見出し画像

日本語教師の多様な働き方を考える ー実践編 その①ー

前回のnoteでは、日本語教師の働き方を考えるための「おさらい編」として、今、業界で起こっている変化を簡単にまとめてみました。

前回も指摘したように、2024年4月1日から施行される「日本語教育機関認定法」は、日本語教育を提供する側を規定するための法律であって、日本語を必要とする人への学習機会を保障するものではありません

そこで今回は、私がここ数年取り組んできたことを「実践編」としてまとめ、「認定日本語教育機関」で学習する機会のない人へ、どのように学習機会を提供すればいいかを考えてみたいと思います。


技能実習生に対する日本語教育

私は、以前に勤めていた日本語学校が閉校になったのをきっかけに、個人開業し、これまで、自分があまり関われなかった分野で何かできないかといろいろと模索してきました。

「在留資格別」の在留外国人の内訳を見ると、日本で暮らす307万人の外国人のうち、留学生は9.8%、技能実習生は10.6%を占めています。留学生より、技能実習生や特定技能等で就労する外国人の方が多いのです。

外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」(出入国在留管理庁)より抜粋

そこで、今回の記事では、国内の技能実習生に対する日本語教育について書いてみたいと思います。ちょうど、私が個人開業したタイミングで、地域の福祉施設に技能実習生が配属することになりました。これをきっかけに、介護の技能実習生に対する日本語教育に関わることになりました。

これまで私は、留学生に対する日本語教育を中心に行ってきましたが、日本語学習が目的でない外国人を対象にしたとき、私に何ができるのか、何をしなければならないのか、現実を知るいいきっかけだと思いました。

技能実習制度では、入国後の実習前に、160時間以上の講習を受けることが定められています。しかし、私が担当したのは、配属後の実習中に行うものであり、3年間という長期間を、実習生に伴走しながら日本語教育を行うケースは珍しいのではないかと思います。

詳しいことは、以下のnoteに書いています。

上記記事にも書きましたが、この学習プログラムでは、日本の介護で重要な理念である「自立支援」の考え方をもとに、日本語教育という「ことば」を扱う分野からできることの一つとして、「自立支援のための自立支援」が必要ではないかと考えました。

単なる「働き手不足」を補うための「人材」ではなく、「自立」に向け、自分のキャリアを自分自身で考え、選択していける力を養う、そんな「ことば」の教育をしていきたいと考え、現在も継続しています。

「就労」と「生活」分野の線引きの難しさ

前回の記事を書いたのは、1年前でした。その頃、ちょうど一期生が3年間の実習期間を終え、特定技能へと在留資格を変更し始めたころでした。現在では、ほとんどの実習生が特定技能へと資格変更し、多くが継続して同じ施設で働いていますが、別の施設に転職した人、帰国して結婚した人などもいて、彼/彼女らが自分で選んだキャリアは一つではありません。

留学生を対象にした「日本語教育」ですと、目標が、高等教育機関への進学であったり、日本企業への就職であったりします。目的の中心は「日本語学習」であり、目標に対する結果も明確です。留学生の個々の生活まではあまり対象にされません。しかし、技能実習生を対象とした日本語教育では、日本語学習より「就労」が中心になります。また、同じ地域に暮らしていると、「生活」の場をより身近に共有することになります。

実際に、技能実習生が経験しているような様々な人生のライフステージを目の当たりにすると、介護に特化した「専門日本語を教える」という「就労」分野と、地域で暮らす「生活」分野の線引きが曖昧になってきます。

今は、二期生、三期生の日本語教育に関わっていますが、彼/彼女らが暮らす地域との接点を増やし、社会参画しやすい環境を作っていくことも、自分の役割ではないかと考えるようになりました。

これまでに、以下のような取り組みをしてきました。

コロナウイルスが収束し始めたタイミングで、地元の小学生との交流会を企画し、授業の一環として、「国際理解」という交流の場を設けました。

実習生と一緒に、地域包括支援センターが考案した「かんたん体操」というシニア向けの体操解説動画を作りました。動画作成の際には、地域包括支援センターにも協力いただき、福祉行政との接点を作りました。

