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記事一覧
怪談市場 第七十一話
『敗戦とキジ』
第六十二話『弓道場の怪 後篇』で登場した老教師から聞いた話。
その学校には、教師たちの間で語り継がれている伝説がある。
昭和40年代初頭のこと、一人の男が学校を訪れた。
体格のいい中年男だったそうだ。
彼は校長に面会を求め、頼みごとをした。
「一緒に爆弾を探してください」
男が打ち明けたのは、次のような事情だった。
時代はさらに遡って終戦間際、昭和20年の夏。
怪談市場 第六十九話
『社員寮』
同級生の弟、ケンジ君(仮名)の体験談。
彼は専門学校を卒業して、都内の自動車部品メーカーに就職した。
会社には社員寮があったため、入社にともない入居手続きを取った。
欲しいバイクがあったから、家賃を節約して給料を少しでも貯金に回そうという考えだ。
社員寮は二人一部屋。同室者はやはり新入社員のモトキ君。ケンジ君同様バイク好き、遊び好き、女好きで、会ったその日から打ち解けた。
いろいろと
怪談市場 第六十八話
『千羽鶴』(多岐川先生6)
クラスメートの女子が入院したため、みんなで千羽鶴を折ることになった。
はじめは学級内の活動予定だったが、自然と話は広がって、他のクラスの友人や部活の後輩たちも協力を申し出てくれた。そうなると教室では手狭なため、放課後の図書室で作業することに決まった。
放課後の図書室は閑散としていた。
空いていた大テーブルをふたつ借用し、みんなで鶴を折った。
「病気なんかに負けんな」
怪談市場 第六十七話
『自動販売機』
「その自販機が異様だと感じた原因は音声でした」
そう語る菊池さん(仮名)は当時、全国チェーン飲食店の支店長を務める三十代に突入して間もない独身男性。職場は俗に言うブラック企業で、バイトのシフト組みから調理、清掃、仕入れまでこなす典型的な雇われ店長。過労死寸前の激務をぬって五分、十分の隙間時間を確保し、店舗の裏口にほど近い自動販売機で缶コーヒーを飲むひと時が、菊池さんの心と体が休
怪談市場 第六十六話
『バンバンバンバン』(I君 3)
海は、とくにコンクリートの平面で構成された漁港は、反響によって予想外の方向から思わぬ音が聞こえ、首を傾げることがある。
I君は休みの前日、仕事帰りにK港へと足を延ばす。ルアーでアジを釣るためである。柔らかな竿で極細の糸に結んだ小さなルアーを投げる。小刻みに水深を変えながら探り、吸い込むような微かなアタリをとる。針に掛かっても油断できない。口が弱いアジは、少しで
怪談市場 第六十五話
『砂男』(達也さん 2)
「僕は団地生まれの団地育ちなんです」
そう言って達也さんは、関東でも屈指の規模を誇る団地の名をあげた。
保育園や小学校も、団地に併設されていたそうだ。
それは、当時の達也少年が小学校低学年のころに体験した怪異。
放課後や休日は、やはり同じ団地住まいの同級生と、団地内の公園で遊んだ。中でもお気に入りは砂場。友達とミニカーや超合金ロボを持ち寄り、トンネルを掘ったり地
怪談市場 第六十四話
『やわらかに降るもの』(Nさん 2)
地方都市で工場に勤務するNさんが、こんな体験をした。
お盆前の、連日猛暑日が続く時期だった。その日は午後勤のシフトで、一時間ほど残業し、退社したのが午後十一時過ぎ。
自家用車でいつもの通勤コースを帰宅する途中の出来事。
この時間だと交通量も少なく、片側二車線の広いバイパス道路は運転も快適で、労働の疲れも少しだけ癒やされる、そんな気分だった。
帰路も半
怪談市場 第六十三話
『水耳』
一種の共感覚だろうか。
景子さんは物心ついた頃から小学二年生までの数年。ときおり奇妙な感覚に見舞われた。
不意に腕を引っ張られると、耳の奥で水音が響く。
「どっぽおおぉぉーん……」
大きくて、妙に反響した水音である。
もちろん周囲を見回しても大量の水はない。
例えば、母親と横断歩道で信号待ちをしているとき。信号が青に変わったことに気付かず立ち尽くしていた景子さんの手を母親が
怪談市場 第六十二話
『弓道場の怪 後篇』
前回、私が通っていた高校の弓道場で発生する怪奇現象の数々を紹介した。
その弓道場で、一夜を明かしたことがある。
興味本位で泊ったのではない。肝試しや心霊スポット探訪に興味がないのは、今も昔も変わらない。やむにやまれぬ事情があったのだ。
前置きが長くなるので時間のある方だけお付き合いいただきたい。
当時、私は「地歴部」という郷土史を研究するサークルに所属していた。主な
怪談市場 第六十一話
『弓道場の怪 前篇』
私が通っていた高校の弓道場は、いろいろと怪しい噂が絶えない場所だった。
部員が一人だけで道場ににいるときに発生する怪。
誰もいるはずのない射場から、弦を放つ「ビンッ!」という音が聞こえる。
もちろん、確認したところで誰もいない。
逆に、大勢で練習中に発生する怪。
壁に設置された、フォームを確認するための大きな姿見に、見知らぬ人物が映る。
胴着に袴姿で、胸当てを着