見出し画像

「いまどきの子」たちの男意気。

茨城県といえば!とおすすめされたサザコーヒー。僕はコーヒーは淹れるのも飲むのも好きなのだけど、銘柄や有名な焙煎所についてはあんまり知らない。だから少しでも勉強できたらと行ってみた。

思ったよりもしっかりした店構え、そしてデカイ。物販とカフェコーナーと分かれていて、そのカフェコーナーがおおきなガラス戸を開けて中庭までオープンテラスとして広がってる。もちろん僕はビビる。

どーしよ。どーしよ。と物販コーナーを一周してみて、そこにおられたベテラン(であろう)女性スタッフに声をかけた。あのぉ・・・僕こうこうこういう旅をしていて、このサザコーヒーのことをうかがって、ちょっとでも焙煎のお話がうかがいたくて来てみたんですけどぉー・・・・。

なんだろう?という顔をしていたお姉さんの顔がすこーしずつなるほどという感じになってきて、最後にはちょっと聞いてきてみますね。と裏手に出られた。待つこと数分。

「焙煎は集中しないといけないので、あんまり時間はとれませんが、どうぞということなので!」とよかったねと顔に書いてある顔でお姉さんに言われたもんだから嬉しくて嬉しくて早足で焙煎所へまわらせていただいた。

「こんちわぁー!!!」

第一印象が大事だ。元気よく。(もと野球部)
思っていた以上に大きい焙煎機には少し寡黙そうな男性が計器を見つめられている。僕に気づいて挨拶を返してくださった。ごく簡単に自己紹介。黒澤さん。このサザコーヒーで焙煎を担当されておられる方だ。

昨年コロンビアにも行ったというお話のところで、黒澤さんの表情がやわらかくなった。そう、このサザコーヒーはコロンビアに自社農園を持つほどの規模を扱っておられる。そこからは少しフランクに焙煎機のことや、お仕事のことについてお話をうかがった。長いときにはほぼ休みなく1日豆を焼き続けるとのこと。センサー制御された最新式のものもあるが、この古いタイプのプロバットと呼ばれるドイツの焙煎機も使う。豆の特徴によって使い分けられるとのこと。特にパナマゲイシャのような希少種はさらに小さな焙煎機で少量を焙煎する。

僕には正直なところ言うてはることは理解できるが、そこからイメージが浮んだり、新たな質問があらわれることなんてない。圧倒的に自分に知識も経験もないからだ。焙煎をされておられる姿にシャッターを押させていただいて、お礼を伝えて焙煎所をあとにした。

カフェスペースに移動してサザスペシャルブレンドをいただいた。ネルドリップで淹れられるお姉さんはこの道20年だそう。20年・・・この道ひとすじで来られた方々の真摯に豆やドリップに向き合われている姿はそれだけで背筋が伸びるような気がしてくる。ゆっくりとコーヒーをいただき、少しだけ豆を買わせていただいて水戸へ向かった。どこかでコーヒーを淹れよう。


千波湖というところが人通りも適当にあっていいんじゃないかと聞いていたので行ってみた。水戸にはいい感じの商店街はパッと流した感じでは見つけられずに。湖と車通りのある交差点の中間地点のところでカフェを開くも・・・なかなか立ち止まっていただけない。ちょっと興味を持ってもらっているのは分かるけれど、みなさん目を合わせないように視線だけちょっと低くこちらに向けられる感じだ。うーんこれは難しいかも。

1時間ほど粘るもあきらめた・・・半分だけ片付けて自転車に積み込んで湖の反対側にまわってみることにする。そこに水戸黄門様の銅像があってそっちのほうがいいわよという隣のベンチに座られたおばあさんのアドバイスに沿って。

しかし、そこにはだーれもいなかった。あんれまーと自転車で引き返そうとしたときに目の前にいた男の子。こちらを興味深そうに見ている。「こんにちは。よかったらコーヒー飲まない?」「あ、はい。いただきます。」さっき魔法瓶に淹れて誰にも飲んでもらえなかったコーヒーを飲んでもらった。よかった。

彼は埼玉県から観光に来た男の子。休みの今日、ふと行ってみたこと無いところに行こうと水戸に電車でやってきたそうだ。このあとゆっくりと帰ろうかという彼。僕もとくに行き先があるわかじゃなく、けどまだ水戸で悪あがきがしたくて、彼と歩いて水戸駅に向かうことにした。

実家はお茶農家。いまは中華料理店勤務。数年したら実家を次ぐことになるであろう彼のちょっとした仕事の楽しみは、メニューのうまいものを食べさせてもらうことだなんて聞きながら歩いて水戸駅のエスカレーターをあがったところにある広場に行き着いた。怒られるかもしれないけれど、駄目だと言われるまでやってみようか。

壁沿いのところにカフェを開いていると、近くにたむろしていたヤンチャそうな男の子たちがやってきた。

「かっけえすね!こんなの見たことねぇ!」
「いやぁさっき千波湖でいたの見かけたんすよ!けど声かけらんなくて!ぜってーこっちのがいいっす!」

めちゃんこ人懐っこい笑顔で来てくれた彼らに、僕もすでに来てよかったと思いはじめていた。無理してブラックを飲むやつ。無理して飲んだんだけど、やっぱりダメで砂糖を3杯いれたやつ。僕らは紅茶でいいっす!と紅茶を飲んでいくやつ。聞けば定時制高校に行っていて、昼間は仕事しているそうだ。

仲間が来てはふざけて遊んで。誰かに声をかけにいって。おとついからはじめたばかりというBMXを乗り回している。あ、警察に怒られた。あ、なんか楯突いて連れて行かれた。あ、帰ってきた。少し離れているから声は聞こえないけれど、すべての動きがわかりやすくて思わず見ているこちらが笑けてくる彼ら。おもしろすぎる。

暗くなってきて片付けるときに彼らに挨拶をしたら、彼らのひとりが1000円を手渡してこようとする。いいよ、飲んでもらえただけで!という僕に、あいつは「いや、おれちゃんと働いてるんで!いいんす!旅がんばってください!応援してますから!」と言い切った。その感じがとってもいさぎよくて僕も気持ちよくお金を受け取ることにした。

今どきの子たちの男意気。
数杯のコーヒーを通した彼らのやりとりに、僕はとっても気持ちの良い晴れやかな余韻を心にいだき水戸駅をあとにした。

自分の人生を実験台にして生きているので、いただいたお金はさらなる人生の実験に使わせていただきます!