ジョン・W・キャンベル『無限からの侵略者』十章 試訳

 アメリカのSF作家にして名編集者ジョン・W・キャンベルの〈アーコット・モーリー&ウェイド〉シリーズ最終作の邦訳です。第一作の『暗黒星通過!』は早川書房から野田昌宏訳が出ています。第二作の『宇宙の島々』は拙訳がKindle版で販売中です。『無限からの侵略者』の第九章まではブログにあります。
 ざっくりあらすじを述べると、天才科学者アーコットたちが宇宙船を乗りまわして冒険する話です。本作では地球と同等のテクノロジーを有する敵性種族・ゼット人が登場し、戦いのスケールもぐんと大きくなっております。スペースオペラでありながら、ハードSFめいた科学考証が魅力のシリーズです。

『無限からの侵略者』
十章 改良、そして計算

「まだ信じられませんよ。それでも、あなたは成し遂げた。疑う余地のない成功ですよ」とタルソ人科学者は言った。
 アーコットは首を振った。「成功からは程遠いです――ぼくらはこの凄まじい発明の千分の一も理解できていません。研究して、計算して、創造しなければなりません。
「シールドとしての可能性でを考えてみてください――必然的にぼくらのつくる物質は、性質を好きなように制御できるものとなります。不透明にも、透明にも、どんな色にもできます」アーコットはモーリーの方を向いた。「覚えているかい、最初にこの宇宙を飛び出したとき、例の宇宙線帯に入って、ぼくが膨大すぎて述べることもできないエネルギーについて考えているって言ったのを?(訳注:『宇宙の島々』七章を参照) その力を必要なら解放すると言っただろう? いまこそ必要なんだよ。あの秘密を探り出したいんだ」
 ステル・フェルソ・テウは、窓の外の興奮して手を振っている集団を見ていた。彼は他の者にひとこと言って出て行った。アーコットとウェイドも続いた。
「みなが言ってたのはフェルシェというここよりずっと極地寄りの都市のことで、八発中の四発を撃ってしまったのです。いまも攻撃を受けてます」とステル・フェルソ・テウは説明した。
「では船内へ」アーコットは短く言うと船へ走った。ステル・フェルソ・テウが慌てて後を追い、〈エンシェント・マリナー〉は空へ舞い上がり、疾駆し、タルソ人の指示通り極へ向かった。地面が飛び去る速さにタルソ人科学者は手すりを強く握りしめており、神経質になっていることが窺えた。
 接近すると、凄まじい衝撃と空の巨大な光のしみが、ゼット艦数隻の消滅を告げた。だが、艦隊の大部分は都市上空に集結していた。アーコットは低空から近づいたので、探知される前に間近まで迫ることができた。光線スクリーンが張られる一方、モーリーは小さくはあるが人造物質装置を使うため充電していた。球体を船外につくり、いちばん手近のゼット船へ送り込むと同時に、分子光線が〈エンシェント・マリナー〉のスクリーンに命中した。
 人造物質はすぐに激しく爆発し、かすかではあるが強靭なラックス金属壁を凹ませた。光圧は凄まじく、リラックスの内壁は内側へ歪んだ。地上が瞬間的に溶融する。
「なんてことだ――あれは光線スクリーンを通過できないぞ」モーリーが小声で言いつつ、放り出された場所から起き上がった。
「おい――無理するなよ。きみがスクリーンをちかちかさせちまったし、リラックスもかなりまずいことになってる」アーコットが叫んだが、心配の滲む声色だった。
「人造物質はスクリーンを上げたままじゃ使えないな。磁石を使ってみよう」モーリーも叫んだ。
 彼は装置を切り、巨大な磁石コントロールへ行った。機関室は物でいっぱいだ。戦闘はいまこの瞬間にも激化しており、三隻が同時に攻撃してきたため、途方もない船の発電能力をもってしても充分でなく、蓄電コイルも駆り出されている。モーリーはちらっと計器類を見た。すべて限界に達しているが、コイルの電流計だけは別だった。まだ何も示していない。突如、針が振れ、他の計器はゼロを示した。人造空間に入ったのだ。
「こっちに来てくれないか、モーリー」とアーコットが呼びかけた。すぐにモーリーはひどく心配している友達のところへやって来た。
