見出し画像

どこよりも詳しいGinger Root [1] :来日前の大特集!音楽と映像をひとりで作り上げる、稀代のアーティストを完全解説・前半

(トップ画像出典:Ginger Root — Interview

KINZTOのDr.ファンクシッテルーです。今回は、いま日本で話題になっている新しいアーティスト、Ginger Root(ジンジャー・ルート)について、どこよりも詳しい紹介をしていきたいと思います。

(この記事は前半です。後半を読みたい方はこちらから👇)

Ginger Rootはカリフォルニア州出身のシンガーソングライターですが、👆の動画を観てもらえば分かる通り、まるで80年代のシティポップのような曲を、山下達郎のような風貌で歌いあげています。

私は密かに「カリフォルニアのヤマタツ」と呼ばせていただいていますが、このちょっと不思議なアーティスト性が、いま、日本の音楽ファンにかなり話題となってきているのです。

彼は2023年1月に初来日となるツアーを開催しますが、東京のチケットは即完売。急遽、追加公演が決まったのですが、そのチケットも秒で完売しました。これには本人も喜びの言葉を語っています。

I noticed this tour is also taking y’all to Japan, how are you feeling?

I’m so excited. It’s been a dream to play there ever since I started playing music. The craziest thing that I tell everyone is that our Tokyo show, night one, sold out faster than our hometown. And we added a second show, a second night, and that sold out faster than our hometown, too. I’ve been learning Japanese and I’m so excited to meet with the people and speak, just as colleagues.

インタビュワー:今回のツアーは日本にも行くようですが、どう感じていますか?

Ginger Root:とても興奮しています。音楽を始めてからずっと、日本で演奏するのが夢だったんです。みんなに言っているんですが、東京公演の初日は私の地元(筆者注:カリフォルニア)よりも早くソールドアウトしました。2日目の公演を追加したら、そちらもやはり地元より早く完売しました。私は日本語を勉強しているので、皆さんと会って、日本語で会話するのがとても楽しみです。(筆者注:2022年11月15日公開のインタビュー記事)

出典:Ginger Root — Interview


今回は、来日前にGinger Rootのことを詳しくみなさんに知ってもらうために、彼のインタビュー記事などを引用しながら、彼のルーツ、音楽性、アルバム解説などを行っていきます。

また、Ginger Rootは同じ世代のバンド、Vulfpeckに非常に大きな影響を受けているアーティストです。今回のGinger Root特集は全3回となっていますので、ラストの3回目ではその影響についてマニアックに解説させていただきます。👇

それでは、始めましょう。


Ginger Rootとは?

まず、Ginger Rootとは何か?
バンド?ソロ?というところから。

Ginger Rootは、Cameron Lew(キャメロン・ルー)のソロプロジェクトです。彼はさまざまな楽器を演奏することができ、自らスタジオを所有してミックスやマスタリングも行っているため、レコーディングも自分ひとりで完結できてしまいます。


Ginger Rootという名前は実はVulfpeckのライブ動画から取られたものなのですが、それについては今後の記事で詳しく解説していきます。


ライブでは主にキーボードを弾きながら歌っており、高校時代の友人のMatthew Carney(ドラム)と、Dylan Hovis(ベース)がサポートとして入っています。この2人はGinger Rootの初期から常にサポートを続けており、レコーディングにも参加し続けています。

左からGiner Root、Matthew Carney、Dylan Hovis
画像出典:https://www.b-sides.tv/2020/04/17/on-radar-ginger-root/


Ginger RootはAcrophase Recordsから自分の曲をリリースしていますが、自ら作詞・作曲を手掛けるだけでなく、セルフ・プロデュースで、さらにMVも自分で作っています。


実はGinger Rootは大学時代に映画製作を学んでおり、また現在もフリーの映像編集者として仕事を請け負っているのです。この映像制作に関する要素が、Ginger Rootの活動を知る上で欠かせないファクターになっています。

So my day job is I'm a freelance video editor, I went to film school at Chapman pacifically as specifically as an editor. And so I always find it really interesting how there's a rhythmic element to editing and there's a rhythmic element, obviously to music. And so kind of both of that influencing like edit my, the way I edit influences how I think of music, and songwriting and how I make music definitely influences how I edit to so they are definitely, you know, tied in and attached to one another. So in those regards, like that, those kind of two creative endeavors kind of definitely complement each other.

