災禍の夢とエイリアン

地球にも昔はヒーローがいたものだ。全国各地に共通して残されている神話などに、そのすがたかたちに、残滓を今も確認できる。

けれど、今はだれひとり、残っていない。
それを知っているのは清純無垢なエイリアン、マーメイドとも人魚姫とも、セイレンとも呼ばれる、半分は魚、半分はエイリアン由来の外来種のすがたをしたモノたちだ。

大昔、何度も戦争は起きた。
地形が変わるほど。
地球が変化してゆくほど、月と今は呼ばれる惑星が、この大争いに巻き込まれて軌道を変えられて、地球の衛星惑星にされてしまったほどだ。

セイレンたち、エイリアンたちは、だから夜にすがたを現すのが、好きだ。
月を見上げて、満月だろうとも、三日月を見るようにニィと笑うのだ。

これぞ、証。
我らがこの地を征服した、証。

すでに大陸に種は撒き、地上はすっかりとエイリアン由来の上半身を持つもので溢れかえった。下半身は、動きやすく、地球由来のものを踏み潰していけるように、自分らとはちがう便利な二本の足を与えてやった。

今、彼らは、自分たちは進化論なるものの果てに生まれたと信じて、二本足で地球を闊歩している。マーメイドたちの代わりに、地球の資源をすべてにおいて持ち去ろうとしている。そのための工業製品のようなものが、今回のマーメイドたちの手駒であった。

自律する、意識は与えた。
これまでの惑星破壊と強奪の経験から、駒には自らの意思でやっていると思わせるほうが便利でよく動きまわると知っている。このたびの侵略は面白いほど順調であった。

一匹のエイリアンが、遊びごころを出して、童話作家に接触した。その脳に指を突っ込んで彼の発想構造を変質させた。
その偽りの夢に、今回の製品は皆、うっとりしている。

おとぎ話の人魚姫。
それに、不老不死の伝説の人魚たち。

都合よく、都合よく、都合よく。
効率的に、徹底的に、惑星からすべての資源を採取していくソレらは、永き夢の中にある。エイリアンたちの腕に抱かれて。

そろそろ終着点も見えそうだった。
地表の生きものは、此度の種によって、すでに九割は採取して駆逐した。残りも、あとすこし。人間と名付けた工業製品は、海にも手を出そうとしている。海が枯渇すればこの星は水星や木星みたいに干上がる。

エイリアンの、征服完了である。

宇宙進出の夢、童話の夢、正義の夢、自由の夢を見せてやり、最後には、感動的な人魚姫たちの再会が待っている。
最後の災禍はそこで、行われる。製品、種の回収である。

マーメイドたちは、寄る辺の浜辺にて、リラックスして地球の砂を楽しみながら、くすくすして夜空を見上げる。
ちょうど、そのときは、エイリアンたちがそうするみたいに、見事な三日月が、地球から視えていた。

エイリアンの口元にも、三日月がずっと貼り付いていた。
角度は、ちょっとちがうけれど。

やり手のエイリアンとは、ただ、そういうものだ。自分らは無垢に楽しんで遊んで、そうして破壊は製品化した種に任せて。

あとは、星が死ぬのを、待つだけ。
あとは種が主を殺すのを、見てるだけ。

最後に裏切って、水星がごとく、木星がごとく、火星がごとく、死の星を残すだけである。


END.

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