「人造物質の制御は光線スクリーンがあるとうまくいかない。ゼットはここだと分子光線に対して防御する必要がないから、スクリーンを上げてなかった――その結果が破滅だ。ぼくらはスクリーンを下げるわけにはいかないし、最終兵器はスクリーンを上げたままじゃ使えない。もし大きい人造物質装置があれば、船中のスクリーンを投げうって、まっすぐ突っ込むんだがな。でも、そんな装置は持ってない。
「あの艦隊が相手じゃあ十秒も持たない。そこで奴らの基地を見つけて、救援を求めさせようと思う」アーコットは、小さなスイッチを一刻み、一瞬だけ動かし、また戻した。船はいま惑星から数百万マイル離れていた。「なるべく早く」と説明した。「奴らの船が帰投するのを追いかけて――時間内に戻って来る」
 電望鏡を使って、彼は様々な距離から観測し、敵を素早く追尾し、極地の基地へ帰港するのを辿った。すぐに船を飛ばし、極地へ一秒以下で到達した。慎重に空間を制御したのだ。
 研磨したリラックス製の大ドームが岩だらけの氷原に聳えていた。高さは半マイル近く、巨大な丸屋根は直径四分の三マイルの範囲を覆っている。巨人的――それが唯一、可能な表現だった。周囲で踊る奇妙な光は分子光線スクリーンだ。
 モーリーは機関室へ走り、人造物質装置を起動した。球を船外につくり、要塞へ発射した。球は光線スクリーンに命中した途端に炸裂し、凄まじい衝撃を生んだ。すぐに第二射が続く。衝撃は激しく、周りの地面が溶融し、スクリーンが一瞬だけ開いた。アーコットは全分子光線をスクリーンに浴びせ、モーリーは次々に爆弾を送り込んだ。コイルがエネルギーを供給し、そのエネルギーが岩を砕く。エネルギー放射が光線スクリーンを束の間かき乱し、収束した分子ビームの激流が開いたスクリーンを通ってなだれ込み、背後にあるリラックスを打ちのめす。いまやリラックスは直径二十フィートの領域にわたって虹色に輝いている。しかし、そのリラックスは途方もなく分厚かった。三十発の爆弾をモーリーが撃ち出す間、船は易々と位置を保ち、爆弾と光線を浴びせ続けた。
 アーコットは船を宇宙へ飛ばし、移動させ、最初のところから三百フィートほど離れたところに再出現させた。鋭く一瞥して、敵艦隊が接近しつつあるとわかった。再び宇宙へ飛び、退却した。分別は勇気の大部分を占める。が、彼の計画はすでに動き始めていた。
 三十分待ってから戻った。距離を取って電望鏡で覗くと、一隻が要塞の周りを哨戒している。彼はそちらへ向かい、氷を被った山々の後ろから接近した。磁力ビームを発射した。敵艦がよろめき、墜落する。磁力ビームは要塞の方へ伸びたが、要塞はすでに分子光線を発射しており、氷の屑を巻き上げて彼の視界を奪った。光線スクリーンが敵のビームを食い止める間、モーリーは再び磁力ビームを――今度は要塞へ撃った。光線は止まってしまった! アーコットは急いで撤退した。
「奴ら、秘密を見破ったか。もういいぞ、モーリー、上がってきてくれ」と操縦士は叫んだ。「どうやら磁気遮蔽を施したらしい。つまり磁力ビームは役に立たない。きっと他の基地にも警告するだろうし、そうなれば同様に守りを固めるはずだ」ここまで推敲
「なぜ磁力ビームを初戦で使わなかったんです?」とゼズドン・アフセンが訊いた。
「ビームがうまくいって、奴らの通信装置を壊したら、メッセージを送れなくなって、フェルシェの部隊を引き揚げるのは不可能になってしまいます。奴らに艦隊を呼び戻させることで、攻撃では得られない結果を引き出したわけです」とアーコットが言った。
「ぼくにできることはないようです、ステル・フェルソ・テウ。これからあなたをシェストへお連れして、最後の調整をするつもりです、そうすればわたしが戻るまで、それらの装置が敵を倒してくれます。ぼくと一緒に来るのもいいでしょう――あなたが望むのであれば」そして旅の一行を見回した。「次は地球に戻って、いままでに得たものを持ち帰ります。それからシリウス星系を調査して、シリウス人が興味を持ちそうなことを調べ、そして――真の外宇宙へ、銀河間宇宙の完全な虚空へ向かい、例の莫大な力の秘密を探りに行きます」
