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読書感想:Vのガワの裏ガワ1 (MF文庫J) 著 黒鍵 繭

【華やかな世界の裏側で、君を支える縁の下の力持ちになる】



【あらすじ】
「私のママになってくれませんか?」

プロの高校生イラストレーターとして活躍する千景。そんな彼はある日、誰もが近づきがたいほどに完成された美しさを持つ孤高の少女・果澪から「ママになってくれないかな?」とお願いされる。

この場合の「ママ」と言えばVTuberのキャラクターデザイン――悩む千景に、果澪は突如脱ぎ出し、きわどい水着姿で迫り……!?

果澪の熱意を受け止めた千景は、同じく高校生イラストレーターの桐紗、自堕落な隣人にして大人気個人VTuberの仁愛を仲間にし、VTuber「雫凪ミオ」プロジェクトを発足。全員で果澪を人気VTuberにするべく、動き出す。

VTuberになりたい女子高生と、クリエイター&ストリーマーたちで送る青春ラブコメディ開幕!

Amazon引用


VTuberの裏側の物語。


華やかな世界の裏側では、様々な努力が積み重なって完成する物である。
そんな工程を創作者もファンも一緒になって楽しんでいく。
プロの神絵師として活躍する千景に唐突にVTuberのキャラデザインを依頼してきた果澪。
彼女の熱意に押され、仲間である桐紗や仁愛を集って壮大なプロジェクトに着手する。
変態的な絵に対する拘りを持つ千景が、果澪をモデルとしたキャラを葛藤しながら生み出していく様は。
魂が居てもリアルから切り離された別の存在であるVTuberの特性がよく現れている。
現実でもアバターを被れれば良いかもしれないが、なかなか手放せないのが本来の「自分」でもある。

人として欲しい物をほとんど持っているにも関わらず、本人が1番欲しかった物が手に入らないのが人生という物だ。

雫凪ミオのガワの部分が完成してVTuberとして成功するにつれて彼女の変身願望の闇の部分がクローズアップされていく。
美しい外見からは想像もつかないほど孤独で傷だらけだった彼女を救ったのは、千景と仲間との切磋琢磨してきた今までの絆。

クリエイター+Vtuberという表と裏、色んな観点からVtuberを捉え、皆で協力しゴールへ向かう熱き青春の中で描かれる、けして楽しいばかりじゃない、様々な葛藤。
そんな苦労して、尚もこの世界に縋り付くのは、現実世界がままならないからこその、承認欲求。
この電子の世界でならばどんな人間でも受け入れられる懐の深さ。

ならば、そもそもVtuberというのはどうやって生まれるものだろうか?
これからそれを紐解いていく。

口を開けば二次元美少女の話ばかりで変人扱い、だがその裏の顔は圧倒的な画力と万バズが当たり前のプロのイラストレーター、「アトリエ」。
そんな裏の顔を持つ少年、千景は更なるレベルアップのために、デッサンモデルとなってくれる存在を探し、日常的に女子に声を掛け、当然の如く変人扱いされていた。  

そんなある日、彼の元に舞い込んだ1通のDM。
呼び出された先で待っていたのは、一目置かれた高嶺の花である級友、果澪。
アトリエ先生の大ファンであると言う秘密を明かした彼女は、アトリエの書いたあるイラストが自分を無断でモデルにしたものであると看破し、埋め合わせのためにとあるお願いを千景にする。
それは自分のVtuberとしてのママになってほしい、という突拍子も無い依頼。

ぽんと差し出された札束の報酬と、素人なりに綿密に練られた企画書を見て、そもそも断る理由も絶たれている為、協力する以外は選択肢はなく。
果澪をVtuberにするための計画は幕を開ける。

だが、Vtuberというのは、そもそもイラストというガワだけではいけない。
今やレッドオーシャンと化してる動画の世界を生き延びる為には、最高の信頼出来る仲間を集める必要がある。

モデリング担当として、自身もVtuberの裏の顔を持つイラストレーター仲間、桐紗に事情を話して巻き込み、宣伝担当として人気Vtuberの裏の顔を持つ自堕落な後輩である仁愛が絡んできたのを引き込んで。
あっという間に準備は整い、果澪は「雫凪ミオ」としてデビューの日を迎える。

そう、Vtuberとは一人では到底完成出来ない。
縁の下の力持ちがいるからこそ、成り立つ職業なのである。
初動の戦略が良かったのか、そして地力が良かったからか。
苦手なホラゲー配信に挑んだり弾き語り配信に挑んだり。
様々な事に挑んでいく中、あっという間にミオは最初の目標を達成し、成り上がっていく。

順風満帆に見えたサクセスストーリーの道の半ばで、ここで不穏の芽は芽吹く。
人気の裏に付き物の、反発と批判。
人目に晒されるという事は、不特定多数の人間が見るという事であり、人の感情は無視出来ない。
当然、熱烈なファンがいれば、陰湿なアンチも存在する。
その中で、中の人の正体が真偽を明かさぬながらも晒され、千景たちはそこに対処しようとする。

しかし、そこで躓きが待っていた。
騒動の裏、自ら糸を引いていた果澪の思惑と本当の狙いが明かされ。
現実に絶望した故の願いを明かした彼女は、身勝手に彼等との絆を断ち切る。

今までは何も分かっていなかった。
自分が影響を与えてしまったからこそ、止められぬと思っていた。
だが桐紗に背を押され、千景は果澪の元に駆け付け、気付いた事を問う。
それはデザインという、彼がママだからこそ気付けた物。
ゼロから創り出した者にしか分からぬ愛憎。
そこにあった、気付いてほしかった未練。

何もかも寄り添える訳じゃない。
完全に相手の事は理解する事は出来ない。
それでも今、隣にいることは出来るから。
ぶつかり合って分かり合って。
そしてもう一度、彼等の関係は幕を開けるのだ。

ガワに内側を隠すからこそ生まれる葛藤や根源的な承認欲求が、思春期特有の苦悩と噛み合いながらも、その汗と涙が一つの青春群像劇として成り立つ。

たとえ、互いの意見がぶつかり合って、自らの正しさで傷付けあったとしても。
それは、もっとより良い物を創り上げたいという理想と向上心から来る物だからこそ。

チームで一丸になって創り上げる青春の輝きが凝縮されていたのだ。












 



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