私は(筆者注:ミュージシャンでもあり、)フリーランスの映像編集者です。編集者として(筆者注:カリフォルニア州の)チャップマン大学に通っていました。映像編集にはリズムの要素があり、音楽にもリズムの要素があります。編集のやり方が音楽の捉え方に影響を与えるし、またどうやって曲やサウンドを作っていくかが編集のやり方に影響を与えるので、これらは間違いなく結びついているのです。そういった意味では、この2つのクリエイティブな力は、お互いを補い合うものだと思っています。

出典:Interview with Ginger Root


例えば2021年の6曲入りのアルバム、『City Slicker』では、架空の映画のサウンドトラックというアルバム・コンセプトを表現したMVを、全曲で制作。映像と音楽を融合させたアルバムを作り出しました。


しかし全6曲とはいえ、アルバムすべての曲を自分で書き、自分で演奏し、セルフ・プロデュースして、レコーディングからミックス・マスタリングも自分で行うだけでなく、

すべてにプロ級のMVを制作し、主演・監督・編集まで自分で行ってしまうアーティストが、過去に果たして存在したでしょうか?

画像出典:Ginger Root - "Juban District" (Official Music Video)

こういった映像と音楽が融合した作品群を、彼は自ら「ジンジャールート・シネマティック・ユニバース (Ginger Root Cinematic Universe、略してGRCU)」と呼んでいます。


しかも、これらの映像はかなり笑える内容になっています。80年代のシティポップをオマージュしながら、独自のユーモアをたくさん入れてきているのです。

画像出典:Ginger Root - "Loretta" (Official Music Video)
画像出典:Ginger Root - "Loretta" (Official Music Video)


MVだけでなく、アルバムやツアーの宣伝も面白いショートフィルムに仕上がっているので、毎回アップされる動画が非常に楽しみになります。


芸術一家の生まれだそうで、他にもグラフィック・デザインなども手掛けている、マルチアーティストです。大学では副専攻がグラフィック・デザインだったとのこと。Ginger Rootが作ってきた作品のまとめは、彼の本名、Camelon Lewのサイトで確認できます。

Hello! My name is Cameron Lew. I'm an editor, musician, audio engineer and graphic designer born and raised in southern California. Coming from a family of artistic minds, I have chosen to follow and venture off into the creative industry, which has taken me to all sorts of places around the globe.
I studied music technology, graphic design, and film production (with an emphasis on editing) at Chapman University. Currently, I am working as a freelance editor, director, & multimedia artist. As well as a frontman and touring musician in my “Aggressive Elevator Soul” project.I have had the pleasure of working with some amazing companies including: HGTV, Fanciful Fox Productions, DreamWorksTV, AwesomenessTV, and Reel Big Studios.
Thank you for visiting my site, and please, feel free to check out some of my original works, as well as some of the wonderful projects I have been able to be a part of.

こんにちは。私の名前はキャメロン・ルーです。南カリフォルニアで生まれ育ったエディター、ミュージシャン、オーディオエンジニア、グラフィックデザイナーです。芸術一家に生まれた私は、クリエイティブな業界に身を置くことを選択し、世界中のさまざまな場所に足を運びました。

チャップマン大学では、音楽技術、グラフィックデザイン、(編集に重点を置く)映画制作を学びました。現在、フリーランスのエディター、ディレクター、マルチメディア・アーティストとして活動しています。また、私の「アグレッシブ・エレベーター・ソウル」プロジェクトのフロントマン兼、ツアーミュージシャンでもあります。

