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きみがぼくらの心を照らしてくれたんだ。

「あの、、、コーヒーのめるの?」
この言葉からこの日の歯車は動きはじめた。

清澄白河。ブルーボトルコーヒーすぐ近くにあるNois BIKEの軒先をお借りしてカフェをOPENさせてもらえることになった。自転車の前にひょっこりやってきたのはお隣さんの男の子だった。こうせいくん。

「いいよ。君が飲みたいなら。」と返した僕に、彼は「ちょっとまってね!ママにきいてくるから!」とダッシュで消えていった。大急ぎで帰ってきた彼は、まだ立ち止まってもいないのに「ママがいいよって!」と満面の笑みだ。僕は彼のためにミルを回しはじめた。

つめたいのがいい!という彼に出したアイスコーヒー。たっぷりのきび砂糖を入れて、ガリガリかき混ぜながら、それをおそるおそる口に運んだ。

「うーん!いつものよりすこしマズい!にがい!」

「あんたいつもミルク入れてるじゃんか!」
彼の様子を見にやってきていたお母さんがすかさず突っ込みをいれてくださり、僕は自己紹介しながらお母さんのコーヒーを淹れはじめる。

「こうせいお返し何にしようか?」と聞こえてきたので、よかったらこのカフェを手伝ってくれないかな?と提案すると、こうせいくんはママを振り返った。ご迷惑じゃないかしら・・・とおっしゃるお母さんに、いえいえ彼がよければ僕はとっても嬉しいんです、と伝えふたり営業がスタートした。

最初は配達だ。コーヒーが入ったカップふたつをフラつきながら持つ彼を見送りながら自分も自然と笑みがこぼれてくる。戻ってくる彼は行きより断然自信ありげな表情だ。次は?次は?と来た彼に今度はミルを担当してもらうことにした。おそるおそるスプーンでコーヒー豆をすくってミルにいれる。

「へぇ!すごいのねー!」
まだ恐る恐るだった彼のミル回しの様子を見たお客さんが言ったのだが、この一言で彼は激変。小学生が長縄を回すときのように、グルングルンとミルを回しはじめた。僕は自転車が倒れないように抑えるので手一杯だ。どうやらこうせいは、ひとつひとつやってみては自信をつけ、それでは物足りなくなるらしい。

「つぎはぼくがコーヒーをいれる!」
昼ごはんにお家でそうめんを食べて帰ってきたこうせいが切り出した。マジか。。。これには僕もすこーしだけ考えた。けどやらせてみよう。沸かしたお湯をポットにうつし、底と持ち手をバンダナで巻いて彼に持たせてみた。

案の定まだ小学校にあがらない彼には重いようだ。がんばって両手で支えようとして底に手を置き「あつい!」と一瞬手を引っ込めそうになった。そこを僕が支えて、バンダナでしっかり覆ってあげて持ち直させた。そしたら彼は何の迷いもなく挽いたコーヒー豆の上にドリップをしはじめた。これには僕もまわりの大人もびっくり。ちゃんとサマになっている。落としたコーヒーをカップにうつしてお客さんに手渡す。それを飲むお客さんをじっと見つめる彼。

「おいしい!」と言われたとき彼の表情がパッと開いた。それはまわりにいた誰もが心動かさずにはいられないような、そんな素敵な瞬間だった。これでこうせいは終わらない。そこからは、コーヒーを淹れたくて淹れたくて、通行人の前にバッとあらわれてコーヒーの営業をしはじめた。

たくさんの人がやってくる。みんな目尻を下げて、こうせいのコーヒーが落ちていく瞬間を眺める。カップを渡されたら、もう飲む前から、みんな幸せな表情だ。子どもが持つ集中力。純粋さ。それに触れて思わずこちらまでもが子どものころに戻ったように、ただただ幸せな気持ちになっていく。そんな奇跡のような瞬間を彼は何度も見せてくれた。

夕方にやってきたのは彼の幼稚園の同級生の男の子とお母さん。
「ぼくがねーコーヒーいれてあげるからね!みててごらん!」と言って、コーヒーをいつになく大人っぽい表情で淹れるこうせいのおもしろいこと。夕方のワンコの散歩の時間まで、何時間もいてくれた彼のおかげで、今日はほんとに素敵な1日となった。日が暮れて散歩から戻ってきたこうせい。

「ぼくがいないあいだにおきゃくさんこなかった?」と心配そうに聞いてくれた彼に、だ〜れも来なかったよ!と小さな魔法の嘘をついて、僕は片付けをはじめた。そしてお母さんにあらためてのお礼を伝えた。

こうせいくんをずっと見守ってくださってほんとにありがとうございました。と伝えた僕にお母さんは「普段の私ならきっと心配でやめさせていたと思います。けどあんなにたくさんのことができるなんて。あと写真でこうせいがこんな表情をしたのは、初めてです。こちらこそありがとうございました。」そう返してくださった。

こうせいへ。
きみはほんとにすごいことをしたよ。
おおくのおとなたちにこどもがもつかのうせいをみせてくれた。
ひとつひとつじしんをつけていくきみをみてまわりのみんながしあわせなきもちになった。
ぼくはきみにであえたこと、おかあさんがきみをこんなふうにそだててくれたことがほんとにうれしい。
ありがとう。
またこんどやるときもいっしょにやろうね。
まさやんより

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