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「わたし、こういう場所が欲しかったんだ。」

「今、家にいるのだけど…どこ通る予定かな?」
お友達のあつこさんからメッセージが入った。今日ぼくが走るルートに仙川というところがあって、そこならお家から近いらしい。おけ!じゃあそこでOPENします!と返事を打って、真っ青に抜けた空のもと国道を走る。週末なのでサイクリストの姿も多く、声かけてくれるかなぁという気持ちと、なんだか居心地のちょっと悪いような違和感と半分半分の気持ちで走る。

仙川に到着したのはお昼すぎ。思っていたよりもずっと人通りが多く、駅から続く商店街は家族連れを中心にとっても賑わっていた。おぉ、今日はここで開けるのか・・・。ちょろちょろと歩き回って、人通りの多い公園の入り口で開けようかと思っていたところに、あつこさんから電話が入った。

「AOSANというパン屋さんがあってね、今日はそこお休みなの。いまお菓子を買いに来たお店のオーナーさんがお友達でね、そのAOSANの前でOPENしてもいいよって言ってくださってる!」

あつこさんと合流し、そこから歩いてAOSANさんへ。今日はお休みだけれど、普段は行列のできるパン屋さんなのだそうだ。さっきの通りよりは落ち着いているけど、のんびり歩いている人、向かいの公園で子どもを遊ばせている家族、少しのどかで、けど平和な雰囲気だ。

手伝ってもらいながらパパっと開店準備を終えるころには、お菓子やさんからお声がけしてもらったお客さんや、近所のおばさんもいらっしゃってコーヒーを飲んでくださった。ミルをまわすと、いいにおいねぇと心地の良い表情で、空を見上げるように少しアゴをあげてくださる人がいる。そんなとき、なんだか誇らしい気持ちになる。


プロアスリートを目指していた近所のお姉さん、中学1年生のスマホにかかりっきりの娘さんを持つお母さん、発明家のお父さんとお母さん、トライアスロンにどっぷり浸かる焼肉屋さん、公園に鉄棒の練習に来た小さな女の子とお母さん。今日もいろんな人がコーヒーを飲み、そしてそれぞれの人生を少しだけお話してくださる。

お返しもいろいろ。コーヒーのためのビスケット、お米屋さんのおむすび、ビール券、牡蠣の缶詰め、そしてお金。これで明日もCAFEがOPENできる。

さっきの家族連れの女の子たちが画用紙を手に帰ってきた。そこには僕や自転車、そして彼女たちがフリマで買ってもらったヘビのおもちゃが描かれていた。日本のたび、がんばってください。と添えてある。

近所のお姉さんは、けっこう長いあいだいてくれて、来た人たちと仲良くおしゃべり。誰かがいてくれると、カフェをしてても心地よい。夕方の日が傾いてきたころに、彼女は誰に話しかけるわけでもなくこう言った。

「わたし、こういう場所が欲しかったんだ。何をしに家を出たのか忘れちゃうくらいに心がおだやかで、満たされる場所。」

その言葉は僕の心にたっぷりの栄養とともに染み込んでいった。僕は出会いを生み出すツールとしてコーヒーや写真を提供する旅を選んだんだけれど、そしてそれは生まれているんだけれど、それだけではなく「誰かにとっての居場所」にもなれる可能性を持ってるんだ。まだはっきりとではないけれど、でも目の前の空間が広がっていくようなそんな感覚を覚えた。

日が落ちていく。仕事がおやすみだったお友達は片付けまで手伝ってくれて、国道まで自転車で一緒に走って、そこでお別れをした。

今日という1日は、たくさんの人の顔の浮かぶ、思いの詰まった1日だ。

仙川のパン屋さんAOSAN
突然のお願いにもかかわらずご協力ありがとうございました。

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