これまで、HGTV、Fanciful Fox Productions、DreamWorks TV、AwesomenessTV、Reel Big Studiosなどの、素晴らしい会社と一緒に仕事をすることができました。私のサイトを訪問していただきありがとうございます。私のオリジナル作品や、私が参加することができたいくつかの素晴らしいプロジェクトを、どうぞお気軽にご覧ください。

http://cameronlew.com/about



アグレッシブ・エレベーター・ソウル

Ginger Rootの音楽を包括的に語るなら、アメリカの60~70年代ソウル・ファンク、日本の80年代シティポップのサウンドに、チルウェイヴベッドルーム・ポップなどの現代的でリラックスした感覚が融合した音楽だと思います。

簡単に言うと、グルーヴィーでポップ、でもなんだかちょっとリラックスできる、おしゃれなサウンドという感じです。


Ginger Rootの影響元は非常に多岐にわたります。Wikipediaでは「ヴルフペック、トロ・イ・モア、ホワイト・デニム、ファイストなどのグループからインスピレーションを受けているとしている」と書かれていますが、これはGinger Rootが活動開始した直後、2017年のインタビュー記事によるもの。

さらに新しい情報として、2021年1月に公開されたインタビュー記事ではこのように語っています。

音楽的な影響を受けたアーティストについて教えてください。

Ginger Root
Toro Y MoiとVULFPECK、Metronomyは確かに大きいな影響を受けたバンドだね。あとKero Kero Bonitoも好き。Bahamasもお気に入りなんだけど、Ginger Rootのサウンドとは違った音楽や、直接的な影響を与えていない音楽を聴くことが多いね。
特に意識的にも、無意識的にも影響を受ける新しいアーティストの音楽が好き。Feistの音楽もとても好きだし、ロックバンドのWhite Denhamもいいね。Feistはアコースティックギターに乗せて歌うシンガーソングライターだし、White Denhamはロックバンド。
直接的な影響を音楽の中に見つけられないかもしれないけれど、無意識で影響を受けているよ。

出典:Ginger Root(ジンジャー・ルート)「RIKKI」ロングインタビュー(後編)「僕はすぐに取り組みたいんだ」


現在はさらにそこに、80年代シティポップからの影響が大きく加わっていると言えるでしょう。そういったさまざまなアーティストから受けた影響のもと生み出される音楽を、彼は自ら「アグレッシブ・エレベーター・ソウル」と定義しています。

この定義づけは彼のマーケティング戦略でもあり、また、自身のジャンルが既存の言葉ではうまく表現できないと感じたことも理由のようです。

I ABSOLUTELY LOVE THE IDENTIFICATION OF YOUR SOUND AS ''AGGRESSIVE ELEVATOR SOUL'' – IT ENCAPSULATES IT SO WELL. BUT WHEN I LISTEN TO SPOTLIGHT PEOPLE THERE’S DEFINITELY A GARAGE-Y SOUND LIKE EARLY WEEZER; WOULD YOU SAY YOU’VE ALWAYS TRIED TO GO WITH ELEVATOR SOUL OR HAS IT DEVELOPED INTO THAT?

Cameron Lew: *Laughs* I think the whole genre of aggressive elevator soul is in place to catch people over. We would play shows and people would ask and if we just said “Indie Pop”…

EVERYONE WOULD BE LIKE 'OK, COOL THANKS' AND DIP.

インタビュワー:私はあなたのサウンドが「アグレッシブ・エレベーター ・ソウル」であるという認識が大好きです。しかし、『SPOTLIGHT PEOPLE(筆者注:2017年のファーストアルバム)』を聴くと、間違いなく初期の WEEZER のような(筆者注:ロックな)サウンドがあります。あなたはいつもエレベーター・ソウルを演奏してきたと思いますか?それとも途中で進化してそうなりましたか?

