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17_ケーススタディ:事例のプレゼン 【山の日本語学校物語】

これは、とある町に開校した「山の日本語学校(仮名)」の物語です。ITエンジニアの専門日本語教育、プロジェクト型のカリキュラム、地域との連携などなど、新たな言語教育の実践とその可能性について、当時の記録をもとに綴っていきます。最後までお付き合いください。

この連載を始めるに至った経緯については、「00_はじめに」をお読みください。

前回(16回)は、ケーススタディとして「事例を日本語で読む」という活動について書きました。実際の事例を「やさしい日本語」にリライトした教材を使用し、事例を理解した上で、批判的に検討するというケーススタディを行いました。今回は、このケーススタディの後に行った「事例をブレゼンする」というケーススタディについて書きたいと思います。

本活動の概要

第16回で扱った事例は、教師が探して提供したものでした。そこで、次は、学生自身が事例にあたり、自分の興味を持った事例をクラスで紹介するというケーススタディを考えました。教師目線で探した事例は、プロジェクトに合致した、ある意味、教師自身が「理想」と考えている事例になります。教師が選んだものですから、エンジニアの視点はありません。そこで、次は、学生自身がおもしろそうだと思ったり、自分たちのプロジェクトに関係ありそうだと思った事例を探し出すことが必要だと考えました。自分自身で探し出した事例の概要をまとめて、全体に紹介することにしました。

この活動は、以下の内容を2日間で行っています。
・事例を探す
・概要をスライドにまとめる
・事例の紹介

ケーススタディの授業としては、設定した時間がかなり短いです。しかし、12月の半ばに、最終的なプレゼンテーションを行う予定だったため、いい加減、自分たちのアイデアを検討する段階に入らなければ間に合いません。そこで、このケーススタディでは、いろいろな事例を知り、自分たちのアイデアの幅を広げることを目的としました。しかし、結論からいうと、学生たちが探してきた事例は、必ずしも学生たちのアイデアの幅を広げるものであったとは言い難いものでした。

今回の活動は、自分たちが調べたことをまとめてプレゼンするというシンプルなもので、学生たちのプレゼンの内容が全てです。アイデアを広げることが目的だったため、プレゼン内容についてのフィードバックの時間はほとんど取りませんでした。この記事でもプレゼンの中身まで詳細に記すと、冗長になりますので、今回は、なぜ目的が果たせなかったのかについて考察してみたいと思います。

アウトプットの質

ここまでの約5週間、授業では、インプットとアウトプットを繰り返しやってきました。当該学期の目標を「自分の考えをわかりやすく伝える」としたので、この目標を意識して授業をデザインしています。当時は、アウトプットの重要性を今ほど強く認識していなかったのですが、改めて授業記録を振り返ってみて、言語を学ぶというプロセスにおいて、インプットだけでなく、「意味のある」アウトプットが非常に重要であることを再認識しました。

これほどまでに、アウトプットの機会を繰り返していると、徐々に質が上がってきます。今回のタスクでも、以下のような指示を出しました。

目標:サービスの内容をわかりやすく伝える

伝えるべきポイントとして、以下の4点を明示しました。

- 場所:どこで利用されているサービスか
- 対象者:誰に対して行っているサービスか
- 特徴:自分が調べてみて、いいなと思ったところ
- IT技術:どんなIT技術が使われているのか

今回は、全体にプレゼンする前に、まずグループでお互いのプレゼン内容を確認するという時間を取りました。すると、グループ内で「ポイントは何か」というやりとりがされていたり、他のメンバーが作成した視覚的にとてもわかりやすいスライドを見て、慌てて自分のスライドを手直しするという様子も見られました。逐一、教師が指摘なくても、学生同士で意識しあえる環境が整ってきたと感じました。

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