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“甘酸っぱすぎて死にそう!”|漫画「子供はわかってあげない(田島列島)」読書録。

こんにちは、マンガ編集者のearlyです。

突然ですけど、みなさんの中で恋って何だと捉えてますか?(唐突)

いや〜なんだろうな。私も30年近く生きてきて、まだ全然よくわかんないんですけど、とある漫画を読んで、…田島列島さんの「子供はわかってあげない」って漫画なんですけど、「あ、私、恋をしたことあったわ〜」ってその時思い出したんですよ。秒で。見てスグ思い出した。マンガだから、目で読むものだから、その、体験とか感触とかを通して思い出したんじゃなく、目で見た瞬間、感覚が蘇り、思い出した。あ〜もうこれそう。知ってるやつ。知ってる手触り。ウッワあったわ〜〜〜!!!omg love so sweetって

「なんだ?急に。破綻してる!」って思わせてからの「参りました」。

あまりネタバレを含まないように書きたいのですが、とはいえ所々に滲ませてしまうことをご容赦ください。ご容赦できましたか?できた方から先へお進みください。
(★おすすめは、漫画を読んでからここに帰ってきて、一緒にこの情念を分かち合うことです。2巻完結なのですぐよめますよ。是非是非。)

ではいきます。

▼中盤シーンのあらすじ

・主人公の少女は水泳部のエース。とある夏の日、「部活の合宿にいく」と嘘をついて、ワケあって離れて暮らしている実の父親の家を訪ねます。
(子供が、親に嘘をついて旅に出る夏に、ドラマが無いわけがないですよね。 )
・彼女がひとり、近所の海で泳いでいて、ザバッ!プハー!と海から顔を出す。
・するとそこには、近ごろ学校で仲良くしていた書道部の男の子が…!。こちらを向いて立っている。
「子供はわかってあげない(田島列島)」下 P.64


「わあ、びっくりした」「なんできたの!?」

普通、予想される彼女のリアクションとすれば、だいたいこんな感じですよね。
ところが彼女は、なんにも言葉を発せなくなるのです。超不思議
友達が遠いところまで遊びに来てくれて、…じゃないとしても、なんでここに?偶然だねぇ、どうしてわかったの?と盛り上がるのが一般的な気がするんですが、彼女はさっと目を伏せる。
そして次のシーンで、
(大変だ・・・、コレは大変だ、だめだこりゃ)
と、「心の中で」呟くのです。変ですよね?

そのあと2人は、父親の家まで歩いて向かうのですが、その間もずっと、なんだか変なかんじなんですね。それまでは軽口を叩き合って、テンポのいい会話劇を楽しませてくれていた2人だったのに、彼女はなんだか終始元気がなさそうなんです。せっかく友達が遊びに来てくれたのに、さみしいカンジです。

海が寒くて、お腹冷えちゃったかな・・・?
作者は中盤に来て、描くの飽きちゃったかな・・・?



恋でした!

恋でした。

彼女の反応を「恋」と裏付けるシーンがその後いくつか登場するので、好きな2シーンを紹介します。ちょいっとネタバレです。

①「別に何も起こってないけどいきなり私の中で大変なことになって」

「子供はわかってあげない(田島列島)」下 P.90

でした。
この、なんともいえない唐突感。べつに「何かが起こった」わけじゃない。ただ急に、偶然何かが爆ぜちまう瞬間・・・つむじ風が頬を撫でるようにサッとふいに・・・やってきちまった異変。しかもこの様子、きっと初恋。
…甘ずっぱすぎて死にそうでしょ? …遠い昔の記憶、蘇ってきませんか。


②水陸両用・不思議な馬の語り

「子供はわかってあげない(田島列島)」下 P.131

突如始まる、馬のジョニーの妄想シーン。Who are you?
ところがこの不思議な妄想シーンの挿入が、本作の味わいを一段も二段も奥深いものにしていくのです。
馬のジョニー、「彼」は何を意味するか? …少し考えてみてください。

「子供はわかってあげない(田島列島)」下 P.136

ロ〜〜マンチック〜〜。
そうです。正解、大正解。
ジョニーとはつまり。
…次ページのジョニーのセリフが、分かっててもむちゃくちゃエモくてたまらないので、それはぜひ本編をご覧ください。私が付け足すことは何もない。ホントに何もないです。

おわりに|題名「子供はわかってあげない」への解釈

2巻(下巻)の最終章のタイトルは、「Children grow up by understanding」。
直訳で、「子供はわかることで成長する」あたりでしょうか。

このラストメッセージと、タイトルの「子供はわかってあげない」の間にあるものとは一体なんなのか、読後の余韻に浸りつつ、ついつい考えてしまいます。

子供はまだ、相手/大人の立場にたって、「わかってあげようとする」というような甲斐甲斐しさは持ち合わせていないことが多い気がします。
そして、それこそが子供の子供たる所以であり、すべての人がそこからスタートした「始点」。アタマや知恵を使って「わかってあげる」ではなく、「自然にわかる」「胸の内から自動的に発見していく」そして、その1つ1つに新鮮に驚き、うろたえながら、勝手に成長していく。

つまり、「子供はわかることで成長する」からこそ、「子供はわかってあげない」のではないか。
この2フレーズは、同じことを表と裏から描写した、コインの裏表のようなメッセージなのではないかと思いました。

みなさんは、どのように感じたでしょうか?

あとがきに収録されたオマケ漫画では、本作のネームを担当編集に見せた時の第一声が「甘酸っぱくて死にそう!」だった、という話があり、誠に言い得て妙で、一層大好きになりました。

ほんとに、甘酸っぱくて死にそう。

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