Cameron Lew(筆者注:Ginger Root): (笑)「アグレッシブ・エレベーター・ソウル」(筆者注:というジャンル名)が、キャッチーに聴衆に受け止められるのだと思います。僕たちはライブをして、みんなは(筆者注:ジャンル名を)尋ねます。もしそこで、僕が「インディーポップです」とだけ答えたら……

インタビュワー:誰もが「へえ、カッコいいね、ありがとう」と言って終わりかもしれませんね。

出典:INTERVIEW: TIME MARCHES ON WITH GINGER ROOT’S THIRD ALBUM, ‘RIKKI’

(筆者注:インタビュワー)個人的にあえて自分で作った音楽ジャンルを自称することは、既存のメジャーな音楽ジャンルへのカテゴライズを避けているように思えます。チルウェーブを思わせる要素があると思えば、ファンクの影響を感じさせるように、あなたの音楽を適切に言い表すジャンルがないのではと。

例えばVULFPECKが”Minimal Funk”と名乗っているように、名乗るまで存在しなかったジャンルを名乗っているわけですよね。安易なラベリングを避けて自分の音楽を届けるような工夫を感じました。

Ginger Root
100%その通りとは言えないけれど、確かにその意図はあったと思う。
多くの人に「あなたの音楽はソウルだね」と言われるんだけど、実際は僕の音楽はソウルとは言えないと思う。スティーヴィーワンダーやカーティスメイフィールドみたいな音じゃないからね。あとインディーポップとも言われる。でも今やほとんど全ての音楽がインディーポップだよね。チルウェーブにも例えられるけど、もう誰もチルウェーブの話はしなくなった。Ginger Rootはチルウェーブを取り戻そうとしているわけじゃないからね。たまにヴェイパーウェーブとも言われるけど、それもちょっと違う。「ソウルが好きで、Toro Y MoiとVULFPECKが好きで、ビートルズも好きで、全部一緒くたにしたんだ」というのもうんざりしたんだ。僕の音楽はそのように説明した時から、僕の音楽が好きでいてくれた人が聴くのをやめて離れていった。そこで思ったんだ。

「もし3ワードで僕の音楽がフィットするジャンルを作ったら興味を持ってもらえるかもしれない」と。あとどこか一つの場所に自分自身を固定したくないし、ラベリングしたくないんだ。ベッドルームポップと言われるけど、プロフェッショナルなスタジオじゃなくて家で録音している人のことを指す言葉だよね?インディーポップと同じような言葉だと思う。100%ではないけれど、確かにオリジナルの言葉で音楽ジャンルを表す意図はあったよ。

出典:Ginger Root(ジンジャー・ルート)「RIKKI」ロングインタビュー(後編)「僕はすぐに取り組みたいんだ」


前述の「ジンジャールート・シネマティック・ユニバース 」も同じですが、彼は多岐にわたる作品群を包括するために"命名"というテクニックを使っている、とも言えるかもしれません。



また彼は日本のポップカルチャーの大ファンで、最近では日本語を勉強し、カナダのライブなのに日本語のMCをしたり、自分の曲を日本語で歌い直したり、「残酷な天使のテーゼ」「君に、胸キュン。」「TANK」などのカヴァーも演奏しています。


Ginger Rootはアルバムごとに少しずつテイストが変わってきていますので、それについては後述しますが、全体的にはグルーヴィーでポップ、でもなんだかちょっとリラックスできる、おしゃれなサウンドだというのは一貫していると言えるでしょう。

さらにそこに、ほぼ必ずユーモアが含まれているのも彼らしいセンス。👇この「Kimiko!」は抱腹絶倒なので非常にオススメです。


デビューまでの経歴

では、彼のデビューまでの経歴と、そこから現在までをアルバムを解説しながら辿っていきたいと思います。

Ginger RootことCameron Lew(キャメロン・ルー)は、1996年ごろに生まれ、現在27歳になったばかりです。誕生日は11月27日。(参照:Ginger Root Twitter


10歳でギターを始め、高校で他の楽器の演奏だけでなく、レコーディングやミキシングなども習得。大学でもバンドを組み、レコーディングも行っていました。

Lew has been playing music since he was ten and his parents got him a guitar–not out of his wishes but of their own. In high school, he did an afterschool program similar to School of Rock and learned mixing, recording, songwriting, and playing other instruments. In college, he backed other bands and played for fellow singer-songwriters before he finally started making his own music under his own project, Ginger Root.

