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【無料試し読み】穢れを祓って、もふもふと幸せ生活

魔獣も妖精も領主様も、みんな仲良し、みんな家族!
もふもふたちと異世界で幸せに暮らします!

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第一章 森を守る狼と穢れ


「ふえ? ここどこ?」
 僕はすぐに周りを確認する。さっきまでは高いビルが立ち並び、車が激しく往来している場所に居たはず。それなのに、強い光に包まれ目を閉じて、次に目を開けたときには、今まで自分が居た場所ではない、全く違う場所にいたんだ。
 目の前には小さな湖と、そして周りは木々に覆われていて。しかもその木、一本一本がかなり大きい。ここは森?
「うーん、ここ、どこらりょう? ……ありぇ?」
 何かおかしい。言葉が思ったように出てこない。呂律がうまく回ってない感じ。うーん。あの光のせいで、言葉がうまく話せなくなったとか? まさかね。
 取り敢えず、湖の様子でも見てみようと思って、歩き出す僕。でも、え? 何か体の動きもおかしな感じがする。僕、スポーツはけっこう得意で、こう体を動かしたりするのは何てことないはず。それなのに本当に僕、どうしちゃったの。
 それに……、ほんの二、三歩歩いただけだけど、どうにも周りが。一本一本、木が大きいって思ったけど、ちょっと大きすぎない? こう、グイッと思い切り上を見上げないと、木の上まで見えない感じ。
 ただでさえ突然見たことのない場所にいて、けっこう不安なのに、言葉も体の動きも悪いなんて。しかも周りの物が大きく見えるなんて。
 頭を軽く振って、僕は違和感を覚えながらも湖の方へ。そして湖を覗き込むと。湖の水はとっても透き通っていて、綺麗な水だったよ。ただ、湖の水が綺麗だななんて、すぐにそんなことを言ってられなくなって。
「え? だりぇ?」
 綺麗な湖の水に映し出される、僕の物と思われる顔。それはいつもの見慣れた自分の顔じゃなくて、全然知らない幼児の顔で。二歳から三歳くらい? 僕は慌てて自分の顔を触ったよ。
 と、ここでも違和感。そっと顔を触っていた手を、自分の目の前に。
「ちいしゃい!!」
 他の体の部分も確認する。そうしたら手も足も体も顔も、全部が小さくなっていて、それはまさにさっき水に映った、男の子そのもの。
 洋服だってさっきまでの学生服じゃない。本で読んだことある、異世界に出てくるような、昔のヨーロッパとかで着てそうな服に変わっていたんだ。
「なにが、おきてりゅの? ぼく、ちいしゃくなっちゃった!?」
 これって、さっき読んだって言った、異世界へ来ちゃうって話と、同じ事が起きている? 僕、異世界へ来ちゃったの?
 今の僕を、元の世界で心配してくれる人はいないけど、それでも急に異世界に来ました、なんて言われても、これからどうすればいいの? 何も分からない!
『……て』
 と、湖のほとりで、一人わたわたと慌てていたら、何処からか声が聞こえてきて、思わず止まる僕。その声はとってもとっても小さな声で、この静かな場所だから、やっと聞こえるような声だったよ。そしてその声は、助けを求めていたんだ。
『誰か助けて……。ボクの大切なお友達』
 大切なお友達? 何かあったのかな?
「だりぇ? どちたの?」
 何処に居るか分からない声の主に向かって、僕は声をかけた。だって何か困っていて、もし僕に何か出来ることがあれば、手伝ってあげたいし。まあ、何故か小さい子供になっちゃっている今の僕に、出来る事は少ないかも知れないけど……。
 僕は歩きにくい幼児の体でよちよちと、声を頼りに声の主が居るのか探し始めました。そうしたらすぐに、花が集まって咲いている所から、何かが飛び出してきて。思わず身構える僕。
 でも僕が身構えているうちに、出てきた物は凄い勢いで、僕の顔の前まで飛んでくると、ピタッ! と止まって、じっと僕の事を見てきました。
 飛んできた物、それは。羽が生えていて、今の僕の手のひらに乗っかるくらいの、小さな小さな男の子でした。
『ボクの言葉が分かるの?』
「うん。どうちて?」
 不思議な生き物にちょっとドキドキしながら、僕はその生き物に聞き返しました。
『だってね、人間はボク達の言葉分かんないんだよ。君、人間でしょう?』
「うん、たぶん? ぼくのなまえ、はりゅと。よろちくね。」
『はりゅと?』
「うーん。りゅじゃなくて……、る!」
 る、とか、それだけならちゃんと言えるのに。話そうとすると幼児言葉になっちゃう。何かもどかしいな。
『ハルト? そっか。ハルト、ボクはフウだよ。ボクは花の妖精。宜しくね』
 それからフウが教えてくれたのは、ここからちょっと森の奥に入った所に、花がたくさん咲いている場所があるんだけど、そこにフウのお友達がいて。怪我なのか病気なのか、とにかく体の具合が悪くて、そのお友達が倒れているんだって。それで誰か助けてって言っていたって。
 う~ん、僕が行っても何も出来なさそうだけど、でもフウはとっても悲しそうな顔しているし。見に行くだけ行ってみようかな? もし怪我だったら、僕の今着ている洋服に付いている、バンダナ? みたいので、怪我のところ巻いてあげても良いし。
「じゃあ、おともだちのちょこ、いこ」
 僕がそう言ったら、フウはとってもにっこり笑って、こっちだよって案内してくれました。本当に嬉しそうで、すごく友達のこと心配していたのが伝わってきたよ。
 でも、それからが大変でした。小さい体だと、こんなに歩くの大変なの? 慣れてないからか、フウに一生懸命に付いて行くけど、すぐに疲れちゃって。少ししてフウが、この木の向こうって言ったのを聞いて、どれだけホッとしたか。
 ようやく? フウが言った、木の場所に到着。そして木を抜けて出た場所には。
「ふわぁ、しゅごいにぇ」
 辺り一面、様々な形、色の花で埋め尽くされた、綺麗な綺麗な花畑が広がっていました。とってもいい匂いするし。こんな綺麗な花畑、初めて見たよ。
『ハルト、こっち』
 おっと、花畑に感激している場合じゃなかった。すぐにフウについていくと、案内されたのは花畑の中心で。そこには、大きな大きな黒い狼みたいな生き物が、ハアハアと荒い呼吸しながら横たわっていました。
 僕は、一瞬ビクってしてその場に止まります。でも、フウは全然怖がらないで、心配そうにその狼? に近付いて、お腹の上に座って。
 フウが大丈夫なんだから、僕だって大丈夫なはず? 僕はそっと、狼? に近づきました。
 近づいて気付いたこと。狼の体全体から、なんか黒いモヤモヤが出ていたんだ。何だろうこれ? 黒いモヤモヤを気にしながらも、まずは詳しく聞かないとって、フウに質問します。
「フウ。どこけがしてりゅの?」
『怪我? 怪我じゃないよ。穢れで具合が悪くなっちゃって、もしかしたら、このまま死んじゃうかもしれないんだ。だからボク、助けてって、誰か居ないかと思って探してたの。そしたらあそこにハルトがいたんだ』
 え? 穢れ? 死んじゃう? 僕の思っていた事と違うことを言われて、軽いパニックだよ。穢れって何? 死んじゃうって、そんなに重症なの?
 更にフウに詳しく話を聞く僕。この魔獣はロードファングって言って、この森の全ての種類のウルフをまとめているんだって。動物って言わないで魔獣って言うんだね。本当に本の世界みたいだよ。
 それでこのロードファングだけど、他の生き物も、いろんな災いから守ってくれる、とっても優しい魔獣でした。
 それから穢れっていうのは、フウの説明によると、悪いエネルギーみたいなもので、それが発生すると花や木を枯らしたり、湖にその穢れが発生すれば、湖をドロドロの黒い水に変えちゃったり、とっても悪いものなんだって。
 そんな穢れだけど、たまに魔獣を襲う事も。そうすると、力の弱い魔獣はすぐ死んじゃうみたい。
 みんなにとっても、自然にとっても悪い穢れに、今このロードファングは襲われて、倒れちゃっています。
 あのね、本当はロードファングは、穢れを祓う事が出来るんだって。自分だけじゃなくて、他の生き物の穢れを祓う事もできるの。それだけ強い力を持っているって事らしいよ。
 ただ、じゃあ何で今、ロードファングは苦しんでいるか。今回こうなったのは、みんなを助けたかららしいです。
 ロードファングの仲間が穢れに襲われて、何とか祓ったんだけど、今度はロードファングが襲われて。だからみんなを巻き込まないように、誰も居ないここで、最期を迎えようとしたって。
 ちょっと待って。穢れが襲うって、ここに居る僕達も危ないんじゃ。辿々しい言い方しか出来ない僕が、何とかフウにそう伝えたら、あっそうかって。
 だめじゃん! 少しここから離れた方が良いんじゃない。フウなんて、ロードファングの上に座っちゃっているけど。
『でも、ボク離れたくない……。ボク、お友達だもん』
 フウは本当に、このロードファングが大切なんだね。でも、僕じゃどうにも出来ないよ。穢れなんて今日初めて聞いたし、こんなに強そうな魔獣がどうにも出来ないんじゃ。
 でも、フウの姿を見ていたら、かわいそうになってきちゃった僕。だって目に涙溜めて、小さい手でロードファングの体、なでなでしているんだもん。
 それを見た僕、ちょっとだけならって。確かに穢れは怖いけど、フウが今触れているんだから、今なら僕も触れるんじゃって思ったんだ。それにフウのなでなで見ていたら、お父さんとお母さんのこと思い出しちゃって。
 小さい頃の記憶。よく二人とも、僕の頭をなでなでしてくれたんだ。僕はそれがとっても嬉しくて、安心して……。僕はロードファングとフウに近づきました。
「フウ、ぼくなおしぇない。ごめんね。でもいっしょ、なでなでしゅるよ」
『……うん! ありがと!』
 僕はロードファングの頭を、そっと撫でました。ごめんね治してあげられなくて。僕もフウみたいに撫でる事しか出来ないけど、これで少しでも落ち着いてくれたら。
 そっとそっと、撫で続ける僕達。そんな中、穢れについて考えていた僕。でも考えていたら、だんだんとムカムカしてきちゃって。この穢れって本当に何? 悪いエネルギーって言っていたけど、何も襲ってこなくたって良いじゃん。何で襲ってくるの!
「こんにゃけがりぇ、にゃくにゃればいいにょに」
 ムカムカしていた僕、思わずそう声に出して言いました。そしたら急に体の中がポカポカしてきて、それがどんどんあたたかくなって。何、何が起きているの? 本日何度目かのパニックになる僕。
 そんなパニックの中、今度はそのあたたかいものが、ロードファングを撫でていた手に、集まり始めたんだ。それからそのあたたかいのが手から抜けていって、ロードファングに入っていきました。入っていく、そう感じただけかもしれないけど。
 次の瞬間、ロードファングがポワッと白く輝き始めて、そしたら今までロードファングを覆っていた黒いモヤモヤが、少しずつ消え始めたんだ。僕はただただその光景を、じっと見つめていました。
 そして光が収まった頃には、ロードファングを覆っていた黒いモヤモヤは完全に消え、荒い呼吸じゃなく、落ち着いた呼吸をしながら、寝ているロードファングの姿が。
「フウ、どしたの?」
『……あれ? 嫌な感じなくなった? ハルトが治した?』
 え? 僕なにもしてないけど? と、そう言いかけた僕、でもそれはできませんでした。急に力が抜けちゃって、僕はロードファングに寄っかかるみたいに、パタンて倒れちゃったんだ。
 そしてそのまま意識がなくなっていって、フウが僕の名前呼んでいるのが分かったけど、僕が起きてられたのはそこまでだったよ。

