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経済学101は経済学に基づいた分析や論説をオンラインで無料提供することを目的として設立された一般社団法人です。 主に海外の経済学者、研究機関と提携し、英語・フランス語の論説の翻訳も提供しています。 本サイトURL:https://econ101.jp/

最近の記事

ノア・スミス「安楽死の歪んだインセンティブ」(2024年4月3日)

「死んではいかが」とほのめかすのは,納税者のお金を節約するいい方法じゃないね 今回の記事では,繊細で扱いにくい話題をとりあげる:安楽死,別名「死亡幇助」について語ろう. 原則として,安楽死はしてもいいとぼくは思ってる.頭脳が正常な状態にあるかぎりなら,おぞましい苦痛を耐えながら生き続けるかわりに死ぬのを選ぶ権利が人々にはあるとぼくは信じてる.安楽死のことを考えても,ぼくは嫌悪感を覚えないし,心の奥に深く根ざした道徳的禁忌に触れたりもしない.この点についてぼくと意見がちがう

    • ノア・スミス「『技術革新と不平等の1000年史』書評」(2024年2月21日)

      ダロン・アセモグルとサイモン・ジョンソンの大著を読んでも,技術革新で自動化が進まないようにする必要があるって話に納得はできなかった. いたるところで「2023年の最重要ビジネス書」のリストに『技術革新と不平等の1000年史』が挙がっていたのは,意外でもなんでもないだろう.まず,著者たち自身の経歴からして,比肩する者がいない.ダロン・アセモグルのことを経済学界の発電所と呼んでも,本人の実績にばかばかしいほど釣り合わない: それに,アセモグルは国々の発展を制度から説明する説の

      • ノア・スミス「現代の大学業界のどれくらいがムダなんだろう?」(2024年1月7日)

        ズキズキする問いだけど問わないといけない この何年ものあいだ,ぼくは政治的な右派の批判者たちから大学制度を擁護してきた.たとえば,2017年には,大学で行われている活動の一部にかかる税金を引き上げようという共和党の計画に対して,こんなことを書いた: この点はいまも正しい.ただ,あれから7年経って,ぼくは次の点をいっそう強く思うようになった.アメリカの大学制度にはより大きな外部監査が必要だし,さらには,さまざまな問題点を改めるために批判も必要だ.そうしなければ,上記の長所も

        • ノア・スミス「気候変動をよく理解したいならグラフをいろいろ見てみることだ。解決するのに脱成長なんか必要ないよ」(2024年2月13日)

          百聞は一見にしかず。 気候変動に取り組むうえでの大きな困難の一つは、世の中に悪い情報源が蔓延していて、悪質な情報もばらまかれていることだ。左派の気候変動活動家たち(気候変動問題について何かしようと自身の時間と労力を費やす傾向が最も強い人たち)は、「100社の企業が世界の排出量の70%を引き起こしている」とか「10%の富裕層が排出量の半分を占めている」といった馬鹿げた主張をする疑似左派的な情報を入手してしまいがちだ。それから右派。彼らは、以前だと気候変動を否定することにやっき

        ノア・スミス「安楽死の歪んだインセンティブ」(2024年4月3日)

        • ノア・スミス「『技術革新と不平等の1000年史』書評」(2024年2月21日)

        • ノア・スミス「現代の大学業界のどれくらいがムダなんだろう?」(2024年1月7日)

        • ノア・スミス「気候変動をよく理解したいならグラフをいろいろ見てみることだ。解決するのに脱成長なんか必要ないよ」(2024年2月13日)

          ノア・スミス「もっと浅薄な未来に向かって」(2024年1月3日)

          不運には,代償に見合う値打ちがないいや,たしかにこの記事の発端は,旧称 Twitter のソーシャルメディアプラットフォームでつい先日に起きた馬鹿馬鹿しいいざこざではあるんだけど,約束する,後の方まで読んでくれたらもっと面白い話になっていくよ! つい先日のいざこざは,有名な絵画を軸に展開してる.その絵とは,キース・ヘリングの「未完の絵画」だ ("Unfinished Painting").1989年に描かれたこの絵は,AIDS になった彼に迫っていた病死を表している.ヘリン

          ノア・スミス「もっと浅薄な未来に向かって」(2024年1月3日)