 シェストに戻り、アーコットは手放せる唯一の予備発電機を据え付けたが、これはすでにタルソの所有となっていて、他の地球船がもっと多くの発電機を運んでくるまでは使われることになる。一行は地球へ旅立った。一時間また一時間と虚空を飛び、ついに懐かしの太陽が眼前に膨れ上がり、最後には地球そのものが大きくスクリーンに映し出された。彼らは信頼できる分子ドライヴに切り替えて、ヴァーモントの原っぱへ、飛び立った場所へ降下した。
 長い航海の間、モーリーとアーコットは多くの時間を時間歪曲場の研究に費やした。これは時間の支配という途方もないものをもたらし、時間進度を凄まじく早めるのも、遅くするのも自在になる。ようやくその研究が終えて、人造物質の理論に移り、形状を完全に制御するところまで進んだが、いまだに本質的な制御はできなかった。が、そうした制御ができるだろうということは、装置の試験結果から明白だった。アーコットの当座の興味は形状の制御にあった。性質の方はといえば、不透明から透明までのあらゆる振動を、通常物質でそうするのと同様に、操れた。可視光を通すか否かを自由に選べたが、宇宙線を阻むのはできず、電波や分子光線も止められなかった、最後の二者に関しては既存のシールドで止められるのだが。
 大気圏の外で減速すると同時に通信を送って、離着床に着陸すると、そこにはすでにアーコットの父や多数の有能な科学者が集まっていた。
 アーコット老は息子を温かく迎えたが、ひどく心配そうで、息子もすぐそれを感じ取った。
「何が起きたんです、父さん――みなは父さんの声明を信じようとしないんですか?」
「みなは、わたしがルナへ惑星間会議に向かったときに、うさん臭く考えていたんだが、たいしたことを言う前に、たっぷり声明の証拠を手にしたよ」と老人は答えた。「入電した情報では。惑星間警備隊の艦隊が、外宇宙からきた艦隊の前に全滅した、ということだった。敵は非常に巨大だった――全長半マイル近くもあった。警備艦がその艦隊へ飛んでいった――五十隻からなる艦隊だった――そして話し合いのため信号を送った。その白い警備艦は一瞬で消滅した――どうやったのかはわからない。向うは光線スクリーンを持ってなかったが、それが答えではない。あれが何だったにしろ――かすかに光る光線だったが――ただラックスやリラックスのエネルギーを解き放っただけなんだ。材料が光エネルギーで、単に光子間の引力で結ばれているだけだから、壊れると猛烈なエネルギーを出すんだな。敵はそういった方法が可能なんだよ、それもほぼ一瞬で、離れたところからできる。他の警備艦は一斉に分子光線と宇宙線を撃ち込んだ。敵は分子光線をねじ曲げ、警備隊を瞬く間に葬った。
「とにかく、大艦隊は離散して、十二隻が地球の北極へ、また別の十二隻が南極へ、同様にしてそれぞれ十二隻が金星の両極へ向かった。それから一隻が回頭して、もといたところへ報告しに行った。方向を変えると、たちまち消えてしまった。同じように金星からも一隻が発進して消えたよ。これで十二隻が四つの極に残ったから、つまり、五十隻近くいるわけだな。
「奴らはみな同じ戦術を使って上陸してきたから、北極で起きたことを話すだけでいいだろう。北極で奴らが選んだのは、数ある島の一つで、極よりやや南寄りのところだった。百平方マイルの氷を溶かして島を見つけたのさ。
「艦隊がぐるりと上陸地点を囲み、文字通り数百人がどっと出てきて作業に取りかかった。短時間のうちに、大量の機械を組み立てた。部品は船から運んできたんだ。機械類はすぐ稼働し、奴らはリラックス璧をつくり始めた。壁の厚みはいちばん薄いところでも六フィートもあった。床は厚いリラックスと一続きで、これは屋根も同じだったから、一続きの壁として完璧なドームをなしていた。多くの機械を投入してたから、二十四時間以内に作業は終わってしまった。
「われわれは二度攻撃し、一度目ははほぼ全軍を挙げ、光線シールド装置も使った。結果は惨敗だよ。二回目は光線シールド装置のみを使い、両軍とも損害は軽微だったが、敵はどういうわけか飛んできた氷の屑に悩まされていた。リラックス分解光線が出てこないんで、不思議に思ったよ。
「昨日――もっと前のことに思えるよ、息子よ――奴らは攻撃を再開した。どうやらずっと荷物を降ろしていたらしい。シールド装置を送り込んだが、溶融するだけに終わった。敵は進軍し、地球軍は撤退した。奴らは要塞にいるよ。どう戦えばいいのか見当もつかない。頼むから、何かしら武器についてわかったと言ってくれ、息子よ!」
