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桜に重なるもの

4月に入って、NOMAyado裏の山も俄然にぎやかになってきた。

常緑樹の深い緑をベースに、輝くような新緑が浮かび上がり、そこにアクセントを添えるように山桜が混じる。そのコントラストは生命力に溢れ、まるで山そのものが春を祝っているかのように見える。

「今日はお休みですか?」
山桜を眺めていると、ふいにご近所さんらしき老人に声を掛けられた。

こんなとき、いつも返答に困る。

取り立てて急ぎの用事がなければ、休みとも言えるし、30年以上フリーランスをやってきたというのに、未だに「休みという定義」がよく分からない。
ある種無理矢理に作り出すものでもあるし、いくらやる気があっても、やることが無ければ自動的に休みということにもなる訳で、私にとって「休み」というのは誰かから与えられるものでも、権利を主張して手に入れるといった類のものでもない

だから「今日はお休みですか」なんて聞かれると、
「そんなに暇そうに見えますか?」と切り返してみたくもなる・・・(笑)。
そもそもそこに深い意味などなく、「いいお天気ですね」的な挨拶の一環なので、大抵は「まあ」とか「はあ」とかという無表情で中途半端な返答になる。

だから、「桜が綺麗ですね」と私。

人知れず咲く山桜には、艶やかさというよりも、ただ己の生命を謳歌するだけといった逞しさがある。長年ひとりで仕事をしてきたせいか、そこに我が身の姿を見るようで、妙なシンパシーを感じる。

すると、「山桜が一番いい」と老人。

そうか・・・、ここは漁師の住むまちだったんだ。
老人は、山桜に何を重ねて見たんだろうか。

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