          サイモン・レン=ルイス「2021年~23年のインフレバブルから(これまでに)得られた教訓」(2023年12月23日)

          いったんインフレ率は上がったものの,また下がってきている.イギリスにかぎらず,ほぼあらゆるところでインフレ率が下がってきている.このことから,マクロ経済学はどんな教訓を学べるだろうか.そして,どんな問いがなおも残るだろう? けっきょく,〔インフレは供給の混乱からくる一過性のものだと主張した〕「チーム一過性」の言い分は正しかったのだろうか?各国の中央銀行の利上げは遅すぎたのだろうか? また,いざ利上げを始めたときには,急速に引き上げすぎたのだろうか? 本論の前に準備段階でとり

          サイモン・レン=ルイス「2021年~23年のインフレバブルから(これまでに)得られた教訓」(2023年12月23日)

          ノア・スミス「ソロー・モデルが中国について教えてくれること」(2023年12月23日)

          経済学者は1950年代にはもう国家が無限の富を築けないことを知っていたんだ。 今週、経済学者のロバート・ソローが99歳で亡くなった。彼はこの分野における巨人であり、彼によってマクロ経済学は無数の方法で再構築され、それを今の僕たちは当たり前のように受け入れている。ソローは多くの重要な分野に携わったんだけど、一番有名な貢献(ノーベル賞の受賞)は、経済成長についてのソロー・モデルだ。なので今回のエントリでは彼を追悼して、ソロー・モデルは、この数十年間――特に中国経済で起こったこと

          ノア・スミス「ソロー・モデルが中国について教えてくれること」(2023年12月23日)

          ノア・スミス「自動車戦争」(2023年12月10日)

          大波のように押し寄せる安価な中国製の輸入車が世界の産業秩序を動揺させているヨーロッパと中国のあいだで,貿易戦争がじわじわと醸成されつつある.両者の関係が悪化しつつあるのには,いろんな理由がある――中国がロシアの戦時生産を支援していることや,ヨーロッパ企業が「リスク軽減」を図って,中国から投資を引き揚げていること,イタリアが中国の「一帯一路」から手を引いたこと,などなど,ただ,大きな注目を集めている手痛いポイントは,自動車産業だ. ようするに,中国が溢れかえるほど大量の電気自

          ノア・スミス「自動車戦争」(2023年12月10日)

          リア・ブスタン&イリヤナ・クジエムコ「クラウディア・ゴールディンのノーベル賞受賞について」(2023年10月24日)

          ハーバード大学のクラウディア・ゴールディンが、2023年のノーベル経済学章を受賞した。この記事は、彼女の元教え子で、今は研究者となった2人によって書かれたものである。本記事では、公式に評価された彼女の雇用と賃金のジェンダーギャップに関する研究と、労働市場での不平等を理解するための広範な課題への貢献の両方を概説する。ゴールディンの研究は、需要、供給、制度、規範における不平等の要因を明らかにするために、教育、技術、産業化の歴史を深く掘り下げたものだ。彼女の知的影響は、ジェンダーギ

          リア・ブスタン&イリヤナ・クジエムコ「クラウディア・ゴールディンのノーベル賞受賞について」(2023年10月24日)

          ノア・スミス「テクノ楽観主義についての考察」(2023年10月21日)

          ぼくにとってどんな意義があって,どうしてぼくはこれを支持してるのか今週のいろんなネタをまとめたときに,マーク・アンドリーセンの「テクノ楽観主義マニフェスト」に賛成の意を表しておいた.2つほど意見がちがう点も書き添えたけれど,全体として,技術発展の加速を支持する主張をこういう風に妥協なしにぶっぱなすことこそ,陰気な2010年代の停滞した空気から脱出するのに必要だ. ただ,マークのマニフェストでは,ぼくがテクノ楽観主義について考えてることはいまひとつ明確に述べられていない.もち

          ノア・スミス「テクノ楽観主義についての考察」(2023年10月21日)

          ノア・スミス「アメリカは台湾有事の備えができてない」(2023年10月15日)

          台湾をめぐる戦争の可能性は現実味を帯びている.そして,アメリカは備えができていない.まるで,長い封印がすっかり解かれたかのようだ.2022年には,核兵器を持つ大国が隣国に侵攻して征服を試みる事態をぼくらは目の当たりにした.いまや,イランがイスラエルとの戦争に突入する脅しをかけている.アメリカは,その事態を抑止するために空母打撃群を同地域に派遣している.一方,アゼルバイジャンはアルメニアに侵攻する準備を整えつつあるおそれがあるし,セルビアはコソボに侵攻するかもしれず,他にも世界

