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【いつメロ No.11】特別授業「現代音楽論」(仮)

音楽は好き。けど、音楽の授業は嫌い。
なんでだろうね。
そんな答えのない問いを頭の中で繰り返している。そうでもしないと、あくびが出そうだ。正直、バロックだの古典だのどうだっていい。そんなの普段音楽を聴く時に誰が気にするか。気にするとしたら、音楽マニアの中でも変態なやつくらいだろうに。そう心の中で愚痴りながら、目の前の退屈極まった音楽の授業を受けている。点数のためだけの教育なんて誰が得するのか、と日本の教育にまで愚痴が飛び始めた。そこで、突然
「よし、テスト範囲はもう終わったことだし、『授業』を始めるか!」と、音楽の先生が言い出した。うちの音楽の先生は、世間のイメージとは少し違っていて、少し体育寄りのテンションな人だ。だからか、合唱で声が出ていないと、わたしたちよりも先に「ちょっと男子!」が飛び出る。そんな先生が残り半分の時間で何かを始めるようだ。
「先生、『授業』ってそもそもさっきまでのがそうじゃないの?」と、誰もが真っ先に出た疑問を男子がぶつけた。彼は、先生ともよく話すタイプだ。
「あんなのは『無駄』な授業よ。みんなにとってはね。普段の音楽で意識しないのに、テストのためだけでやるなんて眠いじゃない。ああいうのはやりたい人がやればいいのよ。」先生が言ってはいけない発言が炸裂した。明日いなくなっていないか心配になったが、自分の思っていたことを代弁してくれているようで、少しびっくりもした。「ということだから、あんたたちが普段触れる音楽についてやっていくよ!」

そう言うと、先生は突然黒板に大きな紙を貼りだした。その紙は校歌や合唱コンクールの課題曲の歌詞が書かれているのと同じだったが、書かれている歌詞はどれでもなかった。アーティストは知ってるけど馴染みのない歌詞だったからか、全員がきょとんとした顔をしていた。
「まぁ、みんなの世代よりも少し前のだからそうなるか…。知ってると思ったけどな…。逆にみんなは何聴いてるの?好きに言ってみて!」とこちらに投げかけると、普段の授業ではありえないほどに返答がかえってきた。サウシー、back number、46、トラジャ、米津、Vaundy、BLACKPINK…と、わたしもたまに耳にする名が教室中に響き渡った。先生は耳を塞ぎながら、苦笑いを浮かべた。多分、この元気が合唱に活きたらなとでも思ってるんだろうな。
「46って、坂道の?もうそこで限界だったわ。やっぱ世代で聴く音楽って変わるのね」と言うと、先生は黒板をコンコンと叩きながら、
「この歌はあなたたちが生まれるちょっと前だから知らないかもね。それでも、この歌について授業していくわ。」と若干申し訳なさそうに笑いながら、黒と赤のペンを用意し、授業を始めた。

先生は最初にこの授業の意図を話していて、これまで授業をしてきた音楽には作った人の思いがあり、ところどころに仕掛けが施されている。そのことを、最近の音楽から学んでほしいということだった。意外にも真面目な理由があって少し驚いた。それを知ってか、現代の音楽ということで親しみがあるのか、みんなが黒板を向いて先生の話を聞いていた。

この歌には、一つの言葉にいくつかの意味が混ぜられているようで、そこから歌の真意がうかがえるそうだ。その箇所を先生がペンを使って解説していた。なんだか国語の授業も同時に受けているようだった。タイトルにも複数の意味が込められていたと知った時は、さすがに驚いた。

最後の歌詞については、先生が熱を込めながら、
「最後の『道の上』っていうのには、『未知のway』『日常へ』っていう韻が隠されているんじゃないかなって思うの。そのどれに置き換えても意味は通じるのがまたすごいんだけどね。」と持論を展開していた。相当この歌が好きとみた。

授業も残り5分。先生は最後にこう締めた。
「現代の歌は技術の進歩もあってずいぶん進化しているけど、こうして言葉を巧みに使うことで、歌に深みを持たせることも出来るの。そして、この歌やみんなが聴いている音楽のルーツには、今習っている意味もないようなかつての音楽や文化があるの。それを分かっているだけで、これからの授業の捉え方が変わればいいなと思ってます。そして、みんながちょっとでも興味を持って授業を受けてもらえるように、こんな感じの授業も何度かしようと思ってるから、やってほしい音楽募集するよ!」
拍手喝采だった。何人かがスタンディングオベーションをしていた。楽曲の名前を叫ぶ人もいた。もしかしたら、授業が削れることが嬉しかったのかもしれない。けど、わたしは音楽に確実に興味を持っていた。目の前の退屈極まった音楽の授業が、今あるもののルーツを知る旅に変わった気がした。それと同時に、今まで退屈に思っていたあらゆる授業の捉え方も変わっていきそうだ。

その日の帰り道、今日の授業で出た歌を何度も聴いていた。メロディがつくと、こんなに厚みが増すもんなんだ。私の好きな、そして思い出の音楽が一つ増えた。


                         Mr.Children/くるみ


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