「ん?」
 目が覚めて最初に思ったこと。ここ何処? 僕はふわふわな、葉っぱがたくさん集まった布団みたいのに寝ていました。
 僕、どうしたんだっけ? 確か妖精のフウとロードファングに会って。それから穢れにムカムカして、こんな穢れなくなれば良いのにって言ったら、ロードファングが光って、黒いモヤモヤが消えて。それでその後、急に力が抜けちゃったんだっけ?
 全部あれは夢? でも今いるのは葉っぱの布団の上だし、周りを確認すれば、あのロードファングが倒れていた、花畑の真ん中だし。やっぱり僕がここにいるのは、夢じゃない?
『起きたか?』
 何て色々考えていたら、突然後ろから声をかけられて、ビクッと驚きながら振り返る僕。そこには、穢れに襲われて死にそうにしていたロードファングが、今は堂々とした姿で立っていました。それから、ロードファングの頭にはフウが乗っていて、僕と目が合うと、僕の胸に飛び込んできたよ。
『ハルト良かった! 具合悪くない? 体痛くない?』
「うん、だじょぶ!」
 次々に質問してくるフウは、今にも泣きそうな顔していて、随分心配かけちゃったみたい。ごめんね。でも、僕も何で倒れたか分からないんだ。それと、
「りょーどふぁんぐ、も、げんき?」
 そう、ロードファングに、ちょっとドキドキしながら聞いてみます。いや、ロードファングにしてみれば、いつの間にかここにいた人間で不審者だろうし。それに言葉が通じるかも分からなかったし。ドキドキしちゃうよね。
『ああ』
 すぐにロードファングから返事が。あっ、言葉が通じる、良かった。それに、具合も良いみたい。うん、元気になって、そっちも良かった。フウに良かったねって言ったら、ニコニコ凄い笑顔で笑ったよ。
 さて、今の感じだと襲ってくる感じはしないし、それに今まで倒れていた僕を襲ってこなかったってことは、すぐには襲われないと思うんだけど……。うん襲われないと思いたい。
 取り敢えず言葉が通じることは分かったし、このまま黙っているのもあれだから、まずは自己紹介でもしてみる? 僕は座り直して、改めてロードファングに自己紹介することにしました。
「ぼくのにゃまえ、はりゅと。よりょちくね」
『……ああ』
 反応が悪いなあ。元気よくなったなら、もっと何かあるでしょう。『ああ』で終わりなの? フウはフウで、よっぽど嬉しいのか僕達の周り飛び回っていて、話を聞いてないし。
「にゃまえ、にゃあに?」
『俺に名前はない。それよりもお前に聞きたいことがある』
 え? 名前がない? 何て思っている僕を無視して、かってに話を進めるロードファング。何の話かと思えば、穢れについてだったよ。それについて僕に聞きたいことがあるんだって。僕もさっきのこと気になっていたから、静かにロードファングの話を聞くことに。
 今回のこと、ロードファングにとっても、予想外の事だったみたい。あまりにも穢れが多すぎたって。
 それで結局全部の穢れを消すことができず、自分が穢れに襲われることに。そうしてもうこれはダメだと、体が穢れに蝕まれ苦しみながら、自分が一番落ち着けるこの花畑で最期を迎えようと、移動してきたんだって。
 ただ、そんなロードファングにフウが付いてきちゃって。自分を友達だと言ってくれるフウに、穢れに襲われないように近づくなって言ったロードファング。でもフウは話を聞かないで、穢れを治せる魔獣か人がいないか探しに。それで僕にあったみたい。
 そうして、いよいよもうダメかと思った時、あたたかい力が体に流れ込んできたと思ったら、全ての穢れが消えていったって。
 そんな話をロードファングは、僕がちゃんと分かるように説明してくれました。
『お前は穢れを祓う力を持った、珍しい人間だ』
「ぼく? ちがうよ。ぼく、にゃにもちてない」
『気付いてないのか。おい、手を出してみろ。俺がその上に手を乗せるから、そのまま動くなよ』
 僕は言われた通り小さい手を出して、ロードファングの手が乗せられても動かずに、じっとしていました。数十秒後。
『ふん。やはりお前は、力を持っているな』
 手を乗せただけで分かるの? って聞いたら、魔力の流れを感じとったって。もうね、ほんとファンタジー満載だよ。魔力? 僕に魔力があるの?
『ところでお前はなぜ、こんな森の奥に居た。家族はどうした?』
 あ~。それもあったんだ。何かいろんな事がありすぎて、何から終わらせていけば良いのか分かんないよ。でも取り敢えず、このままじゃダメだし、他に誰もいないなら、ロードファングに相談するしかないか。
 あれ? そう言えば僕、普通に魔獣と話が出来ているけど、それもおかしいんじゃ?
 僕は今までに起きた事を、ロードファングに全て話しました。光に包まれて気付いたらここにいた事。小さい子供になっちゃった事。もうそれはそれは、全てを話したよ。バカにされるかと思ったけどね。でもロードファングは、ちゃんと最後まで何も言わずに、話を聞いてくれました。
「ちんじてくりぇりゅ?」
『ああ、お前が噓をついている感じはしないからな。だが、俺もそんな話を聞いたのは初めてだ。悪いがその事では力になれそうにない。すまない』
 そっか、やっぱりロードファングにも分からないか。仕方ないよね。話を信じてくれただけでも僕は嬉しいよ。
「いいよ。ぼく、きにちない。はにゃちきてくりぇて、ありあと」
 話をしたからなのか、少し気持ちがスッキリした気がしました。
 そうしたらスッキリしたら安心したのか、急にお腹が空いてきちゃって。今が何時なのかとか、そもそも時間とかがあるのか分からないけど、とにかくお腹が空いたよ。
 僕がお腹空いたって言ったら、木の実がある所に連れて行ってくれるって。ロードファングは伏せの格好をして、僕を背中に乗せてくれました。それから僕が落ちないように、そっと歩いてくれて。ロードファング、優しいね。
 少し行くと、たくさんの木の実がついた木の所に到着。手が届かなくて、ロードファングに採ってもらいました。
 そしてひと口食べてみたらビックリ! すっごく美味しいんだ。こんなに美味しい木の実、食べたの初めてだよ。しかも水分もかなり多くて、喉が渇いていた僕には、美味しいのと合わさって、どんどん食べちゃいました。
 そして、木の実食べてお腹いっぱいの僕は、こっくりこっくり。眠い……。そんな僕をロードファングが、自分に寄りかかって寝て良いって。ありがとう!! 僕はすぐに寄っかかって眠りました。

