この道、まっすぐ歩けない

その道を歩くと、必ず横槍がはいる。誰かが倒れていたり、倒木があったり。有名な近道であるのに、ほんとうは、誰もそこを通ることで『チカミチ』できたものは、いない。

街道を歩くより、遥かに時間がかかるのだ。
すべてはモノノ怪類の罠であった。

歩かせて、歩かせて、人間を観る。
助けるか否か、踏み超えるか、引き返すか、無窮の試練を与えたがるのであった。

今のところ、試練をすべて超えた人間はいなかった。それでもチカミチの噂はヒトに化けた怪異によって流されつづける。ここを歩け、ここを歩け、ここをゆけ。

ほんとうに踏破したらば、その者にはほんとうに、二度と元の道には戻れなくなる運命が待ちかまえていた。
真っ直ぐ歩くなら、歩ききったなら、或る美女が声をかける。
やれ旅人さん、へとへとになっておりす。ちょうど夕飯のお時間です、夕飯でも食べていきますか。作りすぎてしまって。しかも、牛鍋なんです。もったいないでしょう、肉があるなら食べないと……。

ヒトに化けた美女には足があり、美貌がある。しかして化け物の類。
本来の彼女のすがたは、下半身の肉がぼろぼろに削がれたニンギョである。ニンギョのミチとして怪異には知られている。

花婿を、選ぶための道なのだ。
しかも人魚は強欲なやつで、花婿は何人いてもよいという、考えの持ち主だ。さらには花婿が逃げ出すならそれはそれで放っておく。何人でも、新しく造ればいいだけの話なのだから。

「いいのですか、そんな、肉なんてご法度を……」

「お上のたわ言などここには届きません。さぁ、お食事はいかがですか」

散々なチカミチを歩いた旅人は、へとへとだ。月光をかざすような美女を前にしてうなずくに決まっている。

こうしてまた、人魚の肉を食わされて、チカミチどころか永遠に終わらない小道に迷い込む、ニンゲン、ニンゲンだったモノが、また一個、増える。

怪異が一個、増える。
人魚の何十人目かの旦那さんだ。

人魚というのは、惚れっぽく飽きやすくしかし恋したがりで、常に胸の高揚を求めているのである。
悪意、害意はなく、本当に無く、故に、他の怪物たちから一目置かれていた。

アレは、ほんとうに危ない類だからな、と。


END.

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