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先週のMVPはじょうろ

はじめまして。江戸餅しゅんと申します。
田舎町にある小さな幼稚園に勤めています。3歳から6歳までの子どもたちがおなじ教室で毎日を一緒に過ごしています。
先週は子ども達はじょうろにはまり至る所に水を撒いてました。


今回の登場人物

ミセス・サンシャイン
うちのクラスの担任の先生。60代のおばあちゃん先生。
幼稚園の先生歴は約30年、その前は小学校で手芸(家庭科)の先生をしていました。勉強熱心でいつも子どもたちの事を第一に考えてます。ゆえにときど〜き保護者の眉間にしわを寄せさせるような発言をする事も(親からすると耳が痛い事もはっきり言っちゃいます。)
こんな大人がいるのかと驚くほど無邪気で誠実。ユーモアもありまさにクラスの太陽のような人。声を上げてよく笑います。

サンダルちゃん
5歳の女の子。なかなか個性的。アイーティストタイプとでもいいましょうか…。絵がとても上手で、色の配置のセンスが抜群。その時の心のありようでバラのように愛らしくもあればトゲトゲの時もある。そのギャップがまた魅力。靴や長靴よりサンダルが好き。

仙人
悟りを開いたまさに仙人のような大人びた5歳の男の子。寡黙な時とおしゃべりな時とあります。よく私の隣にそっとやってきてお天気の話や家での出来事をお話ししてくれます。

のれん君
仙人と同い年の5歳の男の子。仙人の親友。よく笑う。先生の注意も暖簾のようにひらりとかわす。暖簾に腕押しからこの名前をつけました。おちゃらけおしゃべりキャラ。
いつもニコニコしていて「人生楽しく生きましょう〜。」と身体から滲み出ているイメージの子です。

ヤマアラシちゃん
4歳の女の子。サンダルちゃんの仲良しちゃん。類は友を呼ぶとはよく言ったもので、ヤマアラシちゃんもサンダルちゃんと同様、心がオープンな時と閉ざした時とギャップが凄め。要は感情表現豊か。人は誰でもそうだと思いますが、他から拒絶される事が彼女を一番動揺させるようです。
親切で思いやりがあり、よく私たち先生のお手伝いもしてくれ、まだ4歳になったばかりだという事を忘れてしまいがちですがまだ小さい子、泣き喚くのもこの年齢にはとても必要な事。
可愛らしく愛らしいヤマアラシの危険を察知するとトゲトゲを飛ばす二面性と様子が重なったのでこの名前にしてみました。



今週のお天気

うちの園は大自然の中にあるのでお天気チェックはとても重要。お天気にそってその日の予定をくみます。
先週は晴天の日が続き日差しは暖か、昼頃には暑さを感じる程でしたが、そよそよ吹き抜ける風は冷んやりというとっても過ごしやすい1週間でした。青空に白い雲がぽっぽっと浮かんでいて、そこに草原と木の新芽の黄緑。地面にはたんぽぽやスミレとカラフルが映える1週間でした。


ある朝の出来事

この日の朝は今日1日が晴天になる事は予測つくような薄い曇り空で、青空は見えないけれど朝日の光が透けていてとても明るい朝でした。
出勤するとミセス・サンシャインはすでに来ていて、テキパキと1日の準備をしていました。
朝は子ども達が来る前に済ませておかねばならない細々とした事が結構あり「おはよう!」と一言挨拶してから、お互い黙々と準備に取り掛かってました。

子ども一人一人に、分厚いタイプの広辞苑が2冊半程すっぽり収まるくらいのサイズの扉の無いタイプのロッカーとその下にコート掛けというスペースが与えられています。ロッカーの高さは大人の鎖骨辺りの高さです。
小さな園なのでここ数年は全てのロッカーが埋まる程の数の園児がいなく、先生達もおこぼれスペースを使わせてもらってます。

私は毎朝出勤すると自分のロッカーからエプロンを取り出しつけます。
エプロンをつけている最中にふと5歳児のサンダルちゃんのロッカーに目が行き、「ん?」と思うような物を見つけました。
園児が帰宅する前に忘れ物はないか必ずロッカーを確認するのですが、前日には無かったものがそこに置かれていました。

それは目を凝らしてよく見て、しばらく「これは一体…?」と考えないとその正体がわからない、なものでした。
そしてその正体がわかった瞬間、私の口からは自然と「なぜこんな物がここに?」と独り言にしては大きめな声で出ていました。
この声にミセス・サンシャインは振り向き、サンダルちゃんのロッカー前にやってきて覗き込み

「あはは!あ〜これね〜。昨日お昼の時間にね、あまりにも一生懸命に取りかかってて、取り出せた時すんっごい誇らしげだったのよ。だから一応取っておいたの。その顔思い返しちゃって捨てるに捨てらんなくて。あとでサンダルちゃんに聞いていらないって言えば捨てちゃっていいわよ〜。」

このミセス・サンシャインの言葉を聞いた時思わず「はぁ〜…。ミセス・サンシャイン、本当に私をこの仕事に採用してくれてありがとう。だからあなたのもとで働く事が大っ好き!」と熱く告白してしまいました。