 俺ロードファングは、寄りかかってすぐに眠ったハルトを見る。すうすう穏やかな寝息を立てながら、眠るハルト。
 本当だったら今、俺はもうこの世に居なかったはずだ。死ぬ場所を求めて、俺が一番好きな場所で死を迎える。そのはずなのに……。
 あの死の直前、突然あたたかい魔力が俺に流れ込んできた。とても気持ちの良い、優しい優しい魔力。こんな魔力を持った魔獣が居るのかと思った。その気持ち良さのまま、俺は少しの間気を失い。
 そして俺が目を覚ました時、俺に寄りかかるようにハルトは倒れていた。そのハルトの体の上にはフウが。フウは俺が起きた事に気づくと、ハルトを助けてと言ってきた。
 確認してみると、ただ魔力を使い過ぎただけのようだった。フウに葉っぱを集めてこいと言って、その葉っぱで寝床を作り、その上にハルトを寝かせた。
 フウに何があったのかを聞き、間違いなくハルトが俺を助けたと確信した。しかし目を覚ましたハルトにその話を聞くと、自分ではないと言ってきて。俺の間違いかと思い、魔力の確認をすると。やはり間違いなくハルトは、穢れを祓う魔力を持っていた。
 それからハルトに聞いた話は、信じがたいものだった。しかしその真剣に話す姿を見て、それが噓ではない事が分かった。
 が、穢れを祓ってもらったのに、ハルトの話したことについてはどうにも力にはなれないようで。すまないと謝れば、気にしないと。何とか力になってやれれば良いのだが。
 そしてお腹が空いたと言うハルトに木の実を食べさせ、今の状況だ。これからどうするか。ハルトの話から、家族がいない事は分かったが。このまま近くの街の所まで送って行くか? そこからは、どこかの人間が助けてくれると思うが。
 いや、ダメだ。もし盗賊が出たら。ハルトなどすぐに殺されるか、穢れを祓う珍しい魔力に気付かれれば、奴隷にされてしまうかもしれない。そんなのはダメだ。それに……。
 あのあたたかい、気持ちのいい魔力。俺は、ハルトと一緒にいたい。人間と一緒に居たいと思ったのは初めてだ。もしこのまま別れてしまえば、二度と会えないかも知れない。それだけは避けたかった。
『契約するか……』
 人間と契約する。それはその契約した人間のために、力を使う事になる。命令は絶対だ。もしかしたら、やりたくない事も、やらされるかもしれない。それでも……。
 まずはハルトが起きてから聞いてみよう。契約してくれるなら嬉しいが。ちょっとニヤニヤしながら、ハルトの匂いを嗅ぐ。子供独特のふにゃあっとした匂いだ。早く起きろハルト。そして……。