Lewが音楽を始めたのは10歳のときで、本人の希望ではなく、両親がギターを買ってくれたのがきっかけでした。高校では、スクール・オブ・ロックに似たアフタースクール・プログラムに参加し、ミキシング、レコーディング、作曲、他の楽器の演奏などを学びました。大学では、他のバンドのバックを務めたり、仲間のシンガーソングライターのために演奏したりしていましたが、ついに自身のプロジェクト「Ginger Root」で音楽制作を開始しました。

出典:ARTIST SPOTLIGHT: GINGER ROOT TALKS SAILOR MOON REFERENCES IN “CITY SLICKER” EP

I started off on guitar and then in high school, I picked up the bass. From then on, I started to find every instrument interesting and went on from there. I wanted to learn drums so I spent a couple of months learning drums and same thing with keys. As far as transitioning goes, it’s hard in the sense where you have to get a feel for everything but easy in the sense that it’s all notes and rhythms.

僕は楽器をギターから始めて、高校生の時にベースを始めました。それからは、どの楽器も面白いと思うようになり、どんどん進んでいきました。ドラムを習いたかったので、2、3ヶ月かけてドラムを習い、鍵盤も同じように習いました。(筆者注:別の楽器への)移行に関しては、すべての感覚をつかむという意味では難しいですが、音符とリズムだけという意味では簡単です。

出典:A Conversation with Ginger Root.


2012年(高校時代)には、YouTubeで画面分割のレコーディング作品をアップ。これはJacob Collierが同様のスタイルで有名になるよりも前の話で、実は彼は最初から、こういった映像と音楽のミックスをやっていました。このスタイルは、後述する2017年のアルバムに引き継がれていきます。


2013年(高校時代)、Cameron Lew名義で初となるアルバム「Things」をリリース。小曲のコンピ盤となっておりますが、既にかなりの才能を感じさせます。


2015年(大学時代)には「welp.」をリリース。こちらは演奏からレコーディング、プロデュースまで自分ひとりで完結させています。

「Welp.」はリリースに際してライブがあり、動画が残されています。


ちなみに、2015年には日本旅行もしており、彼はそれを映像作品としてまとめています。かなりおしゃれな作品で、音楽も一聴の価値があります。


そして2016年には、Van Stockという友人のバンドで活動。ここでも彼がMVを作成しています。


そしてこのバンドの作曲をしていたとき、Ginger Rootが誕生するのです。


Spotlight People (2017)

Yeah, so Ginger Root started while I was in a band called Van Stock, which is currently on a hiatus. I had written a couple of songs that didn’t really fit that band and so I took them and made an EP out of them. What was then an EP turned into an LP and I slapped the name Ginger Root on it. 

Ginger Rootは、現在活動休止中のVan Stockというバンドをやっていた頃に始まったんです。私が書いた曲の中に、そのバンドにはあまりフィットしない曲がいくつかあったので、それらをまとめてアルバム を作りました。

最初はEP だったものが LP になり(筆者注:最初は5曲だったのが9曲に増えていったので)、それをリリースする時にGinger Root という名前を付けました。

出典:A Conversation with Ginger Root.

Ginger Rootとしての名称が考え出されたのは、彼が大学時代の2016年。Van Stockではなくソロで曲を発表する名義を探していたときのことでした。

Ginger Root started off as a low-key project in summer of 2016. Lew had always accompanied his friends’ bands and wanted to see how he would do on his own. He mentions how it’s a “whole different dynamic from backing someone up to having your own project.”

