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血となれ肉となれ

私は、昔からご飯を食べている人間を見ているのが好きだ。

それは、お高いフレンチとかではなく、お弁当とか家で食べるご飯を食べて幸せそうにしている人を指す。

私がつくったご飯でそうなっているなら尚のこと。


旦那は、作家を生業としている。

朝、自分の足の指をごにょごにょ動かした後、(旦那の起床時の癖)
「あと三本だ!」と、今抱えている小説や脚本の事を叫んでいた。

その声を側で聞いていた私は、今から用意する朝ごはんのメニューを考えようとしていた。

正直、作ることが面倒な日もある。

こんな日は、まぁ最近は頻繁にだが、サンドイッチ用のパンを冷凍庫から取り出し、ロースハムとレタスとチーズとバターで、ホットサンドを作る。

旦那は、まだ夢と現実とのあいだにいるようだし、低血圧も手伝ってぼーーーっとしながら遠くを見ている状態だ。


ホットサンドが焼けた。

チーズが焦げた香ばしい匂いが部屋に広がる。

今まさに彼の体では、脳みそがあらゆる器官に指令をだしている。
「これは食べるものだ、さぁ噛め」と指令が出たのか、私が作ったホットサンドを無表情のまま右手に掴み口に運び、かろうじて顎を上下に動かしている。


そんな姿を見て、「今、食べているホットサンドが、この人の血となり肉となっていくのか」と感慨深くなる。

それなら、もっとトマトを入れたり、チーズを多めに挟んであげればよかった。
と、ほんの少しだけ後悔したりする。

当の本人は、ホットサンドを食べ始めて体に血が回ってきたのか、徐々に表情を取りもどし、満足そうに最後の一口をたいらげていた。

嬉しそうな顔をしている。

私の小さな後悔は、彼のそんな表情で瞬く間に消えていった。


よし。
明日の仕事終わりにでも、トマトを買って帰ろう。






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