 僕が起きたのは、だいぶ時間が経ってからだったみたい。二人に、ずいぶんぐうぐう寝ていたなって言われちゃった。
 しょうがないんだよ。いろんなことあって、疲れていたしお腹もいっぱいになって。お子様な今の僕は、睡眠が一番の体力回復だと思うんだよね。ほら、寝る子は育つって。
 今は夜中みたいです。フウが暗いからって、光の妖精を連れてきてくれて、今僕の周りはとっても明るいけどね。
 さっき採った木の実の残りを食べて、そしたらトイレに行きたくなっちゃった。
「あの、おちっこ」
『ああ、その辺でして良いぞ。浄化すればいいからな』
 浄化って? 僕が分かってないのが分かったのか、ロードファングは取り敢えずその辺でしてこいって。何か嫌だな。でも、我慢できないし。
 仕方なく隠れて済ませて戻ると、ロードファングは僕がおしっこした場所へ。そしてその場所が少し光ってから、すぐに戻って来ました。
 今の光が浄化した光で、浄化して元の綺麗な土に戻したんだって。魔法って、そんな事まで出来るの? 後で僕にやり方教えてくれないかな。
 さっぱりした僕は、改めて周りを眺めました。まあ、光が届く範囲だけどね。花とか木とか見たことのない物が多いし、それに魔獣に妖精。本当にここは、僕が居た地球じゃないんだね。今、空には月が二つ出ているし。
「ねえ、りょーどふぁんぐ?」
『何だ?』
「おうちかえりゃにゃくて、いいにょ?」
 本当はこんな場所に、一人で置いて行かれるのは嫌だよ。絶対生きていけない。でもロードファングにも家族はいるでしょう? もし出来たらで良いんだけど、ここに街とかあるか分からないけど、そこまで送ってくれないかな。
 そんなことを、呂律の回らない口で、何とか伝えました。それを聞いたロードファングは最初黙ったまま、じっと僕のこと見てきて。僕、何か変な事言った? なんて考えていたら、僕とロードファングの間にフウが入ってきました。
『ねえハルト、ボク達と契約しない?』
「けいやく?」
『おい、いきなり言うんじゃない。順番というものがあるんだぞ』
 契約って何? ロードファングが説明してくれます。
 あのね、契約するとずっとみんな一緒に居られるらしいんだ。僕、ここの事、ぜんぜん分からないでしょう? それでもし迷子になったら? いや迷子にならなくても大変だけど。
 もし迷子になっても契約してれば、契約している魔獣や妖精は、僕がどこに居るのか、すぐに分かるんだって。あんまり離れると流石に分からなくなっちゃうけど、それでもかなりの距離で分かるみたいだよ。
 それから、二人の魔力も強くなるらしいです。僕の魔力は普通の人よりも、ちょっとだけ変わっていて、しかも魔力も多いんだって。自分じゃ分からないけど、そういう人と契約すると、魔力が強くなるんだって。
『簡単に言えば、俺達の主になるって事だ。俺達はハルトを気に入ったんだ。だから飼い主になってくれ』
『うん、ボクもそう。主になって!』
 何か良い事ばっかり聞いているけど、ダメなこととかないの? 確か本では、契約主には逆らえないとか、契約を無理に切ろうとすれば、お互いが死んじゃうとか、そんなのなかったっけ?
 僕がそう聞いたら、二人とも目を合わせないんだもん。やっぱりね。もしかしたら二人が傷つくかも知れないんだよ?
 だから僕、そんな危ない契約だめだよって怒ったよ。そうしたらロードファングが僕の方をチラッチラッと見ながら。
『俺達は、お前のあたたかい魔力に惹かれたんだ。それから、お前の行動にもな』
 そう言ってきました。僕が穢れを恐れず、ロードファングを優しく撫でた事、それからロードファング自体を恐れなかったことをフウに聞いて、とっても驚いたみたい。そんなことする人間が居るなんてって。
 それから僕が無意識だったけど、穢れを祓ったときに、僕の魔力がとてもあたたかく感じてね。あんなにあたたかい魔力は初めてだったって。
 それから最後に、僕と少ししか一緒に居ないけど、それでも僕とこれからも一緒にいたい、そう思ったんだって。それに僕といたら楽しそうだって。変わっている? 人間だから。
 最後のは、何かうん、嬉しいね。だって一緒にいたいって言ってくれたんだよ。まだ、ご飯一緒に食べただけなのにね。まぁ、楽しいかはなんとも言えないけど。
 久しぶりだよ、嬉しくて笑ったのなんて。叔父さんの家では、笑うとか怒るとか、そんなのなかったからね。えへへへ。
 僕が思わず笑っていたら、ロードファングが、『くっ!』と言って、下向いちゃった。どしたの?
『ハルト笑うと可愛い。ボク達と契約して、いつも側に居て笑っていてよ。ボク、一緒にいられたら、とっても嬉しいよ!』
 どうしよう。契約しても良いけど、二人に何か嫌なことがあるのは嫌だな。ちゃんとそこは聞いておかないと。さっき二人が目を合わせなかったし。
 詳しく聞いたら、渋々って感じで教えてくれました。やっぱり契約には強制力があるみたい。ロードファング達が戦いたくない相手とかに、僕が倒せって言ったら逆らえずに、戦わないといけないとか、どんな無理なことでも命令を聞かないといけないとか。
 それから、僕が契約解除するって言わない限り、途中で自由に生きたいって思っても、離れることが出来ないんだって。
 もちろん僕は、二人が嫌がるような事を命令したりしないし、契約解除して欲しいって言われたらするけど。でも契約している間は、僕が二人を拘束しちゃうって事だよね。
「ふちゃり、やじゃない?」
 そこはもう一度確認、大切な事だからね。
『勿論だ。俺が望んで契約したいんだ』
『ボクもだよ! ね、だから契約して!』
 そっか。そっか……。僕も二人じゃないけど、一緒にいたいって思っていたし。それにいつでも契約解除出来るみたいだから、契約しても大丈夫だよね。よし!!
「ぼく、けいやくしゅる。いちゅもいっと! うれしいねぇ」
 僕がそう言ったら、二人とも物凄い勢いでニッコリ笑いました。ロードファングの方は、ちょっとニヤリって感じだったけどね。でも、僕に家族が出来ました。これから三人いつも一緒だよ。
『よし!! 決まったところで、すぐに契約を始めよう』
 え? そんなすぐ? 朝になってからでも良いんじゃ? 光の妖精に明るくして貰っているけど、何もこんな夜中に。
 そう思ったんだけど、二人の顔を見たら、今やらなくちゃって思いました。だって、さっきよりももっと、ニコニコにニヤニヤなんだもん。こんなに楽しみにしているのに、待たせちゃダメだよね。ところで契約って、どうやるんだろう。
「けいやく、どやりゅにょ?」
『ああ、そうか。知らないんだったな。じゃあまずはフウから契約してみよう。良いか、今から俺がお前に、魔力の流し方を教える。さっきみたいに手を出せ』
 言われた通り手を出すと、さっきみたいにまた手を乗せてきたロードファング。今からロードファングが自分の魔力を僕に流すって。
 待っていたらロードファングの手から僕の手に、あたたかい物が入り込んできて、それがどんどん体の中に広がりました。
 あっ、これ。僕が倒れていた、ロードファングを撫でた時と同じ感じ。このあたたかいのが魔力なのかな?
『どうだ? 体にあたたかいものが流れ込んできただろう。それが魔力だ』
 やっぱりそうなんだ。
『このあたたかい物はお前の中にもある。まずはそのあたたかいものを想像してみろ。体全部に溜める感じで』
 あたたかい感じ、あたたかい感じ……。今のロードファングの魔力を思い出しながら、それから僕の、ロードファングの穢れを祓った時の事を思い出しながら、体に魔力が溜まるように考えます。
 そうしたら少しして、体の中にあたたかい物が溜まり始めたんだ。これが僕の魔力? 僕がバッ! とロードファング見たら、成功したみたいだなって。
『じゃあそのままフウのことを触れ……。あ~、初めて魔力を溜めたのならば、今は動かない方が良いか。よし、フウ、ハルトの手に乗れ』
 僕が両手を合わせて前に出すと、すぐにフウが乗ってきました。
『今からはちょっと難しいかもしれないが頑張れ。先程の俺の魔力をハルトに流したように、今溜まっているお前の魔力をフウに流すんだ。魔力が出ていく感覚は分かりやすいからすぐに分かる。そしてそれが出来たら、フウの名前を呼び、契約すると言うんだ』
 わわ、ちょっと難しそう。ロードファングもそう言っていたし。でも頑張らなくちゃ。
 僕の手の平に乗ったフウに、魔力を流します。またさっきのロードファングのことを思い出しながら。
 そうしたらすぐでした。どんどん魔力が手の方に集まってきて、外へ出ていくと、フウに流れ始めたんだ。そしてかなり魔力が流れたと思ったら。
『よし、そろそろ良いぞ』
 そうロードファングに言われたから、言われていた通り、名前と契約してって言いました。
「フウ、ぼくちょ、けいやくちて」
 言った瞬間、いきなりフウが光り出して、目を開けてられなくなって、ぎゅうっと目を瞑ります。でもすぐにロードファングが声をかけてきて。
『おい、契約が成功したぞ』