 老人の顔には皺が刻まれていた。灰色の髪が何時間にも及ぶ激務を物語っている。
「何かしらは」とアーコットは短く答えた。周囲を見回した。他の者たちがやってきた、彼がともに働いてきた男たちが。しかし、そこには金星人もおり、防護服に身を包んで地球の寒気と大気を絶縁している。
「ですが、最初にですね、紳士のみなさま、こちらの方々を紹介させてください、まずこちらは惑星タルソのステル・フェルソ・テウ、戦争における同盟者の一人です、そしてこちらはオルトのアフセンとフェンテス、別の同盟者です。
「進捗については、ほぼ初期段階にあるとしか言えません。大きな進歩の基礎、計り知れぬ価値を持つ武器の基礎はすでにできあがってます――が、基礎だけです。研究しなければなりません。今日のところは、時間フィールドについて完成した計算と方程式を預けておきます、そのシステムを使ってゼットの侵略者は船を駆動し、光より遥かに速く飛ばしているのです。加えて、こちらは完成していない別の計算も残しておきます、こちらの武器は同盟者のタルソが提供してくれたもので、ぼくらの発電機の使用許可と引き換えに入手しました。ここで強く推奨しておきますが、大量の発電機を銀河間輸送船に載せてタルソへ送り込むべきです。電力を渇望しているんです――それもかなりの量を。
「ぼくは地球に長居するつもりはなくて、できるだけ早く発とうと思ってます。しかし、北極基地への攻撃は試してみるつもりです、奴らが〈エンシェント・マリナー〉のある武器に対しては防御してないことに望みをかけて――が、悲しむべきことに地球自身がぼくらを裏切っているのですよ。磁力ビームを使いたかったのですが、地球の磁極のせいで奴らは装甲せざるをえませんし、ビームの効果を防ぐ物資も充分に持ってるはずです」
 モーリーはすでに地上要員に補修を始めさせていた。設計図を手近にいた技師に渡し、大型の人造物質装置用の特殊な制御盤をつくるよう命じた。アーコットとウェイドは喉から手が出るほど欲しかった装置類を入手した。
 六時間と経たずに、アーコットは準備よしと宣言し、惑星間警備隊の一個戦隊も〈エンシェント・マリナー〉改につき添う用意を整えた。
 一行が北極へ注意深く近づくと、氷が溶け、光線を浴びて水蒸気へ変化する甲高い唸りに出くわした。音は仮設基地の前衛から響いていて、そこでは小さなドームが氷塊の下に潜んでいた。しかし、そのドームはリラックスでできていた。分子ビームが警備艦から放たれ――そしてその船は突然、被弾箇所からぼろぼろに崩れ、数ダースの分子と化した。
「奴ら、この手の戦いのやり方がわかったみたいだな。向うの方がかなり有利だぞ」とアーコットが呟いた。ウェイドはただ罵るだけだった。
「光線スクリーンだ、分子光線は使うな!」アーコットが送話器に叫んだ。彼は指揮官ではないが、みなはその知恵を目の当たりにしていたので、戦隊の司令官は助言を命令として繰り返した。その間にも、もう一隻が轟沈した。ドームはスクリーンを張り、隠れ潜むおびただしいステーション群に攻撃させた。
「むむ――地球人が要塞に白旗を揚げるときどうするか、よく覚えとかなきゃな。みんなやるつもりだろう、この戦争が終わる前に。その方法ならメインの要塞はスクリーンを下げずに戦える」アーコットがコメントした。彼は、小さな船が母船から分離し、途方もなく強力な分子光線が要塞のスクリーンに噛みつくのを、熱心に見守っている。小船は空飛ぶ光線プロジェクタ以外の何ものにも見えなかったし、事実、そういうものだった。
 期待した通り、その致命的な光線は要塞側面にあるどこかで消えた。要塞内部からではない。
「ということは」とモーリーが指摘した。「奴らはあれに耐えるものをつくれないわけだ。きっとプロジェクタを狙ってくるぞ」
 しかし、さっそく放った熱線の弾幕は見たところ何の効果もあげなかった。無線操縦の小さな分子ビーム・プロジェクタは溶けた氷の下の岩盤に転がり、急速に放出されるリラックスのエネルギーで白熱している。
「さて、ここからが本番だ」モーリーは機関室へ這い戻り、磁力ビームのコントロールを起動した。船が射線に乗ると、最後のスイッチを弾いた。巨体が荒々しく震え、ビームが地球の磁心を引き寄せるとともに、ぐいと前進した。
