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八王子で初OPEN

片野家で泊めていただいた翌朝、仕事に出かけるケンタくんに合わせて家を出た。さあ今日は八王子に向かう。次の日に小学校での講演会に呼ばれている。dailylifeの見通しなんてまだなく、職業旅人としてのお仕事に助けられる。今日は、なんにも考えることなくそちらに向かえばいいんだもの。一緒に駅まで歩きながらひととおおり不安を聞いてもらってお別れした。

八王子に向かう。明日は朝から講演だけれど、早く着きすぎるとどうしていいか分からないから、途中でなんとなく「SNSで連絡してくださっていた方への返信。ともろもろ連絡事項あり」と自分で理由を作って神社の広場で長めの休憩。健太くんの奥さんに持たせてもらったおにぎりを食べる。そういや所持金はまだ0円だ。

思いのほか早く八王子に到着してしまった・・・まだ12時ではないか。どうしよう。どうしよう。けどさっき仲間に「今日から本格始動するよ」と言ってしまったことが頭に浮かんで、とりあえず駅のまわりを偵察するかと思い立った。まだ世界へのよそよそしさは抜けない。

にぎわっていそうな八王子駅の北側に移動して、のろのろと走る。どこかの公園でも・・・と目の前に商店街があらわれた。屋根はなくて、車は入ってこなくて、それで・・・小さな舞台のようなものとベンチがある。なんだかその場所に吸い寄せられるように自転車を押して、スタンドをおろした。

やるしかない。

この表現がその時の思いには、いちばんしっくりくる気がする。やるしかない。まわりをキョロキョロしながら、露天など禁止みたいな看板がないか、カフェはないか、なんかを見回して大丈夫そうなのでお店をひろげることにした。さあここからはもうなんとでもなれ、だ。お店をひろげてSNSにここでOPENしますと投稿してdailylifeカフェをOPENした。

みんなの視線にぶるぶるする。全体を見てくれて、次に目がいくのが看板だ。「淹れたてコーヒーあります。御返しはお気持ちでOK」と書いてある。ちょっと足を止めて、そこを読んで、少しだけ表情が動いてまた歩いていかれる。そんなことがあるたびにソワソワする。誰か来てくれるんだろうか。

はじめてのお客さん(売り買いではないので正確ではないけれども)は、喫煙スペースにタバコを吸いにきた男性だった。え?なにしてんの?売ってないの?と声をかけてくださり、正直に今日からはじめるところで、まだどうしていいかも分からないことを伝えた。

「値段は付けたほうがいいね。かえって気味悪がられるから。それと目線は高いところにいくから看板ももう少し上にあげたほうがいいかもね。あとは!夏だよ!アイスコーヒーがあればいい!」

聞くと彼はサービス業をされているとのことだった。なるほど、実際にお仕事にされている方のご意見!ありがたい!コーヒーも飲んでもらえた。そして。彼はお金を置いていかれた。はじめての御返し。なんだかこれまでのどんなお仕事よりもじんわりとにじんでくるような嬉しさのお金だった。

ここからのいち日はあっという間だった。

財布を忘れたサウジアラビア人の留学生。コーヒーを飲めない八王子在住の中国人。ふたりが話しはじめたところにやってきたのは、自転車乗りのおじさん。記念撮影をみんなで交代にしたりしながら、コーヒーやお茶を飲んでもらって、またみんな帰っていく。

スペインで上位リーグのプロサッカー選手を目指す青年。カナダとタイに住みながら日本語学校の先生をしている青年。九州で離婚し、身内を頼りに子ども三人を連れて上京してきた介護士のお母さん。世界中をバリバリ仕事しながらかけめぐり、僕の旅のことではなく、行った先のことをたくさん聞いてくれた老夫婦。

御返しはいろいろだった。お金。飴ちゃん。差し入れのソーセージ。ありがとうの言葉。来てくださった方それぞれが、自分のことを話して帰っていかれた。あなたに出会えてよかったと言い残されて。

これはまさに僕がもとめていたものだった。このdailylifeをやりながら気持ちの交換をすること。相手の人生の時間をいただきながら、気持ちを込めてコーヒーを淹れること。そのなかで相手の人生が見えてきた。みなさんそれぞれが抱えている日常と人生。気づけば真っ暗になっていた。

最後に、明日ある講演会に関わってくれている仲間たちがやってきた。興奮気味に彼らに今日のことを話し、みんなでラーメン屋にいった。おごってもらってしまった。とっても明るくて清潔なラーメン屋さんのご夫婦は、味へのこだわりとともに人生を楽しく語ってくれた。

はじまった。だいじょうぶだ。ぼくはこの感覚を信じられると思う。

よこよんカフェ
オーストラリアで出会ったパティシエゆうこちゃんが地元八王子ではじめたカフェ。ベーグルが最高においしいです。

カザーナコーヒー
八王子にあるコーヒー屋さん。オーナーさんは優しさがにじみ出ています。

ラーメン八作
大分のラーメン屋さんから引き継いだ味。夫婦の息ぴったりの感じも、味も大好き。

自分の人生を実験台にして生きているので、いただいたお金はさらなる人生の実験に使わせていただきます!