©Aripon / Sunaho Tobe 2023

 そう言われて、そっと目を開けたら。さっきまで羽とか、髪の毛とかキラキラしていたんだけど、それがもっとキラキラになって。ううん、それだけじゃなくて体全体が輝いているフウがいました。
 ロードファング曰く、契約したからパワーアップして、見た目も少し変わったんだって。へえ~、契約すると見た目まで変わるんだね。でも、良かった。契約がうまく出来て。
『やった! やった! これからずっと一緒だよ!』
「うん!!」
 さあ、フウの契約は成功したから、次はロードファングだよ。名前がないって言っていたけど、どうするんだろう。ロードファングで良いのかな?
『よし、今度は俺だ。俺はもともと名前がなかったからな。契約の時は、契約する奴が名前をつけるんだ。お前のことだぞ。さあ、俺に名前をつけてくれ。それからはフウの時と一緒だ』
 僕が名前つけるの!? 僕、ペットとか飼ったことないから、こういうの苦手。どうしよう。
 僕が内心ワタワタしているのをよそに、ロードファングはニヤニヤがさらにニヤニヤに。ああ、そんな嬉しそうな顔して……、ちゃんと名前考えてあげなくちゃ。
 ロードファングは黒いオオカミ。しかもとっても綺麗な黒。そう言えばお母さんが、ロードファングみたいに綺麗な黒の石を持っていたっけ。
 名前は確か……、ブラックオニキス。石の意味は、悪を退けて、悪霊とかから守ってくれるって、お守りの石って言っていたよね。みんなを穢れから守るロードファングに、ぴったりじゃない?
「オニキシュ!」
『オニキシュ?』
「んー、しゅ!」
 お願い分かって……。良い名前だと思うのに、お子様な呂律が邪魔するよ。
『ああ、オニキスか』
 僕は思いっきり、ウンウン頷きます。
『オニキスか……、いい名前だ!』
 オニキス! 気に入ってもらえたみたい。よし名前決定。今日からロードファングはオニキスね!
 すぐにフウの時みたいに、魔力を溜めます。それが出来たら、オニキスが自分のおでこと僕のおでこをくっつけたよ。準備完了です。
「オニキシュ、ぼくとけいやくちて」
 光がオニキスを包みます。僕はまた目を瞑って。そして目を開けた時そこには、さっきよりも艶々な、さらに黒が綺麗になったオニキスが居ました。触ってみたら、さらさらふわふわ。とっても気持ち良いよ。
『よし、俺の方も契約は成功だ。これからよろしくなハルト』
『ボクもボクも!!』
 それぞれぎゅうぅぅぅっと抱き合います。
 それから僕、みんなにお願いしてみました。契約できたのは嬉しいんだけど、主っていうのは。僕、自分が主って感じしないし。だから家族にならないって言ったんだ。
 だってこれからずっと一緒に居るんだし、それに僕、家族が欲しいよ。お父さんもお母さんも居なくなっちゃって、叔父さんとは家族になれなくて。僕、寂しかったんだ。
 僕の言葉に、最初びっくりしてた二人だけど、でも、家族で良いって。二人も家族の方がもっと嬉しいって言ってくれて。
 こうして今日、僕達は家族になりました。これからどうなるか分からないけど、楽しみだなぁ。