「食の伝承」の活動をされているグループと料理による交流の機会を設けたり、地元の保育園のイベントに参加したり、最近は、地元のバドミントンクラブにも参加しています。

上記の取り組みのいくつかは、地元紙が取り上げてくれました。それでもいまだに、「そんなに大勢の外国人が働いているの?」とか「え、そんな活動していたの?」などの声を聞くことも多く、社会参画しやすい地域づくりというのは、思った以上に時間がかかります。

多文化共生コーディネーターとしての役割

昨年は、外国人と地域との関わり方を別の視点から考えようと、「多文化共生コーディネーター」の研修を受講しました。これは、一般社団法人「東京都つながり創生財団」が行っているものです。

この研修における「多文化共生コーディネーター」とは、

多文化共生に関する基礎知識を持ち、地域における外国人の多様なニーズにきめ細かく対応し、関係団体と連携して在住外国人に関する課題解決に取り組む人

上記「多文化共生コーディネーター研修」WEBサイトより

と定義されています。

ただ、課題が問題として表出してからでは手遅れになる場合もあるわけで、「多文化共生」に対応する窓口すら存在しない、地方自治体においては、先手先手で手を打っていくことも必要ではないかと思うのです。そのために、考えられることはできる限りやっていこうと思っています。

とはいえ、外国人が地域に定着し、定住化が進めば進むほど、行政の支援が欠かせなくなってきます。現に、日本語指導が必要な子どもたちも出始めています。このような現場で、日本語教師ができることはたくさんあると思うのですが、マネタイズの部分がしっかり構築できなければ、持続可能な活動になりません。

前回のnoteでは、

今後、ますます増えていく外国人労働者を地域としてどう受け入れていくのかという大きな課題にも直面しています。時間はかかりますが、少しずつ実績を積み上げていくしかないのかなあと、のろのろした歩みに焦りながらも、なんとか続けています。

と書きましたが、実績を積み上げた先に何があるのか、本当にこのまま、続けていけるのか、試行錯誤しながらの活動です。

一方で、ようやく「このままではまずいですよね。何かできることがないか相談に乗ってもらえませんか」という行政職員にも出会え、何かが動き出しそうな予感もしています。

課題山積の地方では、「そこまで予算が割けない」という声も聞こえてきそうです。もしかしたら、これまでの発想とは、全く違うアプローチで、他分野と連携しながらできることがないかを考えることが必要になるかもしれません。

このように実践例をもとに考えてみると、「日本語教育機関認定法」で規定された「登録日本語教員」に、ここに書いたような役割を求められるのか疑問に感じています。また、国家資格となる「登録日本語教員」の「登録証」を持っていたとして、「日本語教育機関」以外の場で、報酬をもらいながら、仕事として継続的に活動できるようになるのかも懸念材料です。

以上、今回は、私自身が暮らす地域で行ってきたことについて書きました。「これは日本語教師の役割ではない」と思うかもしれません。個人的には、私がやりたいからやっているのであって、日本語教育でなくてもいいと思っています。

「日本語教育は・・でなければならない」とか、「日本語教師はこうあるべきだ」という固定観念を、一旦、横に置き、もっと広い視点で考えたほうが、なんだかおもしろいアイデアも出てきそうです。

それでも、あえて、私が行っているような活動を「日本語教師の多様な働き方」の実践例として挙げたのは、「登録日本語教員」の国家資格が、日本語教師の仕事を限定的なものにしてしまうのではないかを懸念しているからです。そして、日本語教師の国家資格化が、本当に社会で起こっている実情に沿ったものなのか、今後、どんな打ち手があるのかを考えるきっかけにしたいと思ったからです。

次回、実践編第2弾は、就労を目指す外国人のための、海外における日本語教育に触れてみたいと思います。

書きました! こちら👇も読んでいただけたら、うれしいです。

今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました!

共感していただけてうれしいです。未来の言語教育のために、何ができるかを考え、行動していきたいと思います。ありがとうございます!