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モリエール 「守銭奴」

今回この作品を読むキッカケは、佐々木蔵之介が主人公を演じている守銭奴がテレビで放映されたことです。
以前に佐々木蔵之介の「リチャード3世」を観たことがあり、興味を覚えたからです。
戯曲を読みながら、同時並行して録画した芝居も観ることになりました。

「守銭奴」のあらすじを以下のとおり簡単に記します。

ケチで有名な主人公アルパゴンには、息子クレアントと娘エリーズがいました。母はすでに亡くなりました。二人の子はそれぞれが恋をしていました。クレアントの相手はマリアーヌで、エリーズの相手は家の執事ヴァレールです。ところが突然にアルパゴンがマリアーヌと結婚すると言い出したのです。父と子の間でマリアーヌの争奪戦が展開されるなか、アルパゴンがひそかに隠していた金貨1万エキュが盗まれてしまいました。お金に執着しているアルパゴンは、狂気の錯乱状態に陥ってしまいます。最終的にはお金も戻り、ヴァレールとマリアーヌが兄妹で、しかも富裕のアンセルムの子であることが判明します。そして、それぞれが結婚することとなり、まずは目出度しで終局となります。

喜劇ということで面白い場面は多いのですが、そのうちから見どころと思えるアルパゴンが錯乱状態となったときの台詞を紹介します。
(モリエール 守銭奴  グーテンベルク21 Kindle 版より引用)

【アルパゴン】
(前略)
待てっ! わしの金を返せ、このやろう……(アルパゴン、自分の腕をつかむ)や! こりゃわしだ。頭がへんになってきた、もう自分がだれで、どこにいて、何をしているのかもわからない。ああ!
(中略)
家じゅう拷問にかけてもらうんだ。女中ども、下男たち、せがれ、娘、それからこのわしも![劇場の観客を指さして]なんてまあ、うじゃうじゃ人がは集まって!
(中略)
金が見つからなかったら、わしゃ自分で首をくくろう!

芝居では、アルパゴンの佐々木蔵之介が客席に降りて観客に話しかけたりする演出となっています。
この台詞で面白いのは、自分自身さえも疑ってしまうという、単なるケチではなくまさにクレージーな心理状態に陥ってしまっていることだろうと思います。

この劇では、お金に執着して取り憑かれてしまった人間の哀れが表現されているのでしょう。
それは、お金だけではないのではと、わたしには思えました。
何かに執着してしまった人間の悲喜劇が、現実の社会でも在るものと感じられます。
また、翻って観客自身がそうならないように、戒めも示唆しているかもしれません。

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