Ginger Rootは2016年の夏、控え目なプロジェクトとしてスタートしました。彼はいつも友人のバンドで伴奏をしていましたが、自分だけで何ができるのかを知りたがっていました。彼は「誰かをバックアップするのと、自分のプロジェクトを持つのとでは、まったく違う原動力になる」と語ります。

出典:GINGER ROOT WENT FROM RECORDING MUSIC IN HIS CAR TO ROCKING THE STAGE


そして、2017年に正式にアルバム「Spotlight People」でデビュー。これはまだレコード会社に所属しない、インディーズ作品です。

レコーディングにはGinger Rootだけでなく、現在も彼をサポートしているMatthew Carney(ドラム)、Dylan Hovis(ベース)や、彼の友人たちが参加しています。

MVも、もちろんGinger Rootの編集によるもの。これはVulfpeckの影響を非常に強く感じさせるMVで、前述の日本旅行で撮影された映像も使われています。このMVが、Ginger Root名義では初の映像作品となりました。

How long did it take for you to put the EP together? Do you have a favorite song from the EP to perform?
Originally this was supposed to be a 5 track EP. I recorded most of the parts in 5 days in Kentfield up north in my Aunt and Uncle’s house. (Shout out to Uncle Rob and Auntie Donna). But upon returning home, I wanted to bring some of my friends to help sprinkle their talents on the project. (Shout out to Kira, Emily, Nick, Antwon and my Latin Music Professor!). So I ended up writing more songs and now the 5 track EP expanded into what is now the finished 9 song LP. So after writing 4 more songs and mixing during the school year, it took about 9 months. I think my favorite song to play live is “Emulous”. Anthony, Matt and I kinda rearranged the song to be more dynamic live. 

インタビュワー:EPをまとめるのに、どれくらいの時間がかかりましたか?また、EPの中でお気に入りの曲はありますか?

Ginger Root:もともとは5曲入りのEPになる予定でした。北部のケントフィールドにある叔母と叔父の家で、5日間かけてほとんどのパートを録音ました(Rob叔父さんと、Donna叔母さんに感謝)。でも帰ってきて、私は友人たちの才能をこのプロジェクトに注ぎ込みたくなったのです。(Kira、Emily、Nick、 Antwon、そして私のラテン音楽の教授に感謝!)。

それでもっと曲を書くことになり、5曲入りのEPが9曲入りのLPになっていったのです。ミキシングも学期中にやったので、まとめ上げるまでに9ヶ月くらいかかりました。ライブで演奏するのに一番好きな曲は "Emulous "です。アンソニーとマットと僕は、ライブでよりダイナミックに演奏できるように、この曲をアレンジしていきました。

出典:Ginger Root Discusses His New EP "Spotlight People"

In My Dreams」のようにロックも収められていますが、全体的にはかなりチルウェイヴやベッドルーム・ポップを感じさせる、リラックスしたアルバムです。



Toaster_Music (2017)

Ginger Rootは初アルバムをリリースした後、今度はYouTubeを毎週更新して、それをアルバム化します。

それがカヴァー中心の連作、「Toaster_Music」シリーズです。

(👆ジャケットの日本語表記で伸ばし棒の向きをあえて間違えているのは、流行だったヴェイパーウェイヴやフューチャーファンクの影響を感じさせます)


2017年のGinger Rootは大学4年生でしたが、授業と授業の間に3~4時間の空きがあったため、彼はそこで動画撮影をすることにしました。

基本的に一人で演奏・撮影・編集を完結。選曲も60~70年代のソウルから、Vulfpeckのカヴァーまで多岐にわたっており、彼のルーツがかなり垣間見える内容となっています。

また編集は画面分割スタイルとなっており、これも過去の動画作品を彷彿とさせます。非常にかっこよく、おしゃれで、しかもちょっとユーモアのある、まさにGinger Rootのスタイルだと言えるでしょう。

