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様子のおかしい彼女とやはり様子のおかしい彼氏の旅行記

晴れ。6時50分、起床。
岡山県、彼の生活範囲。
3泊4日のうちのどこかで1日別行動をしたい、1人旅のような事がしたい。遠距離恋愛者が言うべきではないであろう言葉を声に出した。1日の最後は一緒に夜ご飯を食べること、そしてその時に1人旅(仮)の感想を話すことで承諾された。

旅(仮)の朝は晴れの国にふさわしくお日様が眩しかった。りんごを食べ終えたら、出発。彼は私に方向音痴が心配だと紙の地図を渡した。おかしい、Google mapというものがあるはず、方向音痴にとって紙の地図は難読解で現在地を見つけることさえ時間を要する。さすが様子のおかしい彼女の恋人、やはり様子がおかしい。

La Vie En Cafe で計画を立てた。素敵なおばあさんと息子さんが作る珈琲が朝の眠気を吹き飛ばす。編み物歴37年だというおばあさんのお話しを聞かせてもらって、編み物歴2年の製作意欲向上。おばあさんの手作りポシェットを肩にかけて店を出た。

岡山でいちばん小さな古本屋、古書隠書泊。
ずっと行きたかった古本屋、お店が近づくにつれて早歩きになる。ビニールカーテンを潜って憧れてた古書店に入る。息をいっぱいに吸う。時間を経た古紙の匂い。いらっしゃいの明るい声。この場所に出会うために苦手な春を耐えた事実。息が喉に詰まってしまった。店主さんからの、詩が好きなの?うちは珍しい詩の雑誌があるよ。の声で我に帰る。素敵な雑誌の歴史を紹介してもらって、夏までの時間も丈夫に過ごせる気がした。5冊、春を乗り越えたご褒美にすることにした。

幸せいっぱいになった勢いで近くの居酒屋に飛び込んだ。お昼過ぎの空いた居酒屋には、ストップをかけてくれる人はいない。ハイボール下さいを4回言った。5杯目の誘惑に勝ち、絵本屋、スロウな本屋のカラフルな看板を目指して歩く。

本棚いっぱいに絵本が並ぶ。
今年は小説だけではなく詩と絵本にも浸りたいと思い調べた本屋でお気に入りの2冊を連れて帰ると意気込む。ざっと店内を見渡してから、じっくりと絵本を選ぶつもりだった。だが、ざっと店内を見渡した瞬間に緑色の背表紙が目に入ってきてしまった。店内奥に申し訳なさそうに立てかけられた村上春樹の訳書2冊を私は見逃さなかった。

計7冊の本を抱えて待ち合わせ場所に向かう。
約束の時間より早くついたが、いつも通りに彼は既に立っていた。彼の時計は間違っているのではないかと私は時々心配になる。

約束通り、旅(仮)のお話しをする。
メニューを閉じた彼に私は聞く。

ーー今日、何して過ごしてたの?
前に話した家庭菜園、やっぱり始めたくてホームセンター行ったり、調べ物してたよ。
ーーーベランダで始めるの?
んー、学校にビアガーデン作りたいんだ、そのビアガーデンの一角でしたいと思ってる。
ーーーへぇ。素敵だね。
   (大学にビアガーデン…?彼はビアガーデンも開きたいのか。予想の遥か上をいかれたな。)

様子のおかしい彼女とその恋人、やはり様子のおかしい彼氏。2人の旅行記。

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