 モーリーには見えなかったが、ほとんど瞬間的に要塞の分子スクリーンのきらめきは消えていた。殺人光線がゼットのプロジェクタから放たれ――途絶えた。大慌てでゼット人は武器を次から次へと試したが、それらは起動すると同時にだめになった――凄まじい磁場にあるのだから当然の結果だ。
 そしてゼット人は鉄の骨を持っていたので、ビームに引きつけられた。ビームが触れると同時に、上空の船へ持ち上げられたが、莫大な世界の莫大な重力に慣れているため、おおかたは死なずに済んだ。
「ああ!」アーコットが叫んだ。送話器を取り上げて、また戦隊司令官に通信した。「サーントン司令、そちらの船のリラックスはどれくらいの厚みですか?」
「一と四分の一インチです」と驚いた声が返ってきた。
「他にもっと厚い装甲を持つ船はありますか?」
「ええ、特殊太陽調査艦は五インチ厚です。どうしましょうか?」
「その船にスクリーンを下げて、全要塞を攻撃するよう言ってください。リラックスの耐久時間は、奴らにスクリーンを上げさせるには充分でしょう、何か天才が徹底抗戦しようと思いつかないかぎりは。他の船もスクリーンを下げられるようになり次第、そのむね命令して、攻撃するよう言ってください。ぼくもそのときに参戦します。こちらのリラックスは燃え尽きてしまったので、スクリーンを下げたくないのです。すでに恐ろしく薄くなってますから」
 戦隊司令官は陽気に笑って、その助言を命令として伝達した。
 すぐに、ずんぐりしてほぼ円筒形の船が一隻、スクリーンを下げた。一瞬のうちに変質の証である乳白光が艦体に出現したが、数十基の光線プロジェクタは稼働に入っていた。要塞が次々と乳白光を発し、遮蔽に伴うイオンが瞬く。素早く、他の船もスクリーンを下げ、攻撃に参じた。あっという間に、要塞群はスクリーンを張って守りに徹さざるをえなくなっていた。
 直径十フィートの人造物質製円盤がいきなり〈エンシェント・マリナー〉のそばに出現した。猛烈な速さで飛んでいき、要塞の巨大ドームに衝突、ドームは凹み、歪んで、どんどん歪んだが――穴は開きそうになかった。円盤は後退すると、鋭い円錐に変じ、再び突き進んだ。今回は先端がリラックスを粉砕し、小さな穴が開いた。円錐はだんだん変化して、直径二十フィートの円筒になり、穴はあっけなく広がった。円筒が大きな円盤になるまで穴は広がり続け、ついには差し渡し百フィートの穴が壁に開いた。
 唐突に円盤が消えた。凄まじい唸りが響き、巨大な白の円柱が穴から噴き出す。ゼット人が激しい気流に捕まって飛んでいく。最後には内部が見えるようになった。猛烈な圧力のせいで何隻もの船が要塞内からアザミの綿毛のように吹き飛ばされた。〈エンシェント・マリナー〉も途轍もなく膨張するガスを受けて後ずさった。雪が眼下で沸き立つ水に降っていたが、これは水の雪とはまったく別物だ。いくぶんかは二酸化炭素――またいくぶんかは酸素で、気体が膨張するなかで冷却されたのだ。ドームのなかでも雪が降っていた。落下するゼット人は、命の源であり長く親しんでいた気圧を奪われていた。しかし、こうした光景が見えたのはほんの一瞬だった。
 次に小さく薄い人造物質のシートが要塞のそばに現れ、ドームへ向かっていった。ナイフがオレンジを剥いていくように、シートはドームの縁を巡り、途方もない気圧のもと、大ドームは茶瓶のふたのように持ち上がり――自重で落下した。
 人造物質は再び巨大な円盤となった。そしてドームのど真ん中に乗っかり――沈んだ。ドームが凹む。まったく測りがたい荷重によって砕け散った。大円盤は、恐ろしいタンパーのように、ゼットの建築すべてを島の地盤へ押し込めた。すべての船、要塞のあらゆる細部、すべての人員が下敷きになり――抹殺された。
 円盤は消滅した。凄まじい熱線の弾幕が島に浴びせられ、岩は溶解して廃墟を流れ、後には北極の氷だったものの泡立つ流れが溶岩から出てきているだけだった。岩塊に沸き立つプールができていた。
 〈北極の戦い〉は終わった。

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