 何でこんな所に子供が? 俺は幻を見ているのか? 人間の子供が、ロードファングと妖精といたように見えたが。
 それは偶然だった。冒険者ギルドの依頼を受け、たまたまこの森へ来たのだが、まさかこの危険な森で、小さな子供の姿を見るなんて。
 何処からか、ロードファングが攫ってきたのか? それとも誰かがここに子供を置き去りにし、その子供をロードファングが……?
 どちらにしても、取り敢えず冒険者ギルドと、領主様に知らせなくては。俺だけでは、あの子供を助ける事は出来ない。
 ロードファングだぞ。魔獣のランクでトップクラスの。上級冒険者が、最低で十人はいる。それ以上か? そんな魔獣に俺一人では。
 早く早く。俺は馬を走らせた。

 契約が終わって、家族になって、最初ははしゃいでいた僕だけど、やっぱり子供だからかな。さっきたくさん寝たのに、また眠くなっちゃって。
 オニキスが寝て良いって言うから、また寄りかかって眠りました。前よりも気持ちいい毛並み。最高のベッドってこんな感じ?
 またまたぐっすり眠った僕が目を覚ましたのは、もうだいぶ明るくなった頃でした。オニキスに、朝とか昼とかあるのか聞いたら、明るくなれば朝だし、暗くなれば夜。お昼はなんとなくだって。まあ、自然で生きているなら、そんな感じになるよね。
 それから夜に、僕の周りを明るくしてくれた光の妖精、名前はライって言うんだけど。朝起きて確認したら、まだ僕達と一緒に居たから。ライにも一緒に家族にならないって聞いたんだ。だって夜にとってもお世話になったし、一人だけ仲間ハズレみたいでしょう?
 そしたら、それ聞いてフウが怒っちゃって。ライと大喧嘩始めちゃいました。
『ハルトはボクと初めて会ったんだよ。だからボクがハルトの一番の家族になるんだもん。ライはまだ会ってから、少ししか経ってないでしょう。だからまだダメ!』
『どうして! フウだってオレとそんな変わりないじゃん。オレだって、夜からずっと一緒に居て、ちゃんと役に立ったんだから、家族になってもいいだろ!』
 なかなか喧嘩が終わらなくて、最後にはオニキスが二人のこと𠮟ったよ。僕のこと困らせたら、フウは契約解除するし、ライは契約させないぞって。それでやっと喧嘩は終わりました。
 フウに何でダメなのか聞いたら、同じ妖精だから、ライのことばっかり僕が優しくするかもって思ったんだって。僕そんなことしないよ。みんな同じに幸せじゃなきゃ。だって家族でしょう。
「ぼく、みにゃたいしぇちゅ。みにゃだいしゅき。だかりゃ、にゃかよくしゅりゅ」
 そう言って、人差し指で頭なでなでしてあげたら、うーんって、何か考え込んじゃって。やっぱりダメかなって思っていたら。
『ライ、なでなでしてもらう時は、一緒になでなでだよ。一人だけダメだからね』
 あれ? もしかして撫でられるのが好きなのかな? 撫でる回数が減るのが嫌だった? もう、言ってくれれば、いっぱい撫でてあげるよ。ほら。
 僕はフウを撫でてあげます。そんな撫でられて嬉しそうにするフウを見て、ライがそっと寄って来たから、ライも一緒に撫でてあげて。そしたら、オニキスが俺は? って。
 その時のオニキスの顔が、とっても情けない顔していて。森を守るロードファングじゃないの? 僕思わず笑っちゃったよ。でも僕の手、二つしかないからね、順番に撫でてあげたよ。
 そして撫でるのが終わったら、ライと契約しました。三人家族と思ったけど、四人家族に訂正です。僕は一気に家族が増えてウキウキだよ。
 さぁ、契約も終わって、朝からちょっとバタバタしたけど、今日は何をするのかな? 家族になって一日目。何か必要な物とかあるかなぁ。まあ、今の僕には大した事出来ないかも知れないけど……。そう言えばみんな、家とかあるのかな?
 聞いてみたら、みんないろんな所で寝たり、ご飯食べたりしているんだって。そうか、ここは森の中。そして魔獣と妖精。家がなくても平気なんだ。でも、雨降ったりとかしたら、僕風邪ひいちゃうかも。
 よし決めた。今日はみんなで暮らす所を探そう!
『何だ。家が欲しいのか?』
 オニキスにみんなで暮らす、良い場所ないか聞いたら、僕達が入っても全然狭くない洞窟があって。その洞窟の近くには木の実もたくさんあるみたいで、オニキスはよくそこに居たんだって。そこなら家にぴったりかもってことで、オニキスに乗って、その洞窟まで移動です。
『すぐ着くぞ。あの洞窟は俺の縄張りだから、他の魔獣は来ないんだ』
 オニキスが言ったとおり、すぐに洞窟に着きました。中に入ったら、僕達四人にちょうどくらいの広さでした。よし! 今日からここが僕達の家、決定です!
 オニキスから降りて座ってみます。う~ん、やっぱり岩だから痛い。まずは、葉っぱとか集めて、地面をふかふかにした方が良いかな。
「はっぱ、あちゅめりゅ。みんなであちゅめよ」
『あっ、それならオレとフウが得意! ちょっと待っててな。フウ行こう!』
『うん!』
 二人がササッと洞窟から出て行っちゃいました。みんなで集めた方が早くない? そう思っていたんだけど、すぐに帰って来た二人を見てびっくり。
 二人の頭の上に大きな葉っぱの塊が。魔法で集めてまとめて持ってこられるんだって。二人が何回かそれを繰り返してくれて、地面は葉っぱでふかふかになりました。
 それからワタみたいな、ふわふわの葉っぱも持って来てくれて、さらに地面がふわふわに。あんな葉っぱ見たことないよ。きっと僕、見たことない物、ここにはたくさんあるんだろうな。ちょっと楽しみかも。
 二人のおかげで、すぐに終わっちゃったから、お礼に大好きななでなでしてあげました。それ見たオニキスは、ご飯は俺に任せろって、出て行っちゃって。木の実を採るのはいいけど、どうやって持って帰ってくるの?
 と、僕の疑問はすぐに解決。戻って来たオニキスは大きな葉っぱに木の実包んで、それを咥えて戻って来ました。みんな何でも出来過ぎじゃない?
 木の実を置いたオニキスは、しっぽをブンブンふってニヤニヤしながら、僕が頭を撫でるのを待っています。
 オニキス、強い狼じゃなくて、大きい犬みたい。でも、木の実持ってきてくれてありがとね。撫でてあげたら、ぶんぶんしっぽを振っていたよ。それからとっても嬉しそうでした。
 その後は、みんなで洞窟の周りと、洞窟の中は葉っぱを敷いていない場所を掃除したよ。みんなで掃除? ううん、僕が石とか、ツルとかに引っかかって転ばないように、みんなが片付けてくれたんだ。僕は危ないから、まだ外出ちゃダメって、洞窟の中でじっとしていました。
 僕、今日一日、何もしてないんだけど……。

