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日本語教師の多様な働き方を考える ーおさらい編ー

時間にも気持ちにも余裕がなく、全く発信ができていないヒラサワです。

ここ数ヶ月、日本語教育に関する重要な法律が公布され、それに準じて、様々な施行規則が検討されています。また、技能実習制度に代わる新制度の提言も検討されています。今まさに日本語教育を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。

こんな重要な転換期に、見事に業務フルマックス期間が重なり、かろうじてパブコメは出したものの、何も発信できていないどころか、情報を追いかけることすら難しい状況でした。そこで、今回の記事では、自分自身のキャッチアップもかねて、これまでの流れを整理し、「日本語教師の多様な働き方」について考える足がかりにしたいと思います。


これまでのおさらい

まず、これまでの流れを簡単にまとめておきます。

と思い、改めて資料を見直してみたのですが、かなりの情報量で、一気に整理するのは無理でした。ということで、大雑把なまとめです。(もし、私の理解が間違っている部分があったらご指摘ください)

日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律

  • 2023年6月2日 公布

  • 2024年4月1日 施行

日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」(以下「日本語教育機関認定法」)の概要

  • 「日本語教育機関」は、文科省の認定を受ける →「認定日本語教育機関」

  • 「認定日本語教育機関」で働くためには、「登録日本語教員」でなければならない

  • 「登録日本語教員」は、文部科学大臣の交付する登録証が必要(有料)

  • 「登録日本語教員」になるためには、「日本語教員試験」に合格し、「実践研修」を修了しなければならない(もちろん有料)

  • 「日本語教員試験」は、基礎試験、応用試験で構成される。

  • 「実践研修」は、文科省に登録した「登録実践研修機関」で実施される

▶︎今後のスケジュール(2023年8月下旬時点)

認定日本語教育機関

「日本語教育機関」として認定を受けるためには、教育課程の見直しをしなければなりません。「認定日本語教育機関の認定基準等の検討に関するワーキンググループ」で、その中身について検討が進められています。

最新は、2023年11月10日に行われた第5回の会議でしょうか。教育課程については、下記資料で確認できます。

認定日本語教育機関教育課程編成のための指針(案)」2023年11月10日 資料2

個人的には、教育課程にいちばん関心があるので、ポイントを簡単にまとめます。

  • 教育課程を編成する際、「日本語教育の参照枠」を参照する

  • 教育課程は、留学・就労・生活の3分野、それぞれに異なる要件で編成される

  • 教育課程を編成する際には、3分野の特性を捉えた教育内容にする

  • 目的、目標を設定し、体系的に教育プログラムを編成する

  • 目標設定、学習活動、評価まで一貫した方針のもと設計する

  • 修了要件を適切に設定する

これらの条件を満たした教育課程を編成するためには、各日本語教育機関の教育理念や教育方針を明確にする必要があるでしょう。最新の資料には、「創造的に教育内容を計画、実施する」という文言なども追加されており、プログラム設計者の立場からみると、ワクワクする方針が示されています。

技能実習制度の見直し

さらに、技能実習制度も見直しが進められています。2023年10月18日に行われた「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」では、新制度に向けた最終報告書が検討されています。

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回)

資料をざっと見ると、「日本語教育の参照枠」のA1やA2というレベル表記と、日本語能力試験のN5、N4という表記が混在しています。「日本語教育機関認定法」との関係性が、なんとも未知数ですが、新制度に「認定日本語教育機関」が関われる可能性も十分にあり得ます。

ただし、以下のような動きもあります。

日本語能力試験とCEFRの関係

日本語能力試験の結果にCEFRレベルの参考表示を追加」(2023.7.21)

2025年7月の試験から、日本語能力試験(JLPT)の試験結果に、CEFRのレベルが表示されることになるようです。

現在検証作業が進められているようですが、今後、JLPTの試験科目や問題構成が変更される予定はなく、認定の目安もこれまで通りです。日本語能力の指標として最も普及しているJLPTに、CEFRのレベルが併記されれば、「日本語教育の参照枠」に掲げられた理念は忘れ去られ、JLPT中心の日本語教育が続くことも考えられます。

技能実習制度や特定技能の制度が、今後どのように変わるかにもよりますが、これまでのように、在留資格の交付条件として、JLPTのレベルが明記されたら、それを無視することは非常に難しくなります。

これからの日本語教師の働き方への影響

以上、各種資料を読み込めば読み込むほど、もやもやした気持ちが募り、書きたいことがいろいろ出てきました。が、考えがまとまらなくなりそうなので、今後「日本語教師の働き方」はどうなるのかに絞って、私の考えを簡単にまとめてみたいと思います。

「日本語教育機関認定法」や新しい技能実習制度に向けた提言を読むと、今後、国内の日本語教育の担い手が、「認定日本語教育機関」になるのではないかという予感もします。新たに制度化される「登録日本語教員」は、「認定日本語教育機関」に紐付けされることになります。担当できる授業時間数や勤務体制なども制度によって規定されることになりそうです。

私自身、日本語教育機関に長年、教務主任として勤務し、そこで、日本語教師として多くのことを学びました。古巣の日本語学校で、自分のキャリアの土台部分が形成されたと思っています。今後、日本語教師としてのキャリアを積む際、経済基盤のしっかりした日本語教育機関で、体系的に編成された学習プログラムに沿って教師経験を積むことは、非常に大きな意味があると思います。

しかし、日本語教育の現状をみると、ボランティア団体やNPO法人、業務委託等で行われている生活者、就労者、児童生徒、難民等への日本語教育など、日本語教育機関でカバーできていない領域に、日本語を必要としている多くの人がいます。

実際に、ここ数年、「留学」以外の学習者に接する機会が多く、留学生とは異なる立場の学習者を取り巻く環境や、学習に対する考え方などの違いに戸惑うこともたくさんありました。

そして最近は、日本語教育機関で日本語を学ぶことができる学習者より、それ以外の領域で日本語を必要としている人にこそ、質の高い日本語教育を提供する必要があるのではないかという思いが強くなっています。

「登録日本語教員」の制度ができることによって、「登録日本語教員」でなければ、日本語教育の専門家ではないという認識が生まれる可能性があります。社会的な認知度を高めるためには、必要なことだと思いますが、「認定日本語教育機関」に属することなく活躍する日本語教師の、創造的で、多様な働き方を規定することにならないかを懸念しています。

「日本語教育機関認定法」は、日本語教育を提供する側を規定するための法律であって、日本語を必要とする人への学習機会を保障するものではありません。「認定日本語教育機関」で学習する機会のない人へ、学習機会を提供できるのは、制度に縛られない日本語教育関係者(日本語教育関係者に限定されないかもしれません)の創意工夫に依存することになるのでは、と感じています。

今回は、これまでしっかり追えなかった情報を整理するだけで、力尽きたので、この辺にしておきます。次回は、ここ数年、私が取り組んできたことについて、書いてみたいと思います。

今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

共感していただけてうれしいです。未来の言語教育のために、何ができるかを考え、行動していきたいと思います。ありがとうございます!