なまり味の進化もっもっ

天真爛漫な少女ははじめて、鉛の味を知る。それこそ、彼女が真に「人間」になった瞬間であり、聖域から堕ちた永遠の時間となる、魂に刻まれた証明であった。

ゆえに、彼女の子孫たちは今、ジュゴンと呼ばれる姿になった。

マーメイドとはジュゴンを見間違えた姿と言われている。しかしまちがっている。マーメイドが陸地に憧れて、そこで失意となまり味の苦渋を知り尽くして、自らの姿から人間性を捨てたものが、ジュゴンであった。
マーメイドにはもう戻れない。知りすぎた。人間ではもういられない。耐えられない。だから、マーメイドは腹を膨らませて滑らかなカーブを描く絹色の生物に変化して、マーメイドのウロコをすべて脱いで不死性とも神性とも別れを告げた。

人間性にも。別れを告げた。

今やジュゴンはジュゴンでしかなく、海獣としてはいやに長い寿命とともに生きている。人間は悪性が強くて目ざといから、勝手に、マーメイドの姿を重ねてくるけれど、祖先のことすらもう忘れるほどの仕組みしか始祖のマーメイドは残さなかった。

ジュゴンはすべてを忘れて、藻をもっもっもっともさもさむさぼり、日がな一日暮らしている。

行き場を失ったマーメイドが、最後に求めた、理想の生き抜き方である。


END.

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