”Toaster Music”を始めようと思った唯一のきっかけは、大学在学中に授業の履修の関係で3~4時間ぐらい空いてしまうことがあったんだ。学校に住んでいるわけでもなかったし、車で通っていたからね。家に帰る時間ももったいないし、課題もやりたくなかったから、ある日の朝、楽器を車に積んでどこかに停めて曲を作ろうと思ったんだ。空きコマの3時間でね。(今はカバーソングを収録している)一番最初のToaster Musicの曲はオリジナルソングだったんだ。でも1週間で曲を書くのはちょっときつかった。

だから今までカバーソングに取り組んだこともなかったからチャレンジとして1週間に1曲やってみようと思ったんだ。1週間でレコーディングをして、撮影して、編集するんだ。
ちょっとしたクリエイティブなプロジェクトだった。大学の学期は14週間あるんだけど、毎週1曲作り続けて、最後は全て同じアルバムにまとめ上げた。課題に取り組みたくなくて、まとまった時間があったからこのプロジェクトが始まったんだ。コンピューター室にいきたくなかったし、遊びに出かける友人がたくさんいたわけでもなかったからね。

その3時間は僕がやりたいことをやる時間になって、同じ要領でセカンドアルバムを作った。その3時間が経った後は、授業にイヤホンを持ち込んで、耳に当てて、作曲をしていたよ。
授業には集中してなくてスコアは低かったけど、なんとか単位は取れていたよ。その空き時間を、生産的でクリエイティブに、でもそこまでキツすぎないことに取り組む時間にしたかった。

出典:Ginger Root(ジンジャー・ルート)「RIKKI」ロングインタビュー(後編)「僕はすぐに取り組みたいんだ」

Lew has a weekly YouTube series called “Toaster Music” – where he primarily performs oldies covers in his 2004 Honda Element. (These covers eventually made their way to a 14 track album, featuring one original.) The idea derived from not wanting to do homework during his four hour break between classes.
So, he decided to pack his van with gear and turn to his preferred form of escapism – playing music.
He spent this time recording vocals and playing guitar, keyboard, bass and drums, mixing  it via the car stereo on his laptop. All within his four hour time slot. Lew spent another two to three hours editing in his next lecture, where he got away with slipping earphones in and publishing the final product. His natural talent for filming and editing shines through in his videos, delivering not just quality music, but quality videos as well for viewers.
People enjoyed the first season of his cover series so much that they wanted him to do another. And so he did despite juggling school full-time.

Lew(筆者注:Ginger Root)は毎週YouTubeで「Toaster Music」というシリーズを配信しており、主に2004年製のホンダ・エレメントでオールディーズのカバーを演奏しています。(このカヴァー曲は、最終的に14曲入りのアルバムになり、オリジナル曲も1曲含まれています)。

「授業の合間の4時間の休憩時間に、宿題をしたくない」というのが、このアイデアの発端でした。そこで彼が取った「エスケープ」は、車に機材を積み込み、音楽を演奏するということでした。

4時間という限られた時間の中で、ヴォーカルを録音し、ギター、キーボード、ベース、ドラムを演奏し、カーステレオからノートパソコンでミキシングする。さらに2〜3時間かけて、次の講義でイヤホンをつけて編集し、完成したものを公開しました。彼の撮影と編集の才能はビデオでも発揮され、音楽だけでなく、ビデオでも質の高いものを視聴者に提供しています。

これらの動画が好評だったため、次もやってほしいという声が上がりました。そして、フルタイムの学校生活を送りながらも、彼はそれを実現させたのです。

出典:GINGER ROOT WENT FROM RECORDING MUSIC IN HIS CAR TO ROCKING THE STAGE

I mean I chose the songs two days before and only had three hours to do it, so I picked songs I was really familiar with. A lot of the soul songs were 45s my Grandparents sold and or gave to me; and I listened to Glenn Campbell and Feist a lot in high school. Honestly, they just felt like the classic songs that were warm and nostalgic.

