野蛮人の料理ですわ!!(おいしい!!)

上陸した人魚姫は、首尾よく城に潜り込んで下働きとして雇ってもらえることになった。初恋の王子を追って海から出たばかり、右も左もわからぬ小娘にして異国人である。

しかし、食文化の異常性は、わかった。

(野蛮人の巣ですわ〜〜!!)

コツコツ、卵を割りながら、元人魚姫のメイドはぞっとする。

卵である。陸上にしても、なかには子どもが入っているはずだ。つまり稚魚。陸上人は、稚魚にも満たぬ卵を常用食にしているらしい!

不老長寿ゆえに食生活なんて気ままにワカメが破れたやつなどをしゃぶる程度だった。味覚、触感を楽しむ程度の嗜み。

それが、ところが陸上人は違った。

食生活に、命がけなのである。しかも同じ陸上のありとあらゆる生命を食べるつもりらしかった!!

(野蛮人ですわ〜〜!!)

コックがまかないのオムライスをそつなく迅速にメイドたち全員の分を焼き上げる。

半熟にとろりと黄金色のソースがかかったような、職人技のオムライス。チキンライスには豚の腸に肉を詰めるという拷問料理でできたウィンナーがたっぷり。
コックが、スマートな配膳を済ませて、午後3時をまわる昼下がりに城のメイドたちの食事休憩がはじまる。

人魚姫だった少女もいそいそとテーブルにつく。オムライスをスプーンですくうとケチャップと肉汁の甘いかぐわしい匂いがした。

はむり。はむっはむっ。

夢中になって、食べた。少女はメイドになってから、実は、まかない料理に夢中なのである!

(野蛮人のごはん、おいしすぎる……のですわ〜〜!!!!)

人魚姫も、認めざるをえなかった。
海のなかよりも遥かに発達した食文化、そして本当に美味なる数々の料理! まるで魔法!

(くうっ、先日のヒラメのソテーも美味でしたわ!! タラコもイクラも美味でしたわ!! ああ、お母様、お父様、お姉さまがた、わたくし、もうそちらへは戻れませんわ〜〜!!)

楽園のリンゴをかじったアダムとイブよろしく、人魚姫が二度と海に戻れない体になってしまったのには、こんな事情もあるのだった。同郷の友たちを美味しく食べまくってしまったので、ある!

(わたくしも野蛮人ですわ〜〜!!)

胸のうちで絶叫しつつ、オムライスを大事にいそいそとはむはむする少女。それを見ていた厨房のリーダーが、嬉しそうに照れ笑いを漏らした。

「いやぁ、そんなに美味しそうに食べてもらえると、作り甲斐があるねぇ」

黙りなさい野蛮人と少女は思うが、もはや同じ穴のムジナである。だから少女はさめざめと認めた。にこっとして、頷くのである。

(野蛮人の仲間入りですわ〜〜!!)

胸中でだけ、また叫びまくった。


END.

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