 この世界に来て二日目。今日はみんなが、それぞれのお友達を紹介してくれることになりました。というか家族になったって、お友達に自慢したいみたい。
『俺は皆に、ハルトがいかに素晴らしい人間か話すぞ!』
『フウも自慢するんだ!』
『オレも!! 家族になったなんて、みんな羨ましがるだろうなぁ』
 そんなことを言っていました。僕、そんなに凄いお子様じゃないんだけど。なんか無駄にハードル上げてない?
 そんなこんなで、最初にフウ達のお友達に会いに行きます。フウ達のお友達が集まっている所が、この洞窟から近いんだって。オニキスに乗って出発!
 この前の花畑を通って、少し奥に行くと、僕が最初に見た湖とは違う、もう少し小さな湖が見えてきました。あの湖の周りに、フウ達のお友達が居るんだって。
 湖が見えるとすぐに、先に僕達が来たこと知らせてくるって、二人とも飛んで行っちゃったよ。
 そして湖に着いたら、たくさんの妖精が、羽をキラキラ光らせながら飛んでいました。しかもそのキラキラが、みんな違う色をしているから、とっても綺麗。ただ、契約したフウとライの方がキラキラが強いから、もっと綺麗です。
 出迎えてくれた妖精さん達に、まずは自己紹介。
「はりゅとでしゅ、よりょちくね」
『『『はりゅと!!』』』
 ……違う。僕の名前は晴人だよ。は、る、と。もう、お子様のお口が恨めしい。
『違うよ、ハルトだよ。ハルト人間の子供。まだ小さいから、うまく話せないんだよ。それよりね、ボクとライ、ハルトと契約したんだよ。良いでしょう!』
 フウの言葉に、集まっていた妖精がワアーワアー言い始めました。良いなぁとか、何で二人だけとか、僕も契約してみたいとか。それを聞いたフウとライは。
『みんな契約ダメ。オレ達家族になったから、契約したんだぞ』
『家族はこの四人だけなの。だからみんなはダメ!』
 そう言いながら、それでも自慢をやめないフウとライ。ハルトは可愛い、ハルトはすごい魔法使える、なでなでが気持ち良い、とっても優しい。何てことずっと言われて、恥ずかしいんだか嬉しいんだか。
『そうだハルト、今たくさんボクの友達が居るから、妖精の鱗粉かけてあげる。鱗粉を体にかければ、ハルトも少しだけ、飛べるようになるよ』
 何それ!? 僕が飛べる!? フウとライが飛んでみる? って聞いてきたから、もちろん!! って答える僕。
 ドキドキしながら待っていたら、妖精が僕の周りに集まって飛び回りながら、鱗粉をかけてきました。キラキラ、キラキラ。綺麗な鱗粉が僕にかかります。
『もう大丈夫じゃない』
『そうだね。ハルト飛ぶの想像してみて』
 飛ぶのを想像? 想像……、目を瞑りながら、飛んでいる姿を想像します。少しして、
『ほらハルト! 浮いてるよ。でも……』
 パッと目を開けて確認。本当に飛んでいる? 自分の足元見たら、たしかに浮かんでいる!? 地面に足がついてない! でも……。
 十センチくらい? なんか僕の想像していたのと違う。もっとこう、みんなみたいに飛ぶのを想像していたんだけど。
 オニキスが、僕はまだ魔力の使い方知らないから、もっと自由に魔力を使えるようになったら、もっと飛べるようになるって教えてくれました。
 そっか、ちょっと残念。でも飛べたのには変わりないよね。心配そうに僕のこと見ている妖精達に、ちゃんとお礼言わないと。
「みにゃありあと。ぼく、うれちい!」
 そう言ったら、妖精達は安心したみたいで、すぐにニコニコになって。
 その後はちょっとだけ浮かんだ僕と、みんなで空中散歩をしました。あっちへふわぁ~、こっちへふわぁ~。歩くんじゃなくて浮いて移動しているから、なんか変な感じだけど、でも初めての感覚で結構面白かったです。
 何回かその辺を往復していたら、スッとゆっくり、足が地面に着きました。これで空中散歩は終わりです。楽しかったぁ、みんなありがとね。
 空中散歩が終わって、フウとライも自慢が終わったって言うから、妖精さん達との交流は終わり。妖精さん達にバイバイして、今度はオニキスの仲間の所へ移動です。
「みにゃ、ばばい!」
『ハルトまたねぇ!』
『また遊ぼうねぇ!』
 小さい手でみんながバイバイしてくれました。可愛いなぁ。また今度ね!
 オニキスのお友達が居る場所は、森のもう少し奥なんだって。森の奥に行けば行くほど、強い魔獣が多いみたいです。それと移動している時に、オニキスが自分のこと教えてくれました。
 もともとオニキスはただのファングとして生まれてきたんだけど、みんなよりも魔力が多くて、しかも穢れを祓うほどの力持っていたから、毎日訓練して自分を鍛えて、それである時、ロードファングに進化しました。それからはずっとこの森のこと、守って来たって。
 オニキス偉いね。そんなオニキスは撫でてあげよう。なでなで、なでなで。うん。撫でたタイミングが悪かったよ。オニキスが喜んで、スピードアップして走り始めちゃったんだ。そんなオニキスにお子様な僕が、乗っていられるはずもなく。
「まっちぇ~!!」
 落ちそうになって、オニキスの毛を慌てて摑みました。何とかぶら下がったまま、オニキスに向かって叫んだよ。落ちたら大変。
『す、すまん!? 大丈夫か!』
 慌てて止まったオニキス。止まったオニキスにぶら下がったままの僕。うん。オニキス大きいからね、足なんかつかないよ。そっと毛を摑んでいた手を離して、尻もちつきながら着地。いたたたた。
『大丈夫かハルト、本当にすまん』
『オニキスいけないんだ!』
『ハルトお怪我しちゃうよ! オニキスは少しの間、なでなで禁止!』
 僕が何も言わないうちに、フウとライがオニキスに罰与えちゃったよ。別に気を付けてくれれば、良いだけだったんだけど。撫でたタイミングが悪かっただけだし。
 でもしょぼんと頭下げているオニキス、ちょっと可愛い。罰はかわいそうだけど、少しの間なでなで我慢してもらおうかな、ごめんねオニキス。
 その後、もう一度オニキスに乗ってお友達の所に。どれだけ森の奥に来たのか。今まで見ていた大きな木が、もっと大きい木に変わって、ここからがファング達の縄張りだって。群れって、どのくらいの群れなのかな? みんなもふもふかな? 会うの楽しみ!