サンダルちゃんのロッカーに置かれていた物は、オフホワイト色の米粒大程の3〜4粒のきゅうりの種

前日、お弁当に持参したきゅうりの輪切りに種がある事に気がつき壊さないように慎重に時間をかけてほじくり返し、綺麗に採取したようです。

サンダルちゃんが登園した頃には私もミセス・サンシャインも他の事で手一杯で、あの種がどうなったのかわかりません。

ミセス・サンシャインの子ども達を尊重する姿勢は本当に勉強になります。
きっとミセス・サンシャインも少女の頃とても大切に育てられたんだろうなと思う事が沢山あります。

「君ならわかってくれるよね。」

のれん君は5歳の男の子。前回の雨のお話しに登場した仙人の親友です。仙人が5歳児にしては大人びているのに対しのれん君はおちゃらけキャラでおしゃべり。ある意味「人生楽しく生きてこそ」と悟りを開いてる様に感じます。
去年はおやつやお弁当の時間に席が隣同士だった2人ですが、今年は2人の間にサンダルちゃんが座っています。新学期が始まってすぐは隣同士だったのですが、2人のおしゃべりが延々と止まらないのと、注意をしても我が道を行く仙人と、ひらり職人ののれん君は聞く耳持ってくれないので仕方なく2人を引き離しました。(引き離したところで効果は薄めでしたが…。サンダルちゃんを飛び越えて会話してます。)

のれん君は笑いの沸点がどうやらとても低いらしく何にでも「きゃはは!」と笑ってしまいます。私も沸点低いと周りに言われますが彼よりは高いと自信あり!
先生の注意も、お昼寝の時間の沈黙ものれん君には面白くて仕方がないのです。
この子が泣いたり、怒ったりして何かを訴えたところを見たことがありません。なんでもおちゃらけてかわすのです。
ちなみに仙人は怒ると顔が般若のようになり、泣くと火山大噴火といったような強烈具合です。

おやつやお弁当の時間にある程度のおしゃべりは容認していますが、歯止めが効かなくなるほど盛り上がってしまうと困るのでもくもくタイムがあります。この時間は黙々ともくもく食べる時間。つまりおしゃべり禁止時間。

それはおやつの時間に起こりました。もくもくタイムが始まりのれん君も含めみんなちゃんと静かに食べていました。
すると突然のれん君の口から食べていたリンゴが綺麗に一口分、スポン!ととびだしました。そして「キャハハハハハハ!」と今まで聞いてきた「きゃはは!」とは比べ物にならない笑い声がその場に響き渡りました。
飛び出したリンゴ、その火のついたようなつんざく笑い声に一同の目はのれん君に集まりました。のれん君の体は笑いの勢いで、椅子の上に膝立ち状態になっています。

すぐ近くに座っていたミセス・サンシャインが「のれん君、ちゃんと座りなさい。」と落ち着いた声で注意。
それでものれん君は食べかけのリンゴを持ったまま「あはっ!あはっ!あはは!」とまだお笑い冷めやらぬって、感じです。

私も冷静にその光景を眺めてました。
私と目のあったのれん君。
私とのれん君の間には4人分の席がありちょっと離れています。その距離からのれん君が「みて!みて!みて!みて!」とリンゴを持った手で自身の向こう側を指しています。ちょうどのれん君が邪魔をしていて私には見えないのですがどうやら何か私に見せたいようです。

のれん君の向こう側のちょうどのれん君で見えない席にヤマアラシちゃんが座っています。

「のれん君、のれん君が座ってくれたらみえるよ。」と手で座ってとジャスチャー。まだケタケタモードだったのれん君ですがその私の一言を瞬時に聞き入れストンっと座りました。
その瞬間私の目に飛び込んで来たのは、プチトマトを両の頬に丸ごと一粒ずつ頬張って顔がビヨーンとのびたヤマアラシちゃんの破壊力抜群の顔。
おそらく、もくもくタイムの沈黙がすでに面白い彼の沸点は普段よりさらに低くなっていたのでないかと思います。
それがふと横に座ったヤマアラシちゃんに目をやったらそこに爆弾フェイス。もう簡単に爆発してしまったようです。
ツボにはまり狂ったように笑うのれん君。そしてそんなのれん君を頬をビヨーンとさせてはいるものの冷静沈着に「なんだこいつ。」って横目で見つめるヤマアラシちゃんの空気感がおかしくて、私は顔を背け「のれん君に引き込まれてはダメだ!」と必死に押さえ込みました。

そんな時、ミセス・サンシャインが冷静にその空気に流される事なく「のれん君、もう一度言いますよ。ちゃんと座りなさい。」※この時のれん君は椅子の上に正座。

ミセス・サンシャインはのれん君の左手側に、私は右手側に座ってます。
ミセス・サンシャインを見ていたのれん君は何故かゆっくりと私の方へ振り返り両手を広げ、肩をすぼめ「怒られちゃった♡テへっ⭐︎」と私に向かっておちゃらけるのれん君。
なんとその「テへっ⭐︎」に白目を被せて来たのです。

こんなん無理です。

この仕事は大好きだけど、沸点の低い私には担任の先生になることは難しいだろうと日々ののれん君との時間で痛感させられるのです。

チーン。



今回から登場人物の欄を作ってみました。
読んでくださり有り難うございました〜!

チーン。



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