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ノア・スミス「今週の小ネタ: 労働者階級の財産は改善しつつある」(2023年10月1日)

2010年代に多くのアメリカ人が学んで当たり前の事実みたいに扱われ出したのに,それほど正しくもないと判明してしまったことはあれやこれやある.そのひとつは,「労働者階級の豊かさは,無残なまでに後れをとっている」という考えだ.みんながこの「事実」を「学んで」しまった理由はなんだろうと考えると,2008年の金融危機まではこれが事実だったものの,みんなはそのことに気づかないままで,危機後にやっと気づいて憤慨しだしたってことがありそうだ.

ともあれ,FRB の "Distributional Financial Accounts" データをまだ見てない人は,ぜひとも見ておいた方がいい.これを利用すると,財産の構成要素を――不動産・株式・消費者負債などなどを――パーセンタイルにわけてグラフにできる.さらに,いろんな人口統計の項目にわけることもできる.ただ,惜しいことに,インフレ調整してグラフにする選択肢はないみたいだ.手持ちのドル建て資産で人々が実際にどれほどの現実のモノを買えるのかはインフレで決まるので,インフレ調整は重要なんだけどね.それには,FRED ウェブサイトの方にいかないといけない.ともあれ,インフレ調整してみると,世帯所得の分布で下半分に位置する人たちは,2012年以降に実質値で堅調な財産の増加を経験しているのが見てとれる:

もっかい FRB の DFA ウェブサイトに戻って,今度は,国全体の財産のうちその下位 50% が保有する割合を見てみよう.すると,これも数十年にわたって低下していたのが,この10年ほどは高まってきてる:

Source: FRB

さて,高まってきたと言っても,一国の世帯の 50% が財産全体の 2.5% しか保有していないのは,すごく劇的な格差にはちがいない.それに,上昇した分の一部は,たんに財産のライフサイクルだってことも忘れない方がいい――若い人たちはまだ財産を築くほどの時間を経ていないし,高齢の人たちは退職までに貯めていた分の大半を使ってしまっているために貧しく見える.若者はこれから財産を殖やしていくだろうし,高齢者はかつて財産をたっぷりもっていただろうけどね.ただ,このライフサイクル効果を考慮しても,アメリカにすごく激しい財産格差があることはまちがいなさそうだ.

でも,変化の傾向は重要だ.そして,いまの傾向はよい方向にある.お金持ちから貧しい人たちまで,あらゆる集団の財産が増えてきているなかで,アメリカ人全体の総資産に占める労働者階級の財産の割合がこの10年間回復を続けているって事実は,いまアメリカ経済になにか正しいことが起きてることを物語っている.上げ潮がすべての船を持ち上げていて,しかも,最下層の船を他のどの船よりも持ち上げてるんだ.

すると,次にこんな疑問がわいてくる――「どうして,そうなってるんだろう?」 DFA ウェブサイトからは,いくらか手がかりが得られる.財産のいろんなカテゴリをいじり回してみると,所得分布の下半分では大半のカテゴリの財産が増えているのがわかる.それでいて,個別のカテゴリごとを調べると,どの特定カテゴリでもこの下半分の人たちの財産が占める割合はとくに増えていない.ということは,財産格差の縮小傾向は,構成効果 (composition effect) だってことだ――なにが起きたかって言うと,労働者階級が占める割合がいちばん大きいカテゴリへとアメリカ人の財産全体が動いたんだ.これがはっきりわかる例をひとつ挙げると,金融危機以降に,GDP に占める割合で見て,世帯の抱える債務が前ほど大きくなくなってきてる:

労働者階級は,資産に比べてずっと大きな債務を抱えている傾向がある.そのため,全体として世帯債務の返済が進むと,財産格差を縮小させることになりやすい.というわけで,このいい方向への変化の傾向を維持したければ,たとえば労働者階級が債務を減らす助けをする手が考えられる.


※この文章は,次の記事からの抜粋です: Noah Smith, "At least five interesting things for your weekend (#15)", Noahpinion, October 1, 2023; Translation by optical_frog


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