 縄張りに入ってすぐ、少し開けた場所にでました。そしてオニキスがひと声鳴くと、木の間から続々とファングが集まって来て、全部で三十匹くらい? 広場はファングでぎゅうぎゅう。何処にこんな隠れていたの?
「いっぱい!」
『二つの群れだ。たまたま今日ここにいたのが、この二つの群れだっただけで、もっとたくさんいるぞ』
 多いと思ったのに、もっと多いなんて。多い群れだと一つの群れで、四十匹くらい居る群れもあるんだって。
 すぐにオニキスが僕を紹介してくれて、ファング達がゾロゾロ僕にすり寄って来ました。うーん、オニキスには敵わないけど、ふわふわな毛並みで気持ち良い。
 オニキスがうーとか、ワウとか、何か言っています。何で普通にお話しないのかな? 不思議に思って聞いてみたら、普通の魔獣は、言葉は喋らないんだって。魔力の量が多かったり、レベルが高い魔獣に進化したりすれば、お話出来るようになるけど、だいたいの魔獣が話せないって。
 僕、今まで普通にお話していたから、それが普通だと思っていたよ。最初に会えたのがフウやオニキスで良かったぁ。
 オニキスがワフワフって言ったら、みんながサッと整列しました。何て言ったか聞いたら、あんまり僕に馴れ馴れしくするなって。それをして良いのは、家族であるオニキスだけだって言ったらしいよ。あの短い鳴き声でそんなに言えたの!?
 整列したファングを見ながら、オニキスが説明してくれました。真ん中に並んでいる二匹が、それぞれの群れのリーダーなんだって。他のファングと比べてみたら、確かに体も大きいし、艶々の黒い毛並みです。カッコいい。
『ハルト、お目めきらきら』
『カッコいいもんな!』
『何だと!? ハルト、俺の方がカッコいいだろう!!』
 もちろんオニキスはカッコいいけど、他のファングもカッコ良いよ。と思っていたら、オニキス僕の前に来て、みんなを見えないようにするんだもん。もう!
 僕がブスってしていたら、後ろの方から小さな小さな子ファングが一匹歩いて来ました。か、可愛い。もうねファングじゃなくて、ただの可愛い子犬。触りたい。
 僕の前に来てお座りした子ファング。
『はじめまして』
「ふぁ! しゃべりぇりゅの?」
『ああ、こいつは魔力が多いからな。将来の俺だぞ』
 そうなんだ。こんなに可愛いのに、いつかオニキスみたいに……。僕がじっとオニキス見ていたら、オニキスが何か知らないけど、カッコつけて立ちました。何カッコつけているの。
 カッコいいオニキスみたいなロードファングも良いけど、このまま可愛いロードファングとかいても良いんじゃないかな?
『あのね、おじちゃん。ハルトと、あそんでいいですか?』
 オニキスが黙ります。僕も遊びたい! お願い! 僕もオニキスに向かってお願いします。
『……分かった、少しだけだぞ。その後は、俺の番だからな』
 後半の言葉はとりあえず置いておいて、僕は初めにそっと子ファングの体を撫でました。ふおぉぉぉ!! 何てもふもふ、ふわふわなの!! 子ファングにぎゅうってしても良いか聞いて、良いよって言ってもらえたから、早速ぎゅうぅぅぅ! ああ、幸せ。
 僕のお願い聞いてもらったから、今度は子ファングのお願いを聞いて、子ファングの好きな遊びをします。木の枝投げて、持ってこい。うん。やっぱり犬だよね。
 何回もやってあげて、僕の腕が疲れたから終了しました。
「ふう、あちゅいね」
『ぼく、まほ、つかえる』
 まほ? ああ、魔法のことかな? 子ファングは、風の魔法が得意らしいです。風の魔法で、涼しくしてくれるって。ありがとう。
『かぜの、まほ。うーん』
 子ファングがぎゅうって目を瞑って唸ります。僕みたいに、力を溜めることから始めるの。たくさん練習して慣れれば、すぐ魔法は使えるんだけど、僕達みたいなお子様はまだまだです。
 子ファングがうーんって唸って、少しした時でした。突然子ファングから、物凄い風が吹いて。あまりの強さに僕は。
「ふわあぁぁぁ!?」
 ゴロゴロ転がっちゃったよ。誰か助けて!
『ハルト!!』
『わあぁぁぁ!!』
『助けてええええ!!』
 オニキスが僕を咥えて助けてくれました。僕、オニキスだったらひと口サイズなのね……。良かった、本当に家族で。
 と、それよりも、さっきフウとライの声も聞こえたよね。二人とも飛ばされちゃった!? 慌てて二人の名前を呼びます。それから周りを見て。
 そうしたら、リーダーのファングや大人達、お兄さんお姉さんファング達は大丈夫だったんだけど。やっぱりまだ小さい子ファング達は、何匹か飛ばされちゃっていて、大人達に助けてもらっていました。みんな大丈夫? うちの二人知りませんか?
「ふう、りゃい! どこいりゅの!?」
『ハルト、ここだよ!』
『こっちこっち!』
 木の陰から二人が飛んで来ました。大丈夫、怪我してない? 確認したら二人共、羽も体も怪我していませんでした。ふぅ、ひと安心。
 風の魔法を使った子ファングがしょんぼりして、僕達に謝ってきました。気にしないで。だって涼しくしてくれようとしたんだから。
 僕はうまく喋れないから、そんな感じのことを、オニキスに言ってもらったよ。それから大丈夫だよって撫でてあげて。それで少し元気になった子ファング。本当に気にしなくて良いからね。
 そんな事をしているうちに暗くなってきたから、家に帰ることに。子ファングとまた遊ぼうねって約束をして帰りました。
 家に帰って、ご飯の木の実食べて、一日中遊んだ僕はこっくりこっくり。オニキスに寄っかかりながら、ぐっすり眠りました。

続きは本編でお楽しみください!
キャラクター紹介や初回限定特典を掲載している
特集ページも公開中!

書籍紹介

著:ありぽん イラスト:戸部淑
発売:2023年12月1日(金)
定価:1,430円(税込)

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