          ノア・スミス「アメリカは台湾有事の備えができてない」(2023年10月15日)

          ノア・スミス「緊縮の時代が到来しそう」(2023年9月18日)

          もう2010年代じゃない子供の頃に見た1992年大統領選挙のことは,いまでも覚えてる――まともに物心ついてて意識したはじめての選挙が,あれだった.最大の争点は連邦政府の財政赤字だった.18年にわたって長らく政府の借り入れが続いたあと,ビル・クリントンと独立系候補のロス・ペローは,財政緊縮を要求していた.現職候補だった H.W.ブッシュは,民主党を増税して支出する党だと弱々しく言ったけれど,彼の抗議は少しばかり空疎に響いた.なにしろ,12年にわたって増税しなくても支出はしていた

          ノア・スミス「緊縮の時代が到来しそう」(2023年9月18日)

          ノア・スミス「働く女性たちの物語にノーベル経済学賞」(2023年10月12日)

          クラウディア・ゴールディンはいかにしていろんな糸をひとつに紡ぎ合わせたか2023年のノーベル経済学賞は,クラウディア・ゴールディンにおくられた.労働市場で女性に生じた変化に関する研究が受賞理由だ.彼女が受賞してすごくびっくり,ということはない.経済学者たちのあいだでは,ゴールディンは実証経済学で進んだ「信頼性革命」(“credibility revolution”) の主要な先駆者の一人と広く認められているからだ. ノーベル経済学賞(お好みなら「アルフレッド・ノーベル記念経

          ノア・スミス「働く女性たちの物語にノーベル経済学賞」(2023年10月12日)

          ノア・スミス「西洋の左翼は混乱してる」(2023年10月10日)

          無辜の市民の虐殺をうれしげに支持するのは,残忍としか言えないじきに経済ネタのブログ活動に戻るよ.約束する.そのときは,まずクラウディア・ゴールディンのノーベル経済学賞から取り上げよう〔追記:こちら〕.ただ,まずは,イスラエル-ハマス戦争についてもうひとつ,書いておかないといけないことがある. 冒頭の画像は,アメリカ民主社会主義党のニューヨーク市支部がパレスチナの大義を支持して行った集会の様子だ.この集会が行われたのは10月8日,1,000人以上のハマスの武装集団がイスラエル

          ノア・スミス「西洋の左翼は混乱してる」(2023年10月10日)

          ノア・スミス「《アメリカによる平和》のあとにやってくるのはうれしくない時代かも」(2023年10月9日)

          ジャングルへようこそみんなが聞き及んでいるとおり,昨日,ハマスがイスラエルに大規模な奇襲を仕掛けた.ハマスはガザ国境を越え.大規模なロケット爆撃につづけて近隣の街々を占拠または襲撃して,何百人も殺した.ハマスの兵士たちがイスラエル人捕虜をガザに連れて行ってる光景は,インターネットのあちらこちらで拡散されてる.これに対して,イスラエルは交戦状態を宣言した.両者による戦闘は,このところの記憶にないほど凄惨で獰猛なものになるにちがいない. すでに多くの人たちが指摘しているように,

          ノア・スミス「《アメリカによる平和》のあとにやってくるのはうれしくない時代かも」(2023年10月9日)

          ノア・スミス「今週の小ネタ: ゼロサム思考が強まってるかもという研究をどう評価するか」(2023年10月1日)

          ゼロサム思考についての強い主張Sahil Chinoy, Nathan Nunn, Sandra Sequeira & Stefanie Stantcheva が,すごく興味深い論文を出した.もしかすると,重大な論文かもしれない.主題は,アメリカにおけるゼロサム思考の隆盛だ. ぼくも含めて,経済成長志向の人たちの多くは,こう考えてる――経済成長のいいところのひとつは,みんながパイの切り分け方をめぐって争うのではなくパイを大きくすることを考えるようにうながす点にある.産業革命

          ノア・スミス「今週の小ネタ: ゼロサム思考が強まってるかもという研究をどう評価するか」(2023年10月1日)