曲を選んだのは 撮影の2 日前で、しかも(筆者注:撮影に使えるのが)3 時間しかなかったので、自分がよく知っている曲を選びました。ソウル・ソングの多くは、祖父母が私に売ったりくれたりした レコードのシングル盤の曲でした。高校時代はグレン・キャンベルとファイストをよく聴いていました(筆者注:ので、このアルバムでもカヴァーをしました)。僕はそれらの曲を、懐かしくて温かみのある、クラシカルな曲のように感じていたんです。

出典:INTERVIEW: TIME MARCHES ON WITH GINGER ROOT’S THIRD ALBUM, ‘RIKKI’

I have a home studio where I record all my stuff but as far as Toaster Music goes I use one SM-57 mic, a little zoom recorder, and that’s it. In regards to sound, I have two drums, a synth by Roland, a bass, and a classical guitar.

私は曲のすべてを録音できるホーム スタジオを持っていますが、Toaster Music に関しては、SM-57 マイク 1 本と、小さなZoomレコーダーしか使っていません。楽器は、ドラム2セット、ローランドのシンセ、ベース、クラシック・ギターだけです。

出典:A Conversation with Ginger Root.


「Toaster Music」は好評だったため、第2弾と第3弾が作られました。第3弾に関しては、大学を卒業していたにも関わらず、そのまま車の中で撮影とレコーディングを行っています。

大学を卒業した後に作ったサードアルバムも車で撮影されていますね。その必要性はなくなったんじゃないかと思ったんですが、やはり意図的に車で撮影をされているんですか?

Ginger Root
そうだね。最初の2枚のアルバムは他に場所がなかったから車で撮影した。
車の中でレコーディングや撮影するのはクリエイティブなチャレンジだった。ある意味車は自分にとってのクリエイティブな境界線みたいなものさ。あとは少し戦略的で、大学を卒業して車で撮影する必要は確かになかったんだけど、大学卒業した後にサードアルバムをいまだに車の中で撮影しているのって面白いな!と思ったんだ。

出典:Ginger Root(ジンジャー・ルート)「RIKKI」ロングインタビュー(後編)「僕はすぐに取り組みたいんだ」


第2弾と第3弾はサブスクで公開されておらず、BandcampかYouTubeで聴くことができます。ですがどれも素晴らしい演奏と編集なので、彼のルーツを知りたい方は是非観ていただきたいです。


こういった生活を経て、映像専攻だった彼は、卒業後は映像ではなく音楽をメインの活動にしていくことに決めます。

College made him realize his passion for music surpassed his love for his major. Music became his “therapeutic escape” from the film world.

大学生活を通して、彼は音楽への情熱が専攻への愛情を上回ったことに気づきました。音楽は、映画の世界からの「癒しの逃避先」となったのです。

出典:GINGER ROOT WENT FROM RECORDING MUSIC IN HIS CAR TO ROCKING THE STAGE

自らの肩書を何にするか?ということは重要な問題ですが、映像編集をメインとして、アマチュアで音楽を続ける、という道もあったはずです。ですが彼は、ミュージシャンとしての肩書を大きく掲げ、音楽の道を歩んでいくという、大きな決断をしました。


そして、いよいよここからGinger Rootはレコード会社と契約し、本格的なアーティスト活動をスタートさせていくのです……。


この続きは次回の記事で!👇




―――――著者情報――――――

Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク博士。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動しています。

「KINZTO」の活動と並行して、音楽ライターとしても活動しています。

■バンド公認のVulfpeckファンブック


■ファンクの歴史


■Twitterでファンクの最新情報・おすすめ音源を更新


もしよろしければ、サポートをいただけると、大変嬉しく思います。いただきましたサポートは、翻訳やデザイン、出版などにかかる費用に充てさせていただいております。いつもご支援ありがとうございます!