジーやフィクションを求めていた無知な私が、世界の歴史、ナチスの恐怖政治、ホロコーストについて学びを深めたきっかけの一冊。この物語は決して歴史本でもなく、感動系の本でもない、普遍的なテーマを持つ非常に現代的な作品だ。その物語を、今日はあなたに知ってほしい。


物語は第二次世界大戦中のベルリンに住む、冒険ごっこが大好きな9歳の少年ブルーノが、軍の将校である彼の父親が収容所の所長に昇格したことを機に郊外、つまり収容所の隣に引っ越す場面から始まる。
近所には同い年くらいの友だちもいない、家の中は絶えず兵隊が行き来している上、危ないからとブルーノは外出を禁じられる。退屈な生活に耐えられず、部屋の窓から見える大きな「農場」へこっそり冒険に向かったブルーノは、そこでフェンス越しに同い年の少年シュムエルに出会う。話が噛み合わないながらも、2人の間には友情が芽生えていく。

この作品に触れたとき、子どもが主人公のフィクション作品にしてはあまりにも残酷すぎると思う方がいるかもしれない。でも、私はホロコーストが世界史上最悪の凶悪な犯罪であることを考慮に入れれば、このような作品があっても良いと思う。なぜなら、どの時代の戦争も、1番の被害者はどの国籍であれ、子どもたちなのだから。
戦争を描いた作品は、おそらく子どもが登場しない作品の方が珍しい。「戦争という状況の中では大人も子どもも関係ない」という目線で、子どもは大人のものである戦争に巻き込まれ、大人や戦争に対する引き立て役になる作品が多い印象がある。そういう面で、子ども同士や子どもだけを描いた本作はかなり希少ではないだろうか?

『子ども時代とは分別という暗い世界を知る前に、音と匂いと自分の目で物事を確かめる時代である』
映画版の冒頭に登場するこの言葉は、戦争という行為にどのような意義や主義があろうと、子どもがそれらを大人と同じ目線では理解しないのは当たり前だということを伝えている。私がこれまでアルバイトなどで出会った子どもたちを思い出すと、彼らは偏見や先入観ではなく、目に映るもの、交わした言葉、耳にした音、向けられた目線で相手が「いい人」かどうか判断する、清らかな瞳を持っていた。物語の主人公ブルーノもまた、このシンプルなものさしでシュムエルや出会った他のユダヤ人たちを「いい人」と判断した。周囲の大人がどんなに「ユダヤ人は普通の人間ではない」「我々ドイツ人とは全く違う生き物だ」と嘘八百を並べ立てたところで、ブルーノの純粋な瞳には、シュムエルは気のいい少年にしか写らなかった。

説明をしないこと、これは時に大きな罪になる。
ブルーノの両親も、幼い彼に収容所で行われていることを知らせたくなかっただろうし、理解できないと思ったのかもしれない。何も知らされずに最後の冒険に向かう少年たちの姿はとても楽しそうで生き生きしている。その冒険の果てに待つのは、恐ろしい悲劇だと予測できてしまう"大人"になった私は、何度も心の中で「やめて!」と叫んだ。もしも、ブルーノの父親が、縞模様のパジャマを着て、しっかりと手を繋いだ2人の姿を発見したら、何を想像するのだろう。2人の間に交わった友情に、心を馳せることはできるだろうか。それとも、この収容所の所長である自分自身を憎むだろうか。

「戦争はよくない」などという言葉を、私たちは毎日のように、どこかで耳にする。ウクライナやガザ地区、今この時代ですら戦争は続いているというのに、私たちは少し遠い世界のことのようにこの言葉を口にする。
人というのは、何十年、何百年も前からどこかで争いごとをしてきた。だからこそ、争いごとになる前に、お互いの腹のうちを包み隠さず説明することが求められているのではないだろうか。ネットが普及した今この世の中は、自分に都合のいい情報だけを取り込むことはとても簡単で、耳障りの悪いものに耳を塞ぐことも、自分の素性を明かさずに相手へ批判を投げることも誰でも簡単にできてしまう。聞きたくないこと、知りたくないことを知る勇気を持つこと、そして知らない人にどのようにして伝えるかということ。

曇りなき瞳を持つ子どもたちを納得させられるだけの説明ができないのなら、嘘で固めた説明しかできないのなら、その計画は間違いであり、実行されるべきではない。この物語は、今を生きる私たちに必要なこと、説明する責任の重要性を訴えかけている、そんな気がした。

 

Written by Ige


Tokyo Dreamers' Club 💫
毎週木曜0時、夢を夢みる新米社会人ガールズ3人が雑談インターネットラジオをお届け中📻 Spotify Podcast, Apple Podcastにて配信中🌜


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?